発端
初夏の小雨の降る午後、男は河原を家路を小走りに急いでいた。
新緑から吹いてくるような風と頬に当たる雨粒が、火照った体に心地よい。
一瞬、頭上の雨雲が歪んだような違和感があったので、男は立ち止まりながら空を見上げた。雨空の遥か彼方に黒い、太陽ほどの大きさの点が見えたかと思った次の瞬間、それが弾けたかのように見えた。
どぉぉぉぉんんっ…
鈍く、重く響く音が空に響き渡る。
一瞬にして、まるで空に大穴があいたかのような闇が広がった。
「コウモリ…?」
男はあまりにも異様な光景につぶやいた。
大穴のように広がった黒いものは、何百、いや何千いうコウモリの群れだった。
どんっ…
また、大きな音が鳴り響き、今度はコウモリの円の中心に小さめの穴が空き、雨空が顔をのぞかせた。
その穴から、なにか光るものが落ちてくるのが見えた。
ドーナツ状になった何千というコウモリの群れは、ぐるぐると回るように飛んでいたのが、ややして一斉に西の方角へと飛び去っていった。
男は状況を飲み込めず呆然と立ち尽くしていたが、はっと我に返った。
初めて見る異常な光景に恐ろしさと興奮が入り混じり、体は震えていた。
ぶるぶると頭を振り正気を取り戻しつつ、男は光るものが落ちた場所へと向かった。
薄暗い林の中ではあったが、それを見つけるには時間はかからなかった。
握りこぶしほどの大きさの石のようなものが、静かに青白い光を放っていた。
おそるおそる、男はその石を手近にあった木の枝でつついてみたり、別の石を投げてみたりして反応を見ていたが、危害がないとわかると近づいて恐る恐る指で触ったみた。光を放っているので、ある程度の熱を覚悟して触ったが、意外と石はひんやりと冷たかった。男はその石を村に持ち帰り、長老に一部始終を話した。長老はやや考え「それは神様からの贈り物であろう」と云い、その石を村の神社に祀ることになった。
十数年、その石は青白い光を放っていたが、やがてただの石のようになってしまった。それから数十年が過ぎた。




