21 でっち上げ幽霊騒動
優秀すぎる使用人が初登場します。
(フラグが立ったので)直ぐにでも幽霊を確認しに行こうとするヒロインを説得して三日後に実行する事になった。
なぜ三日後かというと翌日が休日に当たる為だ。
週末だけは就寝時間が一時間遅くなる。
つまりは点呼も寮母による見回りもいつもより一時間遅い時間に実行される。
それなら帰りが遅くなってもペナルティは避けられるといえば渋々ながら納得してくれた。あるいはイベント発生条件に曜日も入っていると解釈したのかもしれない。
どっちにしろ私がいなきゃ絶対に発生しないイベントですからね、三日後以外は同席しないといえば諦めるしかない。…諦めきれずに今日も幽霊の出現場所巡りをしているみたいですが。
まずはレオーネ様に三日後に決行予定と報告してから裏庭にて忍者を呼び出し、ついでにヒロインに語る為の怪談話を収集していく。
オカルトを嗜んでいるのは本当だけれど、私が知っている怪談は全て前世のもの。
それを披露するわけにはいかず、新しくこの世界でよくされている類の怪談を仕入れる必要があった。
とはいえそこまでパターンが変わるわけではない。
タクシーの怪談で良くある乗客が目的地についたらいなくなっていた。とかいうものはタクシーを乗合馬車に変更すれば普通にあるみたいだった。
タクシーより飛び降りやすいだろうなと無賃乗車を疑ってみる。
他は今回の様に現世に未練が残っていそうな幽霊の出没と、愛人が自分を捨てた男を恨んで正妻と子供を呪い殺す~とか定番だった。
「今回は一応、実家に呼び戻された学生が不慮の事故で亡くなってまだ勉強したかったと学園に出没する…というものをベースにしたっす」
確かにありそうな話だな。
「噂の尾ひれの付き具合と流れる速さは予想を超えていたっす」
寮暮らしだと娯楽が少ないからね。
ファンタジー学園物で多い“学園都市”とかここにはない。隔離はされているけれど休日や放課後なら普通に市内に行く事も可能。
だが手続きが面倒なので大人しく学園内で過ごしているものは多い。
不審者の侵入を防ぐ為とはいえ学園の敷地を出入りするのには門番による身分証明書の確認が必要だったりするので、これを毎回朝と放課後とかに行っていたら混雑必須である。
特に今年度は王族――しかも王太子が通っているからね、例年よりチェックが厳しいそうだ。
学園内にいると外から入ってくる情報も限りがある。新聞の様なものはあるけれど、主に政治や経済のお堅い記事が多く〇〇が今は人気!とかいう娯楽記事は少ない。
私の様に実家が遠い者が大多数な事から、通える距離に住んでいるものも例外なく寮生活を送る様にと決まっている。例外は偶にあるけれど王族ですらその規則に従っている。本人は学園生活中は羽目が外せる…と喜んでいました。
「なるほど…ユシルには他の派生バージョンも話しておくね」
どこから聞いたの?と聞かれた時の為に今日は頑張ってクラスメイトの令嬢に幽霊話を振りました。
普段はあまり自分から話しかけないからビックリされたけど思ったよりフレンドリーに話せました。これからはもっと話しかけてボッチを卒業するのも手ですね。
最も今はヒロインの見張りで無理ですけどね。
ゲーム上の大きなイベントは後は卒業パーティー(ヒロインも攻略キャラも誰も卒業しないが名目上)が残っている。
それも王太子ルートの時だけ悪役令嬢断罪パーティーと名前を変える。
ヒロインが正妃になるには婚約者であり上位貴族である悪役令嬢を蹴落とす必要があるからね、他の個別ルートでは必要なくとも王太子ルートでは必須のイベント。
後は悪役令嬢の兄のルートでも悪役令嬢は修道院送りになるが、こちらはさすがに身内だからか卒業パーティーでの断罪はない。
自分の家で行われる。
個別ルートなら今の時期は全てのイベントが消化されていても可笑しくないし、特に王太子を狙ってないのならレオーネ様に被害が及ぶ恐れもないので何もせずにいられるというのに…。
ボッチ卒業は早くて来年かな~。
ちょっと悲しくなったが、来年になったらヒロインとの同室も解消される可能性がある。前回のテストで十位以内に入ったヒロインは後期のテストでも好成績を取れば、来年は成績上位者のクラスに入る可能性が高く、そうしたら一人部屋だ。
私は前回の成績が良かっただけで成績上位者のクラスに入れるほど頭は良くないし、平和な一年が過ごせるならむしろ入れなくていい。授業に付いていくのも大変そうだし。
「じゃあ決行は三日後の放課後っすね、場所はどの辺りにするっすか?」
「図書室とかは?」
図書室は一階にあるし棚があるので見晴らしが良くない。
一瞬姿を見せて逃げるには障害物が多くていいんじゃないかな?
「ふむ…ではルートの検討をしておくっす」
「こっちの歩くルートとかは?」
「アバズレが決められた通りに動くとは思えないので適当でいいっすよ、巻くのは簡単っすし」
言い分には頷けるがもう少し言い方を考えて欲しい。それでは私が無能だと言っているも同じだ。否定できないが。上手く図書室に誘導できるかも不安だが。
ただヒロインはこのイベントは私主導で進んでいくと思っている様なので誘導は比較的に楽かもしれない。図書室がお薦め!とかいえばいい。勉強したりなくて出現する幽霊なら設定に矛盾もないし。
打ち合わせも終わったので、今日は戻る事にした。
ヒロインよりかは早く帰らないとね、あんまり遅く戻って怪しまれたくない。
今日は門限前に帰ってきたヒロインにさっそく仕入れた噂を披露する。
「で、私としては図書室にでると思うんだけど、ユシルはどう思う?」
最後にそう結べばどこか上の空で話を聞いていたヒロインが頷いたがそれだけだ。
続編でのサスケがどんな役で出ているのかわからないが年齢的に生徒ではないと思う。そもそも幽霊でもない生きた人間だ。だから幽霊のバックグラウンドに興味がないのはわかるが、もう少し身はいれてもよいのでは?
