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手術前夜「瑠璃の宝玉」

「僕を信じてみてくれませんか?」



「僕が"瑠璃の怪物"の運命を変えてみせます」



あの人は私にそう言った……



信じたい……



だけど……



「ルリアお嬢様朝でございます。起きてください」



マリーの声で目が覚める。



ああ……もう朝か。



重たい瞼を開き目を開ける。


もう外の光が部屋に入っている。



「おはよう。マリー」



「おはようございます。今濡れた布をお持ちしてきます」


マリーが濡れた布を渡してくれ

る。


濡れた布で泣いて腫れた目を冷やす。



冷たい……少しづつ腫れが引き瞼が軽くなる……


「あちらに朝食の用意があります」



「ありがとう。今行くわ」



テーブルに座り朝食を取り始める。



今日もトモヤ先生は見当たらない……



「マリー。トモヤ先生はどこに?」



「トモヤ様ならルイン様と鉄製品を扱ってるオーフェン商会に行っております。美容整形手術のための器具が必要だと。」



「そう……ありがとう。」



トモヤ先生は……



私を……



"瑠璃の怪物"の運命を変えてくれると言ってくれた。



数日前私は入水自殺を図った。



レンスター男爵との縁談が破談になりお父様に屋敷を追い出され、森の湖でもう死のうと……この生き地獄のような苦しみから解放されたいと入水自殺を図った。



どんどん水の中で息が苦しくなやっとこの"地獄"から解放されると安堵しながら意識を失った。



そして気がついたらトモヤ先生が私を助けていた……



最初はわけがわからなかった。



どうして私を助けたのか?



どうして死なせてくれなかったのか?



やっとお母様のところに行けるとそう思っていたのに……



トモヤ先生を憎んだ。



なぜ私を助けたのか。



なぜ「こんな世界」にまだ私を残したのか。



生まれて初めて人に自分の感情を醜くぶつけた。



ずっとずっと我慢していた受け入れているようで受け入れられていない感情をぶつけた。



産まれてたきたことが間違いだったと……




こんな醜い顔でもう生きていたくないと……



"瑠璃の怪物"としてこれ以上生きたくないと……



すべてトモヤ先生にぶつけた……



トモヤ先生は怒る訳でなくびっくりする訳でもなく失望する訳でもなく



私を抱きしめてくれた。



いつも同じ優しい目で優しい微笑みで



「大丈夫です」



「僕はこの世界のすべてを敵にしてでもあなたの味方でいます」



そう言ってくれた……



私はトモヤ先生の胸で泣いた。

見苦しく嗚咽をあげながらあの人に抱きしめられながら泣いた。



生まれて初めて"瑠璃の怪物"を受け入れてくれる人に出会った……



私がこの世界に存在してもいいのだと……



この世界のすべてに否定されている私の……"瑠璃の怪物"の味方でいてくれる。



嬉しかった。信じられなかった。



嬉しすぎて怖くなった。



だけど……トモヤ先生は私が泣き止むまでずっと抱きしめてくれていた



もう裏切られてもいい……



この人を信じよう……



そう思った。



それからトモヤ先生は「美容整形手術」のために治癒士のルイン叔父様に会いに行くために魔法都市シャリアに向かった。私は小屋のなかで1人でマリーとトモヤ先生の帰りを待った。とても怖かった。



本当はこんな私に呆れているのではないかと。二度と帰って来てくれないのではないかと。



見捨てられたのではないかという不安を感じながら小屋で一日を過ごした。トモヤ先生は帰ってきてくれた……マリーとルイン叔父様を連れて。久しぶりにルイン叔父に会った。トモヤ先生の美容整形手術を手伝うために帰って来てくれたのだ。



