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勇者、振られる

 ハセガワが経営している冒険者パーティは、ハセガワの屋敷を拠点にしている。普段は冒険者ギルドに依頼された仕事を厳選して受けているのだが、ギルドからダンジョンにおける一切の権利を買い取って、自分のパーティだけで独占的に仕事をするということも行ってきた。これは資金力があるパーティが行うことがあったが、ケースとしてはかなりのレアなものであった。

 

  ギルドとしてもどういう利益が発生するか分からないダンジョンの管理を引き受けるよりも、権利を保障することで確実な利益を得られるし、買い取る側はギルドの分け前を払わなくて済む。投資以上の利益があれば、莫大な額になる可能性もあるため、悪い話ではなかった。

 それで最近、ハセガワはとあるダンジョンを買い取ったのだ。金貨1000枚という値段であったが、投資効果はそれなりで最初の2週間で得られた利益は金貨500枚に相当する財宝が見つかっていた。恐らく、今後の細かい調査で投資分以上の利益は得られそうであった。


「第12次調査隊の報告によると、ここに隠し扉があることが判明しました。おそらく、さらに下の階に行ける階段なり、竪穴があると思われます」

「現在、地下の階層は8層。かなりの大きなダンジョンとなります」

「その割にはモンスターが少ないですね。危険が低いわりに実入りがよいのは、いい買い物をしたと思います」


 ハセガワの経営する冒険者パーティのそれぞれの班のリーダーがそう報告する。ハセガワはこれまで調査したパーティがもたらした情報を整理し、詳細に描かれたマップをテーブルに広げて考えている。

「8層の下にどんな世界が広がっているか、楽しみになってきた」

「ハセガワ様、どうでしょうか。たまには自ら視察なさるというのは」

 第1班のリーダーがそうハセガワに提案した。この男はまだ27歳と若いが、15歳の時に加入したパーティによい先輩がいて、剣の基礎をきっちりの学んでいたため、今はかなりうでのよい戦士となっていた。


 名前をアランと言う。体は身長180センチを超える長身で体重も100キロ。たくましい筋肉をもつ男であった。しかも性格もよく、仲間からは尊敬を集めていた。

「そうだな。アランのチームが同行するのなら少し覗いてみようか。3姉妹にも経験を積ませたいからな」

 これはハセガワも以前から思っていたことだ。アランのパーティに自分と護衛侍女の3姉妹。それに剣士の久次郎とレンジャーのジゼルがいれば危なくはないだろう。それにハセガワが自分のために購入した魔法の装備は、このダンジョン程度のモンスターでは太刀打ちできないだろう。

「分かりました。では、さっそく、来週にでも行きましょう」

「うむ。それにしてもアラン。お前、何だかうれしそうだな」

 いつもは真面目に会議に臨むアランの顔がどこかにやついているので、ハセガワはそう尋ねてみた。

「あ、わかりますか?」

 そうアランは答えた。セリフとは別に態度的には、隠しておきたい素振りであったので、どうかと思ったが、それは要らぬ気遣いであった。この男、どうやらハセガワに聞いてほしかったようだ。


「実は、俺、結婚が決まりまして」

(なんだ、のろけかよ)

 ハセガワは聞いた自分を過去に戻って止めたいと思った。アランの話はハセガワにとってはあまり面白くない内容だと思ったからだ。

(リア充、爆発しろかよ)

 そう心の中では叫んだが、ハセガワも冒険者パーティのオーナー。ここは落ち着いたスマートな態度がふさわしい。だが、アランののろけ話はハセガワの心を深くえぐることになる。

「実は花屋の看板娘をゲットしたんですよ!」

「え!」


 ハセガワは凍り付いた。ハセガワ以外のアランのパーティメンバーが話に加わる。アランから事前に聞いていた者もいるし、全く知らないものもいるから、この際、公にしようということらしい。

「花屋さんの看板娘って、フローラさん?」

「やるじゃん。あんな可愛い子を嫁さんって」

「お前、意外と手が早いなあ」

「いや、こいつ手が早いどころじゃないぞ。結婚前に手を付けて来春には赤ちゃんが生まれるって話じゃないか」

 ダンジョンの話よりもアランの結婚に至る話で大いに盛り上がる。彼がフローラを見染めたのは3か月前。ハセガワよりも随分後だ。最初はフローラの方から話しかけてきたらしい。

「最初は俺が身に付けていたマントの刺繍のことを聞いてきてね」

 アランが嬉しそうに話す。刺繍はハセガワが作った冒険者パーティ、梟の巣のマークがデザインされている。それは梟をイメージしたもの。フローラは自分を助けてくれる「青い梟のおじさん」の手がかりになるかもとアランに尋ねたらしい。


 アランは心当たりはないねと答えたが、彼女の話を聞いているうちに親しくなり、ついには結婚に至ったというわけなのである。

「俺はその青の梟おじさんと言う人に感謝したいですよ。俺とフローラをつないでくれた恩人ですよ。ああ、どこかにいるならお礼を言いたい」

 真顔でそんなことを言うアラン。ハセガワは顔の筋肉を引きつらせ、何も考えることができないでいた。

「ハセガワ……大丈夫か」

 気分が悪いと退室したハセガワにそう言ったのはジゼル。彼女も先ほどのアランの話を聞いていたから、ハセガワの大失恋のことを知っている。

「……俺は……振られたのか」

「……それについては訂正した方がいい。ハセガワは告白もしてない。告白しないで振られたなどと言う権利はない」

「うううう……。あいつよりも俺の方がフローラさんと早くに出会っていた」

「恋愛とは早いもの順じゃない」

「……俺の方が金持ちだ」

「金で動く女じゃないから、お主は好きになったのだろう?」

「ううううううう……畜生っううううううううううううううううう」


 自室のベッドで転がり、悔しさをぶつけるハセガワであった。超絶な金持ちでも人の心は動かせない。いや、今回の場合はハセガワがぐずぐずしていたせいだ。そのグズグズが有り余る莫大な富のせいだとしたら、やはり金では人は動かせないということになるのかもしれないが。

「じゃが、お主、まさかと思うが花屋の娘を手に入れるために、アランをどうにかするとか考えないだろうな」

「あ、当たり前だ。そんなことをしたら、俺は男じゃなくなる。彼女の前にどの面下げてでられようか」

「くくく……それを聞いて安心した。お前はやはり勇者だ。神に選ばれし人間だ」


 そうジゼルはいつになく多弁であったが、心の中ではこの状況がいずれハセガワにある決断を迫ることになることを予感していた。

(神は勇者に試練を与える。それにどう対するかでその勇者の運命は決まる)

 ジゼルはこの金持ち勇者に仕えて2年になるが、そろそろ、この勇者とは別れるような気がしていた。


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