「気乗りしない?…怖いなら私一人でもいいけど?」
「何言ってるの!?私がいかないとイベント発生しないでしょ!?」
ちょっとした意地悪で言ってみたのだが思った以上に不興を買ったようだ。確かにヒロインがいかなきゃ発生しないイベントですけどね。
「いべんと?はっせい?なにそれ、どういう意味?ユシルもしかして私が知らない幽霊の出現する理由とか知ってるの?」
不穏な台詞は流し、自分が掴んでいない情報をどうやって掴んだのかと問いかける。
「あ~…、ううん、見られるといいな~と思って。それにセルリアだけ行かせるわけないでしょ?危ない幽霊かもしれないんだから」
誤魔化し方が雑ですね、まあツッコミはいれませんが。こちらも人の事はいえないので。
「ありがとうユシル」
「当日はまず図書室に行ってみましょう?」
機嫌を取るつもりか手を取って微笑まれながら言われたそれに、これがレオーネ様だったらなぁ~と失礼な事を思いながら頷く。
いくら顔が可愛くても中身が転生者だと思うと萌えられない。
同じ転生者でもレオーネ様なら萌えられただろうに。何が違うのだろうか?あざとさ?
たぶん好感度だね、と結論を出した。
そして迎えた当日。
授業も終わった放課後。
放課後デートに誘いにきた王太子を断ったヒロインは辺りをざわつかせながら私の席に来る。
「セルリア、行きましょう」
「…うん」
こんな目立つような真似はして欲しくなかった。
ゲームの時といい、ほんとタイミングが悪い時に来るよねこの王太子。
芸術祭の時のデートもサスケをヒロインが見つけた事で台無しになったみたいだし。
本命が姿を現したからかヒロインは攻略の終えていない王太子も虫も眼中にないようだった。
なお王太子は「友達との先約がありますので」というヒロインの言葉に大人しく去っていった。
それなら仕方ないねと爽やかな笑みを浮かべた王太子の声は初めて聴きました。今までは声が聞こえないくらいの距離までしか接近してなかったからね。
なんとなく声の感じが違う気がするのはここが現実だからかブランクのせいか。
ゲームではもう少し高めの声だったような?
虫の声に違和感は持たなかったんだけどな〜。
あ、立場があるからか王太子が教室までくるのは(現実では)さすがに今日が初めてでした。
いつもはゲーム仕様で帰宅途中で出会ってたみたいです。
「ユシル、いいの?」
「いいのよ、こっちが先約だったんだから」
手を取られ鬼気迫る表情で歩くヒロインを避ける様に生徒が道を開ける。
逃げない様にか手を取られているのでバッチリ私にも注目が集まります。…また週明けから避けられるのかな?
せっかくクラスメイトとの溝が少しだけ埋まっていたというのに。
早足で図書室まで移動した為にちょっとだけ息が乱れる。私以上に運動に慣れていないヒロインは肩で息をしていた。
図書室に来た事はあまりない。だが幽霊騒ぎのせいか人はまばらだ。
いつもであれば机で勉強している生徒も一定数は見られるのだろうが今はいなかった。図書の貸し出しを終えると直ぐに帰ってしまうらしい。
ただ司書のお姉さんはそうはいかないらしく貸し出しカウンターに座って生徒の対応をしていた。
「幽霊が出るのは暗くなってからみたいだから…本でも読んでる?」
「あの人初めてみる人ね。私、ちょっと聞いてくる…」
時間を潰そうと提案する私を置いてヒロインは真っすぐにカウンターに向かってしまう。それを追いかけて気付いた。司書のお姉さんオルレンス子爵家の使用人では?より具体的にいうとお姉様付きのメルーセでは?
「次の方どうぞ」
化粧のせいかいつもと雰囲気が違い過ぎて自信がなかったが声を聞いて確信した。
ヒロインも数度メルーセと会った事があるのだが気づいていない様だ。…私でさえ直ぐには確信が持てなかったしね、仕方ない。
「あの…」
「はい、何かお探しの本でもございますか?」
柔らかく、けれど事務的な問いかけにヒロインはズバリと聞いた。
「ここに幽霊が出ると聞いたのですが、見た事はありますか?」
「ああ…確かにそういう噂が立っている様ですね、あいにく私は見た事がないですけど」
「私、最近はよく図書室に来るのですが初めて見る方ですね?」
「まぁ、いつもご利用ありがとうございます。…実はその幽霊の噂話のせいか体調を崩した方がおり、私はその方が治るまでの代理なんです」
「…そうですか、ありがとうございます」
聞くだけ聞いて去るヒロインをまたしても追いかける途中、司書のお姉さんへと目をやれば…ウィンクをされました。胸が痛いです。撃ち抜かれました。
魅力的なウィンクは才能だと思います。さすがオルレンス子爵家の使用人です。
どこまで優秀なんですか?そして元の司書の人の体調がなぜ悪いのかが気になります。直接的な何かはしてないと信じてます。きっと遠恋中の恋人とのデートにでも行ってるんだよ。仕事があるから会えない…って嘆いているとこ見て代わってあげたんだよ。
本来の司書に恋人がいるのかどうかも知らないけど。
評価、ブクマありがとうございます!




