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018.王都

 王都への入国?チェックは、そこまで厳格なものではなかった。

 入門を待つ列の並びに従って動いていくと、門のところで門番が出迎えてくれた。


 きちんと手入れされた鎧と、槍のような武器で武装された門番は結構厳ついオッサン達だ。

 何の違いがあるのか、兜を被っている人と被っていない人がいる。


 兵士達はヒト族だけでなく、獣人族や魔族――先ほどのラミア族のような、知性ある魔物達という捉え方でいいようだ――もいる。


 今回俺たちの対応をしてくれたのも、虎の顔をもつオッサン兵士だった。

 黒い縞々模様が歴戦の戦士の傷のように見え、結構な威圧感を与えてくる。

 というより顔が虎だから、表情が捉えにくい。


「王都へのご用は?」

「あ、観光です。二人で」


 流ちょうな言葉で問いかけられる。思った以上にダンディーな声だった。


「それは、ようこそアレクサンドリアへ。きっと良い思い出になると思いますよ」

「あ、ありがとうございます」

「では、こちらを触っていただけますか?」


 そういって、薄い石版のようなモノを差し出される。どんな材質か分からないが、不思議な存在感のある板だ。


 幾何学模様が細緻まできめ細やかに刻まれているが、着色したわけではなさそうなのに金色に輝いていた。


 これは――原理は魔方陣だな。

 少なく見積もっても【解析】、【記録】、【探索】、【検索】、【照合】、【共有】など、20はくだらない効果の術式が多層に展開されている、高度な魔方陣だった。


「これは?」

「これは【プロビデンスの目】と呼ばれる神代宝具アーティファクトです。

 触ることでその人の個人データが記録されますので、王都への入出のチェックに使っているんですよ。

 あ、個人データと言ってもステータスなどの詳細な情報は分からないので安心してください。

 ただ犯罪の有無だけは把握できるようになっていますので、もし犯罪を犯しているのならお気を付け下さいね!」


 ハハハとアメリカンジョークばりに笑いながら教えてくれた。

 ちなみに、魔導具レガリア神代宝具アーティファクトはどちらも術式を組み合わせて作られた道具だが、効果は段違いだ。


 魔導具レガリアは一般的な効果をもつ道具であり現在の技術でも作ることができるのに対し、神代宝具アーティファクトは神話時代の遺物とも言われ、現在の技術力では再現が出来ないらしい。その分、効果は絶大だ。


「はい、大丈夫ですね」


 手を乗せると、一瞬【プロビデンスの目】と呼ばれる板が光った。一瞬でいくつもの解析魔術が行使され、板の術式を通してどこかにあるデーターベースに共有されたようだ。


 さすがに俺達の情報がそのまま残るのはよろしくないので――どこから情報が帝国の方に漏れ、とち狂った王女様に伝わるか分からないからな――ある程度読み取られた情報をいじっておいた。


 門番さんは知らされていないんだろうが、この【プロビデンスの目】で読み取られる情報は、犯罪歴だけではない。


 名前や性別だけでなくステータス、恩恵ギフトにスキルまで、あらゆるものが解析され保存される仕組みになっている。


 別に『絶対目立っちゃ駄目なんだ!』と自身の力を無理矢理隠蔽しようとは思わないが、率先して不思議な能力の数々を暴露していく必要もないだろう。


「ではお嬢さん、同じように手を乗せてください」

「は、はい」


 問題は恋唄だ。

 恋唄は【特異点】なる特質のため、この世界における魔術の一切合切を強制的に解除する力がある。


 おそらく【プロビデンスの目】に触れてしまうと、それを破壊してしまうだろう。

 不安げに俺を見てきたので、頷いておいた。


 既に対策はできている。

 恐る恐る恋唄が板に手を載せると、俺の時と同じように板が一瞬光った。

 門番は何かを確認するように空を見上げ、頷く。


「問題ありません。ようこそアレクサンドリアへ!」


 門番の歓迎の言葉を背に受けながら門をくぐると、ちらちら見えていた街並みが視界いっぱいに広がってきた。


 同時に、一気に喧噪が広がる。

 これは確かに"現実"なんだ、と。街全体が放つ圧倒的な"生きる"熱量がそれを教えてくれていた。


「でも先生、どうやったんですか?」

「ああ、あの石版のチェック? あれはね――」


 恋唄の手と石版の間に、目では視認できない薄い魔力のベールを敷いただけだ。

 恋唄がそれに手を置いた瞬間、俺の魔力の層が石版の魔術刻印にアクセスして【解析】の術式を一部改変させる。


 ねつ造されたデータを【解析】したように見せかけ、恋唄と石版が接触するのを防いだわけだ。


「簡単に言ってますけど……先生、まだこの世界に来て2日目ですよね?」

「あのときの幼女女神がね、いろいろ教えてくれてたからなぁ。自転車とか一度乗れたら、乗り方を意識しなくても乗れるだろ? あんな感じでずっとこの力を使ってきた感覚があるんだよね」

