13.既視感のある留学生(※改)
先ほどは、誤って旧バージョンを張り付けてしまいました。
新バージョンとあまりに内容が違うので、再投稿致します。
ややこしくてすみません。m(_ _)m
異世界召喚されてきてから、2カ月半。
これまでの成果は下記。
<これまでの成果>
・騎士団の訓練に参加して、中級騎士との打ち合いにチャレンジ中
・学校の経済学系の授業を取り始めた
・シャーロット王女のお茶会を断りまくっている
今回特筆すべきは、シャーロット王女のお茶会を断りまくっていることだろう。
エミールに散々な目にあわされた以降も、シャーロット王女からはお茶会の誘いが届いた。
内容は、こんな感じだ。
・ごめんなさい。もう、ああいったことがないように留意します
・シオン様が心配ですので、様子を聞かせて下さい
手紙が届くたびに、シオンは溜息をついた。
シャーロット王女のことは好きだ。
とても綺麗な人だと思うし、人としても好きだ。
前回の大恩人でもある。
でも、お茶会に行けば、またエミールが飛び入り参加してくる可能性がある。
シャーロット王女は信用できるが、エミールは信用できない。
申し訳ないけど、死亡END回避のためだ。
彼女とも距離を取ろう。
送られてくる招待状に、「ごめんなさい。忙しいので」と、断り続けるシオン。
その言葉が嘘にならないようにと、剣術の稽古と勉強に打ち込む毎日。
――そして、太陽がまぶしい、とある初夏の朝。
学園の教室にて。
シオンがいつも通りジャックスの隣の席に座っていると、ガラリ、と、ドアが開いて担任教師が入ってきた。
「おはよう。諸君。今日は転入生を紹介する」
転入生、という言葉に、教室がざわついた。
この学園の転入生はとても少ない。
1年に1人いれば多い方だ。
それが、短期間に2人。
しかも、同じクラスに来るなんて。
皆の見守る中、制服姿の小柄な女子が入ってきた。
水色の髪と瞳。人形のように整った顔立ち。
年齢よりもかなり幼く見える。
彼女は、透き通った水色の瞳で、無表情にクラスメイト達を見回すと、小さな声で言った。
「……アリス・バスティア。よろしく」
彼女を見て。
シオンは思わず咳き込みそうになった。
(ええええ! なんで! ここにアリスがいるんだよ!)
――前回。
アリスは、シオンの従者兼護衛だった女の子だ。
学園に通うと決まったシオンを心配して付けられ、どこに行くにもシオンに付き添い、色々と面倒を見てくれた。
しかし、その反面、シオンの行動を逐一報告するため、シオンの行動は筒抜け。
窮屈で自由のない生活を送ることになった。
また、アリスは優秀な斥候でもあったことから、魔王討伐をするシオンに同行。
最後は、シオンを守るために戦い、命を落としてしまった。
――だから、今回。
シオンは、自由の獲得と、アリスが魔王討伐に巻き込まれるのを避けるため、何がなんでも従者を付けなかったのだが……。
(なんで! なんで生徒として学園に編入してきてるんだよ!?)
シオンは頭を抱えた。
意味が分からない。
どういうことなんだ。
彼は、体をずらしてアリスの死角に入りながら、必死に頭を働かせた。
アリスは元冒険者だと言っていた。
元冒険者が、こんな貴族学校に編入できるとは思えない。
そして、彼は思い当たった。
(……もしかして、誰かが俺を監視するために、アリスを送り込んで来たんじゃないか……?)
未だかつてない不気味さを感じ、思わず生唾を飲み込むシオン。
前回もそうだったのではないかと思い当たり、体が震える。
(……でも、なんで俺を見張るんだ?)
シオンは、現在、普通の学生だ。
異世界の知識はあるが、それで儲けている訳でも、なにか大きなことをしている訳でもない。
ただ、ごく普通に学生生活を送っているだけ。
なんで監視されるんだ?
監視される理由が思い当たらず、首を傾げるシオン。
すると、隣席のジャックスが小さな声で話しかけてきた。
「どうしたんだ、シオン。なんか百面相してるぞ?」
「え? 変な顔してた?」
「おう。驚いたり、考えたり、困ったり、見てる分には面白いけど、心配になるな。
――何かあったのか?」
シオンは黙り込んだ。
相談したいところではあるが、現時点でアリスがスパイだという証拠はない。
証拠がない以上、何も言えない。
幸いなことに、今回のアリスは単なる「クラスメイト」。
前回は従者だったから四六時中べったり一緒にいたが、今回は関わらなければ済む話だ。
なるべく、距離を取ろう。
シオンは、心配そうに見てくるジャックスに、なるべく平静を保ちながら言った。
「ああ、大丈夫だ。特に何かって訳じゃないよ」
「……そうか。まあ、何かあったら遠慮なく相談してくれ。いつでも聞くからさ」
「ああ。ありがとな、ジャックス」
* * *
それからというもの。
シオンは、アリスをガン無視し続けた。
休み時間や昼食時、帰宅時になると、アリスの視線を感じるが、知らんぷり。
アリスが話しかけたそうに廊下で待っていても、気づかないふり。
常に誰かとしゃべっているようにして、話しかける隙を与えない。
シオンは思った。
これなら大丈夫だろう、と。
(よく考えたら、単なるクラスメイトだもんな。監視するにも限界があるよな)
少し気が楽になるシオン。
――しかし、3日、4日、と経ち。
彼は、だんだん別のことが気になり始めた。
アリスが、ずーっとボッチなのだ。
話しかけてくれる女子もいるのだが、アリスが何を聞かれても黙っているため、すぐに離れていってしまうし、本人から誰かに話しかけることもないので、ずーっとボッチ状態。
学園の行き帰りも、移動教室も1人。
授業の合間や休み時間は、机に顔を伏せて寝たふり。
絵に描いたような、見事なボッチぶりだ。
その様子を見て、シオンは思った。
よく考えたら、情報スパイなんて、アリスに一番向いていない役所なんじゃないか、と。
前回の記憶によれば、アリスは相当なコミュ障。
必要最低限のことしか話さないし、雑談とか冗談とか一切ない。
斥候能力以外は、相当なポンコツだ。
そんなアリスが、クラスに溶け込むとか、自分と友達になって情報を引き出すとか、そんな器用なことができるとは思えない。
こいつ、大丈夫なのか?
スパイに対しておかしな心配をし始める、お人好しなシオン。
――そんなある日。
クラスで、相互学習のために学習グループを作ることになった。
グループの人数は2人から5人。
「適当にグループを作っておくように」
そう言い残して去っていく担当教師。
隣の席に座っていたジャックスが、ニコニコしながら言った。
「シオン、一緒にやろうぜ」
シオンは「うん」と言いながら、前方の席に座っているアリスを見た。
話しかける者もなく、彼女から話しかける様子もなく、ただ席に座って項垂れている。
完璧なボッチだ。
シオンは、深い溜息をついた。
アリスは確かに怪しい。
でも、彼女は、前回、身を挺してシオンを守ってくれた恩人だ。
そんな彼女をボッチのまま放っておいたら、世界を救う男としても、人としても、ダメな気がする。
こうなったらもう仕方がない。
覚悟を決めよう。
シオンは、意を決すると、ジャックスの方を向いて言った。
「あのさ。もう1人、メンバーを加えたいと思うんだけど、どうかな?」




