044.これから
さて。
これからどうするか。
「木洩日はこれからどうする? お前の力があれば、よほどのことしない限り自由に生きていけると思うけど」
世界が恐れる賢者様やリボンちゃんと同等以上の力をもつ、天屍と呼ばれる【天屍型広域殲滅兵器】という兵器もあるのだ。
この世界にどんな脅威があるかは分からないが、まぁほぼほぼ無敵で生きていけるだろう。
「うたちゃん達は、ここで、生活してるの?」
「うん。先生と一緒に住んでるよ。エルフのみんなや賢者様にリボンちゃん。たくさんの仲間がいて楽しいよ」
『一緒に』というところで、木洩日が豆鉄砲を喰らったような顔で俺を見てきた。
うん、間違いなく誤解してるよね。一緒にと言っても、同じ家で一緒に暮らしているだけだ。そりゃご飯も寝るときも一緒だけど……うん、誤解じゃないか。
でも恋人関係とかそういうのにはまだなっていないぞ。自分で自分を褒めたくなるくらい鉄の意志で、数々の煩悩を打ち破っているのだ。でも、そろそろ負けそうですよ……。
「許されるなら、わたしも、ここにいたい、です」
恋唄が俺の方を見てくる。どうやら、ここの決定権は俺にあるようだ。
「うん、オッケーだよ」
だから快く受け入れる。来る者は俺達に害をなさない限り拒まず、去る者追わず。これがここのルールだ。今決めたけど。
良かったと木洩日と恋唄が喜びあう。きゃいきゃいとしている姿を見れば、こちらも胸がほっこりした。
「で、あの天使ちゃんはどうする?」
「……マスターのそばにいる」
相変わらず無表情のままで、天使少女がぽつりと喋った。
びっくりした。
俺としては天使ちゃんの所有者である木洩日に聞いたつもりだったのに、どうやら天使少女には自我があったようだ。兵器っていう存在が先に来ていたので、意思や自我があることに驚いた。
「ま、マスターって俺のこと?」
「ん」
こくんと頷く天使少女。助けを求めるように木洩日を見る。
「えっと、隷属順位よりも創造者が、優先される、みたいです」
「ん。恋唄も陽咲も守る。でも、マスターといる」
まぁ、恋唄達を守ってくれるっていうなら、むしろありがたいかな。
「じゃあ、よろしくね……えっと、名前は?」
「名前はまだない」
なんでキミまでそんなフレーズを使いたがるのか。
「すみません。名前、決めるの難しくて。先生がつけて、ください」
マジか。俺のネーミングセンスのなさを知らないのか!?
しかし、周りは既に俺の名付けを待っている。え、どうしよう。俺の中で知っている天使の名前はガブリエルとかミカエルとかゴツい名前しかない。天使で兵器と言えばメタトロンとかもあるが、女の子の名前にはほど遠い気がする。
「じゃ、じゃあ……エルで」
天使の名前の語尾にエルが多いからという安直な理由ではないぞ。これには深い由来があるのだ。うん、きっと、多分。
でも、これなら女の子チックな名前だろう。
「ん。了承。わたしはエル」
「よろしくね、エル」
恋唄も天使少女改めエルを歓迎してくれるようだ。めちゃくちゃ派手に攻撃を受けていたけれど、その辺のことは水に流してくれているようだ。俺もヒトのことは言えないけど、受け皿が半端ないな。
恋唄に頭を撫でられて、少しだけ目元が緩まっているように見えた。エルも満更ではないのかもしれない。
「……ん!」
突然エルが両腕を上げ、戦闘モードに入った。
「ご主人様ぁっ! おっまたせ~!!」
手を振りながらこちらに走ってきていたリボンちゃんに向かって、容赦なく魔力弾を発射するエル。
「んぎゃーーーっ!?」
ちゅどーんとリボンちゃんを中心に大爆発が起こる。さらにその余波で畑の一部が吹き飛んでしまう。
どうやらエルはリボンちゃんを敵と見なしてしまったようだ。
「駄目ー!! あれは見かけは魔物でも、仲間なの!! それに畑を壊したら駄目!!」
「……ん、分かった。ごめんなさい」
意外にもエルはしゅんとして、頭を下げた。すぐに戦闘モードを解除する。
素直に謝れるのは良いことだ。
「誰が魔物よ!! ご主人様、ひどいわっ!!」
リボンちゃんが土煙の中から姿を現す。ぷんぷんと怒りながら迫ってくるリボンちゃんだが、爆風で薄汚れてしまったくらいで全くの無傷だ。どうやら先ほどの攻撃は完全に見切っていたようだ。
「ごめんごめん、つい……」
本音が出てしまった。
「かかか。聖皇様、森の修復は終わりましたぞ」
「あ、賢者様。それにリボンちゃんもありがとうございます」
リボンちゃんの後を、賢者様がゆらりとついてきていた。こちらはきちんと結界を張っていたようで、土汚れすら付いていない。
「改めて、今日からここに住むことになった木洩日とエルです。みんな仲良くしようね」
リボンちゃんは木洩日を睨み付ける。その視線にビビる木洩日。
「貴女、ご主人様のことをどう思ってるの?」
「ご、ご主人、様?」
「先生のことだよ」
戸惑う木洩日に、こっそり恋唄がレクチャーする。こうしてご主人様と呼ばれている光景を第三者に見られるのは、結構恥ずかしいものだな。
「先生の、こと? べ、べつに……先生としか」
「そうっ! なら大丈夫ね!! いいわ。歓迎してあげる!!」
なぜかリボンちゃんはバシバシと木洩日の背中を叩き、先ほどとは真逆に笑顔で迎え入れていた。というか、ここはお前の家じゃないんだけどな。それに叩かれた木洩日が吹っ飛んでいってしまっているぞ。
