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48 今日はもう疲れました

仕切り直し

サスケをどう呼ぶか少し迷って“幽霊”と呼ぶ事にした。

“カイ”という名前を呼ぶのは抵抗があるし、妥当なのではないかと思う。

「え~と…話に付いていけないんすけど…」

「カイ様!私と一緒に逃げましょう?」

「嫌っすよ」

自身を指さして首を傾げるサスケに駆け落ちを持ちかけるが即答でフラれるユシル。

「断られたみたいだけど?神様・・?」

そこをすかさず揶揄する。

「まだ好感度が低いから仕方ないんです、これから毎日会えば絶対に私の事が好きになります」

「毎日会うのも嫌っすけど、俺がこんな女を好きになるとかありえないっす」

「そうね、最初はゲームでのカイ様もそういってたわ。…あの時は生徒を好きになるなんてありえないだったけど、カイ様はまだ教師じゃないものね、多少の台詞の変更は仕方ないわ」

心底嫌そうにいうサスケに逆にユシルは歓喜の声を上げる。それ意味合いが違う。

ゲーム上では“生徒”という立場のヒロイン(ユシル)を好きにならないと言ったのだと思うが今はユシル個人を好きにならないと言ったのだ。

もう少し行間を読む能力を身につける事をお勧めする。言葉は言葉通り受け取ってはいけない時もある。

ゲーム情報を口にされたせいでサスケはフリーズし、それを好機とばかりにユシルはサスケに近寄る。

「カイ様のルートは何十回もプレイしたもの、台詞はどっちも覚えているわ。

“あら、先の事はわからないじゃないですか?運命の人はどこで出会うかわからないものですよ”」

私は未プレイだが、今の台詞がゲームでの台詞なのだという事はわかる。

言葉の後半からフリーズが解けたらしいサスケは慌ててユシルから距離を取る。

「あんた気持ち悪いっす!」

嫌悪を通り越して恐怖心が湧きだしたらしいサスケの声は悲鳴じみており、助けを求めるかの様にこちらを見てくる。

「嫌われている様にしか見えないんだけど?」

見たままの事実を伝えれば、台詞が違うとかぼやいていたユシルの視線が再びこちらを向く。

「ちょっと黙っててくれない?これから私とカイ様の愛が深まっていくんだから」

「ないっすよ」

ユシルの主張をすぐさまサスケが否定する事によって気まずい空気が流れる。

「あんたと恋愛関係になんて絶対にならないっす!俺の趣味はもっといいっすよ!」

心からの拒絶にうんうんと納得する。サスケの好みのタイプとか知らないけど。

しかしユシルのメンタルが思っていた以上に強い、フラれても気にしないとか…どうすればいいのか。

私がカイルートのシナリオを知らないのでウッカリとシナリオに沿った行動を取ってしまった場合は助長する未来しか見えない。

助けを求める様にレオーネ様がいる廊下を見るが姿は見えなかった。作戦通りなので文句は言えない。

「まぁユシルとこいつがどうなっても私は知らないけど…」

本当には思ってないから!

そんな捨てられた子犬みたいな目は止めてくれ。

既に良心にナイフがザクザクと刺さってるから。

あまりにもサスケが哀れな表情で見てくるのでやりにくい。これは後で絶対に拗ねる。どうやって機嫌を取ろうか…。

「ユシルが言うにはこいつは暗殺者なのよね?

そんな相手と逃げて未来があるとでも本当に思ってる?

裏切り者として処分されるか、憲兵に捕まるのが落ちでしょ。その時にこいつは当然として…自分にはなんの罪もないとかいって許されると思ってる?

そもそも逃げ切れたとしてもどうやって生活していくつもり?」

「生活費はカイ様の貯えがあるから問題ないわ」

「え?なんで俺の金をこんな女の為に使わなきゃならないんすか?」

ユシルの甘えた意見にごく真っ当な感想をサスケが述べる。

「暗殺者の給料がいくらか知らないけど…一生を働かずに食べていけるほどのお金があるとでも?」

「それくらいの甲斐性はあるわよ」

「人の金に頼らず自分で働くっす」

「そんなカイ様、夫婦のお金は共有財産でしょ?」

「夫婦じゃないというとこからツッコめばいいっすか?」

そんな泣きそうな声を出さないでくれ、私も泣きたくなるから。

「自分で働く気はないとか…ただのお荷物」

「あら?私には溢れんばかりのカイ様への愛があるわ。それで十分じゃない」

「愛だけじゃ生活できないっすよ、そもそもいらないっす…」

サスケは十分に可哀想なのだが逆に興味が湧いてしまう。

「それじゃユシルは何するの?」

「決まってるじゃない、愛をあげるわ」

それは夜の生活的な意味ですかね?

