003.ギフト
「静まれぃっ!!」
ざわめきが大きくなり我慢できなくなったか、また王様の隣にいる爺さんが声を張り上げる。しかし、今度は生徒達も黙っていなかった。
「失礼ですが、発言をしてもよろしいでしょうか?」
英雄が堂々とした姿勢で一歩踏み出した。一方の俺は後ろで傍観中だ。
「許す」
大声のじいさんが何か文句を言いかけたが、王様がすっと手を上げ制止させた。
「我々は全員ただの学生です。この中で実際に剣を手に取ったことがある者はごく一部しかいません。魔王――という存在が私の想像している通りのものか分かりませんが、戦うことなど不可能です」
あれ……? さり気なく、俺の存在が除外されていないか?
「ふむ。其方らの世界は魔物などがいない平和な世のようだな。だが安心するが良い。其方らにはこの世界に渡る際に大いなる神々から得た甚大な『力』――恩恵がある」
「恩恵、ですか?」
「うむ。サッチャー」
王様は、隣に立つ爺さんに顎で促す。心得ました、と言わんばかりに爺さんは朗々と語り始めた。
「はっ!
良いか? 恩恵とは神から贈られし力の源。誰しもが必ず一つは神々より与えられる力のことだ。
例えば【剣術】という恩恵は剣術スキルの獲得促進、刀剣の目利き能力の向上などの力を与えてくれる」
「スキル?」
英雄の隣で聞いていた少女が疑問の声をあげた。さらにその隣の生徒が、そんなことも知らないのかと鼻で笑う。あまり知ったかぶりをしない方が良いと思うぞ、少年。
「スキルとは、まさに技能。本来ヒトが持ちうるもの以上の力を、神霊の力によって発現することである。」
「……」
「ふふっ、サッチャー様。その説明ではこの世界に疎い勇者様方にご理解いただけないわ」
俺たちの困惑ぶりに眉を潜めた爺さんに、王女様が可愛らしく笑いながらたしなめる。ちょっと鼻につく笑い方だな。
「そうですね。私は【召喚魔術】という恩恵を授かり、長年の修行とちょっとした才能のおかげでいくつかの魔術のスキルを得ることができました。たとえば――」
王女様が細い指を空に掲げた瞬間、その指の先に炎の渦が生まれ、赤々と王女様の顔を照らす。
その光景に生徒達からは驚きの声があがった。もちろん俺もおおっと声を出してしまう。これが魔法っていうやつか。さすがファンタジー。
「ふふっ。魔術はスキルの有無に関係なく誰もが使える力ですが、私はスキルをもっているため他の方々より威力、魔術構成速度、必要魔力等で大きな差を生み出すことができるんです。だから」
王女様が繰り出した炎は形を変え、ハート型になった。
「こんな風に精巧な操作も可能になるんです」
それがどれくらい凄いことで、そしてスキルっていうものがどれほどのものか、いまいち伝わってこないプレゼンだったが、王女様のどや顔を見ていると何も突っ込めなかった。
それでも初めて見る魔法に心はざわついたし、生徒達も「オレも魔法が使いてぇ!」「おまえには無理だよバカヤロー」みたいに盛り上がっている。
「ええぃ、静まれッ!!」
あまりに騒がしくなってしまったのか、爺さんが唾をまき散らしながら叫ぶ。どこぞのヤンキーとは比べものにならない迫力と剣幕に、生徒達も一瞬で静まりかえった。
「良いか? 勇者召喚術により召喚された其方らには、強大な恩恵が授かられておるはずじゃ。アンジェラ」
「はい。では皆様、『ステータス』と念じるか口に出してみてください」
ステータス? と疑問に思った瞬間。
目の前にホログラムのように半透明なウインドウが現れた。そこには俺の名前や年齢、性別などの個人情報の他に、筋力や魔力といった項目とそれに相対する数値、さらには恩恵が書かれていた。
「しゃぁっ!! オレの恩恵、【炎魔術】だってよ!! 見てみろよ、これ!」
「見てみろって……何も見えないよ? これ自分のは自分しか見えないんじゃない? 俺の見える?」
「ほんとだな。まぁいいや。俺の【氷魔術】と【料理】こそ最強」
「ぼ、僕は【剣術】でした。剣道やってるからかなぁ」
「【格闘】って……これ強ぇのか?」
「私【風魔術】。さちこは?」
「……【魅了】だって」
「ってか、この筋力とかの数値って何? 私1000超えてるんだけど?」
「オレは2000だぜ? でも魔力がちょっと少ないなぁ」
再び一気に騒がしくなる生徒達。各自が手に入れた恩恵を自慢げに紹介し合っている。
今回は、その声を聞いていた周りの兵士達もざわめきを大きくしている。嘘だろとかすげぇ、といった賞賛や羨望の声が聞こえる。
「さすが勇者様方、能力の値も常人とは比較にならないほど強大なのですね。一般男性の平均値が100程度、鍛えられた兵士でも1000を超える者はまれだというのに、レベル1の皆様がそれ上回るとは……さすが勇者様ですわ!」
頬を染め、どこか恍惚とした表情で大きな声を出す王女様。
「先生は何でした?」
後ろからツンツンされ、恋唄が小さな声で尋ねてくる。これは正直に言っていいものか迷うが、恋唄相手に嘘をつくのははばかれた。いつでも真正面から向かい合ってくる少女だったからだ。
「……【主人公】だって」
小さい声で返す。ちょっと恥ずかしかった。
「素敵ですね! 先生は私のヒーローだから、ぴったりです」
と、にっこり微笑む恋唄。なに、この子。ちょっと可愛い過ぎるんですけど。
「恋唄はどうだった?」
「……私、何もないみたいです」
「えっ?」
誰もが一つは持っているって、さっきあの爺さんが言っていた気がするけど、そんなこともあり得るんだな。
恋唄に何か声をかけようと思った瞬間、王女様の甲高い声が響き渡った。
すみません。
今回も、ちょっと区切りが悪いですが、長くなりそうなのでここで切ります。
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