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40 怒らせると怖いのです

第二ラウンド開始のゴングを脳内で鳴らしてから、このまま有耶無耶に終わらせようとしていたユシルに話しかける。

「コレンス嬢、私への謝罪はないのですか?」

「え?まだ続けるの?」

騎士の呆けた声に当たり前だろと心の中で答える。私とユシルの間で勃発した話は何一つ終わってない。騎士は自分は関係ないとばかりな態度をとっているが、何故この場に呼ばれたかを思い出せ。

先ほどのテーマを盗用云々はここで発生した新たな問題だ。勿論その件についても謝罪をしてもらいますが。

「え、ええ…。私の勘違いでセルリアに不快な思いをさせてしまったわ、ごめんなさい」

「勘違い…ですか。そもそもどうやってその“勘違い”をしたのか問いたいですね。

私たちの間でシルノイ先生の今回・・の課題の件の話をした事も、今回あなたが考えたテーマについての話題を出した事も一度もないはずですが?」

「それは…セルリアに話したと思い込んでて…」

「それでは私はコレンス嬢の思い込みだけでトレスト卿から謂れのない糾弾を受ける事になり、イエウール卿に肩を掴まれるという乱暴を働かれたという事ですね?」

王弟からは実質的な被害は受けていないので見逃してあげます。既に自分で反省をしている様ですし、侯爵と違って。

「ああ、そういえば!あの時の非礼を詫びては頂けないのでしょうか、トレスト卿?」

「な、さっき謝っただろう!」

思い出したので侯爵に飛び火させればうんざりとした顔を向けられる。

「先ほどの謝罪はテーマの盗用に対してですよね?初対面で、一方的に、何の証拠もなく、糾弾した事に対しての謝罪はまだ受けておりません」

「あ~…もう!わかった、わるかった!これでいいだろ?」

なんでユシルに対してした時の様に丁寧な対応が出来ないのだろう、内容はともかく。どうしてそれで許されると思うのか。

「許しませんが、トレスト卿の為に無駄に時間を浪費するのも嫌ですしもういいですわ」

もっと効果的な時にこのカードは使わせて頂きます。その時に慌てて謝っても遅いからな。

使いどころは思い浮かばないが、お姉様にでも相談すればいい。きっと効果的な方法を考えてくれるだろう。

ああそういえば、さっき騎士に盛大に侮辱されたな。食堂の件は公衆の面前で謝らせたので、ここでは不問にするけどアレは許せない。

「そういえばイエウール卿も先ほど私を侮辱しましたよね?」

「ちょっと、僕まで巻き込まないでくれる」

進んで巻き込まれに来たのは自分です。代価はキッチリと受け取ってもらいましょう。

「つい先ほどあった事ですよ?確か…私がコレンス嬢を利用してイエウール卿に取り入ろうとしているだとか、浅ましい女だとか、散々な言われようでしたわ」

「本当の事だろ、ユシルがそう言ってたんだから」

「あらあら、先ほどトレスト卿に対して言った事をもう一度言わねばならないのでしょうか?

他人の間違いをあげ連ねるだけでなく自身の身に照らし合わせて省みる殊勝さも持ち合わせていないのですね?」

散々、他人の伝聞をそのまま信じるなと侯爵に対して言ってきたのだから、推測ぐらいはしてもいいと思うんですよね、私。今の騎士はユシルの言葉を鵜呑みにして私を非難しているという、侯爵と全く同じ構図だ。

「そもそも何故、私があなた方に取り入ろうとしているという発想になるのでしょうか?

まさか全ての女性があなた方に惹かれて当然とか、その様な事は思っていませんわよね?思っているのだとしたら随分と自惚れが強いと思わざるをえませんわ」

確かにモテるのは認めるところだが、それは家柄と将来性と顔の揃った殿方ならある意味で当たり前の事だ。今は色ボケの本性がバレてきているので最初の頃に比べたら人気も落ちている。

しいていうならイオリテールが相対的に人気が上がったくらいですよ、ライバルの人気が暴落しているのに対し本命(お姉様)がいるからユシルになびかずいた為に下降が緩やかだってだけですが。

「そうそう、私がコレンス嬢に対して酷い事を言った…という事でしたが、具体的に仰ってくださいませ。私が本当にコレンス嬢を侮辱したというのなら謝罪はしますわ。そこの方とは違いますもの」

チラリと侯爵に視線を送る事でバカにするのも忘れない。

「何をもって私がコレンス嬢を虐めていたのか、今、この場で説明してもらえませんか?」

ユシルを虐めた覚えはないが、私が気にしていない行為が傷つけた場合もある。その場合は潔く反省して謝るくらいの度量はあるつもりです。侯爵と違って!

「説明が出来ないのでしたら、その様な事実はなかったと判断せざるをえませんね」

はい、お膳立てはしました。

どうぞ思う存分に私を貶してくださいな、その分を倍にして返してやるから!

