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85 早く気付いて欲しい

部屋へと戻り、サスケに手当をしてもらった後は直ぐに寝てしまったのでお姉様がいつ戻ってきたのかはわからない。

昨日は色々とあって疲れたからだと自分で自分に言い訳。

朝は朝でお姉様に起こされたとか気にしない。

「昨日は王太子と踊ったみたいだけど…」

「あ~…、なんかイエウール卿やターレ卿をや…意見した事が耳に入ったみたいで興味を持たれたようです」

サスケからも報告を受けていると思うが、同じ様な事を言っておく。

「そう…で、どうだった?」

「そうですねぇ…」

既視感を感じる会話だなぁと思いながら昨日と似たような返事をする。

「セルリア的にはなしなのね?」

「ありえませんね」

うっかりと頷くと大変な事になりそうな質問にはキッパリと否定の意を答えておく。

本当にありえない、止めてくれ。

「そう…じゃあ今日の予定だけど…」

王太子の話は長引く事もなく、今日の予定の確認となる。

来年も同じ部屋を使えるわけではなく、そもそも個人によっては一人部屋から二人部屋、またはその逆になる可能性もあるので使っていた部屋は空っぽにして出ていくのが通常。

大きな家具は備え付けとなるので、持って帰る物は意外と少ない。

とはいえ約一年を暮らしていたのだから荷物は来た時よりは増えている。

私はトランクが一つ増えた程度で済んだ。

「王都を出るまでの間は混むでしょうし…なるべく早く出たいわね」

「そうですねぇ…」

学園の生徒が一斉に帰路に着くのだ、道は当然混む。特に学園に近いほど。

混むのが想定されているからか、王都やその近くに家がある生徒は直ぐに帰らない者もいる。二、三日帰りを遅らせてお土産を買ってから道が空いたところをゆっくり帰る。という者も一定数いるからだ。

今日出発する生徒の多くは遠方に住んでいる者が多いと思われる。私達を含め。

寝たりなければ馬車で寝ればいいと、そういう理由で夜中ともいえるど早朝に起きている。おかげで早く寝たはずなのに起き切ってない。目がシパシパする…。

荷物が多いご令嬢には男手も必要という事で今日ばかりは男性の使用人も女子寮に入る事が許されている。

まだ時間が早いからそうでもないが、昼頃になれば賑やかになるのだろうと予想。その時間には私達は出発している予定だから自分の目では見れない。

「では、私はユシルを呼んで来ますね」

「ええ、馬車置き場に先に行っていて」

混雑回避の為に寮まで馬車の乗り入れは禁止されているし、一家につき一台という規定もある。

うちは元々一台しか呼んでないのですが。

四人乗りの馬車の上にそれぞれの荷物を積み私とお姉様、メルーセとユシルが乗ってトルクが御者という布陣である。トルクを同行させるのはむろんユシル対策である。

あれ?そういえばユシルとお姉様って直接顔を合わせるの今日が初めてじゃないかな?

お姉様はユシルの事を色々と知っているけど、ユシルはお姉様の事を知らない。…一波乱あるかなぁ?

そうなったら面倒くさいな。

ごちゃごちゃと考えているうちに部屋へと辿り着く。ノックして部屋を開けると動きやすい旅装に着替えたユシルが待っていた。

「おはよう、セルリア」

ここ数日で何やら吹っ切れた様子のユシルはヒロインらしい爽やかな笑顔を浮かべている。

「お友達の家に泊まりに行くとか初めてだから、早く目が覚めちゃって…大丈夫かしら?変なところはない?」

う~ん…、くるりと回って服装を確認させる姿はザ・ヒロインといった感じの容姿も相まって可愛らしい。だが私とユシルはしつこいようだが“友達”ではない。

「変なとこはないと思う。あと“友達”ではない」

まず質問に答え、ついで事実を突きつければ悲しそうな顔をされたが文句などは言われなかった。

クラスメイト達には私とユシルは“友達”と認識された為に許されたと誤解しているのだろうか?

