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79 絶対に名前は呼びません

隙があれば爆弾を投下してくる王太子のせいで話の進みが遅い。

どんな目的を持っていようと構わないが、それに私を巻き込むのは止めて欲しい。

国王に弟を押したいというのならレオーネ様の為にも協力するのに否やはない。

レオーネ様の意見としては第二王子の方が国王に向いているそうだし、レオーネ様の恋心的にも応援したい。

前世の姉弟としての記憶や感覚が残っているのなら家族になれても“夫婦”になるのは難しい事もわかる。

だが、王太子を失脚させる原因になるとか本人は良くてもうちに影響がでる。穏便に辞退するならまだしも色恋沙汰による醜聞が原因とか…それうちに不利益が出ますよね?

「王太子殿下…」

「アルがダメならアルレールでもいいよ?」

「お断りします」

多少の譲歩が見られたが、一度でも呼んだら既成事実として使われそうだ。今までと同じく王太子と呼ぶ事にする。口に出すなら“王太子殿下”としか呼んではいけない。

「協力してくれたら色々とご実家にも便宜を図れると思うよ?」

メリットよりデメリットの方が大きそうな誘いに頷けるはずがない。

「…もしかしてそれが正体明かした理由ですか?」

「それもあるよ、学生時代からの積み重ねがあれば周囲の納得も得やすいでしょ?」

つまりは将来的な仮面夫婦になりません?という事か。

互いに割り切った関係というのは確かに楽なところはあるし、貴族間の結婚に置いてはそういった側面が強いのも確か。

でも。

「失脚方法は王太子殿下以外にダメージがいかない方法を何か考えるとしましょう」

それに頷けるかといえば答えはノー。

無理やりに話を終わらせれば「残念、フラれちゃった」と肩を竦めてみせた。

「いい加減にしなさい、アルレール!」

そんな弟を見かねたのかレオーネ様が軽く王太子の頭を叩き、場の雰囲気のリセットをする。

私もそれに乗っかり、咳払いと共に次の話題に移る。

「いくつか整理したい事があるんですけど」

「いいよ、何でも聞いて?」

聞いてとは言ったが答えるとは言わないところが腐っても王族といったところか。

前世は一般人だったようだが、今は王族の一員。それも現在は王太子という地位にいるのだ。帝王学の一つや二つ勉強してきた事だろう。

その中には人心掌握の類も入っているに違いない。

うっかりと不利になる様な事を言わない様にしなくてはと気を引き締める。

「“王太子”を急いで決めた理由はなんでしょうか?」

たぶん、この先のキーになる質問のはずだ。

本来なら二人の王子が学園を卒業するまでに決めれば良かったはずなのに、急いだ理由。

「年の近い、また大きく能力差が開いていない場合に問題になってくる事ってなんだかわかる?」

にこにこと、食えない笑みを浮かべながら質問される。…こちらがした質問にただで答える気はないらしい。

「跡目争い…ですね」

王太子の隣に座るレオーネ様の顔色が僅かに青くなる。それを目の端に捉えながら口にした。

王族でなくとも家の後継ぎ問題はどこにだってあるのだから。うちだってまだ正式には跡取りは決まっていない。

それが一国の主ともなれば規模が大きくなっていく。貴族たちは自分の利益を考えて得になる方に付くのだからそこで派閥も生まれる。

自分が付いた方の王子に国王になって欲しいと考えるのも当然の成り行き。その為に相手の足を引っ張ったり、中には暗殺を企てるものも出てくる。現にゲームのシナリオには“王太子暗殺”が組み込まれている。

「あくまで水面下ではあるけれど、今もまだそれは続いている」

王太子の一言にレオーネ様の肩がビクリと震える。

「…狙われているのは第二王子殿下ですか?」

レオーネ様からみれば弟と思い人なのでどちらも大切な人には違いない。それでも第二王子の方だと思ったのは既にユシルが“王太子暗殺”の話題を出していたからだ。

動揺はしていたけど毅然と対処をしようとしていた。

その時に見られなかった姿に、もう一人の方かと判断したからだ。

「ああ、一番ひどかったのは二年前だ」

レオーネ様の様子には王太子も気付いているはずだが無視をして話を進めていく。ハッキリとは言ってないが、直接的な手出しもあったと思われる。そうでなければレオーネ様がここまで動揺する事はない。

「ゼインから目を反らす為に俺が王太子の座に付く事になったが、場合によっては一時的な処置で終わる」

立太子の儀は当たり前だが一代につき一回限りの儀式だ。当然、王都に観光客を呼ぶためのピーアールとして使われる。儀式で使われる金額以上の財源を徴収する為だ。

けれど二年前、アルレール殿下の立太子は他国からの使者を呼ぶ事もなく発表という形でひっそりと終わらせられた。

まだ学園にも入学する前だったので卒業してから盛大に行うつもりだろうと言われていたが、それなら卒業してからの発表でも良かったはず。

それなのに急いだ理由が第二王子を守る為だったとは…私もすっかりゲーム脳に侵されていたらしい。

当時の私はそれをゲームの辻褄合わせの為だと疑わなかったのだから…。

第二王子を狙うという事は王太子派の者が犯人だったのだろう、単独犯か複数犯か、はたまた単独犯が沢山いたのかは分からないが。

だからこそ王太子が王位に一歩近づいた事で表立っての暗躍が落ち着いた。深入りして捕まえられたら覇権争いどころではなくなるからだ。

…思っていた以上に重い話に私が聞いていいのかと問いたくなる。

同じ転生者として、これからのゲームの展開に関わらなければならない者として必要な情報であるからこそ開示しているとはわかるが…。これって一介の子爵令嬢が聞いていい話ではない。

