このはし、渡るべからず
「おい!お前!そこのお前だ!」
「はい、なんでしょうか?」
「お前、さっきその橋を渡ってきたな」
「はあ、確かにあの橋を渡ってきましたね」
「看板に書いてあったろう。『このはし、渡るべからず』って」
「書いてありましたねぇ」
「じゃあなんで渡ってきたんだよ!」
「私が渡ったのは『あの橋』であって『この橋』ではありませんので」
「待て待て『その橋』は『この橋』って事だろうが」
「いえいえ、『あの橋』で御座いますよ。『この橋』ではなく『その橋』でもなく」
「何を…いや待て、こっちに来い。そうだ、そこだ。『この橋』を渡って来たな?」
「はい、『貴方と私が今乗っている橋』を渡ってきたので『この橋』ではないですね」
「だから!『この橋』だろ!?」
「そうですね。『貴方が指差してる橋』で間違いありませんが『この橋』ではないですね」
「貴様、屁理屈も大概にしろよ。あの看板はな、この後来る賢い坊主が、どんな頓知で切り抜けるか試すものなんだ。屁理屈こいて軽々しく渡ってくるな」
「はあ…頓知ねぇ。例えばどんなので?」
「知らねえよ。そいつを試すためなんだから。あー…でも例えば、『このはし』だから真ん中渡るとかそんなんだろ?」
「旦那ぁ、それも只の屁理屈でしょうや。流石にそれはねえや」