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01.時間逆行


ピピピッ ピピピッ



聞き慣れたアラーム音に、沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。



(……これ、何の音だっけ)



ボーっと、そんなことを考えながら。

紫苑はゆっくりと目を開けた。


目に入ってきたのは、見慣れた天井。

6畳ほどの部屋に、机と本棚。

本棚には漫画やラノベが並び、机の上には大きなディスプレイが置いてある。

散らかっているところも含め、見まごうことなき、日本の自分の部屋だ。



(これは……、どういうことだ? なぜ日本に?)



紫苑は、ぼんやりした頭で、これまでのことを思い出し始めた。



(俺、高2年の夏休み初日に、異世界召喚されたんだよな)




* * *




2025年7月18日、夏休み初日の夜。


帰宅した紫苑が自分の部屋に入った瞬間、突然足元が発光。

気が付くと、歓声を上げる人々に囲まれ、石の床に座り込んでいた。


異世界のローズタニア王国で行われた勇者召喚で、運悪く呼ばれてしまったらしい。


勇者だ勇者だ、と、騒ぐ異世界人たちに対し、紫苑は必死に抵抗した。

陰キャのオタクが勇者とか、どう考えても無理だ。あり得ない。


しかし、魔王を倒して瘴気を消さなければ元の世界に戻れないことが判明し、嫌々ながら魔王討伐に参加。


魔王を倒し、さあこれで帰れると思いきや、真夜中の襲撃。

彼は、そこで命を落としたはずであった。




―――しかし、気がつけば、日本の自分の部屋。


枕元の時計を見ると、日付は、7月18日。

間違いなく異世界に召喚された日付だ。


紫苑はベッドの縁に座ると、両手で頭をかかえて呻いた。



「……訳が分からん。死んだら帰れる設定だった、ってことか?」



いきなりの場面転換に対する混乱と、当然のように浮かぶ、「もしかして俺夢見てたんじゃ」という疑惑。


漫画の読み過ぎで、中二病な夢でも見てたんじゃないだろうか。

いや、でも、夢にしてはあまりにもリアルだ。

やっぱり本当に……



ピピピッ ピピピッ



その時、枕元の目覚まし時計が鳴った。


時刻を見ると、22:00。

オンラインゲームの待ち合わせ時間だ。


彼は今はまっているのは

『シャドー・ファンタジー』というオンラインゲームだ。

パーティ制のゲームで、気の合う仲間たちと毎日22:00頃に待ち合わせをして

一緒に狩をしている。


紫苑は、アラームを止めると、ハアッと溜息をついた。


正直、ゲームをする気分ではないが、

目はギンギンに冴えているし、脳も妙に興奮している。

眠れる気がしない。


紫苑は、大きく深呼吸した。



(まずは、落ち着こう)



いつも通りの行動をしていれば、少しは落ち着くかもしれない。

ゲームでもやって、落ち着いて、それから考えよう。

1人で悶々と考えるよりは、その方が絶対に良い。

みんなも待ってる。


ベッドから立ち上がって、パソコンの電源を入れる紫苑。

大きな液晶画面の前に座り、ログインする。


そして、いつものようにステータス情報を確認しーーー、彼は首を傾げた。



「……あれ、こんなに弱かったっけ?」



彼の記憶では、紫苑のメインキャラである “ シオン “ のレベルは350。

青のレア装備に身を包んだ魔法剣士だ。


しかし、画面上の表示は、レベル255。

装備も、なぜか白一色の既製品だ。



(どうしたんだ? 何かのバグか?)



首を傾げていると、画面上で『おーい』と、声を掛けてくるものがいた。

ゲーム内でチームを組んでいる2人だ。



====

柚子胡椒:

『ばんわ。シオンが遅れるなんて珍しいね』


すみれ:

『こんばんは。シオンちゃん。どうかしたの?』

====



柚子胡椒の、イケメンなアサシン姿と、

すみれの色っぽい格闘家姿を見て、シオンはホッと胸を撫でおろした。

いつもと変わらぬ2人に安心感を覚える。


シオンは状況を説明した。



====

シオン:

『ログインしたら、レベルが100くらい下がって、装備がショボくなってて』

====



女性僧侶ビジュアルのひまぽと、男性魔法使いの腹黒小学生もやってきて

話に入ってきた



====

ひまぽ:

