13 逆ハールートとヒロインについての考察
ヒロインの本命は?
先ほど引っかかったのは騎士についてだけでなく“続編”のところ。
逆ハールートについて考察していた人は“続編”についても触れていた。
それらを思い出す為にもレオーネ様に問いかける。
「レオーネ様乙女ゲームってどれくらいプレイした事がありますか?」
「あまりなかったわ、仕事が忙しくて時間もとれなかったし」
答えはなくとも良かったが、やはり返ってきた方がまとまりやすい。
「じゃあこういう学園ものの場合の攻略キャラの学年のセオリーって知ってます?」
問いには首を傾げられたので答えを自分で出す。
「プレイ期間が作中での1年間という場合はヒロインの学年は二年生である事が多いんです。
理由としては先輩、後輩、同級生、あと教師…といろんな立場の人との恋愛が疑似体験できるからだと思います」
ファンタジーものの場合は数年単位である職業の一人前になるまでの期間だったり、二年制の学校だったりと色々あるし、現代ものの中には三年間の学園生活を送れるものもある。だが。
「このゲームではヒロインは一年生なので攻略キャラには“後輩”にあたるキャラがいないんですよ」
こういう場合、学園物では高校が舞台だったりすると中等部のキャラがでてきたりするがこの学園に“中等部”にあたる校舎はない。
「ただのコンセプトの違い…という問題では?」
それもないとはいえないが、違う可能性の方が高い。
「レオーネ様、この学園は三年制なんですよ。
にも関わらず攻略キャラは同級生が二人と一つ上の先輩が二人、教師が一人の割り当てなんです」
ここまで言ったところでレオーネ様も勘づくものがあったらしい。
「二つ上…最上級生が含まれていない?」
確認に一つ頷く。
学年を変えた方が物語の幅は広がる。
特に来年は卒業というドラマを盛り込める最上級生が外される要素はない。人数を増やしたくないのなら同級生か一つ上の先輩のどちらかを最上級生へと振り替えればいいだけだ。
「個別ルートのエンドは数年の幅がありますが、学園卒業後の生活に触れてます。
でも逆ハールートだけは数か月後の、学園内での生活が描かれているんです」
私は単純に卒業後も逆ハー状態を維持するのは難しいというだけだと思っていたのだが、もっと深く考えていた人がいた。
「続編、あるいはファンディスクなどで学年が一つ上がった逆ハー後の物語を描いたものが出るのでは?と考察している人がいたんです」
世界観はもちろんヒロインも攻略キャラも同じ場合、劇的な変化をつけるには新規のキャラの投入が楽だ。
古参のキャラは世界観や攻略キャラ、キャストも同じとくればファンなら買う可能性が高いし新規キャラが魅力的ならそれ目当てで購入する人もでてくる。
私はこのゲームの続編なら中古で十分かな、と思うけど(どうせ一か月ほど寝かせるし)特典の内容によっては懲りずに予約するかもしれない。
いくらファンの声優が出演するといっても面白くない(と予想できる)ゲームに五桁の金額は出せない。
マイナーなソフトは単価で稼ぐっていっても、だせる金額の限度はあるんですよ。
なんでもかんでも買えるほどにはお金があるわけではない。
少し待てば半額まで落ちる事だってある。
あ、でもマイナーソフトは出回ってる数が少ないからなかなか値段が下がらないんだよな。それなら特典付くならやはり予約の方がいいのかな?
