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009.賢者を探して

 降りてきた俺たちを待っていたのは、エルフ姉妹の決意に満ちた顔だった。


「図々しくも、ヒロユキさんにお願いがあります!」

「どうか、私たちを世界樹の元まで連れて行ってくれませんか?」


 このお願いが来ることは予想していた。

 世界樹が魔力元素マナを生み出すということは、魔力の元である魔力元素マナが濃いということだ。


 魔力元素マナが肥大化し結晶化することで、魔物の魔核コアがつくられ魔物モンスターが誕生する。


 つまり魔力元素マナが濃いことは魔物が生まれやすく、育ちやすい。

 だから世界樹に近づくにつれ、屈強で強大な魔物が多い場所ということになる。


 先の結界の件もあるし、エルフ姉妹だけでは辿り着くのは難しいだろう。


「も、もちろんっ! 礼は尽くします……私たちにできることなら何でも!」

「も、もし、私たちを求めるのであれば、それでも構いません!」

「いや、さすがにそれはないからねっ!!」


 決意を通り越して悲壮感さえ感じさせる。

 でも、どうしようか。


 正直行く当てもないから、このエルフ姉妹に恩を売って生活基盤を手に入れるきっかけを作るのはアリだと思う。


 ただ、世界樹の中心に行くということは、それだけリスクが高まるということだ。

 俺の目的は恋唄を守ること。


 その目的を考えれば、リスクをわざわざ犯しにいくのははばかれる。

 でも、こうして知り合った人を見捨てるのはしのびないよなぁ。


 よく小説とかで助けを求めてくる人を切り捨てる主人公もいるが、その主人公達にもいろいろな思いがあったんだろうな。

 もちろん屑なだけの奴も多数いるとは思うけど。


 ふと恋唄を見れば、目が合った。

 恋唄は一度、大きくうなずく。


 きっと俺の考えなんて、恋唄にはお見通しなんだろう。

 そんな雰囲気が恋唄にはある。


「分かった。俺たちもとにかく安住の場所は必要だから、一緒に行こう」

「ヒロユキさん!」

「ありがとうございます!!」

「良かったね、ララちゃん」

「ウタちゃんも! ありがとうっ!!」


 涙ながらに俺の手を掴み感謝の声を聞かせてくれるが、そんな美人さんに迫られるとドキドキする。

 オーケー牧場、と意味の分からないことを呟きながら、さり気なく距離を取った。


 こちらにも狙いはあるので、そこまで感謝されると逆に悪いなぁと思ってしまう。

 あわよくば俺たちが安心して過ごせる場所も、その賢者とやらに聞いてみたいのだ。


 恋唄の特異性が安定するまで、幼女は3年と言っていた。

 3年間を無事に過ごせる場所の確保は、俺にとって優先順位の高い必要なことだった。



「……でも、実際に賢者さんはいるの?」


 森の中心――世界樹の方に向かって歩き始めてしばらく立った。

 幾度となく魔物が襲ってくるが、その都度丁重にお帰り願っている。時にはごねてしまわれる魔物達もいるが、そのときは肉体的なコミュニケーションで理解しあう。


 拳を交わして分かり合えるって、素敵だね。

 森に広がる結界は、俺たちの周りだけ効果がないように対結界を張った。


 そういえば、ここに住む魔物達は方向感覚狂わないのかな。

 一度住処から出てしまったら二度と帰れないとか、嫌すぎるぞ。


 まぁ、さすがにそんなことはなく、きっとファンタジーらしく魔法的な何かで問題ないんだろう。

 何はともあれ、これで迷うことなく進めるはずなのだが、気になるのは賢者の存在だ。

 こんな場所に人が住んでいるとはちょっと考えにくいんだよな。


 周りを見渡せば鬱蒼と茂る木、木、木木木木……全く心安まらない景色だ。聞こえてくるのは何の獣か鳥か分からない奴らの声だけ。「ウォオオオン」と遠吠えのような声が聞こえたと思ったら、「でゅるるる」と意味不明な声も聞こえるし、「ふぉー」と呑気そうな鳥の声も聞こえる。


 気が滅入ること間違いない。


「実際に私たちの祖父の祖父が、700年程前にお会いしたことがあるそうです」


 700年って……。

 途方もない年月にびっくりするが、長寿のエルフからしてみれば普通のことなんだろう。


 隣を歩くアリエルさんが答えてくれる。

 ララノアちゃんは、俺たちの後ろを恋唄といろいろ話しながらついてきていた。


 こんな状況であるにもかかわらず、楽しそうにきゃいきゃいと話している。主に恋バナが多いのは年頃なんだろうが、俺の話も含まれていてこそばゆい。聞きたくなくても、能力の向上してしまった俺には丸聞こえだ。


