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「美容整形医の決意」

ルリア様が顔合わせのために自室に戻り、僕も朝食を終わらせて客室に戻る


客室に戻りルリア様との会話を思い出す


「大丈夫です」


「トモヤ先生に心配されることではありません」


ルリア様はそう言われた


確かに僕がルリア様を心配する権利などない


だけど……このままではあの子は一生……



いやよそう、結局僕にはなにもできない


この世界で僕はただの異世界人で"美容整形医"として


この世界でなにもできない


現代の日本ならあの子を変えてあげることができるかもしれない


なにもできないくせにあの子にそんな事を思うのはただの偽善だ


大体もし"美容整形"をルリア様に提案し、ルリア様が望まれたとしてもこの世界の設備では無理だ


電気もない、麻酔もない、人口呼吸器もない


傷を縫う糸もない、抗生物質もない


電気もないところで麻酔なしで手術?


感染を起こしても祈るだけ?


そんなものは不可能だ


それはただの自殺行為だ


僕は自分が可哀想なあの子を救いたいだけ


そんなエゴをあの子に押し付けるのか?


最低だ


人としても


"美容外科医"としても最低だ


「はぁ……」


ルリア様に言った言葉を思い出しながら自己嫌悪していると


トントンッ


「トモヤ様、包帯をお持ちしました」


マリーさんがドアの外から声をかけてきた


「どうぞ、入ってください」


「失礼します」


マリーさんが部屋に入ってきた


「では包帯を巻き直しますので上着を脱いでください」


「お願いします」


上着を脱ぎ、マリーさんに左肩の包帯を巻き直してもらう


「もうほとんど治りましたね」


「あのときは申し訳ありませんでした」


「はい、ありがとうございます」


左肩はもうマリーさんに傷つけられた怪我もなくなり、もう動かしてもまったく大丈夫だ。



「もう大丈夫です、ありがとうございます」


「お礼はルリアお嬢様に言ってください」


「私は頼まれたことをしただけです」


「ルリアお嬢様が毎日包帯を用意できるように通いの商人にお願いしていたのですから」


「そうだったのですね……」


ルリア様が通いの商人さんにお願いしていてくれたのか


マリーさんが僕を毛嫌いしていたからルリア様が毎日包帯を巻いてくれた自分でするから大丈夫だと言っても自分の侍女が怪我をさせたのだからと聞かなかった


毎日包帯を巻いてくれるルリア様と少しづつだけど話をした


地球の食べ物、映画、ルリア様は最低限の言葉を話すだけだったけど

少しづつ僕の話に興味を持ってくれた


パフェの話は質問が多かったけど

タピオカの話はとても気持ち悪がっていた


フードを被って目を合わせず俯いて僕に接していたけど目を少しだけ合わせてくれるようになった


あの子は優しい子だ


本当は他人が怖いのに怪我をして泊まる宿もない僕を拾ってくれて治療までしてくれた


でもあんなに優しい女の子が傷ついて毎日を過ごしている


やっぱり……


「ルリアお嬢様について考えていますね?」


マリーさんに心の中を当てられてびっくりする


「マリーさん、今回の縁談について詳しく教えてください」


「ルリア様は"瑠璃の怪物"と呼ばれ忌み嫌われてると聞きました」


「それなのにあっさりと貴族との縁談ができることに納得できません」


僕がマリーさんに今回の縁談の違和感を訴える


マリーさんはため息をつき、


「聞いてどうするのですか?」


「あなたはただの部外者ですよ」


「部外者なのはわかっています」


マリーさんの目を見る


「でも、僕はやっぱりルリア様に幸せになって欲しいです」


「あの子は不幸になるべき女の子ではありません」


マリーさんにそう言う


確かに僕には幸せになって欲しいと願う権利はない


だけど


あの子が不幸になるのは間違っている


それだけは自信を持っていえる


「ルリアお嬢様のすべてを聞く覚悟はありますか?」


覚悟?



