07.大貴族会議と恩賞
本日2話目です。
異世界召喚されて、約1か月。
国の方針や重大事項を話し合う「大貴族会議」、当日。
シオンは、ウィリアム達と共に、王宮内部にある超豪華な会議室に来ていた。
高い天井、煌びやかなシャンデリア、立派な壁紙。
見たこともないほど大きな会議テーブルには、国王と宰相の他、豪華な服を着た10人ほどの男性が座っている。
この国を動かしている、侯爵以上の貴族達だ。
この日の議題は、「流行病の対策について」。
会議が始まってすぐ、ウィリアム達研究員が壇上に立った。
「それでは、これより流行病の対策をご説明致します」
原理不明のプロジェクターのようなもので、壁に資料を映す研究員達。
ウィリアムが棒で資料を指し示しながら、説明を始めた。
・流行病は、目に見えない小さな「菌」が原因で引き起こされる
・「菌」が井戸に入り、そこから流行が始まっている可能性が高い
・これを踏まえた新たな対策は、「井戸の封鎖」「飲料水の煮沸」「正しい手洗い」の3つ
・この3つを、すでに流行病が始まっている町で実践したところ、10日間で新規感染者が6割減った
配られた資料を手に、熱心に耳を傾ける貴族達。
部屋の端に座って話を聞いていたシオンは、とても感心した。
自分が話した、「歴史の本で読みました」「日本ではこんな感じです」レベルの話が、実際のデータで証明され、実現可能な解決策として落とし込まれている。
すごいな、さすが研究員。
そして思った。
なんか予想以上の大事になってしまったぞ、と。
日本で学んだ知識を披露しただけなのに、世紀の大発見的な感じになってしまった。
本で知識をかじった程度なのに、すごい知識人みたいな扱いをされている。
(大丈夫かな……。普通に学生として学園に行けるんだろうか。講師になれとか言われないよな?)
想定外すぎる状況に、不安になるシオン。
そんなシオンをよそに、ウィリアムの素晴らしい説明が終了。
貴族たちが興奮したように騒ぎ出した。
「素晴らしい! 画期的ですな!」
「流行病の原因は『菌』というもので、それが蔓延しないようにすれば予防ができる、ということですな」
「新規感染者6割減とは、まるで神の所業のようですな」
「これだけの成果を上げたのです、彼等に恩賞を与えるべきでしょう」
ウィリアムの父親でもある宰相が、貴族達に向かって言った。
「では、この成果を『第3級功績』として称え、研究所の予算を2倍。研究員達に金一封。ということで如何でしょう」
すると、大柄な武人風の貴族が口を開いた。
「いやいや。これほどの成果が、前回の『茶の新銘柄の開発』と同じはナシでしょう。少なくとも2級以上にするべきです」
「それもそうですな。茶の新銘柄は人命を救いませんが、これは救う」
口々に賛同する貴族たち。
宰相が声を張り上げた。
「それでは改めて、今回の成果を『2級功績』として、研究所の予算倍増と、研究員たち全員に特別恩賞金を与えるとしましょう。皆様、これでよろしいですかな?」
一斉に頷く貴族たち。
その時、壇上に立っていたウイリアムが口を開いた。
「お待ち下さい。
この成果を上げるにあたり、異世界人であるタダ・シオン様に多大なるご支援を頂きました。我々はシオン様の話を具体化しただけに過ぎません。恩賞はシオン様にお願いいたします」
すると、体格の良い貴族が口を開いた。
「いやいや。そういう訳にもいかんだろう。仮令異世界の知識があったにせよ、計画に落とし込んだのは研究所だろう? それだけでも『第2級功績』に当たる」
「そうですね。これを2級以下にすると、他とのバランスが崩れます」
誰かの発言に、一斉に頷く貴族たち。
宰相が顎を撫でながら言った。
「なるほど。そうなると、シオン様は、『第1級功績』ということになり、爵位と領地が与えられることになりますな」
すると、ウィリアムが首を横に振りながら言った。
「恐れながら申し上げます。事前にお伺いしたのですが、シオン様は爵位と領地を望まないとのことでした」
ざわめく貴族達。
宰相が優しい目でシオンを見ながら言った。
「なるほど。では、何か望まれるものはありますか?」
シオンはごくりと生唾を飲み込んだ。
とうとう出番だ。
彼は立ち上がると、声が震えないように気を付けながら、事前の台本通り、大きな声で言った。
「わたくしは、王立学園に入学することを希望します」
学園?
