神との対話
声が聞こえる
「シロー」
エルか? 違うな、デバイスちゃん? これは男の声? 誰だ? カイ?
「神だよ」
何だと?!
どこからか聞こえてくる声。神? 神って言ったかコイツ?
「はじめましてシロー。今日は話をしようと思って連絡したんだ。キミも聞きたい事いろいろあるだろう?」
あぁそりゃあるよたっぷりあるよ! どういうことなんだよ色々色々聞きたい事はいっぱいあるよ!!
視界には何も映っていない。声だけだ。顔ぐらい見せろよ。
「そこへはちょっと都合が悪くて行けないんだ。凄く遠いから映像を送るにも時間がかかるので省略させてもらうよ」
近くにはいないのか? まぁいい。他に重要な事はいくらでもある。
「シローにも、聞きたい事はいっぱいあるだろうけど、まずは私の話を先に聞いて欲しい。そのほうが話が早いと思うよ」
いいだろう、聞こうじゃないか。神? の話とやらを。
なんだか軽い口調で始まったソイツの話はしかし、軽いなんてものじゃなかった。
「事の始まりは神である私が『人間の魂を強化する事』は可能か、試してみようと思った事なんだ。つまり、実験だね。『地球人類魂強化実験』さ!」
何言ってるんだコイツ。魂? 強化? タマシイってあの魂?
何のために? 実験だと?!
「『神の力のカケラ』を人間に与える為さ。『人類強化計画』の前段階として!」
おいやめろ。そういう冗談はやめてくれ。
人類強化計画、そんなふざけた話を始めた自称「神」。
どこまで真面目に聞けばいいんだ?
「神の力のカケラ」って何だ? スキルの事か?
「そう。それはユニークスキルと名付けよう。分かり易いだろう? 私は人に自分の力の一部を与えてみたいと思ったんだ。ただそのまま与えても上手くいかない。魂が壊れてしまうんだ。ユニークスキルの重さに耐えられなくて」
「だからまず魂を強化して、そのうえでユニークスキルを与えるんだ。
それが『人類強化計画』さ!」
何のためにそんな事をするんだよ? 何か理由があるのか?
「理由? それは、人が神のごとくその力を振るう姿を見てみたいからさ」
だから何のために! と聞いているだろう!!
「見てみたい。それだけだよ」
何・・・だと? それだけ? それだけなのか? ただそれだけの理由で俺はこんなところまで飛ばされたのか?!
「正確には私が移動させた訳じゃない。君を移動させたのはスキルだ」
同じ事だろう!!
「私からみればそれは違う事なんだけどね。すぐに君にも分かる様になるさ。
続けるよ? 私は人類の内、およそ100万人の魂を強化して、そのうえでユニークスキルを与えてみたんだがそのほとんどは失敗に終わった。
上手くいかなかったんだ。 魂が壊れてしまった」
・・・その魂が壊れた人たちはどうなったんだ?
「魂が壊れる、という事は自我が崩壊するという事なんだ。
つまり、そういう事だよ」
オマエ、自分が何を言っているのか分かっているのか? 本当の話なのか? お前は人間をモルモットの様に扱ったというのか!!
「私は神だからね。人をどの様に扱おうと自由なのさ。ヒトだってモルモットを
自由に扱っているだろう?」
それは・・・
「もし、モルモットのほうに文句があったら、人の手に噛み付いているかもね? 君も文句があるのなら神に噛み付いても良いんだよ? 出来るものならね?」
こいつ・・・
「失敗ばかりじゃない。成功例もあったんだ! 魂の強化に成功し、
その身にユニークスキルを宿すことができた人がいたのさ!」
それが俺なのか? 俺は成功例なのか?
「いや? 君はどちらかと言えば失敗のほうだよ。君の魂は壊れている」
何だと? 俺の自我は崩壊なんてしてないぞ!
それにスキル、そう俺にはユニークスキルがあるだろう!!
「君の魂はユニークスキルの重さに耐え切れずに壊れた。その直後『シフト』が動き、君は帝国の領域へと移動したんだ」
意味が分からない。魂が壊れた?
それが本当なら、俺は何故自我を失っていないんだ?
「私にも分からない。魂が壊れ、消滅すればスキルも同時に失われる。
君の魂は間違いなく壊れた。なのにスキルは無くならずに君を移動させた。
不思議だね?」
フシギだね? じゃねーよっ! どうしてくれんだよ!!!
責任取れよ! 神なんだろう!
「知らなかったのかな? 神は人に対してなんの責任も取らないよ? ヒトだって、モルモットに対してなんの責任も取らないだろう?」
コイツ何様なんだよ!
「神様だよ」
そういうのはいらないんだよ!
「今回ユニークスキルをその身に宿すことができた人は3人いる。君とは別にね。人類の歴史としては6人だね。
おめでとう! 君は7人目の『ユニークスキル所持者』だ。
ただし君の場合魂が壊れている分、上手くスキルを使う事が難しいかもしれない」
それはめでたい事なのか・・・
ん? 今何か変な言い方じゃなかったか?
