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死に戻り白豚勇者、日本で準備万端ととのえて、いざ異世界へ(※ただし彼は洗脳されている)  作者: 優木凛々
第2章 ローズタニア王国の日々

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08.唐突なお茶会と、やってきてしまった呪いのアイテム


大貴族会議の終了後。

シオンは、研究所にあるウィリアムの研究室のソファーでぐったりしていた。



「あー。マジ疲れた」


「疲れ様です。今回は本当に有難うございました」



お茶を差し出しながら、お礼を言うウィリアム。



「こちらこそ、色々とありがとうございました。」



座り直し、お茶を受け取りながら、頭を下げるシオン。


向いに座ったウイリアムが、にこやかに言った。



「いえいえ。大したことではありません。

もう1つの恩賞ですが、予定通り “ ラーラ・ムークの魔道具 “ になると思います。あの場で第1級功績に決まったので、誰も文句は言わないかと」



“ ラーラ・ムークの魔道具 “ とは、200年前の天才魔法士ラーラ・ムークが作った魔道具で、再現不可能なことから国宝に指定されている。


今回、シオンは、「荷物を持ち歩く必要がなくなりますよ」と、ウィリアムに薦められ、ゲームで言う所の “ 収納ボックスもどき “ をもらうことにした。

収納といっても、鞄1つ分くらいらしいので、そこまで便利ではなさそうだが、常にリュックサックを持ち運ぶ必要がなくなったのはありがたい。


ウィリアムが声を潜めた。



「それと、陛下から『必要な物や願いがあれば、何でも言うように』という言伝がありました」


「王様から?」


「はい。召喚の件の詫びのようなものかと」



シオンは首を傾げた。

前回(召喚1回目)は、そんなものはなかった気がする。

流行病の防止に協力したからだろうか。



(まあ、いずれにせよ、今は特に欲しい物はないかな)



特に気にせず、話を流すシオン。

そして、お茶を飲みながらげんなりした口調で言った。



「……それにしても、さっきの会議はヒヤヒヤしました。あと少しで従者がつけられるところでした」



ウィリアムが苦笑いした。



「そうですね……。あれは予想外でした。まさかあそこで口を挟まれるとは、父も思っていなかったと思います」



ウィリアムによると、すでに水面下で決まっている恩賞に対して、他の貴族が干渉するのは、半分ルール違反らしい。


シオンは尋ねた。



「あの、妙にしつこく『従者を付けろ』と騒いでいた髭の人は、一体誰なんですか?」


「バクスター侯爵です。プレリウス教の枢機卿でもある、この国有数の権力者です」



シオンは遠い目をした。


バクスター侯爵ってことは、エミールのオヤジさんってことだよな。

なんてよく似た親子なんだ。

きっと押しが強い家系なんだな。


押しが強いとか、そういう問題ではないのだが、何となく納得するシオン。



ウィリアムは座り直すと、真剣な顔で口を開いた。



「改めて言わせて下さい。

この度は、ローズタニア王国に惜しげない英知をもたらして頂き、本当に感謝しております。

王国はもちろん、我がラディシュ公爵家領も救われました。

これからどんなことがあっても、ラディシュ公爵家はあなたの味方です。何かあったら是非ご相談下さい」



シオンも慌てて座り直すと、頭を下げて言った。



「あ、ありがとうございます。何かあったら相談させて下さい」





* * *





夕方になり、研究所から自分の部屋に戻る途中。

茜色の空の下を歩きながら、シオンは考えた。


予想以上に目立ってしまった。

でも、学園に入学できることになったし、前回のように従者もつかない。

エミールとも距離を取れている。



(色々大変だったけど、これってかなり上手くいってるよな)



この調子で、学園でジャックスと友人になり、授業から知識の吸収。

剣術と魔法の講師を見つけて、訓練を積むことが出来れば、相当強くなれる。

きっと、魔王もミノタウルスも、余裕で撃退できるに違いない。



(よしよし、いい感じだ。ハッピーエンドに向かって一直線て感じだよな)



