81 卒業パーティー
卒業パーティーは入学式ぶりの学園長の挨拶から始まる。
初老といった年の学園長はゲームでの開会と同じ様な挨拶を述べる。
「…この良き日を迎えられた事を嬉しく思います」
ゲームと同じだ~と密かに感動しながら無事にこの日を迎えられた事を喜ぶ。
入学前にしていたどのパターンとも違う一年が終わった事に感慨深い気持ちになる。
ユシルはどのルートのエンドも迎えなかったし、レオーネ様も断罪される事がなかった。
来年は続編という未知が始まる恐怖はあれど、同じ転生者仲間のレオーネ様…と王太子にも出会えたし、ユシルも最初の想定からはマシな状態になっているし。
結果としては良い方で終わったのではないかと思える。
明日からはまた大変になるだろうけど…だからこそ今日はこの卒業パーティーを楽しんでも罰は当たるまい。
そんな事をつらつらと考えていると学園長の挨拶も終わった様だ。
流れ出した音楽はダンスタイムの始まりを告げ、会場の中心に人が集まっていく。
その中でも目立っていたのはやはりレオーネ様と王太子の二人だ。
レオーネ様は逆ドレスコードの為か紺色の一見地味にも思えるドレスだった。
デザインもシンプルだが、身体のラインに沿ったものなのでスタイルの良さが際立つ。
ダンスが始まれば動くたびに光が反射されキラキラと光る様は夜空を連想させるものだった。
もちろんダンスも文句なく上手い。
ほう…とあちこちで感嘆の息が上がり、間違いなくこのパーティの主役である。
「さすが王太子殿下とレオーネ様ね…」
隣に立つお姉様もどこか陶酔した声を漏らす。
このダンスが見られただけで、卒業パーティーに参加した意味があると思えるくらいだった。
体感時間的にはあっという間に時間が経ち、一曲目が終わる。
次の曲が始まる前に最初のグループは場を譲り、次のグループが集まる。
レオーネ様を目で追っていれば輪から外れた途端に人の波に紛れてしまった。
これから王太子共々パートナーを変え何度も踊る事になると思えば、自分の事でもないのに疲れた気分になった。
高位貴族かつ人気も高いって大変だな~と完全に他人事だ。
…だが私自身は他人事でも隣にいるお姉様は違う。
「…オルレンス嬢、良ければ私と踊ってはいただけないでしょうか?」
「いえ、ぜひ私と!」
さっそく二人の殿方からダンスに誘われている。
ちなみに私も“オルレンス嬢”なんですけどね。
ここで空気を読まずに「喜んで」とか言って邪魔したい衝動を堪える事が出来たのは偏にダンスに自信がないからだ。
「お誘いは嬉しいのですが、妹を一人にするわけにはいかないもので…」
誘いに乗る気のないお姉様は私を口実にして断る。
すると男性二人の目が初めて私へと向かった。
「妹…ですか?」
「ええ、自慢ですの」
懐疑的な視線を私へと向けてくる二人にサラリとシスコン発言をするお姉様。
言いたい事はわかるが、ここは世辞でいいから私を褒めた方がお姉様の好感度は上がる。というのに二人は苦笑いしか浮かべない。…そんなに衝撃的でしたか?失礼じゃない?