よくわからない


でも……


あの子をもっと知りたい……


「あります。」


「分かりました。お答えします」


マリーさんが今回の縁談について話してくれた


「そんな……」


「そんな取引をしてまで縁談を……」


今回の縁談が成立したのはハワード卿がレンスター男爵の商会に融資を行い、さらにリンスター男爵の商会に自分の息のかかった商会が有利な取引をすることまで約束して成立した縁談だった。


レンスター男爵は既婚で3人も妻を持っている


第4夫人としてのルリア様は妻としての立場もないし、そもそも嫁ぎ先のレンスター男爵は貴族としての爵位も低い。子爵の一人娘としてはありえない嫁ぎ先だ


「どうしてハワード卿はそこまでして貴族に嫁ぐのに拘るのですか?」


「普通に平民では駄目なのですか?」


「ハワード卿はそもそも平民から貴族になった人です」


「自分の娘が大商人か貴族に嫁がないと貴族社会での立場はありません」


「それにルリアお嬢様は今回の縁談が初めての縁談ではありません」


「どういうことですか?」


「ルリアお嬢様は13歳の頃に縁談話がありました」


「相手は60代で大商人の男です」


「少女好きで有名なゲス男です」


「もっともその縁談話は上手くいきませんでした」


13歳で60代のロリコンに嫁ぐ……

意味がついていけない……


「どうしてその縁談は無くなったのですか?」


「その男は13歳の少女であるならば醜女でも目を瞑って縁談をしていいという事から話ができました」


「もっともハワード卿のワイロもあったでしょうけど」


「そして婚前交渉のときに断られたのですよ」


「えっ?」


婚前交渉?それはつまり……


「このような醜女を抱けるはずないと」


………


酷すぎる……


「そして縁談が破談になったときのハワード卿の怒りは凄まじかったです」


「あんな年の離れた変態男にすら欲情されない恥知らずの醜女が!と」


「待ってください!婚前交渉は普通貴族の縁談では通じないはずです!」


「一般的にはそうです、しかし"瑠璃の怪物"と呼ばれるルリアお嬢様にはあのような方法しか縁談話はありません」


「そんな……」


「そしてその男は"瑠璃の怪物"はとんでもない醜女だ」


「あんなものを嫁に貰ったら男として終わりだと商会仲間や贔屓の貴族にも言いふらしたので、ルリアお嬢様はそれから縁談話が来なくなったのです」


「だから、もうすぐ17歳を迎える前の今回の縁談が最後の縁談です」


「おそらくもう縁談話はこないでしょう」


言葉が出てこない……


酷いってレベルじゃない


ただの地獄だ……


マリーさんが僕の目を強い視線で見てくる


「ルリアお嬢様についてはすべてお話しました」


「なぜただの部外者のあなたにここまでお話したか分かりますか?」


確かに貴族の事情についてただの怪しい平民に喋るのはおかしい……


「最初はあなたはルリアお嬢様をまた"傷つける人間"だと思っていました」


「しかし、あなたと過ごしていたい数日のルリアお嬢様はどこか安心し、幸せそうでした」


「それはあなたがルリアお嬢様を見る目は"嫌悪"や"憎悪"ではなく

どこか優しい目でしたからです」


「アリア様が亡くなってからあのようなルリアお嬢様は見たことがありません」


「だからこそお話しました」


「さて」


マリーさんが僕を見る

まるで僕を試してるような視線だ


「あなたはどうされますか?」


「えっ?」


「わたしはすべてお話しました」


「ルリアお嬢様を救う気になりましたか?」


救う?


僕があの子を?


「あんな成金のクズ男に嫁ぐくらいならあなたがルリアお嬢様を連れ出してください」


「僕がルリア様を?」


「あなたは医者だと聞きました。

医者なら日銭も稼げるしルリアお嬢様が病気になっても大丈夫です」


「わたしは聞く覚悟があるか?と問いました」


「あなたはどうしますか?」


……僕がルリア様を連れて出ていく?


この異世界で?


