2 前世を思い出しても何もできません
二話目になります。
前世の記憶を思い出したきっかけ。
私が前世でプレイしていたゲームに良く似た世界に転生していると気づいたのは十歳くらいの時だった。
一番上の姉が長期休暇で学園から屋敷に帰って来た時に色々と学園の事を話してくれて、私と一つ上の姉が学園に通う時には王太子も通う時期と重なるから羨ましいと述べた時だった。
一番上の姉から見れば八つも年の離れたお子様だが、近くで王族を見られる機会がある事を純粋に羨ましがっていた。
運が良ければお話も出来るかも!と他人事のノリで二番目の姉と盛り上がってもいた。
ただし、そこで“王太子に見初められちゃうかも!”などという夢見る乙女的な発言はしなかった。
身分不相応、見目麗しく爵位も高い令息令嬢は観賞用である。とはっきりと述べるドライなところがとても大好きな姉である。
尚且つ、まかり間違って見初められるととても困った事になるわね、とリアルな心配もしていた。
我がオルレンス子爵家は一言でいうなら弱小貴族である。とはいっても貧乏というわけではなく、身分相応の領地と財産を持つ有り触れた家だ。
節約せずとも人も雇えるし食事も出来る。
あまり贅沢は出来ないが毎年二着ずつ、グレードを落とせば三、四着のドレスを仕立てるくらいは出来る資産は持っている。
同じドレスを同シーズンで何回も着るわけにはいかず既製品をアレンジして~とか、古いドレスをお直しして~とかの努力をして夜会シーズンを乗り切っている。
ドレスというものは男性のタキシード以上に仕立て代がかかる。
それがピーク時は三人同時に用意しなければならないのだから仕方ない。
上二人と歳が離れているのは我が家にとって僥倖だ。一番お金のかかる時期が重ならなかったのだから。
貴族というだけで庶民からすると勝ち組であるので、不満はない。
ただ、上位貴族に嫁ぐには色々と足りない。
財力も、国の中での権力も。
後ろ盾のない状態で嫁いでも辛い目にあうだけだ。
夜会と同じだよね。
夜会は前世では憧れていたものだけど…一回で十分といえるものだったとこの場では述べておこう。
煌びやかなだけじゃないからね、疲れるだけだよ。
コミュ障には辛いだけの場だ。
なお、上の姉二人はオルレンス子爵家と同等の身分、資産を持っている貴族の家に嫁入りをしている。それぞれに子もおり夫婦仲も良く幸せな結婚生活を送っている。
私も学園を卒業するまでにいい感じの嫁ぎ先を見つけたいものだ。もちろん攻略者はリストには入っていない。
身分相応な相手が希望です。…愛人を持ったら責められるくらいのね!!
我が国では爵位を持っている者なら公然と愛人を持てる制度がある。
王族とか公的に側妃という名の愛人を同じ城に囲っていますからね。まぁ後継ぎは大事なので世の常として制度としては飲み込める。
ただし感情的には無理だ。
爵位によって公式に持てる愛人の数は決まっており最大数の国王が正妃を入れて四人。
もしそれ以上となると誰かを首にしなければならない。そんなことをされれば法律上やむを得ずとはいえ妃側のダメージは当然でかい。
もしも五人目のお嫁さんを迎えるとしたら表向きは側妃ですらなく、その子供が男児だったとしても王位継承権は得られない。
国王以外の王族、公爵、侯爵が最大三人。それ以外が二人までとなっている。
我が家の規模だと正妃になれないのはもちろん、側妃にだってなれるか微妙。
後ろ盾になってくれそうな上位貴族の養女になるというワンクッションも必要になるだろう。
そこまでして側妃になったとしても、所詮は日陰者。国王の愛に縋るしかない。
そこで間違って男児を生んだり、それが正妃よりも早いタイミングだったりしたら貴族同士の派閥争いからの内戦に発展する恐れもある。
そこまでは言い過ぎかもしれないが暗殺に怯える事にはなる。
そこは子供を産まなくても変わらないかな。正妃にとってみれば側妃って邪魔な存在だし。
側妃と正妃では熟せる公務にも差が出てくるし、側妃では出来ない事も沢山ある。
正妃から見れば遊んでるくせに贅沢三昧…に見られてもおかしくないし、そんなの別な意味でも許せない。
贅沢するなら責任もちゃんと果たせよ!と業腹ものだ。
その上で旦那からの愛情も深いとなれば殺意を抱いても仕方ない。
我が家は子爵家なので愛人を一人までなら公的に持てる。が、父親は母親を愛しているので作る事はなく、中年を通り過ぎる年に近づいている今も夫婦の仲が良い。
姉たちのお婿さん候補も他に愛人を持たないという条件で探していたそうだ。
我が家への利益よりも本人である姉たちが幸せになれる相手という基準で選んだというので、父への尊敬は増すばかりだ。
ただ結婚するにあたってその様に条件を出したとしても後継ぎが生まれなければ話は変わってくる。
結婚してしまえばその後の事を考えれば安易に離婚も出来ないので、夫が公然と愛人を作っても許さなければならない。
それを牽制するにはよっぽど嫁の方の家格が高くなければ無理だ。
姉たちの嫁ぎ先はうちと同程度。つまりは結婚した後は何も文句を言えない。
嫁いだ直後は心配したものだが、父が吟味したおかげで相手との相性も良く程なく跡取りとなる息子も生まれているので余所から愛人を勧められる懸念はなくなった。
本人が浮気心をだす可能性は捨てきれないけどね、いい男なら女の方からアピールされる事もあるだろうし。
ただ今のところは両親と同じくそういったトラブルは聞いていない。
私も嫁いだ相手に愛人を持たれたくはない。
閑話休題。
話を元に戻そう。
姉の語る王太子ーーいや、当時はただの王子だったーーの名に既視感を持ったのが最初のきっかけだった。
それはどっかで聞いた事があるなという軽いもの。
自国の王子なのだから聞いていても不思議ではない。
私が興味を持っている様に見えたのか、姉が詳しく王子の様子を説明してくれる。
金髪青い目、女の子と見間違えるほどの美少年で学業だけでなく剣の腕も同年代の中では一番で〜と…今思えばむしろ惚れさせようとしていないか?と疑うほどに王子を褒めちぎっていた姉。
そしてその側近候補となった上位貴族の令息たち。
それらもビシビシと既視感を煽った。
全員の名前を聞いた事があると。
上位貴族だけあり、どの家名も子供の私でも知っているものだった。
なのに引っかかるのは名前の方で、加えて金、赤、黒、青…という色が頭の中に浮かぶ。
なんだこれ?
