「瑠璃の女神の兄」
とりあえず3人でテーブルに座り、飲み物を注文する
対面に座るルインさんを見る
ルインさんは歳は30過ぎだろうか……
ルリア様やアリア様と同じブロンドの髪で同じ瑠璃色の蒼い瞳だ
少し無精髭があるけど美青年という言葉がふさわしい
長いブロンドの髪を後ろにくくっている
「で、マリーなんでシャリアにいるんだ?」
「あなたにラーランに来てもらうために迎えにきました」
「は?なんで俺がラーランに?」
「そこに居るトモヤ先生がルリアお嬢様に美容整形をするために治癒士が必要だと」
ルインさんが僕を見る
「美容整形?誰だお前は?」
「初めまして、ルインさん」
「私はルリア様の医者である立花智也です」
「医者?ルリアの?」
「はい、ルリア様に美容整形をするために治癒士が必要なんです」
「ちょっと待て、なんだその美容整形ってのは?」
「簡単にいうと人の顔を美しく変えることです」
「は?おいマリー、なんだよこいつ」
「頭おかしいぞ変な服来てるし」
うん。口が悪いぞこの人
どうやって説明したらいいものか……
「ルリアお嬢様が屋敷を追い出されました」
「は?」
「縁談が破談になり旦那様に屋敷を追い出されたのです」
「そしてルリアお嬢様は自殺を図りました」
「なんだよそれ……」
「そしてそこのトモヤ先生がルリアお嬢様を助けたのです」
「トモヤ先生はルリアお嬢様に約束しました、"瑠璃の怪物"の運命を変えてみせると」
「……よくわからんがルリアを救ったんだな?」
ルインさんが残っていた酒を一気に飲み干し
「とりあえずここを出るぞ、こんな酒場で話す話じゃなさそうだ」
「俺の診療所へ行こう、そこで話を聞く」
ルインさんが席を立ち着いていく
酒場を出てルインさんの診療所へ向かう
誰も喋らない……静かに三人とも歩く
「ここが俺の診療所だ」
先程マリーさんが案内してくれた診療所に着いた
「ちょっと待て、鍵を開ける」
ガチャガチャッガラッ
「いいぞ、入れ」
「お邪魔します」
「今室内ランプをつける」
ランプがつき、明かりができる
ルインさんの診療所は広くなくベッドと机と椅子がある
町医者の診察室みたいなもんだな
「お前、酒はやるか?」
「いえ、大丈夫です」
「そうか、マリーとルリアの先生そこの椅子に座ってくれ」
「はい、わかりました」
ルインさんに促され椅子にマリーさんと座る。
「じゃあルリアについて教えてくれ」
……
「そうか、わかった」
ルインさんにルリア様が縁談が破談になりハワード卿に屋敷を追い出されたこと、入水自殺を図ったこと
自殺を図ったルリア様を助けたこと
僕がルリア様の運命を変えると約束したこと、すべて話した
「しかし、俺は治癒士を長年やっているが美容整形なんか聞いたことねえぞ」
「ルリアの先生さんよお前どこの国から来たんだ?」
ルインさんが僕を疑っている
それはそうだ。僕は医者であると説明したが「美容整形医」という医者はこの世界に存在していない。
なんて答えるべきか……
「ルイン様、トモヤ先生は遠い国からララノア王国にやってきて強盗にあわれたのです。そのときの後遺症で以前の記憶が曖昧なのです」
「強盗にあった?」
「はい、トモヤ先生は強盗にあわれ庭の森に居るところをルリアお嬢様が保護しました」
「おいおい、もっと怪しくなってきたじゃねーかこいつ」
「確かに怪しい、出自が不透明なところはあります。しかしルリアお嬢様のためにあなたに会いにくる人は今までいましたか?ルリアお嬢様を助けるためにこのトモヤ先生はわざわざラーランから馬車に乗り、1日かけて顔も知らないあなたに会いに来たのです」
「どうかトモヤ先生のお話を聞いてあげてください」
マリーさんがルインさんにそう言ってくれる。僕が話すよりよっぽど話を聞いてくれるはずだ……有難い
ルインさんは腕を組み難しい顔をしながら
「わかった、ルリアの先生の話を聞こう」
よかった。これで美容整形についての話ができる
「俺たちは話をするからマリー、お前はもう寝ろ」
「奥に寝室がある」
「いえ、私もお話を聞きます」
「マリー、お前はもう高齢だ。ラーランから馬車に乗り長い距離も歩いただろう。お前が体調を壊すとルリアが悲しむぞ」
「……わかりました。では先に休ませてもらいます」
「ああしっかり休め」
「ではトモヤ様、後はお願いします。」
「わかりました」
マリーさんが診察室を出て、奥の寝室に向かう
「マリーは俺が産まれたときから世話をしてくれた乳母だ。いまだに頭が上がらん」