その後トモヤ先生と美容整形手術のお話をした。



お母様と同じ顔にはなれないと言われたときは本当にショックだった……



私にとって美しい女性とはお母様しか思い浮かばなかったし


なにより"瑠璃の女神"にずっと憧れて切望してきたから……



でもその後トモヤ先生は「私にしかなれない顔」を提案してくれた。



絵に書いて見せてくれた顔は本当に可愛い女の子の顔だった。



目が大きくてクリクリしていて鼻も小さくて細くて唇も薄くて可愛くてまるで物語に出てくるお姫様みたいだった。



トモヤ先生は「"瑠璃の女神"は確かに美しい。だけど美しさのすべてではない」



そして



「私が自分を愛せる顔になることはできる」と言ってくれた。



お母様は美しい。幼い頃から……物心ついたときから"瑠璃の女神"は本当に女神だと思っていた。何度も何度も数えきれないくらい鏡に写る自分を見て絶望して泣いたことだろう……




"瑠璃の女神"の顔になりたいと。




でも私は"瑠璃の女神"ではない……




私はお母様にはなれない……



"瑠璃の女神"という人間にはなれない。



そのとき思った。



私はお母様……



"瑠璃の女神"ことアリア・ハワードの人生にはなれない



そして



これはアリア・ハワードの人生ではない。




これは……



ルリア・ハワードの人生の物語。



私は「この物語の」主役なのだから。



だからお母様と同じ顔になるのを諦めてトモヤ先生が提案してくれた顔になることをお願いした。



トモヤ先生はいつもと同じ優しい笑顔でたくさん褒めてくれた。



そして次の日からトモヤ先生はルイン叔父様のお知り合いのお医者様に会いに行ったり忙しく出かけて美容整形手術のために必要なものを揃えるために頑張ってくれていた。



トモヤ先生は買い出しに行くだけでなくルイン叔父様と色んな話をしたり実験を繰り返していた。


もちろん私とも「カウンセリング」と呼ばれるものを私が後悔しないためのお話をたくさんした。トモヤ先生が頑張ってくれているのはわかっている。



私の……"瑠璃の怪物"の運命を変えてくれるために……頑張ってくれているのはわかっている。だけど初めて会った日からお喋りしていた時間は無くなった。これは私のわがままだ。あまりに図々しいとはわかっている。




だけど……もう少しだけあの頃みたいに……



寂しい……



「ルリア様。大丈夫ですか?」



トモヤ先生の声で我にかえる。そうだ今はカウンセリングの最中だった。



「大丈夫です。すいません」



「もしかして体調を崩されましたか?もし具合が良くないのでしたら1度休憩されますか?」



「いえ大丈夫です。お気を使わせてすいません。カウンセリングの続きをお願いします」



「……本当に大丈夫ですか?無理をしなくても大丈夫ですよ?」



「大丈夫です。すいません……」



「わかりました……では手術の説明の続きをしますね」



「はい。お願いします」



いけないいけない……考え事をしていてトモヤ先生のお話をちゃんと聞いていなかった。私のためのお話なんだからしっかり聞かないと……



「ではまず当日の手術の順番を説明しますね」



「最初に行う手術はまず口唇縮小術です。これは唇を薄くし上品にするためのものです。」



「2番目に行う手術は口元の手術です。ルリア様は口ゴボと呼ばれる口元が前に出ている状態です。ルリア様の口元は上顎と下顎が前に出ていて少し重めの状態です。ですので上下額骨分節骨切り術。セットバックとも呼ばれる手術を行います。」




「3番目は鼻の手術です。鼻の手術は複数の手術を行いますがルリア様に確認をしておきたいのですがこの鼻の手術にはルリア様の耳の後ろにある耳介軟骨と呼ばれるものが必要です。」



「もちろん耳の形がおかしくならないようにします。取った耳介軟骨を鼻の手術に使います」




「大丈夫でしょうか?」




「大丈夫です……」




「すいません……怖い話ばかりしてしまって。しかしルリア様にイメージでもいいので知ってもらう事ではあります」




「すいません……私は大丈夫です」




「わかりました……次は目の手術のお話をしますね」



「ルリア様は瞼の脂肪がとても多いです。ですのでまず瞼の脱脂を行い脂肪を取ります。次に二重形成を行います。ルリア様に見せた絵の通りの目にするためには目頭切開とタレ目形成と呼ばれるものを二重形成と同時に行います。簡単にいうと目の外側と内側を切って移動させます。」




「そして最後に脂肪注入です。ルリア様のお腹かお尻から取った脂肪をおでこと目の下に注入します。これは手術の前に脂肪を取っておき後から注入します。」




「当日の手術はこのような順番で行います。大丈夫でしょうか?」




……ほとんどわからなかった。

骨を切る?耳の部分を取って使う?