驚いて顔を見合せる貴族達。
「なぜ学園なのか、理由をお聞きしても?」
「はい。こちらに来る前は学生でしたので、引き続き学びを続けたいなと思っております。それと、学園が楽しい所だと研究所で聞きましたので」
宰相が国王の顔を見た。
「いかがでしょうか。実に若者らしい願いかと思いますが」
「そうだな。しかし、それでだけでは恩賞にならないだろう。他に何か願いはないのか」
すると突然。
髭を生やした聖職者風の服を着た男が、にこやかに言った。
「それでは、学園生活を送るにあたり、従者をつけるというのはいかがでしょうか。こちらの世界に来て間もないシオン様のサポートをさせるのです」
……は?
シオンの目が点になった。
誰だこのおっさん。
こんなの台本になかったよな?
横目でウイリアムを見ると、彼も驚いたような顔をして、軽く首を横に振る。
どうやら予想外のことが起きているらしい。
台本に乱入してきたヒゲの貴族が、にこやかに言った。
「国王陛下。シオン様により良い学園生活を送って頂くためには、有能な従者が必要かと思われます。その従者をこちらから厳選して付ければ、恩賞になるのではないかと」
「ふむ。それでも到底足らぬが、一理はあるか」
シオンは焦った。
ちょっと待ってくれ。
前回(召喚1回目)の学園生活では、従者がついてしまったため、自由がなくなった。
今回は、従者ナシで、鍛練も勉強も自由にやりたいと思っていたのに、なんでまた従者の話が出てくるのか。
嫌だ、絶対に嫌だ!
しかし、そんなシオンの焦りをよそに、従者をつける方向に流れ出す会議場。
(駄目だ。ここで流されたら負けだ!)
シオンは大きく息を吸い込むと、思い切って口を開いた。
「すみません。よろしいでしょうか」
何ですかな、と、宰相。
シオンは、乾いた下唇を舐めると、慎重に言葉を選びながら行った。
「わたくしは従者を望みません。他の生徒と同様の扱いにして頂きたく思います」
「何を申しますか。それでは恩賞になりませんよ。こちらで厳選した従者をお付けいたしますのでご安心ください」
にこやかに言うヒゲの貴族。
その有無を言わせぬ雰囲気に思わず流されそうになるものの、シオンは必死に踏みとどまった。
(こんな圧に負けるようじゃ、世界を救う男にはなれない、がんばれ、俺!)
「私の居た世界では、学生は常に1人で行動していました。 従者がいたら却って落ち着きません」
「王宮と学校を往復するのでしたら護衛が必要になります。そうなると、自然と従者も必要になりますぞ」
「学園には寮があると聞いています。入学の際は、そちらに住まわせて頂きたいと思っております」
「なんと! 学生寮に! それは危険すぎますぞ」
一歩も引かない両者。
体格の良い貴族が大声で笑い出した。
「いい加減にしろ、バクスター。本人が嫌がっているではないか。希望していないものを押し付けるのはどうかと思うぞ?」
「シオン殿は、この国のことをよく分かっていらっしゃらないのです。最適なことを薦めるのも我々の義務です」
「言っている意味がサッパリだ。貴族の子女が普通に通っている安全な学園に、何がそんなに危ないことがあるんだ?」
ヒートアップしていく両者。
すると、それまで黙っていた国王が、軽く手をあげて2人を止めると、シオンの目を見た。
「シオン殿は、学園に通い、寮に住みたいのだな」
「はい」
「従者は必要ないのか? 便利ではあるぞ?」
「はい。必要ありません」
ここぞとばかり、きっぱりと言い切るシオン。
国王は目を細めて笑うと、場外乱闘していた二人の貴族に向かって言った。
「恩賞を受けるのはシオン殿だ。まずは、シオン殿の希望を聞くべきであろうな。従者については、シオン殿が不便を感じたら、また考えれば良い」
「……はっ」
悔しそうな顔をしながら、渋々引き下がるヒゲの貴族。
国王は宰相の方を向いて言った。
「シオン殿の願いをなるべく叶える形で手続きを行うように。加えて、他の恩賞についても希望を聞いて検討するように」
「かしこまりました。第1級功績にふさわしいものを検討したいと思います」
その後、幾つかの決め事をしたあと。
大貴族会議は解散となった。