「さてトモヤ先生、ルリアにしようとしている美容整形手術というものを教えてくれ」
「わかりました」
……
「なんと……顔を美しくできる医術か」
「しかし、そんな刃物で顔を切り刻んで大丈夫なのか?」
「だからこそルインさんあなたに会いに来たのです」
「俺に?」
「この手術をするには治癒士の方の協力が必要不可欠です」
「治癒士が行えることを教えてください」
「治癒士ができること?」
「はい、まず手術をするには1時的に意識を失わせ眠らせます。起きていたら痛みでとても手術出来ません」
「そして、手術の後に傷口が化膿したり炎症を起こさないようにすることが大切です」
「これらの事は治癒士の方の魔法で出来ますか?」
「意識を失わせるか、それはできるぞ。痛みを一時的に無くすこともできる。」
「傷口が化膿したときに治療することもできる」
「お前がいう事はすべて出来るぞ」
よかった……
麻酔や抗生物質の変わりは出来そうだ……
「だが1つ問題がある」
「問題?なんでしょうか?」
「俺は元々高位の治癒士だ、持っている魔力には自信があるが無限に治癒できる訳ではない」
「お前さんのいう美容整形手術とやらはどれくらい時間がかかるんだ?」
そうか……薬や機械で術中管理していた現代と違ってここは人の魔力によって出来ることが依存しているんだ……
「大体半日はかかります……」
「半日?それは厳しいぞ」
「魔力が切れるかギリギリのラインだ」
「まさかお前さんはルリアに魔法が掛かっていない状態で顔を切り刻むなんか言わないよな?」
……そんなことはとても出来ない
局所麻酔でもトラウマになる人は居るんだまして麻酔が切れる可能性がある時点で……
「ルリアの先生よ、お前はルリアのために色々しようとしてたみたいだが結局無駄だ。ルリアに変な希望を見せるな」
ルインさんはそう言い、グラスに酒を注ぎ一気に飲み干す。
「はぁー……結局あの子は一生"瑠璃の怪物"の呪いはとけない」
「中途半端に善意をだすと余計にあの子が傷つく」
「もうあの子に夢を見せるな、醜女は醜女だ」
……
「……なぜそんなことを言うのですか?あの子の叔父ですよね?」
「あなたならわかってるはずだ!
あの子がどれだけ苦しんでいるか!」
椅子を立ち、ルインさんに迫る。
「あの子はこの世界に絶望している!産まれてきたのが間違いだったと!毎日毎日泣いている!!」
「どうして叔父のあなたがあの子を……ルリアを見放そうとするんだ!?」
思わず興奮してルインさんにぶちまける。
ルインさんと目をあわす。
ルインさんを思いきり睨みつける。
ルインさんは溜息をこぼしながら。
「……俺だってルリアに幸せになって欲しいと思っている。だが俺も散々あの子のために魔法や薬を探した」
「呪いが解ける魔法、願う姿になれる薬、美しくなれる水、すべて効果なかったさ。その度にルリアは絶望してきた。」
「俺はこれ以上ルリアに下手な夢を見せて絶望に追いやりたくない」
「しかし……」
「ルリアの先生さんよ、お前は簡単にいうが本当にあの子を救えると思っているのか?」
「もし、お前が言う美容整形手術を成功したとする。だが過去は消えない……」
「美しくなっても"瑠璃の怪物"として産まれてきたことはあの子に……ルリアに永遠に呪いとして消えない」
「一生"消えない傷"を抱えてこれからの人生を生きていく」
「まさかお前さんは過去まで変えられると思っていないよな?」
……確かに過去は変えられない
ルリア様が受けてきた言葉や苦しみは一生消えないかもしれない
これから生きていく限りずっと"呪い"として残る……
でも……それでも……
「少し昔話をしよう」
ルインさんがまたグラスに酒を注ぎ一気に飲み干す
「はぁ……お前さんの知らないルリアの話だ」
「ルリアの母親、つまり俺の妹アリアのことは知っているな?」
ルインさんが僕を見ながら尋ねる
僕は頷く
「さて……どこまで話すかな……」
ルインさんはアリア様とルリア様の話を始めた
ルリア様の母親であるアリア様は"瑠璃の女神"と呼ばれるほどの美しい女性であり、幼い頃からルインさんもアリア様のことを誇りに思う大切な妹だと思っていた
そしてルイン様が15歳のとき治癒士の道に進むか実家の商会を継がなければいけない問題がでてきた。
両親は治癒士の道を諦めて商会をつぐように迫ってきたらしいしかし妹のアリア様がルインさんが幼い頃から治癒士になることを夢に見てきたこと、そのために努力をしてきたことを両親に訴え代わりに自分が商会を継ぐことを条件にルインさんは治癒士の学校に入学できた。