私の脂肪を取って注入する?

なにがなんだかわからない……




「すいません……説明が下手で……特にこの世界では美容整形手術は馴染みがありませんよね……」




しまった。顔に出ていたみたい……




「大丈夫です!」




「私はトモヤ先生を信じていますので……」




トモヤ先生は困ったようにすこし嬉しそうにしながら




「そうですね。ありがとうございます。今からもう1度手術後のルリア様のお顔を書くのでもう一度違和感やなりたくないところがあったら教えてください」




「はい。お願いします」




トモヤ先生が筆を持ってまた私の手術後の顔を書いてくれる……



理解できなくて失望されていないかな……



でも先程トモヤ先生が言った「この世界」とはどういうことだろう……




それからまた数日間トモヤ先生は忙しく手術の準備に走っていた。ルイン叔父様に何時間も紙に書きながら説明をして私に合うプレートを手に入れるためたくさんの商会を回って何種類もプレートを用意して私の顔に合うか試してみて。私の脂肪を使うために注射器と遠心分離機が必要だと設計図を書いて鍛冶屋に行き徹夜で指示しながら小屋に帰って来なかったりしていた。トモヤ先生はいつ休んでいるかもわからなかった。見る度に痩せてきてクマを作り食事も取る暇もないようだった。



また何度かカウンセリングをして手術後の注意点や絶食する時間などの説明をしてもらった。




そして手術前日の日が訪れた。




怖い……



本当に私はこの醜い顔から解放されるのだろうか……



もしかしたら手術が失敗して……



このまま一生醜い顔のまま今までと変わらない人生を……




それにトモヤ先生……





もしあれだけ私のために頑張ってくれてるのに可愛くなれなかったら……



トモヤ先生に失望されてしまうのではないか……



トモヤ先生は「この世界」と言っ

た。



もし……



私が可愛くなれなかったら……



手術が成功しなかったら……



トモヤ先生が思っていたような顔になれなかったら……



トモヤ先生は「この世界」から居なくなってしまうのだろうか……



"瑠璃の怪物"でなんか居たくない。



ずっとずっと思ってきたことだ。



誰にも、マリーにすら言わなかった。言えなかった。



「可愛くなりたい……」




何度も何度も数えきれないくらい願ってきたことだ。



もう鏡を見て自分の顔に絶望したくない。



可愛い女の子を見て惨めに思いたくない。



1度だけでもいい可愛い女の子になりたい。



自分を愛することができる顔になりたい。



なんの疑問も思わないで笑って過ごしてみたい。



他の女の子が着てる服を着てお洒落を楽しんでみたい。



お化粧も覚えたい。




今まで諦めてきたこと全てをしてみたい。



でも……



でも知ってしまったの。




「こんな地獄のような世界」で唯一私を見てくれた。




"瑠璃の怪物"ではなく醜い顔をした女の子ではなくただの女の子として……



どんな私でも褒めてくれた。




優しい笑顔で毎日頭を撫でながら褒めてくれた。




「この世界のすべて」を敵にしてでも私の味方でいてくれると言ってくれた。





この人と離れたくない。




そんな未来は想像したくない……





トモヤ先生に対する自分の気持ちを。






























「トモヤ先生よ、これでいいのか?」



「はい。大丈夫です、ありがとうございます」



今日はルインさんと鍛冶屋に頼んでいた注射器と遠心分離機を受け取りにきた。注射器は針を細くするために特注のものを頼んだ。遠心分離機は蜂蜜用に使われている遠心分離機を改良して作ってもらった。この時代では遠心分離機も注射器もなかった。だからわざわざ設計図を書いて何度も打ち合わせをして出来上がったものを試しながらようやく手術に使えるものができた。



