モテキのお約束(2)女戦士の告白
サイトウはマルガリータ姫に公国の再興を約束した。
もちろん、サイトウは勇者だ。決してマルガリータ姫の捨て身の報酬に目がくらんだわけではない。世界の平和を考えての行動である。
ちなみに結婚の約束は、リッチを倒すまでは2人だけの秘密である。
「明日からリッチ退治だ」(キリッ!)
サイトウは両手を組んで枕にして、そう思わず口に出した。そんな自分がいかにもかっこいいと思ってしまっている。
(さて、リッチ退治はいいけど、ジャスティたちをどうするか。俺一人で乗りこめばそれで終わりだけど、マルガリータちゃんも付いてくると言ってるし、彼女の護衛役もいるよな)
ベッドで仰向けになり、そんなことをぼーっと考えていると、ドアがトントンと鳴る。先ほど、マルガリータ姫と結婚を約束した時間から1時間は経っている。夜中というところであろう。
「誰?」
「ジャスティだけど」
「ジャスティ?」
こんな時間に女戦士の訪問だ。きっと、リッチ退治に連れていけとか、作戦会議だとかだろう。勝気な彼女の態度ならそうに違いない。
「入っていいよ」
そうサイトウが言うと、ジャスティが意外な姿で現れた。白いシーツに包まっている。
「ジャ、ジャスティ……その格好は?」
「ル、ルミイがやっと寝たので来たんだ……その……あの……」
昼間の勢いがなくてなぜだかとてもしおらしいジャスティ。これが妙に可愛い。
「で、な、なんの用なの?」
「そ、それがだな……どうもおかしいのだ」
「おかしい?」
「そ、そうだ……今日の戦闘でケガをしたのかもしれないのだ……」
「ケ、ケガ?」
「そ、そうケガ……かもしれない」
そう顔を赤らめるジャスティ。その意味深な姿にサイトウも心臓がドキドキしてしまう。
「ケ、ケガなら、ルミイの魔法で……痛いの?」
「い、痛いというか……恥ずかしくてルミイには言えないのだ」
「は、恥ずかしいって?」
ジャスティもサイトウのベッドへ上がってくる。先ほどまでマルガリータの匂いがかすかにする部屋に、今度は野性味あふれる褐色の肌を晒すジャスティ。
「お、おまえのことを考えると、なぜだか心臓が痛いんだ」
「し、心臓が痛い????」
「こ、これなんだ。ちょっと、触ってみてくれないか?」
そう言って体に包まったシーツを広げる。なまめかしいシルエットが月明かりに照らし出され、褐色の肌も映える。なんとこの勝気な女戦士は、上半身は生まれたままの姿。そして、ジャスティは固まっているサイトウの手を取って、そっと自分の胸に添えた。
「そ、どうだ、心臓が高鳴っているだろう?」
「あ、ああ……かなりドキドキしているね」
「あ、あの……その……お前に告白したいのだが……」
「は、はい?」
ちょっと声が裏返るサイトウ。先ほどマルガリータ姫に求婚されたばかりなのに、この女戦士の可愛らしくも大胆な行動に頭が真っ白になっている。
「あたしと付き合って」
「???」
「あ、あたしをお前の彼女にしてということだ」
「か、彼女?」
ぐいぐいと迫るジャスティ。今までこんな強引に告白された経験のないサイトウ。いっぱいいっぱいになって、どう返事をしてよいのか分からない。
「なあ、いいだろう?」
サイトウの目を覗く込むようにしたジャスティ。その目は真剣だ。サイトウは思わず頷いた。先ほど、マルガリータ姫の求婚を承諾したことなんか忘れてしまっている。
「わあ、うれしい」
ジャスティは目を閉じた。サイトウは流れに身を任せた。
告白をオッケーしたサイトウ。当面は2人の関係は公表しないということにした。ジャスティが恥ずかしいから、ルミィにはまだ言わないでくれと言ったからだ。