「スキルは魂の中でその力を発揮する。でも君の場合、魂自体が無い。壊れたからね。
だからスキルが正常に動くかどうか分からない。現に『シフト』は君の意思とは無関係に動いただろう? 本来それはありえない事なんだ。
たぶん上手く使いこなす事は難しい、かもしれない。前例の無い事なのでよく分からないんだ」
俺にも分からない。近くに来てアフターサービスをしようという気は無いのか? クーリングオフでもいいぞ。
「一度、その身に宿したユニークスキルを取り出す事はできないよ。
魂の一部になるんだ。もし魂からユニークスキルを取り出す事ができたとしても、
それによって魂の形は大きく変わってしまうだろう。
魂の形が大きく変わるという事は『別人になる』という事なんだ。
別人になりたいかい?」
なりたくない。なりたくはないが、だからといって・・・
「それに都合が悪いと言っただろう? 君が今いる帝国の領域は、私にとっては近付きたくないところなんだ」
なぜだ?
「帝国の兵器は神を滅ぼす事ができるからだよ」
神を滅ぼす? 神・・・お前の事か? 神を滅ぼす・・・どういう事なんだ?
「帝国の科学は非常に優れていて、その軍事力は強大だ。
帝国軍の主力兵器であれば、容易く神である私を滅ぼす事が出来るだろう。
そんな危険地帯には近付きたくないんだ。万が一、という事もあるからね」
お前は帝国と敵対しているのか?
「いや? そんな事はないよ。そもそも帝国は、私の様な存在について何も知らないからね。あくまでも、万が一の可能性を考えているだけさ」
どうしてお前は「帝国が知らない」事を知っているんだ。おかしいじゃないか。
「神だからさ」
おかしい。何か誤魔化されている気がする。
「本当なら、君の近くで君がその力を振るう姿を見てみたかった。そう、神の力を振るう、その姿をね!
もしくは力に振り回される姿かな?
どちらにしろ、きっと面白い物が見れただろう。残念だ」
見世物かよ。「シフト」であっちこっち飛ばされる姿が面白いのか? 俺は少しも面白くないぜ。
「それは君次第さ。もし、スキルを掌握する事ができたら、君の異世界ライフは愉快なものになるかも知れないよ? 俺TUEEEとかね?
どうだい? ワクワクしてこないか?」
してこない。
・・・できるのか? 「使える」なんていう事がありうるのか? スキルを掌握する?
せめてスキルの中身を説明してくれ。
使い方とその効果について!
「説明する事は出来る。でも、その説明通りに使えるという保証は無いよ?
本来の効果を発揮するかどうかもわからない。
言っただろう? 前例の無いことだ、と。全ては君次第さ。
『使える』のならスキルがそれを教えてくれるよ」
こいつ使えねぇ・・・神のくせに!
「神の力をその身に宿した君はある意味、神の一部といってもいい。私達の仲間、同族の様な者だね」
おいやめろ・・・やめろ! 仲間だと!? お前みたいなヤツと仲間だと!!
「そんな君に、きっと役に立つと思えるものを贈ろう。私からの手向けだ。
受け取って欲しい。いずれ君の元へ届くだろう」
「また会えるかもしれない。もう会えないかもしれない。全ては君次第だ。
シロー、じゃあね」
おい! 待て! まだ話は終わっていないぞ! 聞きたい事はまだいくらでもある!
返事が無い。
・・・終わり? これで終わりなのか?
冗談じゃないぞ。まだロクに話を聞けていないだろう?
まだいくらでも、聞かなければならない事があったのに!
おい! 返事をしろよ! 神!!!
何も反応が無い。本当にこれで終わりなのか。
体が震えてくる。怒りか。恐怖か。畏れなのか。落ち着けシロー、落ち着くんだ。
まだ何も終わっちゃいない。まだ何も始まっていないんだ。
スキルを掌握するんだ。そうすれば何か分かるかもしれない。
何か出来るかもしれない。
神も言っていたじゃないか。「かもしれない」と。 出来ないとは言わなかった。あきらめるのはまだ早い、スキルを掌握するんだ!
ステータスを開く。
大庭 士朗
スキル シフト タイムコントロール フォーチュナテリィ フレンド
フレンド? フレンドって何だ? こんなのは無かったハズだ。何度も見たんだ。
見落とすはずが無い!
これは一体・・・まさか・・・まさか、なのか?
神が言っていた「役に立つ贈り物」というのがこれなのか?
「フレンド」だと? フレンド! 誰と誰が友達なんだよ? 仲間? だと!!
ハハッ、ハハハハハハハ!
これは「神様ジョーク」というヤツなのか? まったく笑えないぜ、神!
あぁ、まったくもって笑えないぜ。 こんなクソッタレな話は・・・
ステータスを見る。
何度も見たスキルの文字が今、俺を見返している様に見えた。無表情な顔で。
スキルは何も教えてくれない。
本当に、クソッタレな話だ。