「すごいなぁ……私も先生の役に立ちたいのに……頑張らなきゃ!!」

「いや、そんなこと――」

「いやぁ待たせたなぁ! ん? どうしたんだい?」


 タイミングが良いのか悪いのか、カエル男が門を抜け追いついてきた。

 カエル男の呑気な声で恋唄の決意を固めているような雰囲気は霧散するが、ここは後でしっかりと話し合わないといけない。


「さっ、案内するよ! こっちさ!」


 カエル男に連れられながら、大通りを白亜の城の方に向かって歩く。

 エルネリア王国の首都あるいは王都であるアレクサンドリアは、城壁の内地を綺麗に四等分するように十字の大通りが走っている。


 そして縦横の大通りの交差点の中心に白亜の城――つまり王城がそびえ立ち、その周辺を行政に関わる特別区としている。


 そこから北東に工業区、北西に貴族区、南東に商業区、南西に住宅区と区割りが為されていた。

 今俺たちが入ってきた門は南区にあったが、メインの門ということでたくさんの店や宿で賑わっていた。


 そんな大通りからいくつか入った路地裏に、目指す店があるようだ。


「大通りの店は観光客向けだからな! 地元民は行かねぇんだ」


 そう言いながらカエル男が案内してくれた店は、言っては何だが正直小汚い店だった。


 路地裏をいくつか通り抜けた先にあるということもあってか、少し薄暗く、小さな店がいくつも雑居している中にあった。


 カエル男が開けてくれたドアも痛みがひどく、開けるだけでぎぎぎとさび付いた音がしていた。


「店はボロいけどな、店主の腕は確かなのさ!」

「ああん、誰の店がボロいって?」


 薄暗い店内の奥にいた男が、加えていた煙草をカウンターで潰しながら身を乗り出してきた。

 熊のような男だった。


 いや、間違えた。

 熊そのものの男だった。


 毛むくじゃらの顔に、厳つい目つき。片耳が半分切れていたり、頬には鋭い爪傷があったりと、結構な威圧感を持たれている。


 狭い店内で困らないのか、大きな身体には薄汚いエプロンを巻いていた。


「いやいや、お客さんですよ、兄貴! こちらヒロユキさんにコウタさん。魔石の買い取りをご希望でさ」

「そうかい! いらっしゃい!」


 客と聞いて、無理矢理な笑顔を見せてくる店主。牙が口からはみ出してますが……。

 ははは、と愛想笑いを浮かべながら視線をずらす。見つめられると食べられてしまいそうだ。


 店内にはいろいろなモノが所狭しと並んでいた。

 何かの魔物の皮や骨。剣や弓などの武器。薄汚れたフラスコや試験管のような容器に入った不思議な色の薬。何に使うのか分からない器具などが乱雑に並べられている。


「ここは何でも屋みたいなもんでな。注文してくれれば何でも揃えるぜ?」


 がはは、と相変わらず牙を覗かせながら豪快に笑う熊男。

 恋唄がさり気なく俺の背に隠れていた。可愛い。


「いや、今回は魔石を買い取ってほしいんですが……」

「おう、そうだったな! 見せてみな」


 小汚いカウンターの上に、【无匣ストレージ】から取り出した魔石を5つほど載せる。それも大きさは子どものこぶし大くらいだ。


 ストレージは空間魔術の一種なので、使える人は少なくない。


 さらに同じような効果の魔導具レガリアも販売されているらしく、入手も難しくない。

 だから隠す必要はないんだけれど、大きさは使う人の魔力に依存するためここまで大きい容量で使える人はいないそうだ。


「ほ、ほうっ! こいつはなかなかのモンだな……ケミストテレスの魔石か? いや、サンダーウルフのに近いか?」


 魔石を手に取り、ぶつぶつと呟きながらいろいろな角度から眺めている。


「……いいじゃねぇか。いくらで売ってくれる?」

「すみません、ちょっとここらの相場が分からないので……」

「おう、そうか! あんたらの住んでたとこと相場は違うと思うが……ちなみにCランク以上の魔石を見たことあるか?」

「……いえ、ちょっとランクとかが分からなくて」


 魔石にランク付けがあるというのは初耳だ。

 よくよく考えなくても、その辺の常識レベルが俺たちには欠けているんだよな。


「まぁ仕方ねぇか。出回ってるのはEランクがほとんどだからなぁ。

 アンタらが持ち込んだこの魔石がちょうどCランクで、このサイズの大きさだと……そうだな金10枚ってところか」


 金10枚……それがどれくらいの価値かはよく分からないが、金貨をもらえるなら十分だろうか。

 骸骨賢者様も、現代社会の貨幣価値まではさすがに知らなかった。必要ないから知る必要もないんだろうけど……。


「兄貴! オイラの紹介ですから、もう少しイロを付けてもらえないですかい?」

「そうだな……じゃあ、この5つ全部売ってくれるなら金60枚でどうだ?」


 カエル男のお願いに、熊男はかーっと言いながら頭を掻く。

 仕方ねぇと出してきたのは、金貨10枚のプラスだった。


「さ、さすが兄貴! オレたちに出来ないことを平然とやってのけるたぁ、シビれますぜッ!! さぁヒロユキさん達、これはお得ですぜ!!」

「そ、そうですね。じゃあ――」

「売りません」


 きっぱりと。

 いつのまにか俺の後ろにいたはずの恋唄が隣に立って宣言していた。

読んでいただきありがとうございます。

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