心の中で戦闘態勢を整えてから余裕の笑みを浮かべて促しをかける。

咄嗟に全部に反論できるかわからないけど…危なくなった時のフォローはメルーセがしてくれるはずだ。

「自分を虐めていた張本人を前に糾弾しろって?ずいぶんと無茶をいうんだね?」

まあ一理ある。

精神的に恐怖を抱いている人の目の前でなくとも、報復を恐れて離れていても委縮して証言できなくなるというのは十分にありえる反応だ。

「コレンス嬢本人が証言するのが難しいのならイエウール卿が代弁されてはいかがです?

今までに色々と聞いてきたのでしょう?私はそれでも構いません」

「…あんな事をこの場でいえるとでも?」

「あんな事?失礼ながら思い当たるふしが全くありませんので言葉にして頂けなければ判断できませんわ」

内心でどんな事を言ってたのかとドキドキものである。…ただ、恐らく内容を知っているメルーセが止めないので私に大ダメージがくる類のものではないと思う。うちの使用人は(サスケ以外)私に対して過保護なところがあるのでその点は信用している。あと貴族の許容範囲って現代の感覚を持っている私からすると狭そうという偏見もある。

「君が今までの課題をほぼユシルに任せてきた事とか、男爵令嬢だとバカにしてきた事とかだよ!」

「課題をコレンス嬢に任せた事はありませんが、具体的にどの課題の事でしょうか?シルノイ先生の課題の事でしたら前回の“治水”に関する事か…それともその前の“食”に関する事でしょうか?

時間が経っているので忘れている事もあるとは思いますが、その課題について質問されればある程度は答える事はできますわ、それは私が真面目に取り組んでいた証拠にはなりませんか?

また男爵令嬢という身分をバカにする事などありません。

私の父、現オルレンス子爵はその様なものに囚われ優秀な人材を見逃すほど愚かではありませんし、それは娘である私たちにも説いている事ですわ」

この場でいうべき事ではないから言わないが、本人が貴族出身というわけではないのもあって身分の隔たりは緩い方だ。でないとサスケの言動とか許されないでしょ。

あと課題をしてきてないのはユシルの方ですよ、むしろテーマすら覚えているのかも怪しいわ。

「そ、そんなの…返却された課題を読めば…」

「課題に真面目に取り組んでいなかった者が、提出済みの課題の復習をするとでもお思いですか?」

こういってはなんだがシルノイ先生の課題は自由度が高すぎてテスト勉強という意味では役には立たない。

“治水”のテーマも“食”のテーマも、今回の“戦争”のテーマも、学園内よりも領地経営の方に役に立つものだ。

生きる為に“食”は絶対に外せないし、“治水”といっても水害への対応策だけでなく、範囲を広めて逆に水を呼び込む方法なども含まれていた。

“戦争”だってこの国は平和だがお隣はそうでなかったりする。その国と国境に近い領地を持つ者なら決して他人事でも過去の出来事でもない。

そこまで大きなものでなく、例えば野盗の類の討伐などはどこの領地でも外すことなど出来ない問題だ。

農薬とか発展してないので作物の出来は天候や虫害に左右されやすい。どれだけ農民が頑張っても限界はある。

ちょっと作物の出来が悪い年が続けばあっさりと大勢の人が死ぬことだってある。それが国単位で起きれば戦争にだって簡単に発展してしまう。

だからこそ、民はそれに備えてくれる領主を望む。

シルノイ先生は、歴史を学ぶことで備える事の大切さを学ばせようとしているのだと思う。

実際に過去になんらかの被害にあった事のある領地の子は、課題への取り組み具合の真剣さが違かった。そんな生徒からの質問にはシルノイ先生も真面目に答えてたしね。

私は現代の知識があるが、課題をする時に役に立った事は少ない。それを専門に学んできたわけじゃないから大した事を思いつかない。

リスクコントロールの為に作物は一種類だけじゃなく、複数種類を育てた方がいいとか…それくらいだ。

及第点はとれたと思うけど、特に高い評価をもらったわけじゃなかった。

「過去の課題の件についてはシルノイ教諭とも私が話して結論を出すことにする。その時にいくつか質問をする形になるが…構わないな」

「ええ、私は構いません」

「わ、私は…」

即座に頷いた私と違ってユシルは返事を躊躇う。それも仕方のない事だ。課題の殆どは私が書いたものな上、返却された課題もユシルがいらないといったので私が持っている。特に見返したりしなかったけど、内容はユシルよりは頭に残っている。

だから後日に質問だと私が有利に働くんですよね、見返す事が出来るから。でもそれだと反対に私が不利になるともいえる。カンニングしてるのと同義だから。

「僭越ながら申し上げます。その課題でしたら今私が手元に持っております、先ほどの件もあり必要になる事もあるかと思いまして」

「ではベキースタ先生、お手数ですが今いくつか質問をしてください。後日に延ばせばまた私が疑われる余地ができますもの」

うちの出来る使用人メルーセは本当に優秀ですね。

“食”と“治水”に関するレポートを戸惑う王弟に渡し、この場でいくつかの質問をしてもらった。

結果は…いうまでもないだろう。



評価、ブクマありがとうございます!

誤字報告も大変助かります!

少しずつ修正させて頂きます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] "野党の類の討伐"は夜盗・野盗では? [一言] セルリア、今までのストレス発散頑張れ! ヒロインちゃんの前回試験も疑わしい…
[一言] 相変わらずユシル詰んでるなあ……
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