61 改善点は多いようです…
ユシルが書いたメモには攻略キャラの名前が書かれていた。
それはいい。
彼らは彼らで性格どころか人格にも問題ありなところはあるが、ユシルが彼らに迷惑を掛けたのも本当の事だ。キッチリと詫びるべき対象であるのは間違いない。
まずは一歩成長したね、と孫を褒める祖母になった気持ちでそっと目頭を押さえてやってもいい。
しかしここは体罰も厭わない鬼婆になったつもりで叱り飛ばす場面だろう。
いや、別に鬼婆じゃなくても怒ってもいいと思う。
何故ならコイツは攻略キャラの名前しか書かなかったからだ。
五人と+αの名前しかないメモを投げつけるのは許されるだろうか?
それともコンコンと説教をした方が堪えるだろうか?
……めんどうだなぁ。
ここにきてやる気がごそっと目減りした。
私のせいではない、ユシルのせいだと断言しよう。
今世では私もただの十六歳の小娘なので許して頂きたい。
匙を投げないだけマシである。と自己弁護をしてメモを投げる事なくユシルへと返す。
「宿題、明日まで」
簡潔に述べると、もう話す事はないという意思表示の為に立ち上がる。
「え?セルリア?」
戸惑いの声を上げるユシルを構わずドアまで移動し、そこで振り返って言葉をかける。
「そうそうユシル」
その視線がしっかりと自分に向けられているのを確認してから続ける。
「しっかりとご飯を食べて、寝て、明日はちゃんと授業に出なさい」
「え、ええ…」
何を言われるのかとビクビクしていたユシルはそっと息を吐いた。
そのタイミングで。
「それから、私とユシルは友達じゃないから名前で呼ばないで」
「え?え?」
言い逃げの体で戸惑いの声を上げるユシルを部屋に置き廊下へと出る。
「そんな、嘘でしょ?セルリア!?」
だから私の事を友達と思っていないのはそっちだろ…。
怒鳴らなかったぶん、私は大人の対応をした。…いや、やっぱり子供か。
そう、こちらも自己嫌悪する羽目になった。
どうやら前途は多難な様だ。
確かに一歩は進んだが、同時に二,三歩後退もしたかの様な徒労感に襲われる。
前にもこの世界の常識を教えたというのに…情けない。
この期に及んで攻略キャラ以外の存在は認めないとでもいうつもりなのか?
それとも本気で他の人には迷惑を掛けた事はないとでも思っているのか?
散々無礼を働き迷惑を掛けたクラスメイト達は、あの大きな瞳にはどういう風に映っているというのか!
そして何よりもまず私に。
私に!
詫びを入れるべきとは思わないのだろうか!?
もう地べたに頭を擦りつけてスミマセンでした!と謝罪してもいいレベルの事をされたと思うし、してあげたと思うんですけど!
それくらいの労力をユシルの為に使っているんですけどね、私!
なのにユシルにとっては感謝も謝罪もしなくていい事でしかないんですか?
それとも“お助けキャラ”だから当たり前の行為だとも思ってる?
そんなわけないだろ、ふざけんな!
ボランティアだって感謝の言葉を貰えた方がやる気もでるでしょ?それが人ってものでしょ!
別にボランティア精神でしているわけじゃないけど!だからこそ!!
心の中は不満しか溢れていなかったけど耐えました。
手当たり次第に八つ当たりして、叫びだしたい心境だったけど耐えました。
だって大人ですからね!
あんな小娘に心を乱されるとか、それはそれで悔しいじゃないですか。なんか負けたみたいで!
でも愚痴るくらいは許されると思いません?
私すっごく頑張っていると思うんですよ。本来ならしなくていい苦労を自ら背負ってるという面はあれど、ちょっとくらい労わってもらってもいいと思いません?
そんな偽りのない私の本音を曝け出せる人なんて限られている。
ただでさえ友達が少ないボッチだというのに。(…あ、今無駄なダメージを受けた。自爆した。)
それがユシル関連となると更に絞られてしまう。というより一人しかいない。
その一人にアポもなく突撃するという暴挙に出た上でどさくさに紛れて抱き着いた。
だってこんな時以外にチャンスないし!
