15.ウィリアムの訪問
1つ前の「14.既視感のある留学生」を、昨晩23時ごろに内容変更して再投稿しています。
話の内容がつながらないと思ったら、そちらをご確認下さい。
異世界召喚されて、2カ月半。
現在の、「やることリスト」の状況は、下記。
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<やることリスト> No.3
〇学園でジャックスと友達になる
〇剣の先生を見つける
・魔法の先生を見つける
――――
(※〇はクリア、の意味)
あとは、魔法の先生を見つけるだけなのだが、ここで問題が起こった。
調べた結果、シオンの魔力が安定していないことが分かったのだ。
魔力が増え始めた子供に見られる現象らしく、収まるまで数週間かかるらしい。
シオンは、仕方なく魔力が安定するのを待つことにした。
そして、学園では。
シオン、ジャックス、そしてアリスの3人が、学習チームを組むことになった。
シオンが、驚くアリスを誘ったのだ。
「組む人がいないなら、俺たちのチームに来ないか」と。
彼女がスパイの可能性が高いということは分かっていたが、ボッチで困っている状況を放っておくことが出来なかったのだ。
(前回、命を助けてくれたしな。それに、ここで女の子一人を見捨てるなんて、世界を救う男のすることじゃない)
アリスをチームに入れたいと言うと、ジャックスは笑顔で賛成してくれた。
どうやら彼もアリスのことは少し気になっていたらしい。
そんなわけで、チームを組むことになった3人は、必然的に一緒に過ごす時間が多くなった。
昼食を一緒に食べ、放課後研究題材等について相談する。
最初はアリスに警戒していたシオンだが、日が経つにつれ、徐々に警戒を解いていった。
よく考えてみれば、知られててはマズい情報などほとんどない。
ジャックスと話しているのも、バカ話ばかりだ。
(それに、そもそも雇い主はアリスの特性を分かってないよな)
アリスは、この世界のいわゆる忍者で、すごい斥候だ。
シオンの部屋に忍び込むのであれば、右に出る者はいないだろうし、気配を消すなどの隠密行為にも優れている。
しかし、それ以外は、かなりのポンコツ。
いつも無表情で、かなりのコミュ障。
学友になって何かを探るなんて器用な真似が出来るわけがない。
(……こいつ、このままだと雇い主に怒られるんじゃないのか)
アリスのあまりの不甲斐なさに、余計な心配をするシオン。
しかし、このアリス事件は、思わぬ方向に進むことになる。
* * *
ある日、いつものように3人で昼食を食べていると。
食堂の入り口の方から、キャー、とか、ワ―、とかいう声が聞こえてきた。
声の主は、主に女子学生。
いわゆる、黄色い歓声、というやつだ。
シオンは首を傾げた。
「なあ、あれ何だろう?」
「さあ? なんだろうな?」
ジャックスも分からないらしく、首を傾げる。
そして、そのまま昼食を食べ続けていると。
いきなり隣の席に、誰かが座ってきた。
「こんにちは。シオン。元気ですか」
見ると、そこには笑顔のウィリアムが座っていた。
シオンは納得した。
なるほど。ウィリアムが騒がれていたのか。
いかにもインテリ眼鏡って感じでカッコいいもんな、この人。ちくしょう。
シオンは「お久し振りです」と、挨拶を返すと、一緒に座っていた2人を紹介した。
「こちらは同じクラスの、ジャックスとアリスです」
「ジャックスは知っています。辺境伯のご子息ですね」
「はい。お久し振りです。ウィリアム様」
「アリスは、初めてですね」
はい、と、大人しく頷くアリス。
シオンは尋ねた。
「どうして学園にいるんですか?」
「公衆衛生学の講師を頼まれて、しばらく通うことになったのです。例の流行病についても話をする予定です」
「……流行病?」
それまで下を向いて黙っていたアリスが、ぴくりと反応した。
「……流行病ってなに?」
シオンとジャックスは驚いて顔を見合せた。
アリスが自分から話をするところなんて初めて見たぞ。
ウィリアムは軽く目を細めると、軽い口調で言った。
「リディック病のことです。シオン君のお陰で、今年のリディック病患者が大幅に減らせましてね。その話をする予定なのです」
ウィリアムの言葉に、目を見開くアリス。
そして、シオンを見ると、呟くように言った。
「……もしかして、シオンは、お医者様?」
「いや、お医者様って訳じゃないけど、元々いた国で似たような流行病があったから、何となく対策が分かった感じかな」
そう、と、呟いて下を向くアリス。
ただならぬ様子に、黙ってアリスを見つめる3人。
そして、ややあって。
アリスは思い切ったように顔を上げると、切羽詰まった顔でシオンに訴えた。
「……お願い。話だけでも聞いて。妹が死にそうなの」
* * *
――その日の放課後。
シオンとジャックス、アリスは、 研究所にあるウィリアムの部屋に集まった。
学校でもよかったのだが、ウィリアムが病気関係であれば、資料が揃っている研究所の方が良いだろうと提案してくれたのだ。
「さて。話を聞かせてくれますか、アリス」
笑顔のウィリアムに促され、アリスはポツリポツリと話をし始めた。
・半年ぐらい前に、妹が倦怠感と食欲不振になったこと
・動悸や息切れがするようになったこと
・手足が麻痺し、一日中寝ているようになったこと
話を聞いていたウィリアムが呟いた。
「なるほど。もしかして君は南方から来たのではないですか?」
「はい、そうです。少し前まで南方に住んでいました」
真面目に話を聞きながら、シオンは思った。
おい、お前の留学生設定は、どこに行ったんだ、と。
ジャックスも同じことを思ったのか、おかしそうな顔をしている。
ウィリアムが言った。
「症状を聞く限り、 南方でよく見るウィラー病ですね。伝染性はないのですが、ある日を境に体がだるくなって動けなくなっていくのです。最終的には死に至ります。妹さんの症状を聞く限り、かなり進行してるのではないでしょうか」
「へー。北じゃ聞かない病気ですね。治療方法はないんですか?」
ジャックスの問いに、ウィリアムは難しい顔をした。
「教会が販売している聖水は効果があると言われています。でも、どのくらい効くかは未知数ですし、かなり高額です」
アリスは、今にも泣き出しそうな顔をした。
「……妹は聖水を飲んでる。でも全然効かなくて。最近はほとんど物が食べれず、目を開けられないくらい衰弱してる」
シオンは、腕を組んで考え込んだ。
伝染性がないということは、ウィルスの類ではなさそうだ。
となると、シオンの知識で考えられる可能性は2つ。
シオンは尋ねた。
「南方って、どんなところなんですか?」
「地形的には盆地ですね。おもな産業は稲作。水が綺麗な豊かな土地です」
「ご飯ってどんなものを食べてるんですか?」
「米ですね。色々な米料理があること有名です」
米、と、聞いて、とある病気が思い当たるシオン。
「ええっと、米以外は?」
「米以外は、野菜です。米以外に葉物野菜が特産と聞いています」
「……もしかしてなんですけど、その病気って、下半身が左右対称に痺れたりします?」
「「……っ!」」
息を飲むようにシオンを見る、ウィリアムとアリス。
シオンは思った。
なんか分かった気がする、と。
そして、頭の中で、この知識を与えてくれた柚子胡椒とすみれに感謝しつつ、口を開いた。
「それは、多分、俺の世界で言う所の『脚気』ですね。病気というより、栄養不足です」




