「魔法都市シャリア」
ルリア様を背に背負いどこに行くか考える
ルリア様の怪我の治療をしなくてはならない
ハワード卿に屋敷を追い出されたのだ
屋敷に戻るのは無理だ。やはり1度マリーさんと合流してそこから今後の予定を考えよう
ルリア様を背負い、森の中を歩く
「あの、重くありませんか?」
「大丈夫ですよ、気になさらないでください」
「でも私は鼻血で汚れていて汚いですし、自分で歩けるので下ろしてください」
「ルリア様を汚いなんか1度も思ったことはありませんよ。」
「それに誰かに甘える練習だと考えてください、誰かに助けてもらうことは悪いことではありません」
「……わかりました」
「はい、ゆっくりでいいので慣れてください」
ルリア様は誰かに甘えることを許されなかった。
頼ることも素直に自分の気持ちを言うことも。
ゆっくりでいいので慣れていってほしい、すべて1人で抱えて生きることもできる
だけどそれでは"ひとりぼっち"だ
あまりに悲しすぎる
少しずつでいい
"誰かに助けてもらえても大丈夫な女の子"だと気づいて欲しい
そう思いながらルリア様を背負い森の中を歩く屋敷が近づいていた
屋敷の前にランプを持ち立っているマリーさんを見つけた
「マリーさん!」
「ルリアお嬢様!ご無事でしたか!」
マリーさんが駆け寄り、ルリア様の元に近づく
「ごめんなさい、マリー。心配をかけたわね」
「ご無事で良かったです!その傷は……」
「お父様に殴られました。けど大丈夫です」
「ルリアお嬢様……」
ルリア様の治療をしないといけない
「マリーさん、ルリア様の治療をしたいです」
「屋敷に入れないならどこか場所はありませんか?」
マリーさんが少し考え、
「こちらに私が管理している小屋があります」
「ついてきてください」
「どうぞ入ってください」
マリーさんの後を着いていき森の外にある大きめの小屋に入る
こんな小屋があったとは……
マリーさんが小屋の中に入り室内ランプをつけ部屋に明かりができた
ルリア様を目についたベッドに下ろし、仰向けに寝させる
「ルリア様、殴られた場所を見せてください」
ルリア様がフードを下ろし怪我の場所を見せてくれる、診察をする
ハワード卿に殴られた場所は腫れているが骨にヒビは入っていない
鼻血も止まっている
良かった、これなら今の僕でもなんとかできそうだ
「マリーさん、何か布はありませんか?」
「どうぞこれを」
マリーさんがカゴに入れていた布を渡してくれた
マリーさんに貰った布を湖の水が入っているバケツに浸す
「ルリア様、布で殴られた場所を冷やします、痛むと思いますが我慢してください」
水で濡れた布をルリア様の顔に当てる
ビクッ
ルリア様が布を当てられ痛がる
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
本当に痛いときにも痛いとは言わない子だ……
「これから何度か布を濡れた水で冷や続けます」
「布は僕が変えるのでルリア様は寝ていて大丈夫ですよ」
「いえ、自分でできます」
「駄目です。先程人に甘える練習をするとルリア様は答えました」
「今日はゆっくり休んでください」
「はい……わかりました」
「いい子です」
布を当てながらルリア様の頭を優しく撫でる
ルリア様は目を瞑りもぞもぞと恥ずかしがっているが気にせず布を当てながら頭を撫で続ける
そして小さな寝息が聞こえた
やはり疲れていたんだ
縁談が破談になり実の父親に「産まれてきたのが間違いだ」と言われ
入水自殺まで図ったのだ
当たり前だ
ルリア様が寝たことを確認すると
マリーさんに話さなければいけないことがある
「マリーさん、この小屋は?」
「この小屋はルリア様の母親であるアリア様がルリアお嬢様に残したものです」
「アリア様が亡くなる前にルリアお嬢様が1人で泣ける場所を残すために」
「アリア様は自分が亡くなるとルリアお嬢様に旦那様がきつく当たることを予想していたようです」
「そうなんですか……」
「旦那様はルリアお嬢様が泣くと怒るので幼い頃からルリアお嬢様はこの小屋で泣いて過ごしていました」
そうか……
この子は泣くことも許されなくて
ずっと1人でこの小屋で泣いていたのか……
「マリーさん、今後について話したいことがあります」
「はい、私もそう思っています、もう屋敷には戻れません」
「今戻ったら旦那様がルリアお嬢様に何をされるかわかりません」
「まず怪我を治してから違う国へ……」
「違う国や街にいくのは賛成ですが僕が話したいのは違うことです」
「違うこと?なんですか……?」
「ルリア様に美容整形をします」
