エル
「はじめまして。シロー。私はエルと言います」
ヘッドアップディスプレイに若い女の子の顔が映し出された。
黒髪ロングに色白の肌、ぱっちりお目目の美少女がにっこりと笑顔を浮かべる。
あらかわいい。いやそうじゃなくて!
「今日から、あなたの問題が解決されるまでの間、あなたのサポートを担当します。
よろしくお願いします。
早速ですがシロー、帝国軍に入って下さい」
うん、何だって?・・・はぁああああああ?!
「エル」と名乗ったその女の子が、何かとんでもないことを言い出した!
「軍に入れ」だと?どうしてだ!!
危険から少しでも自分を遠ざけたいから相談したのに!!!
「説明を始めても良いですか?」
「あぁ、頼む」
ぜひお願いします! 納得のいく説明を今スグ! 詳しく!!
最初に彼女を見た時にはちょっと若過ぎない? 本当にキミが担当なの・・・? とか聞いてみようとチラッと思いかけたが、もうそんなことはどうでもよくなった!
どういうことなのか早く話の中身を知らなければ!
「では始めます。シローの『シフトというスキルが齎すかもしれない危険性』
という相談内容について検討された結果、
シローにはサーズラウ帝国軍に入っていただく必要があると判定されました」
なるほどわからん。まったくわからないぞ?
その軍に入る「理由」を知りたいんだよ!
もっと詳しく!!
「帝国のデータベースには『シフト』というスキルについての情報がありません。
シローが単身で長距離を移動した、と言うその能力について、帝国は知らないのです。
よって、現時点では『シフト』というスキルを掌握したいというシローのリクエストには対応できません」
「次に『シフト』が勝手に動いた時、自身や他者に危険をおよぼすかもしれない、という点については対応する必要があると判定されました。
具体的には各種支援装置を貸与する事です」
各種支援装置? それ前にも聞いたぞ?
それに貸与? もらえるっていう話じゃなかったか?
他者? 他者って言ったよな?
自分の危険については話したが、他者?
他の人間が危険ってどういうこと?
「『シフト』というスキルが勝手に動いた時、その移動先がどのような状況かによってシローや他者の安全、もしくは危険は大きく異なると考えられます。
近くに他者が存在しない開けた空間、なのか。
あるいは、逆に『開けていない空間』なのか」
開けていない空間・・・「いわのなか」とか? なにそれこわい!
その可能性は考えてなかった!
「『シフト』によって移動した後、建物等もしくは人間等と衝突あるいは融合する可能性も無いとはいえません。
なにしろ『わからない』のですから」
おいやめろ。そんな恐ろしい可能性を語らないでくれ。
た、確かに「移動」後にどうやって到着する形になっているのか俺は確認しているワケじゃないけど!
気を失って砂浜で倒れていただけ、だしな・・・
次はどういう形になるのかはそりゃ『わからない』としか言えない、よな。
「帝国の領域内で、その様な事故が起きる可能性があるのなら対応が必要です。
その為に必要な機材がリストアップされ、検討の結果シローに貸与される事が決まりました。
ただし、条件が付きます」
決まったんだ。あいかわらず仕事が早い!
でもまだ軍に入る理由を聞いてないぞ? それに条件?
「必要とされる機材は帝国軍の所有する装備品なので、軍属ではないシローに貸与する事には問題があります。
シローが軍人になれば問題はなくなります」
なるほどわか・・った。それはわかる。
軍人が軍の装備を使うのは当たり前だからな。
だが軍人になるというのは・・・
何とか軍に入らずに、その装備とやらを貸してもらう事はできないのだろうか?
レンタル料を払う、とか?
「その機材は貸してもらう、という事はできないのか? 使用料を払って、とか?」
「シローはお金を持っていないでしょう?
仮に、今後お金を稼ぐことができたとしても、レンタル料を払う事は難しいのではないでしょうか?
その機材のレンタル料は非常に高額になる事が予想されます」
はっきり言いおるわ、この娘!
非常に高額っていったい、おいくら万円?
「その機材本体の価格は日本円に換算すると、およそ120億円です。
予想されるレンタル料は15億円です」
15億! 15億円だと!!
払えるわけねぇえええええ!!!
何だよその機材とやらは! ダイヤモンドでもちりばめられているのか?!
「必要とされる機材です」
まだ教えてくれないってワケだな、まぁいい。理由は分かった。
それに条件についても、だがしかし、うぅむ。
ぐぬぬ、わか・・・らざるをえない。
自分の安全もそうだが他人を巻き込む可能性について気が付かなかったのは迂闊だった。
そんな事はもちろん望んじゃいない。
独力でなんとかできないのなら、帝国の超科学の力に頼るしかない。
だが軍属・・・軍人か。
「ちなみに拒否した場合はどうなる? イヤ本気じゃない。聞いてみたいだけ」
「もちろん拘束されます」
ですよね、もちろんわかっていたよ!!
