荷電粒子砲
異世界に来たと思ったらすぐに、その世界の帝国の臣民になり、
さらに帝国の軍人になったと思ったら、今度はかわいい女の子から今、
「荷電粒子砲」とやらを渡されようとしている・・・
話の展開が早過ぎはしないだろうか? ここまでまだ半日もたっていないだろ?
それに入ったばかりの新人になぜ、荷電粒子砲とかいう物騒なモノを渡そうとするんだ?
「必要な機材」じゃなかったのか?
まさかコレが必要な機材だと言うんじゃないだろうな・・・
そもそもコレが荷電粒子砲だと?
俺の目の前の作業台の上に並べられたソレは、8枚のしおりの様なもの。
銀色のペラッペラのやつ・・・にしか見えない。
なんだコレ? わからんぞ? 翻訳の間違いか? いろいろわからない。
俺は疑問とダンスっちまっている・・・教えて? エルちゃん!
「では説明を始めます。この荷電粒子砲の機能について説明を受けた後、シローには実際に体験してもらいますので良く聞いてくださいね?」
ちょっと待った! 荷電粒子砲で間違いないのか? 必要な機材って言ったろ!!
「これが必要な機材で間違いないのか?」
「間違いないです」
「荷電粒子砲?」
「はい」
オーケイわかった。とりあえず話を進めてくれ。
「この荷電粒子砲にはAIが搭載されていて、私と同じ様にこれからシローの
サポートをします。
実際に作動させてみますね」
エルがそう言うと一枚のしおりがふわりと浮かび上がった・・・
う、浮いたぞ! 動いたぞコイツ!!
ソイツは空中でとまった、と思ったらその場で急にサイズが大きくなった!!!
なんだコレ!!!
サーフボード・・・?
ソイツはサーフボードそっくりの形・大きさで (ただし銀色でペラッペラ)俺の近くで浮いている。
「この状態が第二形態です」
「第一はどこいった?」
「こちらが第一形態です」
テーブルの上を指差すエル。あぁゴメンね? 続けて?
「使用の際は主にこの形でシローに装備されます」
ソイツはゆっくりと俺に近付くと、右肩のそばに寄り添うような姿勢で止まった。
「では、これから外へ出て実際に使用してみましょう」
「説明これだけ? まだ全然わからないよ?」
「説明はまだ続きますよ?」
だよね、よかった。
エルの後に続いて建物の外へ出る。銀色も同じ姿勢を保ったまま俺についてくる。
「今からシローには少し空を飛んでもらいます。危険は無いので安心してください」
えっ?
「では始めます」
エルちょっと待って空を飛ぶっていったい・・うわっっ!!! 浮いてる!
俺が! 空中を浮いて、イヤ飛んでいるのか!? なんで?!
下を見下ろすと、エルが俺を見上げている。
その姿がゆっくりと小さくなっていく。
おい上昇しているぞ? どうなっているんだ?
周りを見るとイヤでも目に入る銀色のサーフボードがすぐ傍に俺に寄り添うようにくっついている。
オマエか! オマエがやっているのか?!
いきなりなんだよ下ろしてくれよ!!!
「大丈夫ですよ?」
うわびっくりした!! 今の声エルか? どこから??
エルはすぐ近くにいた。いつの間に・・・近く? えっ?
すぐ近くの「空中に」エルがいた。
俺と同じ様に銀色サーフボードがくっついている・・・
エルも飛んでいる!
彼女も空を飛んでいた。銀色サーフボードにエスコートされている様な姿で。
説明が欲しい。今すぐに!
「この様に荷電粒子砲には人を連れて空を飛ぶ機能があります。もちろん宇宙空間でも可能です。」
もちろんなんだ。
・・・もちろん、なのか?
「もし、シローの『シフト』が発動し、どこか安全ではない場所へ移動したとしても、この荷電粒子砲があればその場所から退避することが可能かもしれません」
マジか! 嬉しい! イヤでも、可能かも?