心の中では完全に開き直っているが「レオーネさまぁ~」と声と表情は情けないものだ。
嘘ではなく涙目になっていたからか、レオーネ様は驚きつつ抱き留めてくれました。
「どうしたの?大丈夫?」
うう、今は優しさがいつも以上に身に沁みます。
心配をされて少し気遣われただけ、といえば失礼かもしれないが涙腺は容易く決壊した。
「聞いてくださいよレオーネ様!ユシルったら酷いんですよ!」
完全に親に愚痴る小学生の精神で先ほどまでの不満を口にしようとしたのだが、まずは落ち着きなさいと頭を撫でられいつものテーブルへと案内される。
そこにはいつの間にか用意されているティーセットが鎮座していた。急な訪問だったからか流石に茶菓子はケーキではなく日持ちするクッキーが並べられていた。ケオグジヤ家の使用人の優秀さを痛感した。
まだ熱々の紅茶を冷ましながら一口飲むと熱さが喉を伝っていくのがわかった。マナー?今はレオーネ様と二人きりだからいいんです。
レオーネ様だって同じ様にして紅茶を飲んでるし。というよりこんな紅茶の飲み方はレオーネ様だって私相手にしか出来ない。レオーネ様は私以上に普段からマナーを尊ぶ立場ですからね。
紅茶も美味しいのだが偶には緑茶が飲みたい。贅沢をいうなら玄米茶が希望です。と前世を懐かしみつつ心尽くしに対し失礼な感想を持つ。あと団子とか煎餅も食べたい。
思った以上にユシルの所業にダメージを負っているらしいと自己判断。
思考が完全に逃避に入ってしまっている。
しかし待てよ、紅茶が存在するという事は緑茶も作れるかもしれない。
紅茶と緑茶、あと烏龍茶は全て同じ葉から作られると聞いた事がある。葉を摘む時期が違うのだったか、発酵手順に差があるのだったが…。
「それで?何があったの?」
深追いをしようとしたタイミングで問われる。そうだった、泣き言を言いに来たのだった。
逃避に成功し過ぎて本来の目的を忘れてしまっていた。
場の雰囲気が整ったところで改めてレオーネ様に先ほどのユシルの行動を愚痴る。
「…それは、大変ね」
頭痛がするとばかりに頭を押さえるレオーネ様。もはやそれしかいえないよね、と同意はするが気持ちが納得いかない。辛すぎる。
レオーネ様とユシルを直接会わせてどうこうしてもらおうという気はないが、こうして話は聞いて欲しい。あれを一人で相手にしていたら直ぐに限界がきそうだ。
適度な毒抜きは必要だと思います。
具体的にいうとレオーネ様には私の癒し要員になって欲しい。
こうして話を聞いているだけでも癒されるし、何よりそのお顔を見ているだけでも幸せな気分になれる。ユシルとは違って。
心に余裕がない状態でユシルに接したら思わず手が出そうだし。何回か、どころか頻繁に殴りたい気分にさせられた。いっそハリセンでも作ろうかな?
あれなら力を入れてもそこまで痛くないだろうし。音はするから気分的にはスッキリしそう。いや、でもそんなものを作ったら転生者だとバレるか、仕方ない却下。
でもアレの相手を一人でし続けるのは私の負担が大きすぎる。かといってレオーネ様に直接手伝ってもらうのは出来ない。ユシルを完全に信用したわけではないし、信用できたとしてもウッカリとどこかで漏らすという危険性は排除できない。というより絶対にする。
レオーネ様や私が転生者だという事はユシルに極力知られない様にするべきだ。私だけならともかくレオーネ様がそうだと知られるのは絶対に良くない方に転がると思う。なんせまだ続編の問題が片付いてませんからね。
続編のヒロインも転生者である可能性は個人的には高いと思っているし、ユシルよりも上手くヒロインを演じられると困る。
いや、ユシル以下という事はないかな?
中二で電波で、なのに頭は回るとか最悪じゃない?
ブクマ、評価、感想いつもありがとうございます。
反省はしてても直ぐに性格が変わるわけではないと思います。
 