もう覚悟を決めて帝国軍に入るしかない。
危険な存在として拘束されるより、軍人として扱われるほうがずっとマシだろう。
「もう面倒くせぇからこいつ始末しちゃおうぜ」なんて言われる事も無く、
それどころか高額な機材とやらを貸してくれるなんて親切じゃないか?
たとえそれが俺よりも帝国の臣民や施設の安全のほうを考慮した結果だとしても。
「では、シローは帝国軍に入るということでよろしいですか?」
よろしいですとも。機材とやらがどんなものなのか、早く知りたいし。
「わかった。帝国軍に入るよ」
「申請は受理されました。引き続き、よろしくお願いします」
あぁ、よろしく・・・うん? エルがよろしくってどういう事?
エルの仕事って俺のサポートって言ってたけど、もう終わったんじゃないの?
今更だけどエルの立ち位置ってドコになるんだ?
国のほうか?まさか帝国軍のほうじゃないよな?
「エルはどこに所属しているんだ? サポートって?」
「私は帝国に所属しています。『何でも相談係』です」
またふわっとした肩書きだな!
でも「引き続き」とは?
「『あなたの問題が解決されるまでの間』と言いましたよ? シローの問題は少しも解決されていません」
にっこりと笑顔を見せてくれるエル。カワイイね!
だが言ってることは少しもかわいくない・・・
間違ってはいないけど!
多少は前進していると思いたい!
覚悟が決まったからか、あるいはエルの笑顔に少し癒された様な(?)
気がしたからか、少しずつ落ち着きを取り戻してきているな俺。
その所為かな、今まで気が付かなかった事に今、気付いたんだ。
エルの顔が映し出されている画面の右上に小さく
自動人形
って書いてあるんだ。
「エルって自動人形、なのか?」
「そうですよ?」
こんなところに自動人形がが!! 落ち着け俺! イヤ無理だろ!
こんなかわいい女の子が自動人形だと?!
「ありがとうございます」
しまった、つい心の声がが!
エルは自動人形だった。衝撃の新事実!
実際は最初から表示されていたそうだが、まるで気が付かなかったぜ。
やはり、俺は相当動揺していたのだろう。今更今更ではあるが。
「この後の行動予定についてお話します。今から指定された地点まで移動してください。
そこで私と合流した後、軍の施設へ出頭し、正式に帝国軍に入る為の手続きが行われます。
その後シローに必要な機材が貸与されます。
何か質問はありますか?」
今すぐ出頭しようそうしよう! 待っててサポートエルちゃん!
また御者のいない馬車に乗って、20分ぐらいで軍の施設に到着した。
待ち合わせ場所にいたエルは、かっちりとした黒色の制服を着ていた。
身長は165cmぐらい?
間近で見るエルは映像より一段とかわいいが、本当に人間そっくりでまるで違いがわからない。
どこが違うんだろう?
「あらためてよろしく、エル。唐突だけど聞いても良いかな?」
「何でしょう? 何でも聞いてください」
「人間と自動人形の違いって何かな?」
「詳細情報の開示にはおよそ175時間を要します。後にしてください」
おおう、そうだった。
そして、デバイスちゃんより少しだけキツいね、エルちゃんは!
そんなキミも悪くないよ!
手続き自体はすぐに終わった。(軍規についての説明を受けた後、宣誓するだけ)
そしていよいよ俺の運命を左右するかもしれない「必要とされる機材」とご対面だ。
一体どんな装備品なんだろう?
15億のレンタル料、とかホントふざけてやがるが、そんな価値の高い機材なら俺の過酷な (かもしれない)運命をどうにかしてくれるかもしれない。
期待が膨らむぜ!
案内された場所は倉庫の様な所で、内部には大量の棚が設置されていた。
棚には様々な用途のよくわからない機械の様な物が大量に、そして乱雑に収められていた。
(どことなく、不用品が置かれている所、みたいな印象を受けるんだが・・・
きっと気のせいだと思いたい)
倉庫内の中央部には大きめなサイズの作業台らしきものが設置されていて、その上には銀色の?
なんだコレ?
どこかで見た様な・・・しおり? コレ本に挿むしおりじゃね?
それが 1、2、3、・・・8枚並べて置いてあった。
えっと、なにコレ?
「これがシローに貸与される装備品です」
えっ? なんだって?
「ですから、これがシローに貸与される装備品、『荷電粒子砲』です」
えっと・・・なんだって?




