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019.熊と蛙の仲間達

「あん? なんだって?」

「あなたは嘘をついています。そんなヒトの値付けは信じられません」


 堂々と言い放つ恋唄。言われた側の熊男はぴくりとこめかみに血管を浮かべていた。


「オレの鑑定が間違ってるっていいてぇのか、嬢ちゃんは?」

「いえ、間違っているのではなく、嘘をついているんです」


 きっぱりと断言する。

 あの悪徳王女の時もそうだったけど、普段はほんわかしている恋唄はスイッチが入れば人が変わる。


 凜々しく、美しい。

 自らの信念を曲げず、貫く――そんな本当の"強さ"をもっている姿は、まさに勇者だ。

 勇者召喚として、恋唄が召喚されるのは当然とも言える。


「おい、どうするよあんちゃん。オタクの嬢ちゃんが失礼なこと言ってきやがったが、どう落とし前つけんだ、コラ?」

「……すみません」

「……先生?」


 怒りを隠そうともしない熊男が、恫喝するように顔を近づけてくる。怒りからか目が充血しているのがよく分かるが、瞳孔が縦に避けているのは、やはり俺の知っている人間ではないからだろうか。


 そんな熊男に謝りの言葉を伝えた俺を、恋唄が呆然と見てきた。

 まさか自分のことを信じてくれないのか――視線からはそんな想いが伝わってくる。


 安心しろ。

 俺がこんな格好良く美しい恋唄を裏切るはずがない。


「今回の取引はなしということで。僕は恋唄のことを信頼していますから――あんた、俺たちが田舎者だって騙し取ろうとしてるだろ?」


 よくよく考えなくても、俺には分かっていた。

 俺のもつ解析系スキルである【神眼】。これは、対象の性質や能力を確実に解析し見抜く力だ。その対象は人だけでなくモノにも拡がっている。

 

--【ケルベロスの魔石】-------------------------------------

 【ランク】A

 【分類】魔石

  ケルベロスの体内で生成された魔石。

  魔力充填率28%。最大で114514810MPの魔力充填が可能。

-----------------------------------------------------------


「その魔石、本当にCランクか?」

「……ッチ!?」


 まぁ、【神眼】を使えなかったとしても、俺は恋唄のことを全面的に信じていたけどね。


「先生!」

「安心しろ。恋唄のしていることは正しくて、善いことだ」


 恋唄が嬉しそうに抱きついてくる。背中をぽんぽんと叩きながら、罰が悪そうな熊男を見据えた。


「ということで、申し訳ありませんが失礼します」

「……待てよ!

 アンタらにしても、騒ぎにしてギルドの連中に目を付けられたくないんだろ?

 なら正規の店じゃ取引は出来ねぇ! ここは兄貴の案に乗った方がいいって!」


 カエル男が慌てて仲裁に入ろうとする。必死に取り繕うとするのは、きっと騙すことに成功したらいくらかマージンが貰えるからだろう。


 ただ、別にギルドとは何の関わり合いもないから、目を付けられる付けられないの問題ではないんだけどな。

 最初からカエル男はいろいろ勘違いしていただけだ。


「チッ……いるんだよな、時々。分不相応の魔石を偶然手に入れるヤツが。そういうヤツらは巷に出回る劣化魔石しか触れたことがねぇから、本物の価値が全く分からねぇからよ……上手くいくと思ったが仕方ねぇ」


 対して熊男の方はそこまでの必死さを感じない。

 どちらかというと「仕方ない」とさっぱり気味だ。


 訝しくは思うけど、まぁいいか。

 カウンターの上に出した魔石を戻そうとする。


「――っ!?」


 どすっ、と魔石を手に取ろうとしたところに、小刀が突き刺さっていた。

 危うく手に突き刺さりそうな小刀は、テーブルを深く抉っていた。


「……何するんです?」

「しゃーねだろ? そんな高級な獲物を逃しちまったら夜も寝られねぇ。素直に置いていくか、痛い思いして取られるか、選びな」


 この世界の住人は、選択肢を与えるのが好きなのか。

 あの王女の顔が思い出される。

 うん。イラッとするな。


「おい、ケサル! 集めろ!」

「へ、へいっ!!」


 カエル男はドタバタと店を飛び出していく。それと入れ替わるように数人の男達が入り口を塞ぐように立ちはだかった。


 こういう事態を想定していたのか、店の外で待機していたんだろう。

 どいつもこいつもボロボロの衣服で不潔っぽい感じだが、目線はギラギラしていた。


 手に持つ武器をこれ見よがしに見せつけながら、ニヤニヤとこちらを見ていている。

 いや、こちらというよりは恋唄をか。


「いいねぇ。上玉だぁ」

「頭、こいつもいただくぜぇ」


 下品に腰を振りながら、げははと笑う男達。


「大丈夫」

「はい。先生がそばにいてくれるから、全然心配していません」


 下卑た視線を一身に浴びているにも関わらず、まったく不安や恐怖を感じていないように信頼の目を向けてくる恋唄。


 すごいなぁと心から尊敬する。

 俺が逆の立場で、今のような力を持っていないなら間違いなくビビって震えが止まらないだろう。


 そんな全幅の信頼を裏切るわけにはいかない。


「ここの法律がどうなっているか知らないし興味もないけど、あんたらのしてることは強盗で人の尊厳を踏みにじる最悪な行為だ」

「ああっ!? 何小難しいことくっちゃべってんだよっ!!」


 入り口を塞いでいた男が、怒鳴りながら跳びかかってくる。

 その時点でアウトだろ。


 せっかく背後を取ってるんだから、攻撃を悟らせてせっかくの優位性を捨ててどうする。

 いや、陽動の可能性もあるか。


 そちらに気を取られた隙に、熊男が攻撃を企てるかもしれない。

 ただ、どちらにしろ――関係ない。


「へぶしっ!?」

「クソみたいなことすんな、って言ってんだよ」


 襲ってきた男の攻撃を避け、足をすくいバランスを崩させ、がら空きの背中に肘打ちを放つ。

 それだけで男は床に叩きつけられ、床の木板を破裂させる。


 上半身が床にめり込んでしまったが、ピクピク下半身が動いているので死んではいないだろう。


「――てめぇ」


 カウンター内では、熊男が歯ぎしりをしていた。

 どうやら隙を伺っているわけではなく、素直に驚いていただけのようだ。


「殺れ! 生きて返すなッ!!」

「応っ!!」


 カエル男が仲間を引き連れて戻ってきた。

 外の気配を含めておよそ30人。店内の状況を見て仲間の男はいきり立つ。


 熊男の掛け声で、仲間達が一斉に飛びかかってきた。

 ――恋唄への侮辱、許さないからな。


 既に魂喰らい(ソウルイーター)死を超越した(イモータル・)偉大なる王(オーバーロード)と対峙している俺にとって、こんな男達に恐怖も畏怖も全く感じない。


 あるのは、怒りだけだ。

長くなりそうなので、短いですが今日はここまでです。


読んでいただきありがとうございます。

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