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「怪物のカウンセリング」

「起きてくださいトモヤ先生」


「馬車の時間に間に合わくなります」


マリーさんの声で目が覚める。ああそうか、昨日はルインさんの診療所に泊まったんだ。


「おはようございます。」


「はい、おはようございます。」


「そこのテーブルにパンと水があります。早く食べてください」


「ありがとうございます。」


マリーさんに朝食を促されテーブルに座る。

いつもマリーさんに起こして貰って朝食も用意してもらってるなぁ……申し訳ない。


パンを食べながら周りを見渡すとルインさんが居ない。どこに行ったのだろう?


「マリーさん、ルインさんはどちらに?」


「ルイン様なら街に出掛けてます。

魔力が切れたときのためのポーションが必要だと。」


「ポーション?ポーションとはなんですか?」


「ポーションとは一時的に魔力を増やすことができる薬です。魔法で治療する治癒士にとって大切なものです。ルイン様は高位の治癒士であるから魔力が一般の治癒士に比べてかなり多いですが昨晩トモヤ先生と話されてポーションが必要だと朝早くから知り合いの所に行かれました。」


「そうですか、わかりました。」


そうか……ルインさんはわざわざ魔力切れのためにポーションを取りに行ってくれてるのか……申し訳ない……

だけどこれで麻酔が途中で切れる心配は減りそうだ。後で魔法を使える時間についてルインさんと相談しよう。


朝食が取り終わる頃にルインさんが帰ってきた。


「おう、起きたかトモヤ先生」


「おはようございます、ルインさん」


「すいません……わざわざポーションを取りに行ってもらって……」


「気にするな。ルリアのためだ。それにポーションがあると魔力の持続時間だけでなくやれることも増える」


「やれる事が増える?どういうことですか?」


「それは馬車の中でで説明する。そろそろラーラン行きの馬車が出るぞ。準備できたなら行くぞ。」


「わかりました。」


すぐに準備を済まし、マリーさん、ルインさんと診療所を出る。

3人で馬車駅に向かう。まだ朝霧があるようで少し街並みがわかりにくい……


「早くラーランに戻らないと。ルリアお嬢様の怪我が悪化しているかも知れません」


「ええ、早く戻りましょう」


「ルリアは怪我をしているのか?」


「縁談が破談になりハワード卿に殴られて顔と体が腫れています」


「あのハゲタヌキが……いつか絶対にぶん殴ってやる」


「同感です」


馬車駅に着いた。早速ラーラン行きの馬車に3人乗り込む。僕達3人だけのようだ、集中してルインさんと話が出来る。


「今からの時間に乗るならラーランには夕方までには着くだろう」


「さてトモヤ先生治癒魔法について話をしようか。」


「はい。お願いします」


「大きくわけて俺が使える治癒魔法は2つだ。1つ目はヒールと呼ばれる治癒魔法だ。これは出血や化膿、骨折などが当てはまる。2つ目はポイズンヒールと呼ばれる毒や状態異常のときに使う治癒魔法だ。毒や薬の副作用、痛みを短時間だが抑える、そして食中毒なども当てはまる。」


「なるほど。患者の状態によって使いわけるのですね。」


「ああ、そうだ。もちろんお前さんが言っていたように一定時間意識を失わせて眠らせることもできる。元々これは治癒に使うものでなく痛みで暴れる患者や錯乱状態で興奮してこちらに危害を加えようとするときに使う。補助的なものだな。」


「それは素晴らしいです。治療に集中することができる。」


「おう。元々そんなに使う機会はないが高位の治癒士は重い毒の解毒や錯乱状態の患者に対応できる治癒士だ。だからあんたの心配事は対応できると思う。」


「ありがとうございます……」


ルインさんの言う通りなら手術中の心配事はだいぶ減ってくる。


これなら……


「そして3つ目だ。さっき俺がポーションを取りに行っただろ?ポーションは魔力が切れて治癒できなくなるときに魔力を補給して使うものだがもうひとつ違う使い道がある。」


「違う使い道ですか?」


「ああ。俺はポーションもだがハイポーションを手に入れるために知り合いの薬屋でハイポーションを買ってきた。」


「ハイポーションを大量に飲むとハイヒールと呼ばれるヒールの上位魔法ができる。ハイヒールは出血が激しく重体の患者や危篤状態の患者も一気に治癒できる。ちぎれた腕なども生やせることができる。最強の治癒魔法だ。」


