11 ここまで来るのが長かった!
悪役令嬢とお話。
レオーネ様の行動は早かった。
勉強会を終えたその日にレオーネ様付きの侍女に呼び出されレオーネ様の寮室へと案内される。
成績優秀者であり上位貴族でもあるレオーネ様は一人部屋が許されている。因みにお姉様も一人部屋だ。いっそこの部屋を使えばいいとも言われたな、そういえば。
侍女がノックをし許可を得てから部屋へと入る。
レオーネ様の部屋を一言でいうなら煌びやか。
お姉様と同じ一人部屋のはずだが心なしか広く感じる。お姉様の部屋よりもものが多そうなのに…。
学園による上位貴族に対する忖度だろうか?と疑いがわくがとりあえず無視。
部屋に置いてある家具一つ見ても高級品だとわかる細工の緻密さ。上位貴族との格差を感じた。
「セルリア様、あなた…」
そこで言いよどんでしまうので、こちらから続ける。
「頭が可笑しくなったと言われるのを承知でいいますね。私は前世の記憶が一部あって日本人でした」
唐突な告白にレオーネ様は少しだけ眉を顰めたけれど、リアクションとしてはそれだけだった。
「信じるわ。因みに私も日本人よ」
ついでため息を吐くように告白をされる。
「それにしてもあなたずいぶんと大胆な事をしたわね」
「レオーネ様と個人的にお会いするのは難しいですからね、機会を逃すわけにはいかないと焦りました。本当はもっと早くコンタクト取りたかったんですよ」
「もっと早くに?」
「ヒロインと初めて会った時に転生者だと気づいたものですから」
「あの子がそうであるというのは私も気付いていたわ」
ですよね~。
余りにもゲーム上のヒロインと性格が違い過ぎる。
「あと逆ハー狙いです」
「でしょうね…」
行動があからさまですもんね、前世知識があれば直ぐに推測は可能か。…あれ?じゃあ私役立たずじゃない?
私が持っている情報は殆どレオーネ様も持っている。ならわざわざ伝える必要はあったのか?
「それで?あなたの狙いは何かしら?」
狙い?
「しいていうならあのヒロインよりもレオーネ様を応援したかっただけです」
「はぁ?」
「だって、誰か一人本命を決めて攻略するならまだしも逆ハーですよ?別にゲーム上であれば構わないですけど、現実でそれはどうかと思うんですよ」
「そう…」
思わず力説してしまう私にレオーネ様が引いているのがわかる。しかし止まれない。
「レオーネ様が転生者だという予測は王太子やむ…イオリテール様との関係性から立ててましたので、もしもレオーネ様が王太子の事が好きなら応援したいと思ったんです。
ヒロインは油断してるのか便利アイテムとしか私のこと認識していないのか、けっこうイベントの進行状況を惚気てくるのでお役に立てるかと!」
「それは…聞かせてくれるかしら?」
やった!役に立てる事があったと全てのイベント状況を報告する。
「え~と王太子とのイベントは今は四つ目まで進んでますね、あと今日のお昼にデートしてるところを見ました。
王弟は五つクリア済みです。順番に攻略していくつもりのようで好感度は上げているけど他は三つ目までです」
「そう…それは貴重な情報をありがとう」
何やら考え込むレオーネ様は美しい。
「あ、あとむイオリテール様がお姉様に好意を抱いている様なのですが諦めてもらえるように説得してください」
狙いというならこれかもしれない。
「ああ…」
今日の勉強会の様子を思い出したのか、納得するレオーネ様。
「それは私からは無理だわ。反対されればより燃え上がるでしょうしね」
心理的にそれはありえる。
皆に祝福されるよりも少しくらい困難な方が意地になり固執しやすい。
「グレース様自身は気にしていないみたいだし…」
「じゃあ権力使って無理やりどうこうしようとしたら邪魔してください」
「それくらいなら…」
妥協案を告げれば頷いてもらえた。
「それで?レオーネ様は今好きな人はいます?」
「なぜいきなりそんな話に?」
「先ほど王太子の件に答えて頂けなかったので」
「少なくとも殿下の事はそういった意味で好きではないわ。…家族愛というのが一番近いでしょうけど。
そういうあなたはどうなの?五人の中で好きな人はいて?」
「騎士様の声以外に興味はないです」