「しかしその遠心分離機というものはなんなんだ?」



「これは脂肪注入を行うために使うものです。ルリア様のお顔に立体感を出すために必要なものです」



「そのまま取った脂肪では駄目なのか?」



「そのままの状態でも使えますが注入した組織が壊死し、硬くなり、注入箇所にしこりができるなどの問題点が出てきます。遠心分離機で無駄なモノを省く必要があります」




「脂肪の定着率も大きく変わってきます」



「そうか。まあルリアのためになることならなんでもいいさ」



「はい。先程実験をしましたが手動でも十分使えそうです」



「他に必要なものはどうだ?」



「メスも鉗子も何種類も用意出来ましたし、切れ味も強度も大丈夫です」



手術着もゴム製の手袋も縫合に使う糸も手術に使える明るさのランプも手に入れた。



「手術に必要なものはすべて揃いました」



「なら早くしないとな。ハワードの糞野郎がいつ嗅ぎつけてるくるかわからん」



「ええ、もう一度ルリア様に説明を行い、納得して頂けたらすぐに手術の準備を始めます」




「ああ。それがいい。しかし美容整形ってのは一日でそんなに手術するものなのか?」




「いえ……普通は数ヶ月おきに様子を見ながら行うものです。特にルリア様は顎の骨を切る手術があるので年単位で様子を見てもおかしくありません……」



本当は一日でこれだけの手術をするなんか馬鹿げている……

普通ならもっと慎重に行うのが普通だ……


だけどダウンタイムやルリア様を憎んでいるハワード卿に見つかったときを考えると時間がない。



「……大丈夫なのか?ルリアは」



「全力を尽くします……」



もう言い訳はしないとあのときルリア様を湖で助けたときに誓った。




ルリア様は……



もし僕が「この世界」に居なかったらあのまま死んでいた。




僕がこの世界に来たことによって



ルリア様の「運命」は大きく変わってしまった……



なら……


僕はルリア様の運命を変えてしまった責任を取らなくてはいけない。



こんな「糞ったれな世界」に



あの子をまだ残してしまった責任を。




「必ず手術を成功させてルリア様の運命を変えてみせます」




「……頼んだぞ。俺も治癒士として最大限協力するがルリアの運命を変えることができるのは……」





「この世界であんただけだ……トモヤ先生」










手術の日が明日に迫った。






「ルリア様申し訳ありませんが手術のために今の時間から絶食をお願いします」



「わかりました」



「お水はまだ数時間飲んでいいのでよろしくお願いします」



この世界では全身麻酔ではなくルインさんの魔法で地球と同じ麻酔の効果を出すけどやっぱり肺炎を起こす可能性や気道に詰まる可能性がある。ここは絶食をお願いしたほうが安全だ。




「トモヤ先生、ルリアお嬢様はなにも食べては駄目なのですか?ルリアお嬢様が可愛そうです」



「申し訳ありませんが胃に食べ物が入っていると手術中に危険な状態を起こす可能性があります。手術中はルインさんが居ますが万が一の可能性も捨てて置かなくてはいけません」



「しかし……」



「大丈夫よ、マリー。トモヤ先生のいう通りにするわ」



「ルリアお嬢様……」



「トモヤ先生を困らせては駄目よ。こんなにも……私のために……頑張ってくれてるのだから」



「ありがとうございます……僕は明日の手術のためにルインさんともう1度話してきますね」



ルインさんと明日の手術のために最悪の事態を考えたときのマニュアルを決めておく。




「もしこのような手術の最中に出血が止まらなくなったりルリア様が危篤状態になったら手術を中断するのでハイヒールをお願いします」



「わかった。しかし前にも説明したがハイヒールを行うと俺は気絶してしまう。ハワードのクソ野郎のことを考えると手術は明日1回きりだな。」



「はい。もしハワード卿に見つかったらルリア様は屋敷に幽閉されてまた酷い折檻をされ、ルリア様に"非人道的なことをした"僕は憲兵に突き出されて牢屋行きでしょう」



「ああ。いくらルリアが厄介者の娘だとしても子爵の1人娘だ。そのルリアが失踪したとしたなら貴族社会での立場は無くなるしハワードの豚野郎が大金を払って手に入れた貴族の爵位も1代限りだ」