そうやって結局予約したソフトもいっぱいあるしな~。
「つまり企画段階から続編の予定があったってことかしら?」
「構想があってネタを仕込んでたとしても売り上げが悪ければ続編は難しいですけどね」
「最初から続編を作る前提でシナリオを書いた場合…個別ルートは物語として完成しているから逆ハー後を舞台にするというわけね」
ヒロインと誰かが交際していてもその後を描く方法はいくらでもあるが、恋愛ゲームの場合は決まった相手がいては略奪愛になってしまう。
そういうコンセプトのゲームはあってもいいとは思うが、このゲームのコンセプトとは合わない。
身分違いで反対されるけど真実の愛で乗り越えます。とかいうのがテーマだった。
その“真実の愛”に犠牲にされる悪役令嬢とかいるんですけどね。
「はい、逆ハーエンドは明確な決着がついてないんですよ。いわば延長戦に突入してる状態でヒロインはフリーのままです。一応」
「でも…そういう発表や噂があったわけでもなく、ただの考察なのよね?」
「それなんですけど…レオーネ様は前世の記憶ってどのくらいありますか?」
問いかけにレオーネ様は美しい眉を顰めさせて考えたあと首を横に振った。
「申し訳ないけれどほぼないわ。…働いていたのは覚えているんだけど」
「私もです。前世の記憶の大半はゲームに関係する事で他はかなりぼやけてて思い出せません」
前世の家族構成も、自分が学生だったのか社会人だったのかも思い出せない。
ただカードを使ってゲーム代を払った覚えはあるので社会人だったのだろうなと予想できるだけ。あと学生時代に五桁もするゲームはさすがに買えないと思う。
他に欲しいものがいっぱいあるのだから。
「少し思った事なんですけど、私には続編の知識は出ているかどうかも含めてありません」
「ええ、私もそうよ」
「けどヒロインにはあるかもしれないんですよ」
「…どういうこと?」
レオーネ様と話しているからか段々と考えが形を持ってくる。
「例えば…私とレオーネ様って死んだ時期は同じなんですかね?」
死んだ記憶がないから時期なども確かめようがない。
現時点で思い出せる事を互いに話すより術はない。
「私がゲームをプレイしたのは発売してから一か月後くらいです」
予約をしていたので発売日当日には手に入ったのだが、その時はプレイ途中の他のゲームをクリアするのを優先した。適度に時間を置いた方がガチ勢による攻略情報が潤うと思ったからだ。
結果としてその狙いは当たったので効率的にイベントを進められフルコンプ出来た。
購入のきっかけになった騎士ルートだけは自力攻略したけど、例えば逆ハールートは自力ではエンディングに辿りつけたとは思えない。
エンディングまでの条件を知っていてもセーブとロードを駆使しても辿り着くのに時間がかかったのだから。
フルコンプまでに一か月はかけたとして二か月。下手をしたらその辺りで前世の私が死んでしまった可能性がある。
「私が思い出せる限りでは続編もファンディスクも公式からの発表も匂わせもなかったです」
「…私がプレイしたのは発売してから時間が経ってからだわ、たまたま入ったお店に置いてあって安かったから買ったのだと思う」
発売してからどれくらいかはわからないとのこと。
まぁ興味なければそこまで調べないしね、攻略情報を探している時に〇年前の作品だとかは出てくるかもしれないけどレオーネ様はネタバレ防止に自力プレイ中だったみたいだし。
当然、その時に続編が出てたとしても調べなければ気付けない。
「続編が出てたとして、ヒロインはそちらもプレイした可能性があります」
前作もプレイ済みなのは間違いないけどね、でなきゃ逆ハールートに入るのはほぼ不可能だ。ゲームと違ってやり直しも出来ないのだから。
「そしてその続編に出てくるキャラの方が本命という事かしら?
でもそれなら逆ハールートをクリアする必要はないのでは?」
確かに舞台が一年後になるだけなら待っていてもお目当てのキャラに会える可能性は高い。…会うだけなら。
「今は前作のデータ引継ぎが出来るゲームもありますし、逆ハールートのデータを持っていたら続編の攻略が多少楽になるとか、隠しイベントが見られるとかの特典はあるかもしれません」
そういう仕様なら続編から入った人が前作を購入するきっかけになる。
「ありえなくはない…ってところかしら?」
「はい、どっちにしろ調べる方法はこっちではないですからね」
ハッキリさせるにはヒロインに訊ねるのが一番だが、ヒロインがどういう行動に出るかわからないので今は候補から外す。
でももしも続編のキャラに会いたいという理由で逆ハーエンドを狙っているのなら、その根性には一種の尊敬を覚える。それだけ一途に思えるのは才能だ。
ちょっとだけヒロインの好感度が上がりました。
これからはちょっとだけ優しくしようかなと思えるくらいには。
「それとなく探ってみましょうか?」
個人的な興味も湧いたので聞いてみたのだが目を反らされる。
「…止めといた方がいいわ」
失敗すると思ってますね?
可能性は大ですね、認めます。
攻略キャラの情報を集めたのは私であって私じゃないですからね。
全ては優秀なオルレンス家の使用人が集めた情報ですからね。
事が前世の件となるとその強力なカードが使えなくなるので私自身が動く必要が出てくる。心配になってしまうのも仕方ない。
今回の作戦会議はなかなかに重要な発見をした事だけを進展としてお開きになった。
続編に新規キャラは付き物ですね。
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