013.聖皇
というわけで。
気づけば世界樹に住むことになった俺と恋唄。
夢の同棲生活は、まさかの野営から始まることとなった。
いや、テントも何もないから野営という言葉を使うのはおこがましいか。野宿だな。
一切の準備無く決めてしまって良かったのかとは思わないでもないが、まぁなるようになるだろう。
俺は場に流される典型的日本人なのだ。
そしてそんな日本人でないアリエルさんとララノアちゃんのエルフ姉妹は、一度一族のもとに戻るということになった。
死を超越した偉大なる王である骸骨賢者が、時空魔術で転移させてくれるということだ。
いわゆるワープ魔法。
俺も使えるが、行き先があの帝国の城くらいしかないから使うタイミングがない。また今度、新しい土地に行くことがあったら試してみよう。
「ヒロユキさん、本当にありがとうございました!」
「ウタちゃんも頑張ってね!!」
「うんっ、ありがとう」
エルフ姉妹が涙ぐみながら別れの挨拶を言っているが、別に今生の別れというわけではない。
一族の元に戻って現状説明と骸骨賢者の提案を伝えれば、今度は一族全員でここに戻ってくることになる。おそらく明日か明後日には戻ってこれるということだ。
そこから骸骨賢者の【迷宮】に移住するらしい。
骸骨賢者の【迷宮】は世界樹のすぐ近くに【扉】があった。
基本的には洞窟のような世界だが、【管理者】である骸骨賢者によってどんな形にでも変更することが出来るらしい。
あっという間に2000平方キロメートルくらい――おおよそ香川県くらいの大きさか――の森林ができあがっていた。
ずごごと空が動き、どどどと土が盛りかえり、にょきにょきにょきと木々が生えてくる様は圧巻の一言だった。すごい。
洞窟内のはずなのにきちんと太陽や月まであった。
森ができあがるとすぐに鳥の鳴き声や、獣の遠吠えが聞こえ始めた。
なんでも魔物を生成するようにしたらしい。食料や交易の材料とするためだ。
ちなみにエルフといっても、全員が菜食主義者というわけではないそうだ。肉も魚も何でも食べられるそうだが、食欲自体がそこまで旺盛でないため野菜だけで大丈夫ということらしい。
【迷宮】って何でもありなんだな。
ただ、骸骨賢者に出来るのはそこまでらしく、住居などの住む環境はエルフ一族でつくっていかないといけないらしい。
とはいえ、森が出来ていく光景を見ながらエルフ姉妹は感動の涙を浮かべていた。
恋唄ももらい泣きしていた。
俺ももらい泣いた。
そんなことをしていたらあっという間に時間が過ぎていき、【迷宮】から世界樹に戻ってくると既に夜になっていたわけだ。
そこで俺たちのことを何もしていなかったことに気づいたわけだが、まぁ仕方ない。
エルフ姉妹は一緒に来ませんかと言ってくれたが、それは迷惑になるからと断った。
ただでさえ行き場をなくした人達だ。そこに部外者がのこのこついて行っても良いことにはならないだろう。
骸骨賢者も「儂のダンジョンどうでしょう?」と誘ってくれたが、正直ダンジョンがまだよく分からないので丁重にお断りしておいた。
少し悲しそうだった。ごめん。
なにはともあれ。
別に俺たちの方は村や町を作るわけでなく、俺と恋唄が安心して穏やかにまったりと過ごす場所を作れば良いだけなので、そんなに慌てることはないだろう。
幼女女神が言っていたことが正しければ、3年間頑張れば元の世界に恋唄を戻してやれる。
なんとかそこまで頑張るだけだ。
とりあえずの食料は骸骨賢者のダンジョンに住むイノシシのような魔物を倒し、ゲットすることができていた。
解体なんてしたことがなかったのでどうなるかとは思ったが、エルフ姉妹の指導の下なんとか解体することに成功。そこで【解体】【分析】【刀剣術】などのスキルもゲットできたので、今後は俺一人で大丈夫だろう。
こんなに簡単にスキルを獲得していって良いのかとも思うが、俺の【御都合主義】スキルの力ということで。
「また!」
骸骨賢者の転移魔術が発動し、エルフ姉妹が光に包まれ消えていく。
「では、儂もダンジョンに戻りますかの」
「あっ、死を超越した偉大なる王さん、いろいろとありがとうございました!」
「何をおっしゃいますやら。気にする必要などないですぞ。
それより、その呼び方は大変でしょう。適当に呼んでくださって構いませんぞ」
確かに毎回死を超越した偉大なる王さんって呼ぶのは面倒くさいな。心の中では骸骨賢者って呼んでるけど、それはそれで失礼な気もするし。
何しろ相手は数千年の時を生きる不死者だ。
つまりは人生の先輩。
敬う心をしっかりともたなければいけない。
「そうですね……どうしましょうか……」
「先生。もともと賢者様って呼ばれていたみたいなので、普通に賢者様でいいんじゃないですか?」
恋唄が提案してくれる。
「そうだね。それが一番しっくりくるかなぁ」
「かかか。あなた様に比べれば、様付けで呼ばれるほど偉くはありませんが。分かりました。これからはそうお呼びくだされ。すぐさま参りましょうぞ」
できれば俺のことも『あなた様』だなんて辞めて欲しい。
こんな若造――というほど若くはないけど、それでも賢者様に比べればペーペーだ。
「なんと……そうですな……それでは人の身であられながら神の力を扱う我が君――聖皇様であらせられるな!」
「なんか、余計ひどくなってるんですけど!?」
結局押し切られる形で『聖皇』と呼ばれるようになってしまった。
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