「そんなことが……」


すごい。本当にそんなことができるなら最悪の事態は回避できる……


「だがハイポーションを飲み、ハイヒールを使うことには問題がある」


「ハイポーションを飲み、ハイヒールを使うと体にある魔力がすべて使われ気絶してしまう。気絶すると治癒の続きができなくなり、患者の状態を管理できん。だからハイヒールを使うときは複数の治癒士で患者を治療する。」


「ハイポーションの副作用だ。これは高位治癒士でもどうにもならん」


「副作用で気絶を……」


「まあ普通のポーションなら副作用がないから単純に魔力が切れるだけなら飲めばいいだけだから問題はない。せいぜいハイヒールを使わないようにしてくれよ。」



「頑張ります……」


そうか……


もしそんな状態になってしまったらルリア様の安全が保証できない…

手術を途中で辞める訳にはいかないのだから。


気を引き締めなおす。


「さて次はルリアの顔をどうやって具体的に美しくするか教えてくれ」


「刃物で顔を切るといってもまったくイメージできん。」


「わかりました。まず鼻や目の手術の違いや術式を説明します」



………



「トモヤ先生、ルイン様。もうすぐラーラン着きます。」


「えっもうですか」


ルインさんとずっと術式の話や治癒魔法をどうやって扱いながら手術を進めていくのか、術後の管理について二人で相談しあいながら話しているともうラーランに着いたようだ。


「首都ラーランです。ご乗車ありがとうございました。」


3人で馬車を降り、ルリア様が待っている小屋へ向かう。


「早くルリア様の元に向かわないと」


もう陽が暮れかけている。急がないと。


街を出て暗くなってきた森を抜け小屋に着いた。


小屋のドアをノックする


「ルリア様、智也です。今帰って来ました」




数回ノックするとドアが開き、ルリア様が迎えてくれた。小屋の中に入る。



「お帰りなさい、トモヤ先生。ご無事で良かったです」


「ありがとうございます。ルリア様」


「ルリアお嬢様、ただいま戻ってまいりました。体調の方はいかがでしょうか?」


「大丈夫よ、熱も出ていないわ。」


「久しぶりだな、ルリア。怪我をした場所を見せてみろ」


「もしかして……ルイン叔父様ですか?」


「ああ。約10年振りか……大きくなったなルリア」


「お久しぶりです……ルイン叔父様」


ルリア様とルインさんが再会を果たし互いに挨拶をする。ルインさんがルリア様をベッドに座らし治療を始めた。


「ルリア、少し顔に手を触れるぞ」


「はい」


ルインさんはルリア様の顔に手を触れ


「ヒール」


治癒魔法を唱えた。


淡い光がルリア様の顔にかかり、

みるみるうちに殴られた顔の腫れと内出血が治っていく。


これが治癒魔法か……


すごい……本当に魔法のようだ……


ルインさんは顔の治癒を終わらせ

次に蹴られた体の治療を済ましルリア様の治療は終わった。


「ルリアどうだ?もう痛むところはないか?」


「大丈夫です。もう痛みも腫れもありません。ありがとうございますルイン叔父様」


「そうか。良かった」


ルインさんがルリア様に優しい顔で笑いかける。ルインさんは久しぶりにルリア様に会えてとても嬉しそうだ……


「食事の用意が出来ました」


「3人ともテーブルに来てください」


ルインさんがルリア様を治療している間にマリーさんが夕食の用意をしていてくれた。4人でテーブルに座り夕食をとる。


「ルリアお嬢様、ちゃんと食事は取られていましたか?」


「マリーが用意していてくれたパンとチーズを食べていたわ。ありがとう。」


「そうですか、それなら良かったです。これだけルリアお嬢様と離れていた時間は今まで無かったので心配で心配で」


「心配しすぎよマリー。私はもう16歳よ。でも嬉しい……ありがとう」


今までずっとルリアお嬢様を守るために傍にいた。マリーさんしか傍に居てくれなかったルリア様。今まで二人が離れている時間は僅かだったはずだ。この小屋がハワード卿に見つかるかも知れないし平静を装っていたけど内心ではずっと心配していたと思う。


今まで黙ってルリア様とマリーさんの会話を見守っていた

ルインさんが覚悟をした様子でルリア様に話しかける


「ルリア、俺はトモヤ先生の美容整形手術を手伝うためにラーランに帰ってきた」


「お前を見捨てた俺を憎んでいると思う……お前を救うために帰ってきたと言っても信じれるかわからんが……」


「本気でルリア。お前を救いたいと思っている」



「ルイン叔父様が私を見捨てたのでは無く私のために屋敷から居なくなったのはわかっています。」


「それにいつか1人で生きていけるようにと毎月お金を贈って貰っているのと毎年お父様にわからないように匿名で誕生日プレゼントを贈って貰っていたのはマリーから聞いています」


