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6 大人しくヒロインを追っかけとけよ

攻略キャラが一人登場します

なんでこうなったのだろうか?

結果としては求めた以上のものが手に入ったのだろうが納得がいかない。

話は上級生の校舎、加えて成績優秀者のクラスという事もあり緊張してそのクラスを訪ねた時に遡る。


「あのグレース・ルト・オルレンスを呼んでは頂けないでしょうか?」

ちょうど教室から出てきた上級生に呼び出しを頼む。

成績優秀者だから噂にあまり興味がないのか、男子生徒だったからか特に私の悪い噂を気にする素振りも見せずに姉を呼び出してもらえる。…その時になぜか悪役令嬢の兄(イオリテール)もついてきた。

侯爵の姿は見えず、今はいないらしい。

「まぁ、セルリア!あなたが教室に訪ねてくるなんて初めてじゃない?」

はい、そうです。

いつもは目立たない様に寮の部屋に直接訪ねに行ってましたからね。

でも今回の目的は何故か後ろにくっついてきた悪役令嬢の兄(イオリテール)なんですよ。

興味津々といった様子でこちらを見てくるのですっごく居心地が悪いです。

「あのお姉様、ちょっとお願いがあるんですが…」

ジロジロと見られているのは感じるが、だからこそ今はそちらを見るわけにはいかない。

「あらあらセルリアがお願いなんて珍しいわね、いいわ、私に出来る事ならなんでもいって」

にっこりと微笑む姉は美人だ。加えて頭も良く人当たりも良い。

もっと上位貴族の元に生まれていたのなら王妃にもなれた器であるとすら思う自慢の姉である。

「ありがとうございます」

チラチラと視界に入ってこようとする攻略キャラがウザい。

なんだよ、なんの用だよ。

用があるのはこっちだけど、全力で存在を否定したい。

「……実は授業で分からないところがありまして、お姉様に教えて戴ければ…」

「いいよ、どこ?」

「と……」

「まあイオ!人の話を立ち聞きなんて不作法だわ!」

どこに最初に驚くべきだろうか?

人の会話に無理やり割り込んでくるところか、姉が愛称で呼んだ点か。

ちょっとどいててくれない?

こちとら久しぶりの姉との会話だぞ?

「……どちら様でしょうか?」

「え?僕のこと知らない?」

「申し訳ないですが存じ上げません」

知ってますけどね、一方的に。初対面のはずですよ、あなたにとっては。

「グレースから聞いてない?」

色々聞いてますよ。

現実での攻略キャラの情報は今はグレースお姉様から聞く事が多いので。

私が興味を持ったからと、何故か張り切って情報収集してくれましたからね。グレースお姉様だけでなく家族全員が。

最後には執事やメイドまで色々と探って来てくれましたよ。

うちの使用人は忍者なの?と突っ込みたいほど色々と詳しく。

それも自主的に。

理由は私が喜ぶと思って、だそうですよ。

なんだよみんな私のこと好きすぎない?

私も好きだ。

優秀な使用人たちに思いを馳せたあとにお姉様に視線を戻す。

頷くべきか迷ったからだがお姉様の表情は無だった。しかし妹の私にはわかる、あれは何かを我慢している顔だ。

「聞いた事があるかもしれませんがお名前を知らないので判断できません」

なのでどちらにも取れる返答をしておく。

「これは失礼。僕はイオリテール・トレス・ケオグジヤ。グレースのクラスメイトさ」

「それはご丁寧にありがとうございます。私はグレースお姉様の妹のセルリア・フォル・オルレンスと申します」

名乗られたからには名乗り返さなくてはならない。

本来は下位貴族である私から名乗るべきではあるが、学園内では表向き身分の上下はなしという建前があるのでセーフ。

「うん知ってる。君の事は色々と聞いてるからね」

微笑みを浮かべた顔は自信に溢れ…ちっ、一番メンドクサイ性格の時に当たったらしい。

あと誰だよセルリアの事を吹き込んだの。ヒロインからでも噂を耳にしたのでも、きっと碌な事は聞いていまい。

「…イオ」

低く低く、お姉様がイオリテールの名を呼ぶ。

「私は一切、妹の話はしてないのだけど…誰から、どんな話を聞いたのかしら?」

お姉様の瞳には静かな怒りの炎が灯っている。

妹が興味を持っているからと、忍者並みの諜報力を発揮したお姉様たち。その事から導かれる結論とは。


重度のシスコン!


という事実である!

私もそうですけどね、三人の姉はそれぞれ自慢の姉です。

もしもだけどセルリアが王太子と結婚したいととち狂った事をいっても協力してくれるくらいにはシスコンです。

何度か誰か気に入った?と聞かれた時には頷いてはダメだと本能が警告したものだ。

なんて答えたかって?