とはいえ相手の爵位はうちより上かもしれないし、こちらから名乗るべきだろうか?とお姉様にアイコンタクトを送れば軽く首を横に振られた。必要ないという事ですね。
「子供ではないので少しの間くらい離れていても大丈夫ではないですか?」
「そうですよ、ダンス一曲の間くらいは…」
必死にお姉様を説得する二人だが、私を蔑ろにする発言をした以上お姉様が頷く事はないので早めに諦めるべきだ。…でないと。
「やぁ、ここにいたのかグレース」
ああ、うん、遅かった。
「イオ…」
辺りに響く声量で高位貴族の登場です。
お姉様の声には多少の嫌悪が見られたが、それは気安い関係だからこその甘えの様なもの。少なくとも男性二人よりはイオリテールの方がマシだと判断した様で笑顔で迎え入れる。
私の方も同意見なので従っておく。
「お久しぶりですわ、イオリテール様」
淑女らしく挨拶をする。
「やぁ久しぶりだねセルリア嬢、妹と仲良くしている様で紹介したかいがあったというものだよ」
あ~…あんまりレオーネ様と繋がりがある事、広めたくないんだけどなぁ。
「仲良くだなんて…レオーネ様のご厚意に甘えてしまっているだけですわ。ご迷惑をおかけしていないか心配で…」
「いやいや、あの子は少し変わったところがあるから…そこを受け入れてくれる人は貴重なんだ」
その変わったところって、前世での感覚が出ちゃってるところなんだろうなぁ。
私と話をしながらもさり気なく男性二人からお姉様を遠ざけ、いないものの様に扱うイオリテールは今度はお姉様へと話しかける。
「休み前に一目顔が見れて嬉しいよ。グレース」
ファンの子がこの場にいたのなら奇声を上げそうなほどの笑みを浮かべるイオリテール。
「そうね、これから約二か月は顔を見なくなるのよね…」
別れを惜しむような発言をするお姉様は悩まし気にため息を吐く。
意味深に切られた言葉の続きは「せいせいする」かな?希望が混じっているのは認める。
男性二人は自分たちの存在を無視して話し始めたイオリテールに敵意の篭った目線を向けるが次男とはいえ“ケオグジヤ侯爵”を敵に回すつもりはない様ですごすごと去っていった。
「…助かったわ、イオ」
それを横目で見届けたお姉様は素直に感謝の気持ちを告げた。
「僕のお姫様は人気者だからね、警護は外せないよ」
「まぁ、いつから私はあなたの“お姫様”になったのかしら?」
「君を初めて見た時からさ」
人の存在を忘れてラブシーンを始めないで欲しいものです…。
しかしこの様子を見ているとやはりお姉様もイオリテールを憎からず思っている様で…シスコンとしては複雑です。
いや、例えばさっきの男性よりかはイオリテールの方がいいとは思うんですけどね?
それ以上に“姉の恋人”という地位に誰も置きたくないという我儘な気持ちもあるんですよ。上二人のお姉様に対してはそこまでの気持ちはないというのに。年が近いせいかな?
「お姉様、私向こうに行ってますね」
ここは多少の気を遣う場面かと軽食コーナーを指さす。本当はクラスメイトの一人でも見つかれば、その人のところに行くと言い訳も出来たのですが…見当たらないので仕方ない。
このままお邪魔虫として居座ってもいいのですが、自身の気まずさの方が勝ちました。退避しようと思います。
「セルリアったら…」
指した場所が場所だからかお姉様は苦笑する。まぁどんなメニューが並んでいるのか気になっていたのも確かだ。
お姉様のボディーガードにはイオリテールがいるので問題ない。私も姉離れをするべきだろうしね。
「それじゃあ、セルリアが戻ってくるまでの間に一曲どうかな?」
そこをすかさずイオリテールが誘いの言葉をかける。
「そうね…」
曖昧に頷いてチラリと周囲を見るお姉様。
イオリテールが入れば牽制にはなるけれど、踊ったとすれば終わった後にまたダンスの申し込みが殺到する。それを断るのは反対に難しくなる。
イオリテールという前例を作った形になるからだ。彼以外を断れば恋人同士だと認識されるだろうし…難しいところだね。
「少し足を痛めているので…本日は遠慮させていただくわ」
「おや、それは大変だね?立ちっぱなしは疲れないかい?」
「それくらいなら大丈夫よ」
お姉様もそれは分かっているのでイオリテールの誘いには頷かない。断りの文句からいって今日は誰とも踊る気はない様だ。
それでもずっと二人で話していれば噂が立つのは間違いないけど、特にイオリテールは態度があからさまだし。
「では行ってまいります」
話の腰を折るのは忍びなかったが、一応宣言はしておかないといけない。
聞こえないかもしれない声量で声を掛けたのだが、お姉様はしっかりと気付いてこちらに向けて小さく手を振った。
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