正直に答えたのに胡乱な顔が返される。それでも美人度は変わらないとかちょっと羨ましい。
「もともと騎士様の中の人目当てで買ったゲームだったんですよ、お金を出したからには遊びつくさないと勿体ないと思ってイベントフルコンプしました」
特典CD目的で限定版を新品購入したからね、手痛い出費だったよ。しかも王道ヒロインに王道ストーリーだったから満足度は低かった。
目当ての騎士はイメージと違ったしね。
ビジュアル通りの堅物真面目キャラだった。ギャップなんてなかった。あとキャラデザが好みじゃない。
ガタイの良いタイプより線の細い方がタイプです。細マッチョは可。
ちくしょう、声優の使いどころが分かっていないスタッフだ。
あの声優さん腹黒の方が似合うというのに。
そう、侯爵に起用されていたらもっと楽しめたと思う。
騎士エンドをコンプした時の残念さを思い出す。
堅物設定だから甘い台詞も他の攻略キャラに比べたら少なめだった。もっとバンバンはけよ、出し惜しみすんな。
あと特典CDの出番も少なかった。
最初から分かっていれば中古でも良かったのに…とカードの引き落とし日に思ったものだ。
「それで?好きな人は?」
誤魔化されたという事はいるに違いないと問いかける。
「少なくともあの五人の中にはいないわ」
誤魔化せないと悟ったレオーネ様は今度は答えてくれた、誰だかは伏せていたけれど。
「それは自力で叶いそうな相手ですか?出来る協力ならしますけど」
「ありがとう、でも大丈夫よ」
「そうですか残念です、恋バナトークとか萌え語りとかしたかったんですけどね」
「ヒロインとはしないの?」
「惚気話に自分の自慢を織り込んでくる相手とはちょっと。学校で同じクラスだったとしてもただのクラスメイトで終わるくらいにはタイプが違うので」
あとヒロインは私の話を聞く気がない。せいぜいペットとしか思ってないんじゃない?自分が構いたい時にだけ構うタイプの飼い主だ。
世話は親に任せっきりのくせに自分に懐かない、可愛くないとかいうタイプだ。
「攻略キャラとの進展があったら報告しますけど、他に何か調べて欲しい事とかありますか?
私としては逆ハーエンドを阻止したいと思ってるんですけどね」
具体的な案は何一つないし、阻止したところでどうなるのか知らないけど。
「そうね…実は私王太子のルートしかプレイしてなかったのよね」
「始めたばかりだったんですか?」
「時間がなくて少しずつしか進められなかったの」
じゃあ全イベントコンプ済みの私の知識は役に立つな。
というわけでレオーネ様には私が持つ知識は全て伝え作戦を練ってもらう事にした。
いや~、頭脳担当がついたのは心強い。
ついでというわけではないけれど勉強会の時に浮かんだ「私の順位が上がれば逆ハールートのボーダーも上がるかも~」という考えを伝えたところレオーネ様にもそれはあり得るかもと頷いてもらえました。
それならばと私の成績の底上げをする為に勉強を教わる事になりました。
レオーネ様に教えて貰えるのかと喜んだのも束の間、それぞれの教科を得意とするレオーネ様のお友達の令嬢に教わる事になりました。ちぇっ。
でもさすがというべきかレオーネ様のお友達のレベルは高かった。
レオーネ様の影響かゲームでは頭の悪そうな取り巻きが淑女になってましたからね。
自分や親の立場もあってレオーネ様の取り巻きになったみたいだけど、ちゃ~んとレオーネ様の事を好きな人たちでした。
レオーネ様を心配してヒロインに対しては悪感情しかなかったみたいだけど、そのせいで私に対しても悪感情しかなかったみたいだけど。
最初のうちはチクチクと…いや、けっこう露骨にヒロインに対しての文句を言ってきてたけど。
今では恋バナが出来るくらいには仲良しになれましたよ!脱ボッチ!クラス離れているのでクラス内では依然ボッチですけどね!
でも私のクラスの令嬢とも繋がりがあったらしく、それとなく便宜を図ってくれたらしい。
クラス内での私へと向ける目が心なしか優しくなった気がします。
そして勉強の休憩時間に用意されるお菓子が美味しすぎます。さすがはレオーネ様ほどではないけれど名門のご令嬢!
あ、もしかして今が一番幸せかもしれない。
ブクマありがとうございます!