 まるで遠足に来ているような光景だが、周囲の魔力元素マナは濃くなっている。

 おそらく――。


 不意に視界が開けた。

 今まで鬱蒼と茂っていた木々がなくなり、広大な草原が広がる。

 その中央に、それはあった。


「これが……世界樹……」


 世界樹の根元までまだ遠くに感じるが、ここらでも見える樹の壁だ。

 とてつもなく広く、大きく、そして切れ目のない樹の壁がそこにあった。


 見上げても樹の先は見えない。

 ただただ世界樹の葉があるだけで、まるで緑の空のようだ。


 空を覆い尽くしてしまいそうな緑葉はささめき合うように揺れ、空の光を万華鏡のように透き通している。

 ただ、緑葉が茂っている位置が高すぎるためか、太陽の光が隠れることはなく明るい。


 左右どちらに目を傾けても、樹の壁――世界樹の幹の終わりは見えなかった。

 そんな巨大過ぎる幹は、四方八方に伸びたたくさんの枝を支えている。その枝一つ一つもそこらにある大樹より太く、無数の緑葉を生い茂らせていた。


 おそらく長い年月をかけ自然が作り上げた、巨大で芸術的な建築物。

 しかし、たくさんの鳥や小動物が世界樹の枝の合間を宿り場としている。


 黒い梟のような鳥がこちらを見てふぉーと鳴いていた。

 威厳と荘厳さ、そして生命の輝きに満ちた、神々しい大樹だった。


「ほえぇ……」


 思わず声が漏れる。

 恋唄もエルフ姉妹も、ただ呆然と自然の偉大さに圧倒されるだけだ。


「……賢者さんは、どこにいるんだ?」


 このままぼーっとしていても仕方がない。

 まずは賢者に会って話を聞くことが先決だろう。


 なにより、そろそろお腹も空いてきている。食事をどうするか考えたい。

 ちなみに飲み水については、最終手段を早くも採用した。


 つまりは、魔法による飲み水の確保だ。

 水魔術を使うと水を生み出すことができる。それを飲み水に活用できないかと思ったが、エルフ姉妹に確認してみるとそれは普通に行われていることのようだ。


 魔力元素マナの濃さが『美味しさ』にも影響を与えるようで、作る人の魔力が濃ければ濃いほど身体に良く、味も極上となるらしい。


 それを聞いて試してみたところ、絶賛の嵐。

 実際に飲んでみた俺自身、これが本当に水なのかと感涙を流すところだった。

 ちなみにエルフ姉のアリエルさんは実際に泣いていた。


「いえ、詳しい場所は……お爺様も行けば分かるとおっしゃるだけで……」


 そうなのか。

 とは言え、周りを見渡しても家があるわけでもないし、木ばかりで目を引くモノは何もない。


「もしかして、この世界樹を登らないと駄目なのかな」

「ヒロユキさん。それは止めておいた方が良いと思います」


 世界樹を見上げながら呟く。

 天を貫くほどの大樹だけど、ぶっちゃけ俺一人なら余裕で登れる。


 万一落ちたとしても、この樹より高いところから落とされたばかりなので心配はない。

 だが、それはララノアちゃんによって止められた。


「伝承では、許可なく世界樹に触れた者には天罰が下ると云われています」

「て、天罰……」


 誰の許可が必要なのかは分からないが、確かに天罰が下ってもおかしくはなさそうな雰囲気はある。

 不用意にそんなものを喰らって、もし恋唄の身に何かあれば取り返しがつかない。


 うん、止めておこう。

 触らぬ神に祟りなし。自ら虎の尾を踏みつけに行く必要はこれぽっちもない。


「じゃあ、どうするかなぁ」


 恋唄もエルフ姉妹も困り顔だ。

 ここで賢者に会えなければ、ここまで来た意味がないどころか、エルフ姉妹の一族全体の行く末も危うい。


 とてもじゃないが、『じゃあ、俺らはこれで』なんて言える雰囲気でもないしなぁ。

 さすがにそこまで薄情にはなれない。


 飛んできた剣(・・・・・・)を軽く弾き返しながら、ため息をついた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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