「観賞用には最適な方々ですね!」という凡そ子供らしくない答え方をしましたよ。正解だったと今でも過去の自分を褒め称えております。

「ちょっと、あちらで、じっくりと、お話しましょう?ええ、二人きりで」

お姉様怖いなぁ。

まぁ私に立てられた噂は把握済みでしょうしね、部屋替えを希望したらと言われた事もありますよ。

原因がセルリアではなくヒロインにあると思っての事でしょう。動向を観察したかったので他の人の迷惑になるからと断ったら抱きしめられました。

お姉様の中でのセルリアが天使に昇格した瞬間です。

そんな愛するセルリアの良くない噂を流した人物が特定できると張り切る気持ちはわかります。そいつも原因の一端なので殴りたい気持ちもあります。

「それは嬉しいけど…せっかく訪ねてきた妹さんを放っておいていいの?」

含み笑いでこちらを見てくるイオリテール。

その言葉で我に返ったらしいお姉様は私を見る。

「お姉様、お忙しいようなら後ででも…」

「あなた以上に優先させる事項などないわ」

一応遠慮をしてみればキッパリと断言される。

やだ、お姉様カッコいい。惚れそう。

危ない道に踏み出しそうなところだったがイオリテールが正気に戻してくれる。いやはや危ない危ない。

「そこでセルリア嬢に提案があるんだけど」

「…なんでしょう?」

「却下するわ」

お姉様はもはや外敵から雛鳥を守る親鳥の様にイオリテールを威嚇する。

「僕とグレース、それからセルリア嬢と…僕の妹のレオーネとの四人で勉強会というのはどうだろう?」

秒でお姉様に拒否された事をなかった事にしてイオリテールはずいぶんと魅力的な提案をしてきた。

しかし何故そんな提案をしてきたのかが分からない。

「イオリテール様だけでなくレオーネ様もですか?

ご本人の都合も聞かずに勝手に約束されるのはいかがなものかと」

「セルリアには私がいれば十分よ」

渡りに船といった提案だがうまい話には裏がある。イオリテールにとってのメリットが見られないので軽く断りを入れる。

お姉様は嫌そうな表情を隠す気もないようだ。…イオリテールの事嫌いなんですか?まぁウザいしね、無理はない。

あ、もしかしてヒロイン目当て?

絶対に呼びませんよ!

「僕はグレースと二人だけの勉強会でも構わないけど?」

チッ、と軽く響く舌打ち。

音の主は隣から。

淑女の見本の様なグレースお姉様の舌打ちとかレアです!

一人の時は分からないが人前では絶対にやらない行為!私の前でも初めてですよ?

なんでこんなにお姉様に嫌われているんですか!

「お断りしますわ、不名誉な噂が立つと困りますもの」

「酷いな、僕は同じ成績優秀者としてお互いの助けになればと思っているのに」

不愉快さを隠さないお姉様と違い、イオリテールは余裕さえ感じられる。

なんだろう、この雰囲気。

すっごく昔に見た覚えがある。

「あなたの軽薄さが私の妹にまで迷惑をかけているのですよ、控えてください」

「僕が?なんのことかな?」

「とぼけないでくださいまし、あの女生徒の事ですわ」

「女生徒?名前を言ってくれないと判断できないよ」

既視感を感じる会話ですね。先ほどの私の返し方と同じです。意趣返しでしょうか?

「私に言わせるおつもりですか?」

「もちろん言わなくても構わないさ。ただ言ってくれないと弁明も出来ない」

当人であるはずの私を置いて交わされる会話に口を挟む事を諦めてイオリテールを観察する事にする。

ヒロインとのイベントは性格改変までは進んでいないはずなのに、この状態という事は…やはり悪役令嬢レオーネ様が関わっているのだろう。

イオリテールはいらないがレオーネ様と会えるというチャンスは逃したくない。

されど一度断った身としては今更やっぱり勉強会したいですとも言えない。

あとイオリテールの狙いが読めないので心情的にも頷くのが怖い。

ただヒロインの情報を得ようという狙いならまだしも、他にも意味があるのかも…と疑えばキリがない。

「僕はただ君と自身を高め合いたいと思っているだけさ。君と僕ならそれが可能だとも思っている。

互いに切磋琢磨して国の礎となろうじゃないか!」


…お前、お姉様狙いかい!


個別ルート七番目、プロポーズの台詞を吐いた悪役令嬢の兄に心の中で盛大に突っ込みを入れた。




ブクマありがとうございます!

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