急に背負わされた責任の重さにギブアップ寸前だ。

「その時に第二王子派だった人たちが今回の“王太子暗殺”に関わっている…とお考えですか?」

「ああ。俺が学園を卒業するまでの間にどうにかしたいというのが本音だろうからな」

結婚が許される年齢が十四歳なので成人年齢もこの国では十四歳となっている。正式に爵位を継ぐ事が可能になるのもその年齢となっている。それより前の年齢だと(仮)という扱いになり後見人が必要だったり使える権限が少なかったりなどの制限がかかる。ついでにお酒も解禁される。

ゲームだとその辺りの制度を使われて侯爵は親戚に財産を押収されたのではと考察している。

ただ法律上という暗黙の了解もあり、一人前扱いされるのは学園を卒業してからになる。逆に言えば学園を卒業する年齢になれば一人前扱いをされるということ。

この事を王太子に当てはめてみると、卒業後は本格的に国王の後継ぎとして公的にも認知され公務にも関わる事になる。空白になっている婚約者も決まるだろうし、下手をしたら直ぐに結婚、即位という流れになる可能性だってある。

そうなれば反王太子派は手出しが難しくなる。

王宮よりは学園の方が警備も手薄だろうし、在学中にどうにかしたいと考えても不思議ではない。

一応ゲームとの辻褄は合うなぁ。

ゲームの情報と現実の情報の二つを合わせて考えるのは危険かもしれないが、役に立つものもある。

イネスの情報とか、実行犯が教師に化けて潜入してくるとか…ゲームからでないと現時点では予想が出来ない。

それによる対策が取れるのは強みとはいえるが、ゲームの情報に踊らされるのは避けたい。

王位を王太子と第二王子のどちらが継ぐのかは当人と国王夫妻を交えてより国の為になる判断をしてもらいたい。国民選挙という制度がない以上は結局は上が決める事だ。

会った事はないがレオーネ様と王太子の二人が第二王子の方が王に向いているというのだし、その隣に立つのがレオーネ様なら安心はできる。

今のところ第二王子の気持ちはわからないが、だからこそレオーネ様に好意を持っている可能性だって残ってる。

兄の目線から見てレオーネ様の事を第二王子がどう思っているのか聞きたいところだけど…この場で聞いてはいけない事くらいはわかる。なんといっても当事者がいるし。

「他に聞きたい事はないかしら?」

レオーネ様に問いかけられるが、まだ混乱しているのか思いつかない。整理する時間が欲しい。

パッと思いつくものはレオーネ様がいる場では聞けない。

「王太子殿下はユシルの事をなんとも思ってないのですか?」

ただ自分が失脚する為にユシルを利用していたのなら、思惑通りに言った場合その後はどうするつもりだったのか?

「中身は成人しているので、子供はちょっと」

確かにユシルは中身もお子様でしたね。

ふ…と視線を落とされて言われたので本心なのだと思う。

確かに気持ちはちょっとわかる。同年代の異性と恋愛している自分をイメージすると犯罪を犯しているかのような罪悪感が生まれるからだ。

今は外側も成長したからあれだけど、記憶が戻った頃に同じ年ごろの子供を婚約者だと紹介されたら複雑な心境に陥っていたと思う。

ユシルは外と中がちょうど同い年くらいだから、そういった葛藤がなかったんだろう。と思ったところでレオーネ様へと視線を向けてしまう。

言いたい事は伝わってしまったのか、レオーネ様は頬を赤らめてプイッと顔を反らしてしまう。

「ちなみに一目惚れ」

「ちょっと!アルレール!!」

反応からだいたい予想は出来たが王太子が暴露してしまう。

それに怒る様子は確かに仲の良い姉弟の姿に見える。

「何歳の時ですか?」

「俺とのお見合いの後だから八歳の時だな」

「セルリア!?」

更に掘り下げる私と素直に答える王太子。

第二王子は一つ下だから相手は七歳の時…。

「本人は否定してる」

「そうですか…」

瞬間、頭に浮かんだ単語は王太子も思い浮かべたものなのだろう。そして元姉弟の気安さで口にもしたのだろう。

「……だって!天使を愛でない選択肢なんてないじゃない!」

恥ずかしさが頂点に達したのか、レオーネ様は叫ぶとテーブルに突っ伏してした。

「天使…」

「金髪碧眼、おまけにあの時のゼインは純粋だった」

そして見た目も良い、と。…うん、天使認定するのも無理はない。見た事ないけど。

あと何気に引っかかる物言いをしたな。あの時と区切るからには今は違うのか?

ふと湧いた疑問は問いになる事はなく喉の奥に落ちていく。

「精神年齢はいずれ外見に追いつくでしょうし、実際の年齢に問題はありませんし…いいんじゃないですか?」

「セルリア…」

子供の時しか興味ないのだったら問題だが、少なくとも今も好きなのならそういった意味での問題はないと思う。

当人が幸せならそれが一番だ。


ブクマ、感想、誤字報告ありがとうございます!

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