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22 とっさに可愛い悲鳴が出るのは才能ですか?

本気を出した忍者の仕事。


「きゃあぁぁぁぁああっ!」

「うわぁぁぁぁああっっ!」


暗くなり、人も私たち…と司書に扮したメルーセしかいなくなった図書室に二人分の悲鳴が響く。

なお前者がヒロインで後者が私の悲鳴です。とっさに可愛く叫べるとか尊敬する。私は無理だった。というより自分の悲鳴がうわぁな事にちょっと安心した。女性らしくはないだろうがにゃぁよりはマシ。うおぉぉぉ!とかいうのよりマシ。

事あるごとに「にゃ」と悲鳴を上げるキャラにはまったせいで自分の咄嗟の悲鳴が同じく「にゃ」になった事がある。腕とか足とか当たって痛くないのに「いたっ」と言う感覚で「にゃ」と出てきていた時期がある。別な意味で心の中で悲鳴を上げた。人がいなかった事にあんなに感謝した事はなかった。

創作キャラなら可愛くても実際にそんな悲鳴を上げる人物がいたら引く人が多数だろう。私は自分で自分に引いた。

いくら心の中で言ってても口にしたらダメだろう。そして「にゃ」という悲鳴が許される年でも可愛くもなかった。

泣く泣く好きなキャラの妄想をしない様に努めたおかげで無事に悲鳴は「いたっ」に戻った。誰かに聞かれる前で本当に良かったと泣いた。

そして今、自分の本気の悲鳴が「うわぁぁぁぁああ」だと知った。

遊園地でジェットコースターとか乗った時はどうだったかな?古すぎて思い出せないよ…。

「待って、カイ様…!」

恐慌状態に陥ったのは一瞬、ヒロインは直ぐにサスケが扮する幽霊を追いかけていった。ていうか置いてくとか酷くない?

「大丈夫ですかセルリア様」

未だに心臓がバクバクいっている私に声を掛けてくれたのは司書に扮していたメルーセだ。

気遣いが嬉しいのは本当だが。

「…ちょっと本格的すぎない?」

「どうせやるなら徹底的にが我がオルレンス子爵家使用人のモットーです」

「え?初めて知った…」

オルレンス子爵家(うち)のことなのにあるじが知らないこと多すぎない?

サスケはお願いした条件は全て守ってくれた。守ってくれたけど独自解釈でパワーアップもさせていた。

出るのは知っていたのに驚くほどのクオリティを見せてくれた。

まず、出現方法からして予想外だった。

私が考えていたのはジャパニーズホラーの様にいつの間にか画面しかいにおり、見間違いかと思ったら幽霊でした!という落ちかと思ったのに積極的に脅しにかかってきたよ。

直接的に「ばぁ!」みたいなテンションで来るとか誰が想像するというのか…。

急にお化けに扮したスタッフが脅かしに現れるタイプのお化け屋敷は苦手なんだよ。前世ではなぜだか悉くタイミングが悪くお化けが出現するせいで驚いた事ないけど。むしろお化け役の人に謝りたいけど。

そういえば小学生の林間学校の肝だめしの時からそんな傾向があった気がする。

いると思ったのにいないというスタッフに対しての逆ドッキリをしてしまい、出口で気まずい思いをさせてしまった事がある。

うっかりと落とし物に気付いて探しに戻ったせいだ。

やけに靴音が響くと思ったんですよ、スタッフに知らせる為だったんですね本当にごめんなさい。他にお客いなかったし戻ってもいいかな?と魔が差したんですよ。何を落としたか覚えてないけど探し物は無事見つかりました。

その時の罰ですかね?コレ?

前世含めて初のドンピシャのタイミングで「お化け役」に驚かされましたよ。

肩を叩かれて振り向いたら頭から血塗れの男子生徒がいましたからね。

絶対に面白がってやったに違いない。なんで私をターゲットに含めたんだ、狙いはあくまでもヒロインのはずですけど!

顔が見える様にと条件を付けていたので血のりはたっぷりと掛かっていたがグロメイクはされていなかった。本当に良かった。夢に見るところだった。

あの状態のサスケを迷わず追いかけるとかヒロインすげぇなと感心する。

「ユシル追いかけていったけど…サスケ大丈夫かな?」

「あんな小娘に追いつかれる様なら首ですね」

メルーセがサスケにもヒロインにも辛辣です。それともサスケに対しては信頼の裏返しでしょうか?

