22.ゾフィアへの依頼
本日2話目です。
お茶会の翌日の放課後。
シオンは騎士団の鍛錬を休んで、アリスと共に魔法師団の研究棟に向かっていた。
歩きながら、アリスが首を傾げた。
「……今日のシオン、なんか変」
「そうかな?」
「ん。騎士団の鍛錬を休むのも変だし、訓練もないのに魔法師団に来るのも変」
シオンは苦笑した。
アリスはこういうところが勘が良い。
そして、研究棟に到着すると、シオンは2階の窓を指差した。
「アリスはここで警戒してもらえるか。あの部屋に不審な点があったら、すぐに大声を出すなりして知らせて欲しい」
真面目な顔でコクリと頷くアリス。
アリスを残し、シオンは1人で研究棟に入った。
不思議な匂いのする受付で、ゾフィアに会いに来たことを伝える。
そして、謎のお茶を出されて5分後。
目の下に大きなクマを作ったゾフィアが、2階から物凄い勢いで降りてきた。
彼女はシオンを見ると、いつもの優しそうな微笑みはどこへやら。
目をギラリと光らせて言った。
「いいところに来てくれたわ~! 魔力がなくなりそうで困っていたのよ~!」
シオンは呆れたように言った。
「なくなるの、早すぎです。3日目に満タンにしたばかりじゃないですか。――というか、ちゃんと寝てるんですか? すごい顔色ですよ」
「こんなすごい発見があったのよ~! 寝てなんてられないわよ~!」
ちなみに、何故こんなことになっているのかというと、ガラクタに見えた魔道具の中に、とんでもない当たりがあったからだ。
それはゲームで言うところの「鑑定」機能。
大きな箱の中に魔道具を入れると、その魔道具の構成や機能が表示されるのだ。
表示は特殊な暗号が使われているらしく、解読に時間がかかるらしいのだが、そんなことは気にならないくらい凄まじい機能らしい。
その凄まじさから、存在自体が国家特級機密に分類されたらしく、この魔道具の存在を知っているのは、国王、宰相、ゾフィア魔法師団長、そして、シオンの4人だけだ。
早く~! 早く~! と、急かされて、苦笑しながら2階に上がるシオン。
2階の廊下には、扉がいっぱい並んでいる。
一番端にある頑丈な扉の鍵を開け、中に入るゾフィア。
そして、部屋の中央にある箱型魔道具に歩み寄ると、箱を軽く叩きながら、満面の笑みで言った。
「これよ~。お願い~」
シオンは、息を軽く吐くと、道具に触れながら魔力を込め始めた。
体からエグい量の魔力が抜けていくのがよく分かる。
そして、満タンになるまで魔力を注ぎ込むと、フウッと息を吐いて手を離した。
「はい。これでいっぱいになりましたよ」
「ありがとう~。あんたって本当に救世主だわ~」
にっこりと微笑むゾフィア。
目の下のクマで、美人が台無しだ。
そして、彼女は思い出したように言った。
「そういえば、シオン君は何の用事できたのかしら~?」
「あ、はい。それなんですけど」
シオンは、肩から下げていた鞄から、布包みを取り出した。
中に入っているのは、シャーロット王女が昨日返却を拒んだ、”身体能力向上の魔道具” だ。
ゾフィアは、興味深そうに魔道具をながめた。
「……この気配。服のように見えるけど魔道具ね~。見たことがないタイプだけど、どうしたのかしら、これ?」
「実は、とあるツテを使って極秘に入手したものなんですが、気になることがあって。この魔道具について詳しく調べてもらえませんか」
「ふ~ん? 基本的な機能は分かっているの?」
「はい。着用した者の魔力を吸って、身体能力を著しく向上させる機能です」
ゾフィアは首を傾げた。
「……本当だったらすごい魔道具だけど、聞いたことがないわね~。他に何か話せることある~?」
「多分ですけど、教会にあったんじゃないかと思ってます」
シャーロット王女は、エミールからもらったと言っていた。
ということはおそらく教会にあったのではないだろうか。
ゾフィアは合点がいった顔をした。
「なるほどね~。教会なら話は分かるわね~。教会には公表されていない魔道具があるみたいだから、これはそのうちの1つってところかしらね~」
「そんな魔道具があるんですか?」
「それがあるのよ~。主にラーラ・ムークが作って、勇者が使ったと言われる魔道具ね~。どうして教会にあるかは謎なんだけど、色々隠してるって、もっぱらの評判よ~」
ゾフィアは魔道具を丁寧に布に包みなおした。
「分かったわ~。魔力も入れに来てくれたし、私も興味があるから、時間はかかりそうだけど極秘で解析してみるわ~。――ーええっと、それでなんだけど……」
シオンを上目遣いで見るゾフィア。
その分かりやすさに、シオンは思わず吹き出した。
「分かりましたよ。解析して頂けるお礼に、訓練がない日もなるべく魔力を込めに来ます」
「ふふふ。察しが良くて助かるわ~。がんばって解析するから、よろしくね~」