仕事も金も無いのに?


どうやって生きていく?


でも……


左肩を見る


毎日毎日得体の知れない男を治療してくれた


あの子が助けてくれなかったら傷は化膿してそのまま野垂れ死んでた


憲兵に突き出されてそのまま死んでもおかしくなかった



あの子が治してくれた肩だ


あの子との会話を思い出す


「トモヤ先生に心配されることではありません。私は大丈夫です」


嘘だ……


本当はあの子はずっと……




「ルリア様は今どこに居られますか?」


椅子を立ち、上着を着る


「ルリアお嬢様は先程レンスター男爵とお庭に散歩を行ったようです」


「わかりました」


部屋のドアを開け、あの子の場所に向かおうとする


「待ちなさい、まだ早いです」


「縁談が終わった今日の夜にルリアお嬢様を連れて行ってください」


「それまでに必要な物を揃えて起きます」


慌てすぎた


確かに色々準備をしていかないと野垂れ死にだ。


「よろしくお願いします」


「わかりました」


「私は駆け落ちのための用意をしてきます」


「駆け落ちではないのでは……?」


マリーさんがドアに手をかけ、

呆れたように僕を見る


「男らしくない人ですね」


そのまま用意のために部屋を出ていった


いやいや16歳の子と駆け落ちは駄目だろ


あっもうすぐ17歳か?


いやそれでもアウトだろ


変な事を考えるのを辞めて今後の生きかたを考える


とりあえずどこか違う街の診療所で雇って貰うか……


でも今の医療は現代でいう内科なんだよな


中世の薬草学なんか知らないぞ……


どうするか……


できれば……


色々と生活が整ってこの世界の医療や魔法を勉強してあの子に……



ガッシャーン!!


大きな物音がする


ハワード卿の部屋の2階だ


何度か大きな物音と罵声を浴びせる怒鳴り声が聞こえる


これは……


部屋を出て、2階に向かおうとするとマリーさんに会った


「マリーさんあの、大きな音が」


「ルリアお嬢様が屋敷に居ません!」


「えっ?」


「先程縁談が破談になり、旦那様に屋敷を追い出されたそうです」


「私は街の方へ探しに行きます!

あなたもお願いします!」


「わかりました!」


ルリア様が縁談の破談でハワード卿に追い出されたらしい


先程大きな物音もしたからまた殴られて怪我をしているかもしれない


早く見つけないと


僕はルリア様が居そうな場所はわからないから初めて会った森に向かう


森の中を必死に走って探すが見つからない


はぁ……はぁ……はぁ…


居ない


森中を探しても居ない


森ではないのか……


初めて会った湖の周りにも居ない


ここでは無いのか……


1度屋敷に戻ろう


屋敷に戻るため引き返そうとすると

湖の中から金色の光が見えた


見間違えかな


いや金色に光っている


湖に近付きよく見る


あれは……!


「ルリア様!!」


ブロンドの髪が光って湖の中に沈んでいるルリア様を見つけた


やばい早く助けないと


上着を脱ぎ、湖の中に入り必死に潜りなんとかルリア様を引き上げる


水を飲んでいるのか意識がない


「ルリア様!ルリア!」


まったく反応がない


心拍蘇生を行わないと


「すいません」


ルリア様に人口呼吸をする


何度か息を吹き込み、胸を両手で押す


戻ってこい……!戻ってこい……!


必死に願いながら心拍蘇生を続ける


頼む……!頼む……!


