表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/92

17 サスケと“カイ”

芸術祭後の最初の作戦会議。

いつもの様に人がいないのを確認して決められた時間にレオーネ様の部屋をノックし名前を呼ぶ。気分は忍者です。もしくはスパイ。

「入って」

ノックの相手が私だと知っているからか自ら開けてくれました感激です。

素早く部屋の中に入り、勧められた椅子に座る。

小さなテーブルの上にはティーセットが揃っている、今日の茶菓子も大変美味しそうです。

「芸術祭お疲れ様」

「レオーネ様もお疲れ様です。それで…絵は見ました?」

お菓子が気になりつつも忘れないうちに本題に入る。

「ええ、まだ下書き…といった感じだったけれど、あの絵がどうかして?」

「あの絵に描かれていた人物ですけど、うちの使用人に似ている気がしまして」

「それは…本当なの?」

「はい、お姉様にも確認してもらいました」

レオーネ様と会った後、焦る気持ちを抑えながらお姉様にも見てもらったのだ――サスケに似ているかどうかの確認の為に。

絵自体が詳細なものではないので、ちゃんとした判断が出来たとは思えない。

ただ先入観を与えない様にはした。

最初に絵を見てもらった後に自分からは最初は何も言わない事にしたのだ。出来ればお姉様の方から言ってくれれば確定に近くなったのだろうが。

「これがセルリアのお薦め?」

と首を傾げられてしまった。

仕方なく「誰かに似ている気がするんですが思い出せなくて…」という風に聞いて誘導したのだ。

最初からサスケに似ているといえばそういう風に見えてくるものだ。

暫く考え込んでいたお姉様はやがて「サスケに似ているかもしれない」といったのだ。

他の人物の名前が出てこなかったので多少は可能性が上がったと思う。

後は講堂でヒロインが探していた“カイ”という人物。

あれは後ろに下がっている途中のサスケに向けられたものだったのでは?

“運命の人”とタイトルが付けられた絵がまだ会えない攻略キャラの絵だとして。

ゲームでは好感度が高い方が絵のクオリティは上がる。

逆に言えばヒロインとまだ出会っていない攻略キャラの絵を描いた場合はあんな感じに仕上がるのではないだろうか?