「すべて私のためだとわかっています。また……会えて嬉しいですルイン叔父様」


「そうか……そう言ってくれるか……」


「ずっとずっとお前に会いたかった……本当に大きくなったなルリア」



ルインさんが涙ぐみながらルリア様と話している。やっぱりこの人は誤解されやすいけど悪い人じゃないなぁ……



よし僕もルリア様に今後の予定を伝えないと。


「ルリア様、美容整形手術をするについて話したいことがあります」


「夕食が終わったらお時間を頂けますか?」



「わかりました。お願いします、トモヤ先生」



「はい、一緒に頑張りましょう」




夕食が終わり、ルリア様のカウンセリングをする。ルリア様と対面に座り話さなければいけないことがある。



「ルリア様、辛いでしょうがルリア様の顔をしっかり見させてもらいます」



「もし途中で耐えられなくなったら言ってくださいね」



「お願いします」



ルリア様がフードを取り、ルリア様の顔をよく観察する。



ルリア様の顔はかなり脂肪が多い一重の目だ。


目が細くつり目で蒙古癖も多い。


鼻は鼻根が無く低く鼻が短く小鼻が広がり鼻筋もほとんどない。


中顔面の発達が弱い印象だ。


口元が少し前に出ていてもこっとしており顎が歪んでいる。


口元の歪みのせいで唇も歪みそして分厚い。


「ルリア様、口を開けて見せて貰えますか?」


ルリア様の歯並びを見る、歯並びは綺麗だし歯茎が見えるガミースマイルではない。


「ルリア様を横顔を見せてください」


ルリア様に横顔を見せてもらう


少しエラが張っており、口元が前に出ており顎がやはり歪み綺麗なEラインではない。



おそらくルリア様はパーツが父親であるハワード卿に似ているのだと思う。しかし思っていた以上に施術の種類が多くなりそうだ……




ルリア様の顔をカウンセリングしながら考えていると




「あの……やはり私の顔は駄目ですか?」




ルリア様が不安そうに尋ねてくる




「いいえ、そんな事はありませんよ」




「ルリア様はなりたい理想の顔やイメージしている顔などはありますか?」




そう尋ねるとルリア様は俯きながら




「もし……出来ることならお母様と同じ顔になりたいです……」




やはりアリア様と同じ顔を望まれているか……




「なにかアリア様の顔がよくわかるものはありますか?出来れば参考にしたいです。」




「小さくてわかりにくいですがこれを」




ルリア様が付けていたペンダントを外し渡してくれた。中に小さなアリア様の肖像画が入っている。




「ありがとうございます」



ルリア様からペンダントを受け取りアリア様の肖像画を見る。



アリア様の顔立ちはコーカソイドの骨格で目は蒙古癖が無く涙丘がよく見え二重幅が広めの並行二重だ。


鼻根があり鼻筋が細く通っており小鼻も小さく鼻先が尖っている。

中顔面が発達しているし唇も薄く口元が綺麗だ。

少しエラがあるけど輪郭はシャープで気品のある印象が強い。

ハリウッドスターのような欧米人の美人だ。



なるほど。



"瑠璃の女神"とはよく言ったものだ。




「ありがとうございます。しっかり見させて貰いました」



ペンダントをルリア様に返しお礼を言う。




「はい……それであの……」




「申し訳ありませんがアリア様の顔にはルリア様はなれません……」




「美容整形というのは魔法ではなく限界もあるのです……」




「そう……ですか……」




ルリア様が俯きながら落胆している。




当たり前だ……




ずっとアリア様と比較され続けきたんだ……




毎日毎日アリア様の顔になりたいと願ってきたのだろう……




「わがままを言ってすいません……こんな醜い顔なのに……」




今にも泣き出しそうだ……




「ルリア様。アリア様と同じ顔にはなれませんがルリア様にしかなれない美しく可愛い顔にはなれますよ」




「お世辞はいいです……気を使わせて申し訳ありません……」




「そんな事ありませんよ。紙と筆を貸して頂けますか?」




紙と筆を借りルリア様にわかるようにルリア様とアリア様の違いをデッサンをする




「まずルリア様とアリア様では骨格の形が違います」





アリア様はコーカソイド形の骨格でありルリア様はコーカソイド気味ではあるがモンゴロイドの要素もある





「そして次にパーツの配置、目や鼻と口の位置ですね」





アリア様は西洋人の美人にあるような面長で求人顔気味で気品のある顔立ちだ。





