キャンディポット
黒髪黒目の一卵性双生児の姉妹が楽しそうにお茶をしていた。
2人は顔も髪の長さも同じだが、服だけは違っている。
一人はこの国ではよくある女性のスカート姿、もう一人は男の子のような格好をしていた。
楽しそうに密やかに、何でも笑ってしまう年頃なのかころころとした笑い声が心地いい。
キャンディーポットから丸いキャンディをお互い食べさせあいをしている。
「よし、分かったぞ。スカートの方が愛し子様だ」
2人はきょとんとした顔をして、アイコンタクトをすると笑い出した。
「ざーんねん!そっちはナナでした!よっしゃあ約束どおり魔石いただき!」
ズボン姿の愛し子様が勝ち誇る。彼女はこの世界の神により使わされた愛し子様だ。
神託によりこの国におりて来られ、瘴気を払い魔物を退け国に繁栄をもたらす。
「くそ、服も取り替えてこっちを撹乱したのかと思っていたのに…!」
「ふふふ、その裏をかいたのだよ、テオったらナナへの愛情が足りないんじゃない?」
「ナツ様の言うとおりです、主様が私を見分けることが出来ないなんてショックです」
ナナが俺を冷めた目で見ている。いや、ナナは愛し子様の影武者として俺が作ったんだから
見分ける事が出来るって思われてるが、愛し子様そっくりに作ったんだから見た目では分かるわけないだろう?
「中身全然違うのにね~?」
「ナツ様曰く『愛が足らない』のです」
「ナナごめんって。で、愛し子様どうして魔石なんか欲しいんですか」
宮廷魔術師団に所属している俺は確かに魔石の入手がしやすいけれども…。
「うん、これ作りたいんだ」
手に持って見せてくれたのは、さっきのキャンディポット。
色とりどりの丸いキャンディが入っていて
光があたるとキラキラしていてまるで宝石のようだ。
そのキャンディと魔石がどう繋がるのかと不思議に思っていたら、愛し子様は説明してくれた。
以前愛し子様が魔力を補うポーションはないのか、と聞いてきた。
そんなものは聞いたことがないし、魔力を何かで補うという概念自体がなく
魔力切れを起こしたらそこでおしまい、というのがこの世界の常識だった。
そんな便利なものが出来れば魔術師団としても国としても画期的なものになると、
その後魔術師団の研究班により研究はすすめられていた。今のところ成果はないが。
魔石は魔道具の動力源として一般的だ。魔力が凝ったものが魔石となるわけだが、
これを人間の魔力として使う事はできない。魔石は採掘で得る事ができる。
せいぜい剣や装飾品に加工してその魔石に魔術付与して利用することぐらいだ。
そして愛し子様は「高濃度の魔力が結晶したものなら、これを体内に取り込むようにできればいいんじゃん?」と。
「やってみたら出来たのがこの魔石キャンディ(仮)なんだよ。ちなみにナナも私も味見でテスト済み。
テオも試してみたくない?魔術師ってそういうものって聞いたよ?」
「色々といいたい事はありますが、先に試してもいいですか?」
どーぞどーぞ、とキャンディポットを差し出される。
見た目は普通の丸いキャンディで、元が魔石だとは思えない。
魔術師は探究心が強い者が多い、そしてそれが行き過ぎる事もままある。
キャンディを一つ摘みポンッと口に放り込むと、ほろほろと崩れ、溶けていった。
「……甘い…」
「ほんと口解けのいい、キャンディというよりメレンゲみたいだよねぇ」
“めれんげ”なるものが解らないがこういう甘くて溶けるようなものなのだろう。
そして自身の魔力量が上積みされたような、経験したことのない感覚。
「愛し子様、このこと誰かに話しましたか?」
「いや、えらい事になったなと思ったので一番にテオに話したの。宮廷魔術師団所属のテオが最適かなって」
「その判断は非常に正しいですね。これがどんなに恐ろしいものか解っているならいいんです」
ふーっと詰めていた息を吐く。どえらいことをしでかしてくれる、今代の愛し子様は。
「テオ~、心労で禿げたらごめんね?」
「わかってるなら、色々やらかすのは止めてもらえませんかね?」
また笑ってごまかされたが仕方が無い。俺は愛し子様には甘いのを自覚している。
「とにかく今度からまずは俺に相談してください、勝手にこういうことはしないように!」
はーいと2人が口を揃えて返事をする。
そんな2人を眺めながら、少し冷めてしまった紅茶を飲む。
愛し子様が心安らかに過ごすために、これからどうやって守っていけばいいかを考える。
綺麗で甘いキャンディを大事に保管するための、いわば容器という壁が俺の役目だと思っている。
あなたは何も知らずに甘やかされていてください。
そして俺に守られててください。
これからもずっと。