許すも何もこいつ、未だに私に謝罪してませんからね。

ごめんなさいも言えない子と“友達”にはなれません。

ここ最近のラストスパートばりの改心の様子を見れば“友達”でもいいのかもしれない、と上から目線で思う様になったが(お姉様などに言えば甘いと言われるに違いない)“友達”になる為には通過儀礼というか、必要な行為があると思うのですよ。

少なくとも、態度だけなら十分反省しているという評価も与えてもいい。ただ、言葉ってやっぱり大事。

有耶無耶のうちに許された、なんて思って欲しくない。

言葉だけで許されると思ってももらいたくないが、今はまだスタートラインにすら立っていない事を自覚するべきだ。

「荷物はそれで全部?」

「ええ、言われた通りに二つに纏めたわ」

誇らしげに胸を張るセルリアの足元には大きなサイズのトランクが二つ。約二か月分の荷物だと思えば許容範囲内。

あんまり荷物が多いと家の馬車に詰めなくなるので予め二つまでと言っておいた。残りは実家に送っており新学期が始まった時にそのまま戻してもらう手はずになっているはずだ。

学園にそのまま置いて行く方が楽なんだけどね、それを許すと同じ事を考える生徒で溢れてしまうので現実的ではない。

紛失とか起きる可能性は出てくるし、万が一盗難騒ぎなどが起きれば学園の責任問題に発展する恐れもあるので学園側としても持ち帰らなかった物については責任は負わないと公言している。

「じゃあ馬車置き場まで運びましょう」

「え?自分で運ぶの?」

思わずと言った感じで漏れた疑問には頷く。

「“お客様”ではないのだから当然ではなくて?」

旅行気分でいられるのは困る。今回の旅は更生の為でもあるので甘やかすつもりはない。

「そう…そうよね…」

高揚していた気分に冷や水を掛けられた気分なのだろう、見る見るうちにしょぼんとするユシル。

…見た目がいいって本当に得だな、という感想を持つと同時に罪悪感も刺激される。

餌をくれると思っていた寄ってきた野良猫が、餌がないとガッカリする感じ。なお野良猫は逞しいので実際は餌がないと近寄ってもこない。

餌をやっても撫でさせてくれないし、食べ終わったら直ぐに逃げてしまう事もあるあるだ。

「…一つは私も手伝うわ」

「ありがとう、セルリア!」

大人しく二つとも自分で運ぼうとするユシルから一つとって運べば、花が綻ぶ様な笑顔でお礼を言われる。

礼を言える様になった分、成長したとは思う。

けれど謝罪が出来ない様では及第点は与えられない。

ホント、こいついつになったら私にも謝るべきだと気付くのだろうか?


中に入っているのは恐らくは服なのだろう、トランクは見た目で予想していたよりは重くはない。…が、重くないわけではない。

大きさ的にも持ち運びにくい。

キャスターがついていれば楽なのだが、この世界にはまだない。

ゲームの設定を考えた人が考慮してくれてたら普通に存在したのだろうと思えばちょっと悔しい。

構造的にはあまり複雑なものじゃないだろうし…製作可能かもしれない。

プラスチックはないから木か金属で作る形になるかな。

「キャスターがあれば楽なのに…」

後ろで私以上に力のないユシルがうんうんと唸りながらトランクを運びながらぼそりと呟いた言葉に危うく頷きそうになる。

危ない危ない。こういうとこから正体がバレるのだ。

推理ものでちょっとした油断から犯人だと探偵にバレる、或いは疑問に持たれるというシーンを思い出す。

最初はスルーする癖に後から「あの時あなたは…」とか推理が始まるやつだ。

「きゃすたーってなに?」

今後、同じ場面になった時にうっかり口にしても大丈夫な様に質問をしておく。

「ああ…そうか、知らないのね」

口調からして知らないならいいわ。とか教えてくれないのかと思ったのだが、ちゃんと説明してくれる。

「小さな車輪がトランクについていればいいのに、と思ったの。それがついていれば転がせば重い物でも運びやすいもの」

「なるほど、便利そうね」

会話は弾まないまでもあまり気まずい空気にもならず馬車置き場に移動する事が出来た。


誤字報告ありがとうございます!

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