「そこは可能です! と言い切って欲しい!」
「まだわからない事が多いので」
そうだったね。ゴメンね・・・
「また、その移動先に排除すべき対象があった場合、攻撃することも可能です」
粒子砲だもんな。
「今から実際に撃ってみましょう」
「おいまて今から?! ここで?!」
「その為の施設です」
そうだろうけど心の準備が、
「撃ちます」
イヤ早いよ早い!!!
俺の右肩近くにいる銀色サーフボード野郎の、上端あたりがぼんやりと発光した、と思ったらシャッという小さな音がして何か光線の様なものが!!
撃った! 撃ちよったぞこの子!!!
そして遠くのほうで何か爆発する様な音が・・・今の何?!
「目標に命中した音です。これが荷電粒子砲の攻撃です。シローに分かり易い様に多少演出が加えられています」
エルの指差す先を見ると、遠くで何かが爆発している様なものが小さく見えた。
何か怖いんですけど!
「一度下りましょう」
俺とエルはゆっくりと地上へと下りていく。
いきなりで景色を眺める余裕も無かったけど、下りていく時に少しは辺りを見渡すことができた。
といっても辺りには本当に何も無い、無人の荒野みたいなところだ。
そうでもなきゃいきなり撃ったりはしないだろうけど。
何か怖いなこの子!
「説明です」
ソウデスカ。確かに説明してくれとは言ったけど!
地上に下りるとまた建物の中に入る。歩きながら説明が続く。
1 荷電粒子砲は全部で1024機 貸与される
2 その他、必要性が認められた装備類も全て適宜支給される
3 俺の階級は曹長 (エルに階級は与えられない)
4 これ以降のことは、全てエルかデバイスちゃんからの指示に従う
「今後は、私とこの荷電粒子砲がシローと行動を共にします。
精一杯サポートしますのでどうぞよろしくお願いします」
にっこりと笑うエル。
えっと、またツッコミどころがたくさんあるんだけどとりあえず、
「行動を共に? 俺とエルが? ずっと一緒って事?」
「はい、そうです」
これってヒロインキタコレ!・・・でいいのか?
とある部屋の中まで案内された。
「こちらがシローの制服になります。着替えたら休憩スペースで待っていてください。今着ている服はクリーニングに出しておきますので、ここに置いておいてください。私はシローに支給される他の備品を受け取りに行く為に、少しだけ別行動になります。その後また説明を続けます」
そう言ってエルは部屋を出て行った。
空を飛んだりビーム? をぶっぱなしたり、俺にとっては衝撃的なんてものじゃない超科学的? 体験だったが、エルの様子は至って普通だった。
この世界ではこんなの普通、なんだろうか?
それともエルが自動人形だからか?
クラブハウスのロッカールームの様なところに一人残される俺。
あいかわらず人はまったくいない。
この建物の中にどれだけ人がいるのかよくわからないな。
結構大きな施設に見えるのに全然人を見かけないんだけど。
宣誓のときもエルが立ち会っただけだし。(それでいいらしい)
デバイスちゃんに聞いてみるか。
「ここって何人ぐらい人がいるの?」
「お答えできません」
久しぶりに声を聞いた気がするねデバイスちゃん・・・えっ? 何で?
「軍事機密です」
そうなんだ、でも俺も軍人になったんだけど。
「俺は教えてもらえないのか?」
「機密情報に接する為に必要なランクに達していません」
・・・そうなんだ。まぁいいけど。
じゃあ制服に着替えるとするか!
ロッカーには制服らしきものと、頑丈そうな靴が置いてあった。
俺の制服は・・・制服は・・・つなぎ?
これ、つなぎの作業着じゃないの? 間違ってないかエル?
「これが俺の制服であってるのか?」
「制服であってます」
あってるんだ。
黒っぽい色で、どことなくエルが着ていた服にデザインが似ていて、
まぁ格好いいと言えなくも無いが、作業着じゃないのか? コレ?