「どんなことをしてでもルリアを取り戻そうとするだろ。そしてトモヤ先生、あんたは死刑だ。子爵の1人娘の顔を切り刻んだ罪でな」



そうだ。もしハワード卿に見つかったらルリア様は連れて帰られる。いくら感情的に屋敷を追い出したとしても権力を家名を維持するためにはルリア様の存在が必要だ。そして僕は子爵家の跡取り娘を誘拐し顔を切り刻んだ罪で死刑になるだろう。



すべて覚悟していたことだ。あのときルリア様を救ってみせると……



あの湖で……


この世界でルリア様に……



"美容整形手術"をするときめたときに覚悟した。




「すべて覚悟の上です」




「……絶対に成功させるぞ。俺はルリアに普通の少女のように生きて欲しい。ハワードのクソ野郎にまた苦しめられるルリアはもう見たくない」




「それにトモヤ先生。俺はあんたに死んで欲しくない」




「ありがとうございます……必ず手術を成功させましょう」









ルインさんとの話が終わり、僕はもうひとつのベッドを借りて眠った。寝不足で手術を失敗させる訳には行かない。どれくらい眠っただろう。


ふと目が覚めて周りを見渡すともう真夜中になっていた。早朝から手術だ、もう少し眠ったほうがいいだろう。もうひと眠りしようとしたところでルリア様が見当たらないことに気づいた。小屋の中はルインさんとマリーさんが眠っているのがわかるがいつもルリア様が眠っているベッドにルリア様の姿が見当たらない……