『え。バグー?』


腹黒小学生:

『聞いたことないバグだな。なんか危なそうだし、今日はやめとくか?』

====



腹黒小学生の提案に、紫苑は考え込んだ。


チームメンバーのレベルは大体同じ。

自分だけレベルも装備も低いとなると、死ぬ確率が高い。

普通に考えれば、腹黒小学生の言う通り、バグが復旧するまで止めておいた方がいい。


しかし、今日の紫苑は1人になりたくなかった。

気持ちが落ち着くまで、みんなと一緒にいたい。



====

シオン:

『せっかくだから、一緒に行きます。危なかったらすぐ逃げさせて下さい』


腹黒小学生:

『了解。じゃあ、気にせず遠慮なく逃げて』

====



画面上で動くキャラクター達を見ながら、紫苑はホッと息を吐いた。


いつも通りのメンバーに、いつも通りの会話。

張り詰めた気持ちが緩んでくる。


紫苑は思った。

こうして普通にしていれば、きっと落ち着いてくるだろう、と。



――しかし、結論から言えば、彼の混乱は更に深まることになってしまった。





* * *





ゲーム開始から、1時間半後。


紫苑は、首を傾げながら画面上で行われる会話を見ていた。



====

腹黒小学生:

『シオン、レベルが100近く下がったって言ってたけど、上がったの間違いじゃないか?』


柚子胡椒:

『うんうん。すっごい上手くてびっくりしたよ!』


すみれ:

『お姉さんもびっくりよ。惚れ直しちゃったわ』


ひまぽ:

『表示は下がってるけど、実は上がってるとかー?』

====



『運が良かっただけだと思います』と、打ち込みながら、紫苑は頭を抱えた。


いや、違う。


俺が上手いんじゃなくて、みんなが下手過ぎるんだ。

技を出すタイミングも連携も、「どうしちゃったの?」というレベルだ。


何かがおかしい。

でも、何がおかしいか分からない。


そんな紫苑の混乱を他所に、画面上の会話は続く。



====

ひまぽ:

『運が良くてそこまでうまくなるなら、その運を分けて欲しいよー。

私、誕生日にいつもナンバーズ買うんだけど、1回も当たったことないんだよねー』


柚子胡椒:

『 (´・ω・)ナンバーズ?』


ひまぽ:

『そ。4つの数を選ぶギャンブル。去年は全部サイコロで決めたから、今年はアニメの主人公の誕生日にしようかと思ってー』

====



紫苑は固まった。


この会話、見覚えがあるし、結末も知ってる。

ひまぽは、この後、アニメ「ときめき学園ラブ」に登場する女子達の誕生日、0301と0819を買って、見事外すのだ。


そして、当たりナンバーは……。


紫苑は震える手で、キーボードを打ち込んだ。



====

シオン:

『良かったら、1126を買いませんか』


ひまぽ:

『いいけど、それ何の番号―?』


シオン:

『俺の誕生日です』


ひまぽ:

『wwwwそれ草生えるw いいよ。面白いから買うよー!』

=====



笑え過ぎる、と、盛り上がるチャット欄。


その会話を横目で見ながら、紫苑は必死に頭を働かせた。



・下がっているレベルとグレードダウンしている装備

・ゲームが下手くそなチームメンバー

・当たり番号が分かる宝くじ



ここから導き出される答えはーー、1つしかない。


紫苑は、ベッドの横で充電しているスマホを見た。

今日の日付を確認し、天を仰ぐ。


そして、深呼吸すると、ゆっくりとキーボードを打ち込んだ。



====

シオン:

『あの。突然なんですけど、今日って何年何月何日ですか?』


腹黒小学生:

『本当に突然だな……。今日は、2024年7月18日、だ』


柚子胡椒:

『2024年の7月18日だよ!』


すみれ:

『7月18日よ。令和6年だったかしら』 


ひまぽ:

『そだよー。令和6年7月18日―』

====



一斉に表示された回答。


それを見た紫苑は、椅子の背もたれにぐったりと寄り掛かって、呟いた。



「……そういうことか」



異世界に召喚されたのが、2025年7月18日。

今日の日付が、2024年7月18日。



つまり、紫苑は、召喚される1年前に戻ってきていたのだった。






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