エピローグ: 異世界召喚
本日2話目です。
異世界から帰ってきて、12カ月。
異世界召喚される、当日。
7月18日の夕方。
紫苑は、ぐったりとソファに座り込んでいた。
「疲れた……。ちょっと頑張りすぎた」
早朝5時に目が覚めた紫苑は、身辺整理に取りかかった。
パソコンや本棚をチェックし、見られてはいけないものが残っていないか念入りに確認。
それが済んだ後。
彼は、家の掃除に取り掛かった。
いつ両親が紫苑の不在に気が付くか分からないが、家に入ったら生ゴミの臭いがするとか、カビだらけとか、そういのは避けたい。
洗濯をし、はたきをかけ、掃除機をかける。
幸いゴミの日だったため、冷蔵庫の中身を全て捨てる。
その後、おもむろにパソコンに向かうと、今まで支えてくれた4人の仲間それぞれに、メッセージカードを書いた。
感謝の気持ちが伝わるように、何度も読み直し、丁寧に書く。
そして、顔を上げれば、すでに夕方。
慌てて外食をして、コンビニに行き、ようやく家に帰ってきた、という次第だ。
紫苑は、ソファから立ち上がった。
もう少しのんびりしていたいが、もう時間がない。
「後は、風呂か」
これからしばらく入れないだろうと、ゆっくりと湯船に浸かる。
上がってきて時計を見ると、20:00。
あと1時間半で異世界召喚だ。
紫苑は深呼吸した。
さあ、いよいよだ。
家中の戸締りをして、カーテンを全て閉める。
電気を消して2階に上がり、自分の部屋のクーラーを最高につけ、1時間後に切れるようにセット。
そして、着ていた服を脱ぐと、柚子胡椒がくれた下着を二枚重ねで着て、その上に長袖シャツを着込んだ。
「……うん。想像以上に暑いな」
クーラーで冷え切った部屋にもかかわらず、若干暑い。
本当に必要なのだろうかと思わなくもないが、柚子胡椒の気持ちを大切にしようと我慢する。
そして、召喚15分前。
持ち物の最終確認が終わった紫苑は、ポケットがパンパンになったフィッシングベストを着ると、パソコンを立ち上げて、会議アプリを開いた。
会議アプリには、既に4人がログインしていた。
紫苑以外の4人は画像なしだが、紫苑の画像には、部屋全体が写っている。
紫苑は、画面に向かって手を振った。
「こんばんは」
紫苑以外はミュートにしているため、チャット欄が動き出した。
=====
柚子胡椒:
「こんばんわ(*´▽`*)ノ 」
ひまぽ:
「ばんわー。ついにこの日が来たねー」
腹黒小学生:
「 ノ 」
すみれ:
「こんばんわ。紫苑ちゃん。準備万端みたいね」
====
すみれのコメントに、 紫苑は頷いた。
「はい。お陰様で」
====
ひまぽ:
「召喚まであと少しだねー、ドキドキするねー」
腹黒小学生::
「俺まで緊張してきた」
すみれ:
「今のうちに言っておくけど、気を付けるのよ。努力を怠らなければ、味方になってくれる人は絶対に出て来るわ。だから、がんばって」
腹黒小学生:
「人を見る時に、その人が何で得して何で損するか、それを見ることを忘れないで」
ひまぽ:
「最初は馬鹿なフリするんだよー」
柚子胡椒:
「ケガと病気だけは気を付けて」
====
温かい言葉に、涙を浮かべて頷く紫苑。
本当に、本当に、4人にはお世話になった。
そして、紫苑が改めてお礼の言葉を言おうとしたーーー、その時。
突然。
紫苑の足元が光りだした。
ブワッ、と、魔法陣のようなものが浮かび上がり、薄暗い部屋が一気に明るくなっていく。
====
ひまぽ:
「ついにきた!」
腹黒小学生:
「すごい! マジだ!」
柚子胡椒:
『 ( ゜Д゜)! 』
すみれ:
「!!!!!!!!!」
====
盛り上がるチャット欄。
紫苑は、静かな気持ちで足元の魔法陣を見つめた。
あと20秒もすれば異世界だ。
紫苑は、感謝の気持ちを込めてパソコン画面に向かって、深々と頭を下げた。
「お世話になりました! ありがとうございます! みんながいなかったら、ここまでできなかったと思います!」
そして顔を上げてーーー、目を丸くした。
非表示だったみんなの画面に、人が映っているのだ。
ピンクの部屋着を着て、少し悲しそうに微笑みながら手を振る柚子胡椒。
長い髪を後ろで束ねている男性は、ひまぽだろうか。
眼鏡をかけて頑張れよと叫んでいる若い男性は、腹黒小学生だろう。
そして、手だけ写っているのは、すみれだろうか。
ミュートを解除にしているらしく、PCから4人の声が聞こえてきた。
「シオン! 気を付けてね! 待ってるからね!」
「がんばるんだよー! 応援してるからねー!」
「異世界の奴らに負けるなよ!」
「がんばれよ! 筋肉は嘘をつかない! 根性だ!」
紫苑は、必死に手を振りながらも、こてんと首を傾げた。
4人目のオッサンは一体誰だ?
その時。
光が一気に強くなった。
お別れの時間だ。
紫苑は、泣きそうな顔の柚子胡椒に向かって叫んだ。
「行ってきます! 絶対に帰ってくる! またね!」
まばゆい光が、部屋と画面からあふれ出る。
目を開けていられなくなり、思わず目をつぶる4人。
―――そして、ふっ、と、光は消え。
4人が恐る恐る目を開けてみると。
そこにあるのは、漆黒の暗闇のみ。
紫苑の姿は、もうどこにもなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
これにて第1章は終わりです。
次回くらいから、第2章に突入します。
ご意見、ご感想、お待ちしております!