段々と痛み出した頭を捻りより鮮明にイメージしようとするが上手くいかなかった。
私と一つ上の姉が王子に興味津々な様子を見て一番上の姉はニンマリと笑い一枚の絵を取り出し見せる。
適度にデフォルトされたその絵は私の眠っていた記憶を呼び覚ます呼び水となった。
当時の私と同じくらいの少年のブロマイドはずっと昔に見た事があったものだ。
ヒロインがボロボロになった絵を、描かれた本人に見せているスチルが頭の中に浮かぶ。
街で売られている王族のブロマイド。
ヒロインはお小遣いを頑張って貯めて買ったのだと告白する。
頑張るためのお守りだったのだと、このお守りのおかげでどんなに辛い事があっても耐える事が出来たのだと語る。
そんなヒロインの健気さと一途さに王子はヒロインとの愛を貫くと決めるのだ。
パァッと頭の中にテレビの画面越しの映像が浮かぶ。コントローラーを握った自分の手元まで見えたのでそれが何か直ぐにわかった。
と同時に今の自分がゲームの中でのヒロインの友達兼お助けキャラだという事まで理解できた。
マジかよ!
頭の中を埋めるのはこの言葉だけ。
悪役令嬢でもヒロインでもなくお助けキャラかよ、攻略相手の好みから現在の好感度をなぜか知っている便利キャラ。
便利に使われた後はエピローグでも台詞一つないキャラじゃないか…。
作中で親友扱いしてたんだから結婚式くらい呼んでやれよ!
ヒロインを責めるべきか、シナリオライターを責めるべきか悩むところだ。
唐突に戻った前世の記憶の容量に耐えられるはずもなく、鼻血を出して失神したのは黒歴史だ。
鼻血を出したせいで私が王子に一目惚れした事になり以降私が喜ぶからと王子のブロマイドや動向の調査がお土産の鉄板となったのは悲しい。
節度を弁えているなら憧れるのは自由という大らかな我が家の教育方針を恨めしく思ったのは初めてですよ。
まぁ、そのおかげで色々とわかった事もあるけどね。
あとゲームで私がやけに情報通だった理由も同時に察した。
家族ぐるみで情報を集めてくれれば詳しくもなるわ、王太子だけでなく他の攻略キャラの情報もついでにと色々と教えてくれたからね。
王太子の側にいる事の多い、見目麗しい人という基準らしい。
そのわりには第二王子は無視だった。…顔が良くないのだろうか?と不敬な想像をしてしまう。
しかしセルリアよ、自分でも王太子たちに憧れていたのにヒロインにあんなに協力的だったのか、良い子すぎない?
一度会いたかったなぁ…と今は自分がセルリアという事実を残念に思った。
さて、記憶が戻ってするべき事は他に転生者はいないのか?ということ。
前世で読み漁った話の中では悪役令嬢に転生したりヒロインに転生したりと色々とパターンがあった。
特に悪役令嬢が主役でヒロインも転生者だとしたらゲーム知識を使い逆ハーに持っていこうとして、前世知識によって既に悪役令嬢に攻略され返り討ちになっているパターンが多かった。
悪役令嬢の方は死亡フラグをへし折ってるだけで完全無自覚に攻略しているのがミソだ。
先に天然に攻略されていれば後から養殖に攻略される事はあるまい。
そしてゲーム時間の前に攻略済みになっているせいかゲームとの性格にずれがあるのもパターンだった。
まず私が知りたいのは悪役令嬢とヒロインが転生者であるのか?
そうだった場合の目的は何か。ということ。
王都から遠く離れた我が家からだと攻略キャラや悪役令嬢と会うのは無理。そもそも身分的にも一緒の夜会に参加する事すら稀。
ヒロインの方は知名度が無さ過ぎて調べられない。
愛人の娘であるヒロインは今は表舞台に立てないからね。
ただ、悪役令嬢の方は探る方法が一つある。
それは不確かなものだけど目安くらいにはなる。
ズバリ、王太子と婚約を結ぶかどうか。
破滅への一歩である王太子との婚約。
悪役令嬢が転生者であるならまず避けたいところ。
王族と上位貴族との婚約は政略的な意味合いも強く令嬢一人の希望でどうにかなるものではないが、学園に入学するまでフリー、もしくは別な人と婚約していたら悪役令嬢サイドに転生者がいる確率は上がる。
その可能性が高ければ入学後に接触し、相手の本心を探って…場合によっては協力。
あとゲーム通りに進めばヒロインとは同室になるので転生者であればその子の目的によっては妨害しよう。
もしもヒロインが中身もゲーム通りだったら傍観してればいい。
一人で勝手にフラグを立て進行していくだろうから、私はゲーム通りに“親友”として振舞おう。ゲームほどは活躍できないと思いますが。
これからの方針を決めてしまえば十歳の私に出来る事なんてもう一つもなかった。
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