「美容整形?なんですか?それは?」
「僕は普通の医者ではなく美容整形医です」
「人の顔を美しく変える医者です」
「……そんなことができるのですか?」
「そんな医学や魔法も聞いたことはありません……」
「私を騙していないでしょうね?」
「騙してなんか居ません。僕は自分の国で美容整形をする医者でした」
「ルリアお嬢様の顔を美しくすることができます」
「そんなこと言われても……」
「そんな夢物語のような……」
「僕にはそれが出来ます」
マリーさんと顔を向き合い目を合わせる
目で伝える「僕にはできる」と
マリーさんが僕の目を見ながら
少し疑う目で
「本当ですか?ルリアお嬢様は知っているのですか?」
「ルリア様には僕が美容整形をする医者だと伝えています」
「ルリアお嬢様はなんと?」
マリーさんの目を見る
強い眼差しだ
でも絶対に逸らさない
「"瑠璃の怪物"の運命を変えて欲しい」
「そう仰られました」
「あなたにそれができますか?」
「もし嘘をついているなら絶対に許しませんよ?」
「僕はルリア様と自分に誓いました」
「絶対に"普通の女の子"にしてみせると」
マリーさんが僕の目をずっと見る
僕もマリーさんの強い眼差しから目を逸らさない
……幾分立っただろう
マリーさんが口を開いた
「……わかりました」
「あなたを信じてみます」
「ありがとうございます」
マリーさんの承諾を得れた
誰よりもこの世界でルリア様を愛してる人だ
この人にはしっかり知って欲しかった
「では美容整形とはどのようなものですか?」
「今から説明しますね」
…………
「なんとそんな顔に刃物を入れるなんて……」
「傷が残り余計に醜くなるだけでは?」
「いえ、上手く傷跡を抜いしっかり管理すれば大丈夫です」
「しかしそのような医学は聞いたことも……」
マリーさんが疑っている
当たり前だこの世界では外科医学はまだないし、地球の歴史でも浸透されたのは19世紀に入ってからだ
僕が今いるこの世界は地球でいうと17世紀頃の医学しかない
信じられなくて当然だ
「マリーさん、僕を信じてくれると仰いましたよね?」
「それはそうですが……あまりにも……」
「もちろんマリーさんがルリア様の安全を懸念をするのはもっともです」
「ですので、治癒士の方を紹介してください」
「治癒士を?」
「治癒士のかたは魔法で怪我や病気を治療できると聞きました」
「美容整形をするには痛みを感じさせないことや意識を一時的に失わせること、傷を化膿させないことが必要です。治癒士の魔法がどれだけ使えるのがとても大切です」
「……わかりました」
「知り合いの治癒士をあなたに紹介します」
「他になにか必要なものは?」
「ありがとうございます、必要なものは今から考えて後で伝えるので用意してください」
「わかりました」
マリーさんとの整形手術のための最低限の会話が終わり
また温くなった布を濡らし、
ルリア様の顔に当てる……
ルリア様が泣いてる……
泣きながら眠っている
「マリーさん……ルリア様が……」
「ルリアお嬢様は毎日泣きながら眠っています」
「……えっ」
「学院での虐めや旦那様の仕打ちを思い出し夢の中でも苦しんでいるのです」
……
どれだけこの子は……
「もしこれ以上ルリアお嬢様を苦しめることは絶対に私が許しません」
「あなたと刺し違えてでもあなたを殺します」
「全力を尽くします……」
マリーさんにそう言うしかない
泣きながら眠っているルリア様を見つめながら改めて覚悟する
「なら良いのです」
「明日は違う街に行くので私たちももう寝ましょう」
「違う街に?」
「知り合いの治癒士が違う街にいるので往復で1日少しはかかります」
「ルリアお嬢様が起きて、体調を確認してから出発します」
「わかりました」
違う街か
幸いルリア様は殴られた内出血の炎症で熱も出ていない
切れた傷が化膿していないことを確認してから……
「もうランプを消しますよ」
「あなたはそこのソファーを使いなさい」
「私はルリアお嬢様の下に毛布をひいて寝ます」
「わかりました」
ソファーに横になる
「ではランプを消します」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
ランプが消え、小屋の中が真っ暗になり僕は目を瞑る
こんな世界で美容整形手術を本当にできるのか……
でも僕にはしなくてはいけない"理由"しかない
いつかあの子が泣かないで朝を迎える
それだけでいい
「朝ですよ、起きなさい」
マリーさんの声で目が覚める
もう小屋の中が明るい、朝が来たようだ
ルリア様は?
