表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻り白豚勇者、日本で準備万端ととのえて、いざ異世界へ(※ただし彼は洗脳されている)  作者: 優木凛々
第2章 ローズタニア王国の日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/79

01.やってきました、2周目の異世界


「黒目黒髪! 膨大な魔力! 間違いない。異世界人だ!」


「召喚成功ですな! やりましたな!」



わあっと湧き上がる大きな歓声。


ふと、我に返ると。

シオンは固い床の上に座り込んでいた。


ステンドグラスのような細工が施された立派な天井。

鮮やかな壁画が描かれた真っ白い壁。

ひんやりとした空気。

王宮内部にある祈りの間だ。


シオンを遠巻きに見ているのは、ローズタリア王国の重鎮達。

刺繍が施された立派なローブを身にまとい、品定めするような目でシオンを見ている。


前回(1回目召喚)と全く同じ光景に、シオンは気を引き締めた。


さあ、ここから異世界生活の始まりだ。


彼は、召喚されたことに驚いたフリをしながら、さりげなくポケットをチェックした。

ファスナーはしっかり閉まっており、上から触った感触も変わりない。

中身が無事かどうかは別として、どうやら荷物の持ち込みには成功したらしい。


良かった、と、胸を撫でおろすシオン。



―――しかし、安心したのも束の間。


突然、眩暈めまいと頭痛がシオンを襲った。

続いて来たのは、胃から何かがこみあげてくるような、ひどい吐き気。


シオンは口元を押さえながら、真っ青な顔で床に倒れこんだ。


異常に気付き、シンと静まり返る、祈りの間。



「ど、どうされましたか。顔色が悪いようですが」



恐る恐る近づいてきた若い男に対し、 シオンは呻くように言った。



「き、気持ちが悪い……」





* * *





――数時間後。


シオンは、巨大な天蓋付きベッドの上に寝かされていた。


大騒ぎで運ばれたのは、豪華な調度品が置いてある広い部屋。

前回(召喚1回目)も与えられたシオンの部屋だ。

窓からは、冬の午後の日差しが差し込んでいる。


彼は、ようやく頭痛の収まった頭を撫でながら、ハアッと溜息をついた。



(死ぬかと思った……)



召喚酔い、と言ったら良いのだろうか。

後から遅れてやってくる、脳や内臓を直接揺さぶられるような、体験したことのない感覚。

滅多に乗り物酔をしないシオンも、これには流石にぐったりだ。


シオンが動いたことに気が付いたのか。

部屋の隅で控えていた2人のメイドが、遠慮がちに声を掛けてきた。



「……お加減はいかがですか」



若いツンとした美人と、いかにもベテラン風な中年女性。


前回と同じ2人に懐かしさを覚えながら、シオンは努めて他人行儀に言った。



「……まだ、気持は悪いですけど、大分収まりました」


「それはようございました。何かお持ちしましょうか」


「いえ、大丈夫です。――すみませんが、1人にしてもらえませんか」



戸惑ったように顔を見合せる2人。

シオンが、 人がいると気が休まらないと言うと、ベテランメイドの方が、分かりました、と、頷いた。



「では、私共は部屋のドアの外に控えておりますので、何かありましたら、枕もとのベルを鳴らしてくださいませ」


 


* * *




メイド達が部屋を出て行った後。


シオンは、ベッドの上に立ち上って、天蓋に付いている薄手のカーテンを閉めた。

薄暗い天蓋の中で、ずっと着ていたフィッシングベストと、柚子胡椒がくれた黒の下着を脱ぐと、体をググーッと伸ばした。



(はあ~。身軽になった。生き返る)



召喚酔いがおさまって体調が良くなってきたせいか。

服を脱いで身軽になったせいか。

久々に感じる異世界の空気に、高揚してくる。


シオンは、枕元にあった寝間着らしき服を着ると、湧き上がる興奮を静めようと、筋トレを始めた。


まずは、腕立て伏せ。



(いちっ、にっ、さんっ、よんっ……)



続いて、腹筋、背筋。


そして、最後に軽く柔軟体操をした後。

シオンは、大の字になってベッドに寝転ぶと、天蓋に描かれている不思議な模様をながめながら、小さく呟いた。



「ついに来たな……」



長いような短いような準備期間1年を経て。

とうとうやってきた2周目の異世界。



「うお~、なんか、すげー緊張するな~。ここから本番だもんな。これから1年、がんばんないとな」



まずは、荷物の確認だ。


シオンは、勢いよく起き上がると、胡坐をかいて座りながら、荷物のチェックを始めた。


カメラ、電池、救急セット、ノート、筆記用具、LED懐中電灯、折り畳みリュックサック、などなど。

数を数えたり、動作を確認したり、丹念に調べる。


そして、壊れたり足りないものがないことを確認。

脱いだ服と一緒に、折り畳みリュックサックの中に丁寧にしまい込んだ。



(荷物の持ち込みは大成功だ)


(ここまで頼もしく思える荷物を持ち込めたのは、みんなのお陰だな)



日本の仲間達に感謝するシオン。


そして、リュックのポケットからメモ帳を取り出すと。

腹黒小学生に勧められて作った、「やることリストNo.1」の、ページを開いた。



――――――――

<やることリスト> No.1


・シャーロット王女に会う

・前回召喚された日本人の手記をGETする

・ローズタニア王国について勉強する


―――――――



ちなみに、このやることリストはNo.3まであり、それぞれの時期に必要なことが書かれている。

わりと雑で忘れっぽい性格をしているシオンの強い味方だ。


メモを見ながら、シオンは考えた。



(とりあえず、まずはシャーロット王女に会うことだな)



シャーロット王女とは、この国の第2王女。

聖女と呼ばれる美しい女性で、前回(召喚1回目)においての、シオンの恩人でもあり憧れの人でもある。


彼女に会えば、手記が手に入るし、ローズタニア王国についても勉強できる。

まずは彼女に会おう。



シオンはノートをリュックのポケットにしまい込んだ。


早く行動したいと気が焦る。

しかし、彼は自分をなだめるように、ゆっくりと深呼吸した。


異世界生活は始まったばかり。

焦りは禁物だ。



(とりあえず、今日のところは体力を回復させて、明日から行動開始しよう)



気持ちを落ち着けるように小さく息を吐くと、ベッドに潜り込むシオン。


そして、隣に隠すように寝かせてあるリュックサックのポケットを探り。

薄型のパスケースを取り出した。


パスケースを開くと、そこには、ファミレスで はにかむように笑っている柚子胡椒の写真。



(今頃、何してるんだろうな……)



写真を見ながら、シオンは溜息をついた。


別れてまだ数時間しか経っていないのに、もう会いたい。

俺って、思ったより重症だったんだな。


再び溜息をついて、パタンとパスケースを閉じるシオン。


そして、パスケースを枕の下に入れると。

「絶対にハッピーエンドで終わらせて、日本に帰るぞ!」と、決意しながら、ゆっくりと目を閉じた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