10.学園生活初日
本日2話目です。
異世界召喚されて、1ヶ月半目。
学園生活第1日目。
シオンは、寮の自室で朝食を食べながら、「やることリスト No.3」を、チェックしていた。
――――
<やることリスト> No.3
〇学園でジャックスと友達になる
・剣の先生を見つける
・魔法の先生を見つける
―――――
(※〇はクリア、の意味)
シオンは考えた。
ジャックスとは仲良くなったので、あとは剣と魔法の先生を見つけることだ。
剣については、前回パーティを組んでいたカルロスに教えてもらいたいところだが、彼は超多忙な騎士団長。
定期的に教えてもらうには無理がある。
(ウィリアムに相談してみようかな)
公爵家の彼であれば、優秀な講師を知っているかもしれない。
魔法の講師についても、合わせて相談しよう。
――ーと、その時。
ゴーン
校内を鐘の音が鳴り響いた。学園が始まる30分前だ。
急いでノートを空間収納にしまうシオン。
食べ終わった食器をカゴに入れて廊下に出すと、足早に部屋を出ていった。
* * *
――部屋を出て、約20分後。
シオンは、担任になる男性教師に連れられて、教室に向かっていた。
高い天井に、白い壁。広い廊下に赤い絨毯。
所々に、警備の騎士が立っている。
貴族の子女が通っているせいか、かなり安全に気を遣っているのが見てとれる。
男性教師に付いて歩きながら、シオンは窓ガラスに映る自分の姿をチェックした。
白い詰襟のジャケットに、白いパンツ。
The貴族! といった風情の制服を、そこそこよく着こなしている。
前回の、妙にダボッとした特注制服姿の数十倍は良い感じだ。
そして、思った。
これは、もしかすると、モテてしまうのではないだろうか、と。
久々の学園に浮足立っているせいで、彼はちょっとアホになっていた。
彼がそんなアホなことを考えているとは露知らず、担当教師が気遣うようにシオンの肩をポンポンと叩いた。
「大丈夫だ。緊張しなくてもいいぞ。みんないい奴だからな」
そして、教室の扉をガラッと開けると、教室の中に入った。
教室は、大学の教室を思わせる雰囲気で、20人ほどの生徒が座っている。
教壇の前に立つと、教師は声を張り上げた。
「おはよう。今日は転入生を紹介する。外国人留学生、タダ・シオン君だ」
「タダ・シオンです。よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げるシオン。
顔を上げると、後ろの席で、ジャックスが笑顔で手を振っているのが見えた。
教師がシオンに尋ねた。
「ジャックスと知り合いなのか?」
「はい」
「そうか、じゃあ、ジャックスの隣に座ってくれ。ああ見えて、あいつは優秀で面倒見が良いからな」
「はい、わかりました」
大人しく頷くシオン。
講師がジャックスに向かって言った。
「じゃあ、頼んだぞ」
ジャックスは、ニカッと笑うと、大きな声で言った。
「了解です! 任せて下さい!」
* * *
担任教師が教室を出ていくと、ジャックスは、ニコニコしながらシオンに手を差し出した。
「よく来たな。改めて歓迎するぜ」
「ありがとう。これからよろしく」
差し出された手を握り返しながら、嬉しそうに微笑むシオン。
従者がいないせいもあり、前回よりも仲良くなるのがずっと早い。
他の生徒達も挨拶をしに来てくれるが、妙に丁寧で恭しい感じだ。
なんでこんなに丁寧なんだろう、と、首を傾げていると、ジャックスがニヤリと笑って言った。
「表面上は外国から来た留学生ってことになってるけど、みんな、お前が『第1級功績』を取った異世界人だって知ってるんだよ」
「え。そうなの?」
「ああ。あの『流行病対策計画書』は全領土に配布されたからな。自然と誰がやったかって話になる。昨日聞いた話によると、流行病が収まった街で、お前の銅像を作るべきだ、とか言ってるらしいぞ」
シオンは、慌てふためいた。
ちょっと待って! そんなの困る!
「それ、止めて欲しいんだけど!」
「嫌なのか?」
「当り前だろ! 自分の銅像とか寒気がする!」
「そうか? 名誉なことだと思うぞ?」
「名誉じゃないよ! 嫌がらせだよ!」
必死に言うシオン。
ジャックスが、プッ、と噴き出した。
「ぷはっ! 嫌がらせ! 確かにな。
じゃあ、とりあえず、うちの領地では銅像を作らせないように親父に言っとくよ。あとは、ラディシュ公爵家に頼めばいいんじゃないか。多分うまくやってくれるだろ」
学校が終わったら、速攻でウィリアムに頼みに行こう、と、心に決めるシオン。
ジャックスが尋ねた。
「そういえば、シオンは何の授業を取ることにしたんだ?」
この学園の授業の半分は選択制で、生徒たちは自分の将来に必要なものを選んで学ぶことができる。
シオンは、選択した授業を書いた紙をジャックスに見せた。
「へー。 ほとんど歴史と社会学なんだな。興味あるのか?」
「うん。この国についてあんまり知らないから、勉強しようと思ってさ。
ジャックスは何の授業を選択してるんだ?」
「俺は、ほとんど体を動かす授業だな。座学は性に合わないんだ」
ここで、ジャックスが思い出したように、ぽん、と手を叩いた。
「そうだ。昨日、剣術に興味があるって言ってたよな?」
「うん」
「今日の放課後、一緒に来ないか? 親父のコネで、騎士団の鍛錬に混ぜてもらう予定なんだ」
シオンは目をぱちくりさせた。
まさか、こんなところからチャンスが巡って来るとは。
騎士団に行けば、カルロスに会えるかもしれない。
もしかすると、剣の講師も見つかるかもしれない。
シオンは前のめりに言った。
「行く! 是非連れて行って!」




