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7 セルリアが情報通な理由

人の姉を修羅場に引き込むのは止めてもらえませんかね?

しかしイオリテールの狙いはわかったのでレオーネ様絶対参加の条件を織り込んで勉強会を実施する事にした。

お姉様には近づいてもらいたくはないのだが私がレオーネ様と出会うきっかけ作りの為には仕方ない。ただしその後は邪魔します。

「サスケ」

授業後、裏庭でそっと自分付きの従者の名を呼べば執事服に身を包んだ二十歳ほどの男が降ってくる。

文字通り、降ってくる。

恐らくは木上にいたのだろう、彼は私が幼い頃に犬猫ペットの様にもらった。人権とか貴族以外は低い時代である。本人は「高給ヤッホー!」と気にしていなかったが。

むしろ「色々便利技も教えてもらえるとか倍率高いんすよ、孤児でラッキーです」と言い切った。

因みに便利技=忍者修行である。

うちの使用人になるには必須項目らしい。オルレンス子爵家の常識は他とかけ離れすぎている。しかし便利なので文句はない。長い物には巻かれるたちだ。

そのサスケだが見た目は黒髪黒目の美青年と言っていい容姿に成長している。おまけに声も私好みの少し高めの声をしている。

他の使用人と同じように私の家族が大好きだが、直属の主たる私の扱いは雑である。

なので私も雑に扱う。おかげで酷く楽。良い友としても重宝している。

さて、この国ではかなり珍しい「サスケ」という名。

なんでこんな和風感が漂う名前なのかというと私が名付け親だからだ。

出会ったのは今から六年前、私が十歳。ちょうど前世の記憶を思い出した頃だ。

現在の自分がセルリアというゲームのキャラだという事はわりと早く飲み込めた。

これも前世で転生物の話を読み漁った結果、事前学習って大事。役に立つとは思わなかったけど。

転生先が悪役令嬢でもヒロインでもなかった事も私にとっては幸運だった。

ゲームの知識は持っているので、これは強くてニューゲームというやつでは?と内心で浮かれてもいた。甘かった。

全然強くない。むしろ弱い。

下位とはいえ転生先が貴族であった事は今生で一番のラッキーポイントだ。

庶民に生まれていたらならきっと生きていけなかった。現代っ子には色々と厳しい世界観だ。

家電がないというのがまず痛い。

そもそも電気もガスも水道も通っていない。

娯楽と呼べるものも少ない。

テレビゲームはもちろんなく、ボードゲームもカードゲームも少ない。

現代を生きるクリエーター達が作ったものだからかチェスとトランプはあったので一人遊び(ソリティア)を延々とし続け退屈を紛らわせていれば何かの儀式をしているのでは?と心配された。違う。

チェスでなく碁ならまだ出来るのに!と将棋ゲームをしなかった事を悔いた。

碁の方が初期ルールが簡単だったのがでかい。そして適当に置いた石が何故かコンピューターを降参させてしまう事もあった。今でも本当に不思議である。

他に出来る遊びもなくチェスのルールを何回か教えてもらったのだが、何度聞いても駒の動かし方が覚えられない。興味が持てないからだと分析している。面白いと思えないのだから仕方ない。まずはルールを覚えないと面白いとは思えないだろう。詰んだ。

そして何よりこの世界ゲームには魔法が存在しなかった。すごく悔しい。すごくすごく悔しい。

転生特典でゲームの設定より強い魔法とかレアな魔法とかを使える可能性はワンチャンあったはずだと思えばなお悔しい。

例えゲーム通りの平凡な(ヒロインの友人キャラを強キャラにはすまい)レベルであっても、前世の記憶があれば楽しめただろうに。本当に惜しい。

ちゃんと魔法が出てくるゲームもいっぱいプレイしていたのに、なぜこの世界ゲームに転生してしまったのか、別にお気に入りのゲームというわけではなかったのに。本当に口惜しい。

また現代の遊び(ネットゲームなど)に慣れている私にはこの世界の娯楽は退屈過ぎた。

妄想で乗り切るには色々と燃料が足りない。過去の記憶だけでは燃料が再投下される事はなく如何に低燃費で妄想に励める私でも限界はあった。

さすがに無から妄想できるほど私の想像力は逞しくない。

この世界では本が貴重というのも大きく影響した。

歴史書や学術書の方ばかり重視され大衆向け、いわゆる娯楽小説の類は酷く少なく薄いのにバカ高い。まるで個人発行の本の様に高い。

加えて売りあげ確保のためなのか中身が子供向けではないものも多く読ませてもらえなかった。今は一部解禁されている。

あとセルリアの記憶があるから文字自体は読めるけど、文法が違うせいで酷く読みにくく慣れるまで時間がかかったというのもある。

頭の中で無意識に日本語に変換しているせいで時間もかかったし。

今は慣れたから普通に読めるけど。

言葉の方は違和感なく聞こえるけど、実際は文章と同じく文法が違うはずなので不思議。

私の話し方は大丈夫なのかと、ちゃんと一般的な文法で聞こえているのかと不安になった時期もあったが大丈夫らしい。

身内(使用人を含む)だけでなく余所の人にも首を傾げられたことないし。

まあそんな感じで前世の記憶と感覚に振り回されていた時期の事、私は軽い…いや重度のホームシックにかかっていた。

何より米が食べたくて仕方なかった。今でも食べたいけどね、当時に比べてだいぶ落ち着いてはいる。

納豆とみそ汁も食べたい。ようは和食が食べたい。

前世での食事は親の方針で和食が多い食卓だったために地味に辛かった。今も辛い。

果たしてこの世界では日本と似た国はどこかにあるのだろうか?と思いを馳せていたせいで食欲も元気も日に日に落ちていった。

そんな私を見て家族はコレは恋煩いに違いないと判断した。なんでだよ。

本来なら恋した相手=王太子(全くの見当違いである)を連れてきたかったそうだが無理だった。そりゃそうだろ、無理で良かった。

もしも私の転生先が悪役令嬢だったなら婚約フラグが立っていたに違いない。ほんとお助けキャラ万歳。

とにかく私の意中の相手(誤解である)を連れてくるのは無理だと判断した家族は代わりの者を用意した。

それがサスケである!