………


「ゲホッッ……ゲホッッ……」


ルリア様が水を吐きながら呼吸をし始めた


「ルリア様!大丈夫ですか?」


ルリア様に呼びかける


「えっ?」


ルリア様が僕に気づく


「僕です、智也です」


「僕がわかりますか?」


ルリア様は頷き、信じられないような表情で僕を見ている


「体が冷えています、今僕の上着を持ってきますね」


さっき脱いだ上着をルリア様に渡し、ルリア様が着替えるので背を向ける


「……どうしてここに居るのですか?」


「マリーさんにルリア様が屋敷を出ていったと聞いたので」


「そうですか……もう大丈夫です」


ルリア様が着替え終わり、ルリア様の隣に座る


ルリア様は俯いてずっと黙っている


僕もなにも喋らない


2人の間で静寂が流れる


「レンスター男爵との縁談が破談になりました……」


ルリア様が消えいりそうな声でしゃべりはじめた


レンスター男爵との散歩中にフードを取るように要求され、1度断ったがフードを取り、顔を見せたこと

そして縁談が破談になったこと


屋敷に戻りハワード卿に縁談が破談になったことを告げ殴られ、屋敷を追い出されたこと


ハワード卿に

「産まれてきたのが間違いだ」

と言われたこと


森の湖に入り入水自殺を図ったこと


ゆっくりとたまに声に詰まりながら告白する



「私はやっぱり産まれてきたことが間違いだったのです……!」


「こんな政略結婚も成立しない顔で……」


「実の父親にも産まれてきたことが間違いだと言われ……」


ルリア様が僕を睨む


顔は殴られたせいで腫れ、蒼い瞳には大粒の涙が零れている


「どうして私を助けたのですか!?」



「どうして私をあのまま死なせてくれなかったのですか!?」


「私は死にたかった……!」


「あのまま一生"瑠璃の怪物"と呼ばれこんな……」


「こんなに……こんなにも……

醜い顔で生きていくのならば!」



「一生私は他の人が手に入るものは手に入らない!」


「普通の親も!友人も!お化粧をしても醜女で!お洒落をすることもできない!普通の女の子のように男性に愛してもらうこともない!」



「この醜すぎる顔のせいで………すべて手に入らない……」


「他の人が産まれてきたときから持っているものすべてが……私には何もない……なにも……高望みなんかしていないのに……!」



「ただ普通の女の子で良かったのに……ただ……ただ……それだけで……」



「私は産まれてきたことが間違い

だったのです……」



「もうこの世界に居たくない……」


ルリア様はこの世界のすべてに絶望している



今回が初めてではない



今まで何度も何度も……


数えきれないくらい……


こんな小さな女の子が……


「ルリア様。運命を変えてみませんか?」


「えっ」


「僕は普通の医者ではありません」


「美容外科医という人間の顔を美しくする医者です」


「顔を変える……そんな魔法のような……」


「魔法ではありませんが、運命を変えることはできます」


「僕を信じてくれませんか?」


「本当に……この醜い顔を変えられるのですか……」


「本当に"瑠璃の怪物"じゃなくなるのですか……」


「本当ですか?私はトモヤ先生を信じてもいいのですか?」


「なにかを信じて裏切られるのはもう辛いです……耐えられないです……」


ルリア様がもう裏切られたくないと……


でもなにかを信じてみたいと……


僕はゆっくりと優しくルリア様を抱きしめる


「よく今まで1人で頑張りましたね」


「ルリア様はすごい女の子です」


「絶対に僕がルリア様を"普通"の女の子にしてみせます」


ルリア様が震える手で抱きしめ返してくる


 「大丈夫です」


「僕が"瑠璃の怪物"の運命を変えてみせます」


「僕はあなたを苦しめる世界のすべてを敵にしてでもあなたの味方でいます」


……うぅ……っっ



……うぅ……


ルリア様が僕の胸の中で声にならない声で泣いている



そうだ僕はこんな女の子を救うために美容外科医になったんだ


異世界だから?


設備がない?


電気も麻酔もない?


だからなんだ


この世界には魔法があると聞いた

なにか方法があるはずだ


僕はまだ"何もしていない"じゃないか


ルリア様をもう1度抱きしめる


小さな体だ


どれだけの憎悪と嫌悪をこの小さな体で受け止めてきたのだろう


僕が……



僕が絶対にこの子の"運命"を変えてみせる



そう胸の中で泣いている









"誰よりも優しく傷つきすぎた少女"に誓った






















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