「セルリア様をこんなに驚かせるなんて…サスケには後でお仕置きを、いえ教育的指導をしておきます」

「ほどほどでお願い」

どうやらサスケよりメルーセの方が立場が上の様だ。言葉尻が不穏なので一応牽制はしておく。

やり過ぎだとは思うけどおかげでサスケ=カイというのはハッキリしたし。

「戻られるならお送りしますがどうされますか?」

「ユシルを置いて帰るわけにはいかないし…もう少しして戻ってこなかったら探しにいくよ」

「なら私が行きましょうか?」

「やめて」

今回の幽霊はでっち上げだが、今ここに一人で残されるとか怖すぎて無理。お化け屋敷は平気でも心霊スポット巡りはできないタイプなんですよ。お化け屋敷は歩けば出口は近づいてきますからね。

探しに行く時もできればメルーセに同行して欲しいくらいなのに。

「セルリア様、目的は達しましたし“幽霊の噂”は収束させてもよろしいですか?」

私の意志を汲みこの場に残ってくれるメルーセは次の指示を仰いでくる。

「あまり騒ぎが大きくなっても困るしね、そうしてくれる?」

「かしこまりました」

サスケと違いメルーセはちゃんと私を“主”として扱ってくれる。しかしそれ故に距離があるのも感じ、少なくとも私にはサスケの様な接し方をしてくれる人の方があっている。

気安く話す事が出来る人とか大事だよね、口だって堅いが私より命令権が上の相手には情報を売るので知られたくない事は話せないが。

メルーセと話していたからか大分恐怖が薄らいできた。

これならヒロインを探しにいける。

「メルーセ、私はこれからユシルを探しに行くから…」

「その必要はありません」

戻ってきたなら待つように言ってくれるかと伝言を頼もうとしたのだが、言わないうちに断られてしまう。

「あの小娘!一人で寮に戻った様です…!」

珍しく語気を荒げるメルーセにヒロイン酷くね?と普通に思えた。

メルーセが怒ってくれなければ私が怒っていたところだ。

「寮までは私がセルリア様を送らせて頂きます」

有無を言わさず宣言するとドアのところまでエスコートされる。

「あ、待って、血のりが…」

サスケが被っていた血のりが一部乾いていなかったらしく、滴り落ちたのか量は多くはないが床を汚してしまっている。このまま放って置けば明日は騒ぎになってしまう。

「後でサスケに拭かせますからご心配なく」

…じゃあいいかな。

こっちもそろそろ帰らないと見回りの時間になってしまうし。

図書室を閉める準備は終わっていたらしく、司書の代理人としても退勤して問題のない時間。

ドアの鍵を施錠したメルーセは言葉通りに寮まで送ってくれるらしい。

「ねえメルーセ、どうしてヒ…、ユシルが戻った事がわかったの?」

「小娘の動向を見張らせていたものからの連絡がありました」

え?いつ?

誰かが伝えに来たりとかなかったよね?

え?テレパシーでも受信しているの?

そもそもこの悪戯いたずらに何人体制で臨んだのだろうか?別にサスケがちょこっと顔見せるだけでも良かったんだよ?

オルレンス子爵家から正式な手続きを踏んで学園に常駐しているのは私付きのサスケとお姉様付きのメルーセだけだ。臨時とかであと一人か二人なら一日くらいは滞在できるだろうけど。

「え~と…私の我儘に付き合わせてごめんね」

「とんでもない!」

思ってた以上の大規模企画に軽々しく頼むのではなかったと反省すれば、メルーセの足が止まった。

「あの小娘は前から気に入らなかったのです。私たちのセルリア様への無礼の数々!許可さえ頂ければ今すぐ排除するものを!」

排除って物騒だな、具体的にはどうするつもりなのだろうか?

退校処分にするのか同室を解除するのか、まさかさすがに始末って意味じゃないよね?排除っていってるし。

みんなセルリアの事好きすぎない?そこまで好かれる様な事はしてないですよ、私。

オルレンス子爵家(うち)に対する忠誠心が高すぎる。そしてメルーセでもヒロインの事は小娘呼びなんですね、サスケよりはマシだけど。


私が部屋に戻ると明らかに忘れていたといった表情をしたヒロインが白々しく「無事で良かった、心配したのよ。急な事で混乱しちゃって…」と言い訳をしてくる。

「まぁ、それはいいよ」

既に私からヒロインへの好感度はマイナスになっているので今更さらに下がってもある意味で変化はない。

「それより…さっき言ってた“カイ様”って誰?ユシル幽霊と知り合いなの?」

でもこれくらいの意地悪は許されると思わない?




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