「どこに向かったのだろう?」



もしかしてトイレかもしれない……

下手に探さないほうがいいかもしれない。しかしルリア様はここ数日手術が近づくにつれて表面上には見えないようにしていたが少しづつ元気がないように思っていた。




嫌な予感がする……



僕は上着を羽織り小屋を出て森の中にルリア様を探しにでた。森を歩き湖の周りで座っているルリア様を見つけた。



ルリア様と初めて会った湖だ。



よかった。そこにいたのか……




ルリア様にゆっくり近づき




「ルリア様。寝れませんか?」



ルリア様は少しびっくりしたように振り返り申し訳なさそうに



「すいません……小屋を抜け出して……」



「いえ大丈夫ですよ。すぐに見つかりましたから」


ルリア様の隣に座り自分の上着をルリア様にかける。



「ルリア様、夜は冷えますのでこれを羽織ってください」



「ありがとうございます……」



2人とも黙りながら湖の水面に写る月を眺める。今日は綺麗な満月だなぁ……




「トモヤ先生は私を見つけるのが上手ですね……」




「そうですかね?そんなことはないと思いますが……」




「そうですよ。今回だけじゃありません……あのときも私を見つけてくださいました……」




あのとき……ルリア様が湖で入水自殺未遂をしたときか……




「ルリア様は見つけやすいのですよ。綺麗なブロンドの髪をしていらっしゃいますからね。」



「ありがとうございます……でも私が言いたいのはそういうことではありません」




「こんな……こんなにも酷い世界で私を見つけてくれたことです……」



「もしトモヤ先生が見つけてくれなかったら私は……」



ルリア様はそう言ってまた黙る。




「ルリア様。手術が怖いですか?」



「怖いです……もし失敗したらと……一生"瑠璃の怪物"のままかと考えると怖くて仕方ないです……」




「そうですよね……怖いですよね。ルリア様はとても苦労なさってきましたから……」




「すいません……トモヤ先生に失礼ですよね……」




「いえ。患者さんの不安を解消するのは医者の務めです。ルリア様にそう思わせてしまうのは僕が医者として未熟だからです」



「そんな事はありません……」



「ただ色々考えてしまうのです……もしこのお母様譲りの蒼く光る瑠璃色の瞳ではなかったら……もう少し違う人生だったのかと……」



「こんな蒼く光る目ではなかったらこんなに不気味な怪物扱いはされなかったのではないかと……」




「ただの醜い女の子で済んだのではないかと……」




「"瑠璃の怪物"と呼ばれる人生ではなかったのではないかと……」



ルリア様はアリア様譲りの蒼く光る瑠璃色の瞳を憎んでいる……


ルリア様の目から光る瑠璃色の瞳。


今まで数えきれないくらい傷つけられてきたのだろう。


何度も何度も自分の瑠璃の瞳を憎んできたのだろう……






「ルリア様」




「僕の居た国では瑠璃の宝玉についてこんなことわざがあります」




「瑠璃も玻璃も照らせば光る」




「優れた才能や素質を持つ人はどこに居ても眩しい光を照らしている」




「僕は周りの人間が不気味に思うルリア様の蒼く光る瞳はなにもよりも美しい"光"だと思っています」




「トモヤ先生はお世話が上手ですよね……」




「こんな不気味な瞳がそんな……」




「もうひとつ瑠璃についてことわざがあります」




「瑠璃の光も磨きがら」





「僕の大好きな言葉です」






「瑠璃が美しいのは磨くからであり、才能が素質があっても磨く努力をしなければ美しい光は手に入らない」





「ただし1度磨けばその原石はなによりも美しい独創的な光を放つ瑠璃の宝玉になる」




「僕はそう解釈しています」




「………」




「瑠璃の宝玉というのは蒼色だけではありません。赤色・緑色・紺色・紫色もありますよ?」




「えっ?」




「瑠璃というのはひとつの色の美しさを表しているわけではありません」




「瑠璃は磨けば磨くほど何色にでも光り輝く美しい宝玉となるのです」




「僕はルリア様は瑠璃の原石であり、なによりも美しい光を放つ瑠璃の宝玉になれる女の子だと信じています」




「……本当にそう思いますか?」




ルリア様と顔を合わせ優しく微笑む






「僕はルリア様に初めて出逢ったときからそう思っていますよ?」




「……もうひとつ怖いことがあります」



「なんですか?」




「もし……手術が上手くいかなかったら……"瑠璃の怪物"のままだったら……」




「トモヤ先生はこの世界から居なくなりますか?」





「もう……私の傍には居てくれなくなりますか?」




「トモヤ先生が居なくなったら私はまたこの世界で1人です……」




「ルリア様。こっちに来てください」



ルリア様をまた優しく抱き締める。




あのときのように。




胸の中にいるルリア様にゆっくりと語りかける。




「僕はルリア様から離れたりしませんよ?」




「大丈夫です。ずっとあなたの傍に居ます」




胸の中にいるルリア様が震えながら聞いてくる。




「本当ですか?本当に……私の前から居なくなったりしませんか?」




「僕はずっとルリア様の傍に居たいと思っています」




「ご迷惑じゃなければですが……」




「迷惑じゃないです……迷惑なわけありません……」




「それは良かった。光栄です」




ルリア様が震える手で僕を抱きしめ返す。




「トモヤ先生ひとつお願いがあります」



「なんですか?」



「もし手術が上手くいったらひとつだけ……ひとつだけお願いを聞いてくれませんか?」




「わかりました。約束しますね」




「ありがとうございます……約束ですよ?」





「はい。ルリア様と僕の2人だけの約束ですね」





ルリア様がまた今度は力を込めて僕に抱きついてくる。



僕はルリア様の頭を優しく撫でながらあのとき誓った想いを。


もう一度胸の中にいるルリア様に誓う。






「この子の"運命"を変えてみせる」









手術の朝がやってきた。





「ルリア様これから手術を行います」





「大丈夫ですか?」





「大丈夫です。私も運命を変えるために戦います」






「一緒に運命と戦いましょう。全力を尽くします」





手術台に乗ったルリア様にルインさんが魔法をかけてルリア様が全身麻酔の状態になった。





「ではルインさん。これからルリア様の手術を始めます」





「よろしくお願いします」





「頼むぜ。トモヤ先生」





手術台で眠っているルリア様を見つめる。




必ず……




なによりも美しく光り輝く瑠璃の宝玉にしてみます。






ルリア様。

































「手術を開始します」


























































































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