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045.落とし前


「ぅおっ!? ゴホッ!? な、なんだッ!?」


 大量の水を頭からぶっかけられた鳴島が、咳き込みながら覚醒する。

 慌てて周りを見渡していたが、俺たちの姿が目に入りいきり立つ。


「てっ、てめぇ!? 柴田!! ぐぅぅイテぇ!?」


 未だ簀巻きにされている状態で無理矢理起きようとするから、つんのめって顔面を強打してしまっている。


 そもそもリボンちゃんにぶん殴られて骨が何本か折れているんだ。

 あんまり無理したら身体に良くないと思うぞ。

 まぁ、声に出して教えてやるつもりは全くないけどね。


「な、なんだよ……これ……あれ? 【天屍】は!?」

「無事に――お前にとっては無事が良いことかどうか分からないけど、まぁ無事に終わったよ」

「ど……どうやってだよ!? お前ごときにどうにかできるモンじゃねぇ!! 俺ですら――」


 ビクリと口を開けたまま次の言葉を紡ぐことが出来なくなる鳴島。


「賢者様。そんなに威圧かけなくても」

「かかか。これは失礼。あまりにも聖皇様に対して無礼であったゆえ」


 視線だけで殺せそうなほどの圧を鳴島にぶつけていた賢者様が、すっと視線をそらす。蛇に睨まれた蛙状態だった鳴島が、威圧感から解放され息を吐き出した。


「ごほっ!? かはっ!? な、なんなんだよ……お前ら……ここはっ!?」


 俺たちは転移によって賢者様の【迷宮ダンジョン】にやって来ていた。

 第三十三階層。ゴツゴツとした岩場ばかりで、草木の緑はほとんどない。空に浮かぶ黒い太陽のせいか、明るいのに暗いという全体的に薄気味悪い階層だ。


「な、なんだよ、ここ……お、オレをどうする気だ!?」

「その前に聞きたいんだけどさ。お前は俺たちをどうする気だったの?」


 少しビビっているんだろう。顔を若干青白くさせながらも、気丈に振る舞おうとする鳴島。


「ど、どうするもこうするも、オレはただ月詠を連れて帰ろうとしただけだ」

「俺に対して死ねって言ってたよな?」

「そ、それは、言葉のアヤってやつで……別に本気じゃ!?」

「じゃあさ。恋唄をあの王女のもとに連れて帰ったらどうなってたと思う?」


 少し逡巡するように口をパクパクさせていたが、賢者様の方をちらりと見やると観念したように目を逸らした。


「そ、そりゃ……もしかしたら酷い目に遭わされるかもしれないけどさ……でも、そうなったオレが絶対に守っていたぜ!?」

「分かってたんだ? じゃあ、お前がどうなっても仕方ないよな?」

「な、なんでだよっ!? 止めろよ!! お前、教師だろ!! 生徒にそんなことして良いと思ってんのかよ!?」


 そんなこととはどんなことを想像しているんだろうか。


「教師に生徒って……この世界に来て、命奪おうとしていて今更そんなの関係ないだろ」

「こ……子どものしたことだろ!? 目くじら立てんなよ!! ムキになるなよッ!!」

「子どものしたことなら、しっかり謝れよ。子どもらしく」

「うぐぅぅ!? なんでお前にそこまで言われなきゃいけねぇんだよ!!」


 自分の非を認め、謝ることすら出来ないのか。

 その姿が哀れで悲しくなるわ。


 そもそも、相手が子どもだろうが女だろうが、そんな小さなこと気にしないよ。特に都合の悪いときだけそういう立場をアピールする奴が大嫌いだ。


「誠心誠意謝ってくるなら考えは変わってたけど、もうこれ以上お前と話すことはないな」

「――ひっ!? やめ、やめて!! 謝る! 謝るからさあ!! ごめんなさいっ、これでいいだろ!?」


 必死に叫ぶ鳴島の額に手を添える。


「いやあああああだあああああああああああああああああっ――」


 断末魔の声を上げ、がくんと電源が切れたように頭を落とした。


「まぁ夢の世界で必死に後悔してこい」


 木洩日との約束もあったから、さすがに命は取らなかった。

 だが、むしろそれ以上の苦痛を与えてやる。


 これから鳴島こいつは目覚めることなく、夢を見続ける。苦しみ続ける悪夢。終わることのない絶望だ。

 その中で自分のしたことをしっかり反省すれば良い。


「儂がしても良かったのですがのう」

「いいえ。これは俺がしないと駄目なことですから」


 後ろで見ていた賢者様が優しくそう言ってくれるが、これは俺なりのけじめだ。

 次元の狭間を開き、ガクガクと震える鳴島を放り投げる。


 俺たちが元の世界に戻るまで、しっかり苦しみながら眠れば良い。

 次に眠りから覚めたら、きっと元の世界だ。


 その時に、正気を保っているかどうかは分からないけどね。

短かったので連続投稿です。

本日は044話も投稿しております。


読んでいただきありがとうございます。

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