学園に行けることが決まり、やや浮かれ気味に楽観的なことを考えるシオン。




――しかし、物事とはそう上手くはいかないもの。



ここで彼に予想外の不幸が訪れた。

部屋に戻るや否や、シャーロット王女が「お茶会」を名目にやってきたのだ。




* * *




シャーロット王女は、見た者が思わず後ずさりするような、物凄い笑顔で部屋に入ってきた。


そして、優雅に挨拶すると。

ゴゴゴゴゴゴ、という効果音が付きそうな、迫力のある笑顔を浮かべながら言った。



「聞きましたわ、シオン様。『第1級功績』おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」



迫力に押され、やや怯えながら答えるシオン。


そして、戸惑った。

これって、確実に怒ってるよな?

なんで怒ってるんだ?


シオンの疑問に答えるように、シャーロット王女が笑顔でゆっくりと口を開いた。



「シオン様のお世話係はわたくしだ、ということはご存じですわよね?」


「あ、はい。お世話になっております」


「それなのに、わたくし、恩賞の話も、シオン様が学園に通われたいと思っていた話も、今の今まで、人に聞かされるまで知りませんでしたわ」



笑顔で怒るシャーロットに、シオンは狼狽えた。



「えっと、一応、研究所で手伝っているという話はしたと思うんですけど……」


「はい。お聞きしましたわ。実際、ここ最近ずっと研究室に行ってらっしゃいましたしね」



シオンは戸惑った。

もしかして、俺が研究室に入り浸っていたのを快く思っていなかったんだろうか。



「研究室に行くことは許可が出てると聞いていたんですが……」


「ええ。国王陛下からも聞かされております。でも、恩賞と学園については初耳でしたわ」


「そ、それは、ウィリアムが、決定までは誰にも言わない方が良いと言っていたので……」



しどろもどろに言い訳をするシオン。

前回(召喚1回目)の恩人に怒られ、気分は捨てられた子犬状態だ。


シャーロットは、悲しそうに呟いた。



「……しかも、今月中には王宮を出て、学園寮に行くというではありませんか。

そんな大切なことを話して頂けないほど、わたくしには信用がなかったのですね……」



美しい顔を曇らせ、俯くシャーロット王女。


凄まじい罪悪感がシオンを襲った。

ウィリアムの言う通りに黙っていたが、もしかしたら言っておいたほうがよかったのかもしれない。


彼は必死に頭を下げた。



「す、すみません! 悪気はなかったんです!」



シャーロットは悲しそうに笑うと、首を横に振った。



「……もういいですわ。済んだ話ですし」


「そ、そんな訳には……」



打ちひしがれ凹むシオン。

王女の悲しそうな顔に、胸が押しつぶされそうになる。


そんなシオンの様子を見て、クスリと笑うシャーロット。

彼女は微笑みながら言った。



「そうですね……。では、もしも悪いと思って下さるのであれば、1つお願いを聞いて頂けませんか?」


「わ、分かりました! 俺にできることであれば何でも聞きます!」



罪悪感のあまり、安請け合いをするシオン。


シャーロットはにっこり笑うと、後ろに立っていたメイドが持っていた布袋を、シオンに差し出した。



「では、これをどうぞ」


「? これは何ですか?」


「プレゼントですわ。開けてみてください」



何だろう、と、ガサガサと開けるシオン。

そして中身を見た瞬間、絶句した。



「こ、これは……!」


「これは、”身体能力増強の魔道具” ですわ。わたくしがシオン様の心配をしていたところ、エミールが持ってきてくれましたの。魔力を吸う代わりに体力を増強してくれるそうですわ」



シオンは信じられない気持ちで、包みの中を見た。

それは、紛れもなく、前回(召喚1回目)のシオンを堕落させ、死亡ENDに導いた魔道具ーー。



(ぐあっ! 何でだよ! 何でこれが俺の手元に来るんだよ!)



心の中で絶叫するシオン。


そんな彼を他所に、シャーロット王女が笑顔で言った。



「今回のお詫びに、これをいつも着用していてください。学園や寮の生活も、これがあれば安心ですわ!」






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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、やっぱり猛毒だ
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