14 ヒロインの本命
レオーネ様とは定期的な作戦会議を開いているのだが有効な一手は思いつかず、続編のキャラ狙いかもと推測を立てただけでヒロインの真意はわからず時だけがどんどん経って行った。
それとなくは探っているんだけどね。
ヒロインに対して誰が本命なの?とか他に好きな人がいるの?とか。
どの問いに対してもヒロインは「な~いしょ」とあざとく笑みを浮かべてはぐらかしてしまう。
大きなイベントは残すところあと二つ。
文化祭ともいえる芸術祭を間近に控えており、生徒は絵画を描くか合唱に参加するかの二択を迫られる。なお個別ルートだとこの時点までにイベントを五番目まで終わらせておかなければならないし、終わらせていてもこのイベントを過ぎないと六番目以降のイベントが解放されない。
ただ逆ハールートは四、五のイベントは最終日までに終わらせおけばいい。
この時点で終わらせてしまうと残りの日数にイベントを見られなくなるからね。する事が好感度調整とステータス上げというつまらないものになってしまう。もちろん見る事も可能だけど。
個別ルートの場合は王太子と侯爵が絵画を選択する事を勧めてくるので、そちらを選択する事で六番目のイベント発生。残りの三人が合唱を選択する事で発生する。
ヒントはあるのでワザと反対を選ばない限りは詰まる事はなく進められるはずだ。…反対を選んだらどうなるか気になってセーブしてから確かめた結果どっちを選んでも同じようにスチルなしのプチデートをしていた。
なんだ同じじゃん、と油断してロードし直すのを忘れた思い出がある。最終的にエンディングまでいってから気付いた。
このゲームはちょっとした罠が多いと思います。
私もヒロインも合唱というクラスメイトとの協力が不可欠な選択は避けたために、同じ絵画のグループに回された。
絵は得意じゃないし、どの様な出来であっても本番で教室に飾られるという苦行が待ち構えている。
一人最低一枚が提出ノルマで、描ける人は飾るスペースがあれば何枚でもというアバウトさ。
「で、セルリア様は何の絵を描くんですか?」
スケッチブックを持ち題材探しという名の散歩をしていた私にサスケが話しかけてくる。人がいないので構わないのですが忍者仕様で突然現れるのは心臓に悪いのでやめて欲しい。
「考えてない。何か簡単なのがいい」
希望を素直に口にするとサスケは徐に下に落ちている小石を拾う。
「じゃあこれとかどうですか、簡単っすよ」
「それを見られる様に描くのは高い技術が要求されると思う」
なんか無難なテーマはないだろうか?
画力が小学生並みの私でも描けるようなもの。
ヒントになるかとゲームでヒロインがどんな絵を描いていたかを思い出す。確か風景画か人物画かを選べた。
風景画の方は無難な感じでおわるのだが、人物画の方はモデルが攻略中のキャラとなりその出来は好感度の高さによって左右される。
好感度が高い方が再現度が高くモデル自身も自分が描かれていると気づける。好感度も上がる。
その場に座り、とりあえず目についたものをデッサンする。
「…セルリア様下手っすね」
「知っているから言わないで」
横から覗いてきたサスケの一言に分かっていた事だがダメージがある。
「なんで絵画にしたんすか?合唱の方が口パクでもしてればいいんだから楽っすよ」
今からでも変えてもらえばどうかと提案してくるサスケに胡乱な目を送る。
「できるとでも?」
「…ああ、セルリア様ボッチですもんね」
ポンっと手を打つサスケに脱力する。
シア様とケイト様のおかげ(たぶん)でクラスメイトの目は優しくなったが、溝が完全に埋まったわけではない。
あの疎外感はちょっと遠慮したい。
「…俺が代わりに描きましょうか?」
「描けるの?」
「セルリア様より上手っすよ」
それは私の下手さがヤバいという事か?