しかも半袖。
一応着てみるか。
サイズはちょうどいいが、鏡に映る俺はやはり作業着を着たタダの若い兄ちゃんにしか見えない。
私物を作業着? のポケット (たくさんついてる)に入れて、部屋の隅にある休憩スペースへ向かう。
しばらくするとエルが戻ってきた。なにも持っていない・・・
「備品は?」
「受け取りました。ポケットの中にあります」
上着のポケットを示すエル。膨らんでいる様には見えない。備品少なっ。
「説明の続きをします。まず荷電粒子砲についてですが、使用の際には私かAIが判断をしますので、基本的にはシローには自由に使うことはできないと思っていてください。危険ですから。
もちろんシローが一通り使える様に訓練はしますよ?」
「それは良いんだけどAIはともかくエルが判断するっていうのは? エルって帝国に所属してる『何でも相談係』じゃなかったか?」
「今は、私も帝国軍に所属しています。荷電粒子砲と同じ『装備品』扱いです」
それは・・・後で考えよう。
「装備品」か。
「入ったばかりの俺の階級がいきなり曹長なのはどうしてなんだ?曹長って下士官の一番上だろう?」
「理由は開示されていません」
「軍事機密か?」
「そうです」
そうなのかー
「荷電粒子砲が1024機というのは? そんなにたくさん要るのか? 多くないか?
俺一人で戦争でもやらせる気か?」
残りはどこにあるんだ?
「この荷電粒子砲は1024機でセットなんです。1体が128機で構成されていて8体で合計1024機になります」
どういうこと?
「実際に見てもらったほうが良いでしょう」
エルがそう言うと彼女の後ろから8枚のしおり、じゃなかった荷電粒子砲が飛んできて、俺の前で止まった。
その内の1枚が大きな銀色サーフボードに変形すると、薄皮を剥ぐ様に次々と数を増やしていく!
あっという間に視界一杯を埋め尽くすほどに増えていく銀色たち。
わぁキレイ、なワケねぇぇ!
何百枚だよコレ? あ、128枚なのか。
もういいわかった。わかったから!
「普段は第一形態でこの様に待機しています」
またあっという間に元の1枚のしおりに戻ると、ソイツラはおれの作業着の肩に
まるで飾りの様に張り付いた。
「帝国軍は十分な資質を持たない人間を戦場に送り込む様な事はしません。
非合理的ですから。シローが戦場へ行かされることはないでしょう。現状では」
最後がちょっと気になるがまぁ良い。
後何だっけ?
コイツラがどんな仕組みで動いているか、なんて聞く必要は無いだろう。
たぶん俺には理解できない帝国の超科学って事でいいだろう・・・そうだ制服!
「この作業着みたいな制服何?」
「その制服は高い防御力を持ち、宇宙空間でも運用可能な帝国軍の汎用制服です。傷つきにくく、汚れも付かないスグレモノです」
宇宙空間! でも、
「半袖なんだぜ?」
「必要に応じて袖の長さは自動で変わり気密を保つ様になります。あと襟の部分が変形して頭を包み込んでヘルメットになります。また130時間分の圧縮酸素も内蔵されています」
マジかよ凄いな帝国の超科学は!?
なるほど分かるような気がしてきた。荷電粒子砲やこの制服はいわば「浮き輪」の様な物だと考えれば良いんだ。
どこかまた別の惑星だとか、それこそ何も無い宇宙空間とかへ『シフト』で
移動させられても、これがあればしばらくは大丈夫。(かもしれない)
海に落ちた時に備えて、あらかじめ浮き輪を身に着けている様なものだと思えば良いんだ。
「今日のところは以上になります。明日以降も随時必要に応じて説明をします。
この後はシローの宿泊する施設へ案内するので、一緒に歩いて行きましょう。
ここから歩いて3分ぐらいの所にあります」
宿が替わるんだな、近いのは嬉しいぜ。毎回馬車に乗るっていうのもな・・・
かわいい女の子と並んで歩きながら宿へと向かう。
何だか気持ちが上向いてきたぜ! (肩に銀色の荷電粒子砲がくっついてるけど)
明日からがんばろう! (何をがんばればいいのかよくわからないけど)
宿(もちろん平屋)に着くとまた1号室で、エルが隣の2号室だった。
部屋に入りベッドの上に寝転がって、いろいろ考えようとしたが、
すぐに寝てしまった。
怒涛の1日だったからな・・・
シロー、あなた疲れてるのよ・・・