…なんて斜め上の解決策!

たまたま身寄りのない子を拾ったのと、その子が美形だったからと引き合わされた。

王太子とは全く似ていない。なんでそれで代わりになると思った。

「でも、顔はいいわよ?」

とのたまったのは一番上の姉だった。

「将来有望よ?」

とプッシュしてきたのは二番目の姉だった。

「遊び相手にちょうどいいわね」

と頷いた三番目の姉に他意はなかったと今でも信じている。

そんなわけで私付きになった当時は少年だったサスケに心中複雑ながらよろしくといった。

父親からは「好きに使っていいから」と太鼓判をもらい、母親からは「退屈しのぎに芸をさせればいいわ」とアドバイスをもらった。…ペットかな?

新米主に最初にサスケが望んだのが自分の名前を付ける事だった。

なんで?と問えばそれが主人の義務だと言われた。意味が分からない。その常識は間違っていると思われる、他で聞いた事ないし。ますます犬猫ペット感覚が強くなる。

自分より年上の少年に名前を付けるのは躊躇われ、今まで使っていた名前をそのまま使えばいいといえば断られた。

無表情でグイグイ迫ってくるサスケに根負けし適当に付けた名前。

それがサスケである!

ペット感覚で人の名前を付けた感じは否めない。

しかし言い訳はある!

アジア系の顔立ちではなかったが、サスケはそれでも黒髪黒目だった。

その色彩は前世が日本人である私には酷く懐かしく感じられた。

ついでにいえばその時にサスケが着ている服もいけなかった。

ベストのダブルボタンが何故か某有名武将の家紋に見えてしまったのだ。そこから連想されたかの武将の部下。

空想の忍者が頭の中に浮かび思わずその名を呟いていた。

「サスケ?変わった名ですね、気に入りました」

その呟きを聞き漏らさなかった本人が思いのほか気に入ってしまい決定となった。

全てはホームシックになっていたせいだ。そのせいで日本っぽいものに無性に引かれたのだから仕方ない。他の名前にして欲しいと言われたらもっと真剣に考えたし。

でも後悔はしている。

この国では珍しすぎる名前のせいで、いらぬ苦労をしたかもしれないし。

彼が遊び相手になってくれたので私のホームシックは徐々に治っていった。というよりなっている暇がなくなったといった方が正しい。

こいつ忍者修行に人を付き合わせましたからね!

私の方は加減されてただろうけど、そのせいでサスケにバカにされるわ、加減されてても令嬢にはキツイ内容の修行だった。今のところ体育の授業で好成績をキープするくらいの役にしかたってないよ。

おまけに()()()()には「セルリアのくせに生意気」と某いじめっ子の様なお言葉を賜りましたよ、聞こえないフリをするのも地味に疲れるというのに!

「セルリア様?」

名を呼ばれ、そういえばサスケを呼び出していたのだと思い出す。

呼び出すだけ呼び出して命令をまだしていなかった。

使用人としてよりも忍者としての存在感がありまくるサスケは私の付き添いという形で学園に出向しているのだが普段の世話はやいてくれない。

性別が違うという事で寮に入れないという事もあり俺は影からセルリア様をお守りするっす!とかいって人がいるところでは姿を見せもしない。

でも名前を呼べば現れるので確かに身近で待機しているとわかる。ストーカーちっくで怖いとか思ってはいけない。人がいると呼んでも来ないので変人認定される為に迂闊に呼び出す事も出来ない困った使用人だ。

なんでも顔が割れていない方が便利なのだとか…やはり忍者かな?

「サスケ、今日はお前の主として命令があります」

「おお、初っすね、どんな命令っすか?」

心なしかワクワクしているのが感じ取れる。見えない尻尾が思いっきり振られている幻覚が見える。ちょっとそこら辺に木の棒でも落ちてない?取ってこいをしたいのだけど…。

「虫についての調査をして欲しいの」

「虫…っすか?」

湧き上がる加虐心をどうにか抑えて下した命令にサスケは首を傾げる。

「そう。グレースお姉様という花に集る虫、にっくきイオリテールについて!」

「それは…遣り甲斐がありそうっすね、了解です。さっそく調査してくるっす!」

サスケはやる気満々である。無理もない、サスケはグレースお姉様が大好きなのだ。

なお恋愛感情の意味はない。

うちの使用人はうちの家族が大好きだから仕方ない。私も好きですけどね!

「あとグレースお姉様にはくれぐれも内緒でね」

「報告は明日の放課後、またここで…でいいっすか?」

「え?早くない?」

そんな直ぐに情報って掴めるの?

「オルレンス子爵家使用人たるもの当然っす!」

うちの使用人優秀過ぎない!?好き!

はっ、そうかセルリアがゲームで異様に情報通だった理由はコレか!

サスケに探らせていたんだな。

今日初めてサスケに調査を頼んだから知らなかったよ。

グレースお姉様が妙に情報通なのも同じ理由?

お姉様にも専用の付き人がいるし。


ゲームの裏設定ともいえる事情を知る事ができ、久方ぶりにオタク心が満たされました。



新キャラの忍者(違う)の登場です!

ブクマありがとうございます!

嬉しいです!!

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