ルリア様が眠っているベッドを見る
ルリア様はもう起きてテーブルに座って朝食の席にいる
「おはようございます、マリーさん」
「おはようございます、早くあなたも朝食を済ませてください」
マリーさんに促され朝食の席に座る
「おはようございます、ルリア様」
「おはようございます、トモヤ先生」
「怪我の具合はいかがですか?」
「腫れは少しひいたようですが」
「はい、トモヤ先生にずっと冷して頂いたおかけで少し腫れはひいたと思います」
「それは良かったです、朝食が終わったらまた診察させてください」
「はい、お願いします」
朝食が終わり、ルリア様をベッドに
座らせ腫れた場所を見る
腫れは昨日より少し落ち着いている
傷が切れた場所も化膿していない
「失礼します」
おでこに手を当て、熱を測る
良かった。熱も出ていない
「熱は出ていないと思いますがどうですか?」
「はい、大丈夫です」
「痛みはどうですか?」
「少し痛みますが食事も取れますし大丈夫です」
「それは良かった、僕はマリーさんと治癒士に会うために違う街に行ってきます」
「絶対に安静にしておいて下さいね」
「マリーから聞きました。すいません、私のために……」
「僕はルリア様の運命を変えると約束しました」
「だから大丈夫です」
ルリア様の頭をゆっくり撫でる
本当は貴族の子女に平民がこんなことをしたら死罪だけど少しでも気づいて欲しい。
「あなたは大切にされるべき人だと」
「トモヤ様、支度が終わりました」
「今から馬車の乗り換え場所に向かいますので早くあなたも」
「わかりました」
ルリア様に濡れた布を渡し、僕はマリーさんのところに行く
「ルリアお嬢様、食べ物はここに置いておきます」
「ランプや着替えもこちらに。」
「どうか私たちが戻るまで安静にしていてください」
「大丈夫よマリー、ありがとう」
「それではルリア様行ってきます」
「行って参ります、ルリアお嬢様」
「2人とも気おつけて」
「トモヤ先生どうかご無事で帰ってきてください」
ルリア様がドアに駆け寄り、心配してくる
「大丈夫ですよ、行ってきますね」
ルリア様の頭をまた撫でながら答える
ルリア様はまた恥ずかしそうにしながら黙って撫でられる
可愛いなぁ。
「トモヤ様、ルリアお嬢様に気安く触れないでください」
マリーさんが僕を睨むながら注意する
ごめんなさい。でもルリア様が素直に自分の感情を吐き出してからルリア様との距離が近くなった気がして嬉しいのです
ルリア様を撫でるのを止めて
「では行ってきます」
ルリア様が
「行ってらっしゃい……」
駄目だ。可愛い
「トモヤ様」
またマリーさんに睨まれる
「ルリア様、ちゃんと帰ってくるのでしっかり安静にしててくださいね」
「はい、お待ちしてます」
「では行ってきます」
小屋を出て、馬車に乗るために森を出て街へ向かう
「トモヤ様、ルリアお嬢様にあまり馴れ馴れしくしないでください」
「はい……すいません」
「まったく……」
マリーさんに説教されながら歩いて行くと少し大きな馬車駅に着いた
かなりの人がいる
「シャリア行きの馬車に乗ります」
「わかりました」
マリーさんが2人分のシャリア行きの馬車代を払ってくれる
「すいません……」
僕はこの世界での金銭は持っていない。情けない……
「この程度のお金でルリアお嬢様の運命を変えるためならまったく構いません」
「さあ馬車が出発するので乗りますよ」
「はい……」
馬車に乗るともう5人ほどの人が乗っていた商人らしく恰幅がいい髭を生やした人とその人の従者、そして貴族の奥様らしい人だ
馬車に乗り、マリーさんと横がけに座る
「マリーさん、僕達が向かうシャリアとはどんなところですか?」
「魔法都市であり、ララノア王国の中でも優秀な治癒士の人が多いと有名なところです」