反論は出来ない。
「いい、自分で描く」
サスケの絵のレベルが上手でも下手でも、再現できなければ不正した事がバレる。
これ以上クラスメイトや他の生徒たちに白い目で見られる事は避けたい。
人物画は描く気がしないし、風景画もちょっと辛い。となると…花瓶でも描くか。
過去に授業で描いた事があると思われるものをチョイスする。それならちょっとはマシにかけると思う。
「そうそうセルリア様あのアバズレの事っすけど」
「いいかげんそのアバズレっていうの止めようよ」
「どうしてっすか?」
すっかり定着してしまった呼び方を注意すれば心底不思議そうに返された。
「そういう言葉は聞きたくない」
「セルリア様がそういうなら…〇〇〇の事っすけど」
「悪化してるじゃん!却下っ!」
それならまだアバズレの方がマシだ。
「じゃあ何ならいいと?」
「…ボッチとか?」
「セルリア様それ自分にもダメージくるっすよね?」
咄嗟に出てこなかったんだよ。
しかし図星なためやっぱりやめて欲しい。
数分の無駄な時間を費やした結果、結局戻ってアバズレになった。本当に無駄な時間だった。
「それで?どうしたの?」
「今は王太子と虫にご執心っす。昨日は王太子、今日は虫とデートっすよ」
「へぇ…」
現在のヒロインの攻略状況は今サスケが口にした二人以外は五番目のイベントを終えてしまっている。
後は修了式の日までに残りの二人のイベントを終えて調整に入ればいい。
ヒロインの惚気話もイベントが進まないせいか最近は少し焦りが見られる。
これまでは順調すぎるほど順調に進んでたしね。無理もない。
王太子は四番目のイベントで止まっており虫とのイベントは三番目で止まっている。
虫はフライングしまくって本来七番目のイベントのプロポーズをお姉様に対してしてたからね、ルートが解放されないのかもしれない。
ちょっと複雑な気分だけどこのまま頑張って欲しい。
そして来年改めてお姉様に振られればいい。
「サスケ…」
「なんすか?」
「お姉様の婿候補は見つかった?」
「たぶんまだっす」
「そっかぁ…」
オルレンス子爵家の今後を考えると私かグレースお姉様のどちらかに入り婿を迎えて後を継がせる形になる。
上二人のお姉様は吟味した相手が後継ぎ息子だった為にお嫁にいってしまったからね。自分の息子に後を継がせられない以上は最悪養子でもいいと、お姉様たちの心を優先させた結果だ。
お父様は私たちにも好きにしていいと言ってくださるけど本音としてはどちらかに婿養子を取らせたいのだと思う。
欲をいうなら優秀なグレースお姉様を家に残したいと思ってもいる。
グレースお姉様ならお婿さんを上手にコントロールしてくれるでしょうしね。
ただグレースお姉様の気持ちは尊重したいので上二人と同じ様に後継ぎを好きになってもいいと思う。まだ私がいるし!
「その場合はよっぽど優秀な婿を迎えませんと…」
「心を読まないでくれる?」
間違ってないけどさ!
肌寒くなってきたので寮室へと戻れば既にヒロインが帰っていたのでビックリした。
先ほどまでの私と同じようにスケッチブックを開き何かしらの絵を描いている。
「あらセルリア遅かったのね」
「うん、絵の題材を探してた」
普段のお前ほどじゃないよと心の中で毒づいて、ヒロインは決まったのかと問いかける。
「う~ん…、まだ迷っているんだけど人物画にしようかなって?」
「人物画!?」
「…そんなに驚くようなこと?」
人物画はモデルに選んだ攻略キャラの好感度が僅かながらアップする。
逆ハールートだと好感度が高いキャラが勝手に選択されるのでほぼ選ぶ者はいない。あ、でもここなら自分で選べるしね、未だイベントクリアしていない王太子か虫を選ぶのはありか。
「誰をモデルにするの?」
純粋な興味から訊ねればお得意の「な~いしょ」で返されてしまった。
ただ、チラリと見えた絵は攻略キャラの誰にも似ていなかった。
描きかけのせいかもしれないし、全然違う人物を描いているのかもしれない。
女性ではなさそうだったから…もしかしたら続編のキャラ?
作品としてその人物画を提出するかはわからないので機会があれば見ようとメモしておいた。
ブクマ、評価ありがとうございます!