「そのとき俺は誓ったのさ。もしアリアが病気をしたら絶対に治せる治癒士になると。あいつに子供ができたらどんなことをしてでもその子を守ると。」
「どれも叶わなかったが……」
ルインさんが違う国で治癒士の学校で勉強をしているときにアリア様のハワード卿との縁談が決まった。
手紙でその知らせを聞いたルインさんは自分が治癒士の道に進んだことでアリア様の人生を変えてしまった
ことをずっと後悔していると。
学校を卒業し、診療所で修行をしながら高位の治癒士試験に合格したときにルリア様が産まれた。
ルインさんは診療所を辞め、ハワード卿に専属の治癒士として雇ってもらえるように訴え約束した通りアリア様とルリア様を守るための治癒士になった。
「ルリアは可哀想な子だ。幼い頃から美しいアリアと比べられ……それでもまだアリアが生きてたなら自分は愛されている人間だと知りながら生きていけただろうに……」
近くでアリア様とルリア様を見守りながら一緒に屋敷で時間を過ごし
このままルリア様が育っていくのをアリア様と眺めながらいくものだと信じていた。
だがルリア様が5歳のときにアリア様が病気で亡くなった。
「見たことも聞いたこともない病気だった……それでももっと早く気づけばまだ可能性はあったかもしれない……」
アリア様が亡くなり、ハワード卿はルリア様に酷い仕打ちをするようになった。ルインさんが庇おうとするとアリア様を助けられなかった役立たずが!と罵られ、そのうち治癒士を解雇された。
「アリアが死に、ハワードの糞野郎はアリアに似ていないルリアに酷い仕打ちをするようになった。俺が庇えばさらに怒り狂い、なんとかツテをあたってあの子の容姿を母親と同じようにできるように色々探したが駄目だった。」
「これ以上俺が屋敷にいるとルリアがさらに酷い目にあうとわかったからラーランから離れた」
「マリーから手紙を貰っていたからルリアの近況は知っていた」
「なにもできなかったが……」
「結局俺はアリアにもルリアにもなにもしてやれなかった……なんのために高位の治癒士になったんだろうな……」
「ルリアの先生よ、本当にルリアの呪いを解く気か?」
「あの子が見てきた地獄はあんたが想像している以上だぞ?」
ルインさんが僕を睨む
「もしその手術が失敗して傷つくのは、絶望するのはあんたじゃない。ルリアだ。」
「そのことを本当に理解しているのか?ただ可哀想だから救うなんて思っていないだろうな?」
……確かにルインさんのいう通りだ
中途半端な優しさや善意はなにも救えない
そんなものはただの自己満足でただあの子を……ルリア様を……さらに苦しめるだけだ。
だけど……
「ルインさん僕は誓いました」
「必ずルリア様の運命変えてみせると」
ルインさんと目をあわす
ルインさんが僕を睨み続けている
「"瑠璃の怪物"の運命を変えてみせると」
「ルリア様と自分に誓いました」
「なので協力してください、僕1人ではあの子の運命を変えられない」
「もう1人"瑠璃の怪物"の幸せを願っている方が必要です」
「……わかった」
「ありがとうございます」
……ルインさんが協力してくれる。
よかったこれで……
「明日早朝ラーランに向かう、あんたも早く寝ろよ」
「わかりました、ありがとうございます」
「そっちにソファと毛布があるからそこで寝ろ」
「はい」
ソファに歩いていく
「しっかしルリアにこんな男ができたとは思わなかったぜ」
「え?」
「言っとくが俺はあんたとルリアがくっつくことを許した訳じゃないからな」
「待ってください!僕はそんなこと……」
「よく言うぜ、普通の男が"瑠璃の怪物"の幸せを願うかよ?」
「だがあの子はまだ16歳だ。手を出したらぶっ飛ばすぞ」
「違います!僕はそんな風にあの子のことを」
「うるせえうるせえランプを消すから寝ろ、明日は早いぞ」
「しかし!」
「うるせえぞ!人の姪に手を出そうとする男が!」
「じゃあな、おやすみ」
ルインさんは診察室のベッドに横になりランプを消した
酷い言い草だ。
僕はルリア様をそんな風に思ったことはない。
断じてそんな下心はない。
まったく。
疲れた……
半日馬車に乗り長い距離を歩いたんだ……
今にも寝そうだ
目を閉じ明日からのことを考える
まず小屋に戻って手術に必要なものを用意してルインさんの魔法を試して……それからルリア様の顔のカウンセリングをして……
1人で小屋で待っているルリア様は今日も泣きながら眠っているのだろうか……
早くあの子の呪いをといてあげたい
そして絶望で迎える朝でなく
希望に満ち溢れる朝を……