もし本当にサスケだったらヒロインに対しての好感度低いしね、なんせアバズレ呼ばわりを未だにしているのだから。

ヒロインだっていつ前世の記憶が戻ったのか知らないけど、こっちではまだ顔を合わせていないはずだから記憶が曖昧になるのもわかる。

それでも描いて、提出したのは好感度が僅かばかりでも上がるから。

ゲームの仕様になるので効果が本当に出るかは分からないが、出なくても失うものはない。

それならダメ元で挑戦したくなる気持ちも理解できる。

などと一生懸命に考えた推理を披露する。

「でもヒロインが呼んでいた“カイ”という名前ではないのよね?その使用人は?」

あの騒ぎの時にレオーネ様はいなかったが親切・・な人がしっかりとリークしたらしくヒロインの奇行はちゃんと耳に入っている。

因みにデートのお相手は王太子だったらしく、そっちの噂はあまり表沙汰にはされてない。

王太子が振られた形になる噂は立てにくいもんね。

「はいサスケといいます」

「サスケ…珍しい名前ね」

由緒正しすぎて現代でも浮いてる名前ですもんね、そういう微妙な顔になるのもわかります。

「サスケという名前は私が付けたんです。ちょうど前世の記憶を思い出した頃だったので個性的な名前になりました」

「つまり本来のセルリア(・・・・・・・)なら“カイ”と名付けていた…ということ?」

「それか昔に名乗っていた名前か、ですね」

「それまでは何て名乗っていたの?」

「知りません、教えてくれなかったので」

何度か聞いた事があるがもう使わない名前だからと教えてくれなかった。嫌な思い出でもあるのかも…とあまりしつこく聞くのも悪い気がしてほどほどで切り上げた。

「そう…あなたからは何かヒロインやそのサスケさんに訊ねた?」

「いいえ、なんて聞けばいいのかわかりませんでしたし。ヒロインは珍しく憔悴した様子だったので見守ってました」

「その時に“カイ”という名を出せば何か漏らしたかもしれないのに…」

ぐっ、役立たずですみません。

ポツリと漏らされた言葉がグサリと胸に刺さる。

確かに私はヒロインが“カイ”という人物を探していた現場に居合わせたのだし、誰を探していたのかくらいは聞けるタイミングではあった。

「いいえ…やっぱり聞かなかったのは正解ね」

心の中で反省しているとレオーネ様は自分の意見を翻した。

「そのサスケさんに頼んでワザとヒロインの視界に入ってもらいなさい、ただし接触は避けること。

その時のヒロインの反応でそのサスケさんとヒロインが“カイ”と呼ぶ人物と同一人物かどうかわかるでしょ?」

おお、なるほど。

さすがレオーネ様です。

私の失態を逆にチャンスに変えるとか見事です。

「問題はサスケに命令するとグレースお姉様に全て筒抜けになる事ですね」

別に命令をするくらいなら直ぐにでも出来るし、今言った事くらいはサスケも実行に移してくれるだろう。

けど後でグレースお姉様にどうしてそんな事をしたのかと聞かれた場合の言い訳は先に考えておかないと絶対にボロが出る。

私アドリブに弱いんですよ。

「…そっちの方が難易度高そうね」

頭を抱えるレオーネ様はグレースお姉様の実力を良くわかっている。

「いいわ、そっちの方の理由は考えておくから実行は先延ばしにしましょう」

「私も考えますね」

「期待しているわ」

社交辞令感が強いですね、こうなればレオーネ様よりナイスな言い訳を考えましょう。

「出来れば私もサスケさんの顔を確認しておきたいのだけど、出来れば早いうちに」

早くしないと絵の記憶も薄れますしね。

あ、提出した絵画は点数を付けられて返却されています。あの絵を誰が描いたのかは結局判明しませんでした。

ヒロインはどうやら複数枚提出してたみたいでドサッと返却されましたからね、小さな絵だったし確認できなかった。

「でもレオーネ様、サスケは見知らぬ人の前には姿を現さないと思うんですよ」

レオーネ様が側にいたら呼んでも出てこないと思う。試した事がないので出てくるかもしれないけど。

名前を呼んで出てこなくとも、忍者の様に出現されても私の噂が更に面白い事になるだけだ。

「どこの野良猫かしら?」

「どちらかといえば犬ですよ、大型犬ですね」

呆れた表情をするレオーネ様にペット扱いで答える。

警戒心が強いところは猫っぽいけどサスケを動物に例えるなら犬しかないと思ってる。

本人が不満に思ってないようなのでいいのです。

「前もって逃げない様に言っても無理かしら?」

「私の命令なら聞きますよ、命令遵守権は一番下みたいですけど」

「なるほど犬ね」

レオーネ様もうっかりと納得してしまう。

大変です、レオーネ様が段々とオルレンス子爵家の常識に毒されてきています。

「それで…命令したならグレース様に報告がいくのよね?」

「いきますね」

事実なので頷けば、レオーネ様はまたもや溜息一つ。

「そう…ならこうしましょう」

「はい?」

「あなたご自慢の使用人を友達である私に紹介をしてくださらない?

そしてその使用人がどれほど優秀なのか知りたいから…そうね、ユシル・ミラ・コレンス男爵令嬢の前に幽霊のフリをして現れてくれないかしら。

あ、疑うわけではないけど証拠は欲しいから、あなたとユシルがいる時に実行してくださいませね?」

やだ、完璧な計画ですね。

レオーネ様がヒロインにちょっとした嫌がらせをしたいと思っても不思議じゃないですもんね。しかも現場に私を居合わせる事で直にヒロインの反応を見る事も出来ます。

後でサスケに報告させるとまた黙秘される可能性もありますしね。

「あなたが紹介してくれた後に私が提案する形をとるわ」

つまりは何も喋るなという事ですね、了解です。

貝の様に黙ってます、任せてください。

私自身も犬気質を発揮して、レオーネ様と一緒に計画を煮詰めていった。


「そういえばあなたの絵はどれだったのかしら?」

「聞かないでください」




評価ブクマありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