「かかかっ! 【天屍】まで手懐けるとは、さすがは聖皇様ですな!」
賢者様は賢者様で、なぜか俺の評価を上げていた。
「ん?」
そんな喧噪の中、エルがずいっと近寄ってきた。
「わたしの探知機能がいっている。これを食べるべし、と」
見れば爆風で飛ばされてきたトウモロコシを手に持っていた。しっかりと食べ頃まで成長している。
そんなトウモロコシと俺の顔を必死に行き来させているエル。
無表情なはずなのに、感情がもろに伝わってきて少し可愛かった。
「しゃーない。ちょっと待てよ」
【无匣】から深めの鍋を取り出し――緊急時のため、調理道具なども収納してあるのだ――そこに魔術で水を入れる。
ついでに他にも転がってきていたトウモロコシをいくつか回収し、きれいに洗ってから皮をむき鍋に突っ込んだ。
炎熱魔術で鍋を煮立て、ストレージから取り出した塩をパパッと入れしばらく待つ。
その頃には他の面々も俺たちの周りに寄ってきて、トウモロコシが出来上がるのを待っていた。
「はい、どうぞ」
ほくほくのトウモロコシを皆に渡していく。
恐る恐る受け取ったエルは、手際よく食べる恋唄達を参考にしながら残っていた皮をむき、小さな口でぱくりとかぶりついた。
そしてそのまま動きを止めたエル。
「エル?」
「ふおおおおおおおおおっ!!!!」
奇っ怪な叫び声を上げたかと思うと、光速を超える速さでトウモロコシを芯だけにし尽くしてしまった。一粒も残っていない。
というかキャラが崩壊していないか。背中の翼も凄い勢いでバサバサしてるし。まるで犬の尻尾のようだ。
「……こほん。これは神霊の食べもの。おかわりを要求する」
「お、おう」
俺の分として残っていたトウモロコシを渡すと、同じように神速で囓り尽くしてしまった。
「……わたしが守る。この神霊の食べ物を」
「お、おお、そうか……頑張ってくれ……」
「うん」
心なしか頬を紅潮させながら、厳かに宣言するエル。その威圧に俺はただ頷くことしか出来なかった。
さっそく、トウモロコシ畑の守護神となったエルは、崩れた畑を整備しに向かっていった。
「ちょ、ちょっと! アンタ、ワタシはまだおやつ中!?」
無理矢理リボンちゃんが牽き連れられていった。どうやら労働力として当たりを付けられたらしい。すみませんが、よろしくお願いいたします。
さて。
図らずもおやつタイムになってしまっていたが、今回の事件はまだ終わったわけじゃない。
鳴島をどうするかが問題として残っている。
俺の命を奪おうとし、恋唄を攫おうとし、木洩日の命をダシに脅迫する。やっていることは完全に許されることじゃないよな。
ここが日本なら警察に突き出すという至極まともな方法があるんだけれど、ここにはそんな方法はない。
世界樹に置いておく気はないし、かといってこのまま帰すとまたこっちに迷惑をかけてくるだろうことは明白だ。
となると――。
「……先生。鳴島くんを、どうするん、ですか?」
俺の視線で気づいたのか、木洩日が不安そうに聞いてきた。
「んー……」
「命を奪うことは、やめてあげて、ください」
驚いた。
異世界に来たこの数日間で、あの大人しい木洩日もそういう発想に行き着くのか。
「でも、お前のことを殺そうとしたんだろ? 良いのか?」
「はい。納得、できないけど、それでも、救ってくれたのは、事実ですから」
あー、処刑されそうになったときに鳴島が助命を願い出てくれたから助かったんだっけか。
確かに鳴島の下心はあったとはいえ、救われたことは事実といえば事実か。
「……恋唄も攫われそうになったけど、どうなの?」
「私は先生が守ってくれるから。全然気にしないよ」
「そっかー……わかった。でも、世界樹のこととか俺たちのことを喋られても困るから、その辺をしっかりとお願いしてから解放するってことで、いいか?」
俺の折衷案に、木洩日も恋唄も頷いた。同じように被害に巻き込まれた賢者様やリボンちゃんも、きっと俺の意向に全面的に賛成するだろう。
「じゃあ、ちょっと俺はおはなししてくるわ。恋唄達はいろいろあって疲れただろうから、温泉にでも行ってきなよ」
「お、温泉!?」
異世界で聞くとは思ってもいなかっただろうキーワードに、木洩日が目を白黒させる。
「えへへ。先生が作ったんだよ! 凄いんだから!!」
「先生が!? つくった!? 温泉を!?」
そりゃビックリするだろう。温泉なんて一人で作るモノではないんだから。
混乱の極地にある木洩日を、恋唄は無理矢理引っ張っていった。エルフ姉妹の家に向かっているみたいなので、姉妹を誘っていくのかな。
そういえば、この騒動でエルフ姉妹達はどうしているんだろうか。その辺のフォローも含めて恋唄に期待しよう。
「かかか。では儂もひとっ風呂浴びてきましょうかの」
堂々と恋唄達の後をついて行こうとする賢者様。
「ちょっと待ったーーーっ!! 賢者様は俺と一緒に来てください」
「かかか。聖皇様の頼みなら仕方がないのう」
悠久の時を過ごした賢者様にとっては、男女の性は興味のないことなのかもしれないが、相手は違うからな。
男女の湯は分けてあるとはいえ、隣の湯で見知らぬ骸骨が湯につかっている光景はキツいものがあるだろう。
というわけで、賢者様にはこっちを手伝って貰うことにした。
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いいたします^^