なるほど……そんな場所があるのか……
「紹介して頂く治癒士のかたはどんなかたですか?」
「アリア様のお兄様です」
「ルリア様にとっての叔父ですね」
「どのような方なのですか?」
「元々腕のいい治癒士でアリア様やルリア様専属の治癒士でしたが、
アリア様が亡くなってからハワード卿に解雇され屋敷を追い出されました」
「ルリア様の屋敷があるラーラン都市からシャリアに場所を移し治癒士を続けています」
「そうなのですか……」
「しかしルリア様の叔父様なら力になってくれそうですね」
マリーさんが溜息をつきながら
「そうだったらいいのですけどね…」
治癒士はルリア様の叔父さんなのか
普通は力になってくれそうだけど
マリーさんの言い方だと難しいのかな……
「日が暮れる頃にはシャリアに着きます」
「あなたも休んでおきなさい」
「わかりました」
魔法都市シャリアか……
屋敷があるラーランの街にも僕は出かけたことは無い
いったいどんなところなんだろう……
ルリア様の叔父さんになんて話して協力してもらうか考えていると
知らない間に眠っていた
「起きなさい、もうすぐシャリアに着きます」
マリーさんの声で目を覚ます
「もうすぐ魔法都市シャリアに着きます」
「ここで降りる方はお願いします」
馬車の操縦席から操縦士の方が呼びかける
「魔法都市シャリアに着きました」
「ご乗車ありがとうございました」
「降りますよ、シャリアに着きました」
「はい」
マリーさんが先に馬車を降りて僕も続く
馬車を降りて魔法都市シャリアを見渡す
もう日が暮れているけどけっこう街は明るい
大きなランプが数十メートル単位でついている
建物も中世ヨーロッパぽい。
「治癒士の診療所に向かいます」
「はい」
マリーさんが先頭に歩き、治癒士の診療所に向かう
なかなか活気がある街だ
飲食店も多くみんな楽しそうに食事とお酒を楽しんでいるのが歩きながらわかる
馬車を降りて20分ほど歩いて診療所についた
マリーさんが診療所の入口のドアをノックする
「ルイン様、マリーです、ドアを開けてください」
何度かドアをノックし呼びかける
「ご滞在ではないようですね」
「どうしましょうか……」
マリーさんが少し考え
「心当たりがあります」
「ついてきてください」
マリーさんがルインと呼ばれるルリア様の叔父の居場所に心当たりがあるらしい
マリーさんに着いていく
少し街から離れたところに古い建物が見えた
賑やかな声が聞こえるどうやら酒場のようだ
「ここです」
マリーさんがドアを開け酒場に入る
「いらっしゃいませ、お2人ですか?」
酒場の店員さんが声を掛けてくる
「いえ、私たちは人を探しに……」
店員さんと話をしていたそのとき
「なんだよ~なんだよ~いいじゃねえか!」
1人の酔っ払いの男性が酒場で若い女性に絡んでいた
「減るもんじゃねえし早く2階の個室に行こうぜ」
女性に絡み手を腰に回し、女性を口説いてるようだ
だいぶ酔っ払ている
いやあれは口説いてるのではなくただの……
女性はとても迷惑そうに絡んでいる男性の足を引っ掛け、男性がこけた
「痛ってなー!このアマ」
女性は汚物を見たような目で場を離れる
「なんだなんだルインまた振られたのかよ!」
「ダッセーな!何回目だ!」
「うるせーよ!お前ら!あの女は照れていただけだっての!」
ルイン?この人が?
治癒士でルリア様の叔父?
固まっているとマリーさんがルインさんに近づき拳骨を放った
「痛ってなー!誰だコラ!」
「何をしているのですかルイン様、診療所も閉めて」
「マリー?なんでここに?」
「あっ?誰だその横にいるやつは?」
これが腕のいい治癒士でありルリア様の叔父さんであるルインさんとの出会いだった