体だけの関係ならそういったお店にいけば十分じゃない?ユシルである必要性がなくない?

衛生観念的に危険な場所はあるだろうけど、現代の日本よりも色々と緩いと思うし。

「気持ち悪いを通り越して怖いっす…」

うん、私も同感です。

可哀想だからもう帰っていいよ…。

視線を寮の方向へと向けて撤退の合図を出せば喜んで従った。あっという間に姿が見えなくなった。

「あ、カイ様、まって…!」

それを追いかけていくユシル。

もうどうしたらいいのかわからない。

本当ならユシルを追いかけて話をするべきなのだろうけど…今日は無理だ。疲れた。

電波の相手ってこんなに疲れるものなのか。

関わらずに済むならそうしたい。しかしそういうわけにもいかない。

アレをどうにかしない限りは私に安息は訪れない。そして来年には続編のヒロインがやってくる…。

ノロノロとレオーネ様が隠れている廊下へと戻る。

「…聞いてました?」

「ええ…」

言葉少なく訊ねれば、苦い顔をして頷く。

「思った以上に手ごわい相手ね…」

「そうですね…」

色々な意味で対応が難しい相手だった。

相手が“攻略キャラ”であり、ここが“ゲーム”だと信じ切っているとはいえ…ああも邪険にされているのに、まだ攻略可能だと思えるのは凄い。これが本当にゲームであればリセットした方が絶対に早い。

それくらいサスケの態度は頑なだった。もはや恐怖心すらユシルに対して抱いている。あの状態での巻き返しは本当に不可能だと思う。大人しく諦めてくれ、サスケの為にも。

「とりあえず、相談しません?」

「そうね、色々と必要よね、情報の整理も含めて」

「私もサスケからちょっと話を聞いてみます」

言い渋るかもしれないが、この件に関しては“命令権”を行使させてもらおう。どうしてうちで働く事になったのか、とか重要そうだ。

「私は… “例の件”の真偽を早急に確かめないとならないから明日一度、実家に戻るわ」

例の件とは“王太子の暗殺”についてに違いない。確かに国の大事に関わる事だしゲームのストーリーに組み込まれているのなら既に裏で企んでいる誰かはいるはず。

レオーネ様の家は学園から一日で往復可能な場所にあるし、学園が休みであれば実家に帰る事に規制はないので週明けまでに戻ってくればいい。事が起きていない今のうちにケオグジヤ侯爵家の情報網を使って怪しいやつが割り出せれば未然に防ぐ事も可能か。

実行に移されるとしたら終盤の可能性が高いので、だいたい一年後くらいかな?

ゲーム上の犯人であるサスケは来年度からの登場らしいから、新入生やその付き人も含めて燻りだす必要もある。

“カイ”と立場をすり替えての登場ならば来年度に着任してくる教師も怪しい。

幸いというべきか、時間的な余裕はまだある。

私は既に回避されたというお姉様の死に付いても心の整理を付けなくてはいけないし、互いの情報を整理する必要もある。

「週明けに私の部屋でまた相談しましょう」

「わかりました」

ケオグジヤ侯爵に報告だけなら翌日には戻ってこれるのに週明けを指定してきたという事はギリギリまで情報が入るか粘るつもりなのだろう。

こちらも調べられる事はないか手を尽くさなくては。

ただ、どうやってその情報を手に入れたのかという説明が大変だ。なんといっても情報源が情報源ユシルだからなぁ。

暗殺を狙っている一派に所属しているわけでもなく、うっかりと立ち聞きしてしまったとかでもない。

ただ()()()()()()()()()()だ。

これが他の人であれば質の悪い冗談で終わってしまうのだが…生憎と起こる可能性の高い事実だと私とレオーネ様は承知している。

国家に関わる事柄なので、ユシルをどうにかしている暇もなくなるかもしれないし。

反対にユシルを味方に付けられれば…気苦労が増すだけだな。

ああ…本当に頭の痛い事になった。




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