「ルリア様は輪郭が卵形で遠心顔ですね。パーツの配置的に美しいよりも可愛らしい印象になると思います」




そしてなによりも




「ルリア様は骨格が小さく顔の余白も少なくパーツの配置が素晴らしいです。これならすべての美容整形手術をしたらこういう風な顔になると思います」




整形後のシミュレーションをデッサンした絵を渡す




「こんな……私はこんな可愛い顔になれるのですか?」




すべての整形手術を終わらした後のルリア様の顔は目は蒙古癖を取りきらず少し涙丘が見え幅がほんの少し広めの並行二重でタレ目。鼻は鼻根が出て鼻筋が細く通り小鼻も小さく自然な忘れ鼻だ。エラは少しだけ残している。



口元は後ろに下がり人中も短く唇を薄くし、顎が出ている。




「横顔はこんな感じになりますね」




横顔を書いた紙を渡す




「魔法みたい……」




横顔は頬骨が出ておらず口元のもっこり感が無くなり中顔面が発達してEラインも綺麗なのがわかる。





「ルリア様……美容整形というものはなりたい顔になれる限界があります」




「望み通りの顔になれるわけではありません」




「アリア様のお顔はとても美しいです。しかしアリア様のお顔が美しい顔のすべてではありません。」



「アリア様のお顔になりたい気持ちはわかります。だけどルリア様が"自分を愛せる"顔になれると思います」



整形後のシミュレーションの絵を見続けているルリア様に語りかける




しばらく黙っていたルリア様が顔を上げ



「私はこの顔になりたいです。お願いしますトモヤ先生。」



「もしお母様と同じ顔になれたとしても私は"瑠璃の女神"ではありません。私は……」



「私自身を愛して生きる人生の主役になりたいです」




ルリア様が決心したように訴える




「わかりました。全力を尽くします。」




「よく頑張りました。やっぱりルリア様はすごい女の子です。」




「よく受け入れて前に進もうとしましたね。」




ルリア様の頭を撫でながらルリア様を褒める。もっといくらでも褒めてあげたい。



「全力を尽くします。絶対にルリア様を世界一魅力的な女の子にしてみます」



「ありがとうございます……トモヤ先生……」



ルリア様をやさしく撫でる。本当は辛いだろう……受け入れたくない現実をよく受け入れた。やっぱりこの子は凄い子だ……



心の中でもルリア様を褒め続けていると


「おい。人の姪に気安く触るな。」



「俺はお前たちの関係を許した訳じゃねえ!」


ルイン様が近くにきて怒った。



「まったくこの少女趣味が!話は終わったのか?」


「僕は少女趣味ではありません!ええ、今ルリア様に説明をして納得して頂きました。」


「なら早くルリアの頭から手を離せ!これから手術に必要なものを言え。」


「俺とマリーで調達してくる」



「わかりました。今必要なものを髪に書いて渡します」


……


「かなり必要なものがあるのだな……」


「すべて必要なものです。」


メス、鉗子、ハサミ、縫う糸、注入用の注射機、固定するプレート、その他諸々を書いた紙を渡す。



「用意出来ますか?」


「俺は治癒士だから医者とも繋がりがある。用意はできるが、細かい表現はお前が一緒についてきて説明しろ。」


「明日知り合いの医者のところにいく」


「わかりました。お願いします」



手術の用意は出来そうだ……



「ではルリア様。手術の用意ができる次第またルリア様と手術の打ち合わせをします。大丈夫ですか?」



「大丈夫です。お願いします」



「一緒に頑張りましょう」




次の日からルインさんの知り合いの医者のところに行き、手術に必要な器具を手に入れプレートなども鉄をあつかう商会に行き手に入れた。

手術をする場所も知り合いの方の診療所を貸してもらえるようになった。



それから数日間ルイン様と手術の段取りや予定している時間を超えた場合に魔力がどれだけ使えるか、ポーションはどれほど効果があるのかを実験した。



もちろんその間にルリア様とは何度もカウンセリングの打ち合わせを行い、後悔なく納得して貰えるように説明を繰り返した。



そしていよいよ手術の前日になった




しかし手術の日にちが近づくにつれてルリア様は少しずつ元気が無くなっている……



これは……









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