スキルについて
俺はベッドに腰掛けて、これからの展開について考えてみた。
ここへ来る事ができた、ということは、地球へ戻る事もできるはずだ。
(自分の意思ではない、という点が引っかかるが)
それにはスキルについて知る必要がある。
帝国の調査に協力する、という事が、その助けになるかもしれない。
遠く地球から離れたこの異世界、惑星ファーグトーのリゾートエリアで
のんびりスローライフを満喫しながら、
スキルを掌握し、地球へ帰る方法を探す・・・
こんなカンジでいいんだろうか?
だが少し気になることもある。それは人の少なさだ。
このホテルの中も、ココまでの道中も人がまったくいない。
リゾートなのに寂れ過ぎぃ!
不人気なのか? 寂し過ぎてちょっと不安になってくるレベル。
先にこの辺りについて少し情報を確認しておこうか。
どう聞こうかな、ファーグトーについて?
・・待て、今度は300時間です。とか言われかねない。
もう少し内容を絞り込むべきか・・・
いや、それよりまずは帝国についての基本情報を知るべきでは?
時間みたいに。
そうだ、時間だ! デバイスちゃん、帝国についての基本情報を3分以内で説明してプリーズ!
「帝国は皇帝を頂点とする絶対君主制国家です。
人口はおよそ4500億人。
その版図は44の自然惑星と277の機動要塞によって構成されています。
現在、『人類統合』との間で戦争中であり、これまでにおよそ2000億人の臣民が失われました。」
ちょっと待った!!! 今とんでもない事を言わなかったか???
2000億人? 失われた? 死んだって事か! なんだソレ!
「マジな話なのか?」
「事実です。・・説明を続けますか?」
マジか・・・異世界のんびりスローライフどころか、超ハードなSF世界じゃねーか!
異世界でのんびり、とか思い始めていたらとんでもない話を聞かされてしまった!
戦争! 今、戦時下なのか? ここは大丈夫なのか?
人がいないのは、まさか・・・どう聞けばいいんだ?
とりあえずここが安全なのか聞こう。
「ここは安全なのか?」
「たぶん安全です」
たぶん? 急にあいまいなカンジだぞ? たぶんってなんだよ! もう少し詳しい説明を10秒以内で!
「ここはリゾートエリアで敵の攻撃目標となる可能性が高い重要施設が少なく、また人口密度も低いので攻撃される可能性は低いと考えられています」
なるほどわかるぞ、少し安心できるな。重要施設が少なく、というところがやや引っ掛かるが。
「近くに軍の研究施設がありますが、小規模なものです」
あるんだ。軍の施設には近付きたくないぞ。
それより、もう少し人がいるところを自分の目で見てみたい。
そうすれば、もっと安心できるかもしれない。
この近くで観光客とかビーチで遊んでいる人のいる所へいってみよう!
そうしよう!
来たばかりだがすぐに出掛ける事にする。
案内を頼むと、ホテルの前で待ってろというのでおとなしく待っていると、すぐに迎えがやってきた。
(また馬車だ・・・あぁ雰囲気て大事・・・ん? 御者がいないぞ?! 自動・・・馬車?)
御者がいないのに、俺の前に停車する馬車。どういう仕組みなんだよ?
乗る事を躊躇ってしまうが、デバイスは問題ないと言う。
馬からは『早く乗れ』と言わんばかりのオーラが・・・気のせいかな?
もちろん乗りますよ、乗りますとも。
代わり映えのしない景色を眺めながら、馬車に乗る事約10分で、その風景は唐突に現れた。
(人だ! 人が結構いるぞ! リゾートビーチっぽい!)
水着を着た人達が結構いる。なんだか嬉しい!
みんな楽しそうだ。ビーチチェアに寝そべっている水着の女の子や、ビーチバレーみたいな遊びをしている人達・・・見たかったものが、そこにはあった。
早速ビーチへ下りていくと、そこには様々なタイプの人達が・・・アジア系・・・ヨーロッパ系? もちろん無国籍風の人もいる。
(実際にはアジアとかヨーロッパじゃないだろうが)
しかし、古典SFに出てくる様なタコ型異星人みたいなのはいない。そういうのはいないのか?
「いないです」
いないんだ。別にいいけど。
獣人はどうだろう?ケモミミってやつ。見当たらないな。
なあデバイス、いや待て。ちょっと待つんだシロー!
(獣人さんはいるのかな? ケモミミさん!)
こんな事を聞くのか?
なんだか、頭悪い気がしないか?
もうちょっと、気持ちが落ち着いてからでもいいんじゃないか?
(決して否定されるのがイヤだからじゃないぞ)
あとにしよう、うんそれがいい!
そうだ、言葉が通じるんだし、誰かに話し掛けてみるか? 例えば
「やぁこんにちは! 楽しんでいるかい?」
「あぁ、楽しんでるよ」
・・・続きが思い浮かばない。何を話せば良いんだ?
聞きたい事があるならデバイスちゃんが教えてくれるワケだし。(ここの人達だってそうだろうし)
会話を楽しむ、にしても話のネタが・・・
「やぁ! 僕は君の知らない、遠い星からやってきたんだ!」
「へぇ・・・そうなんだ」
・・・うん、話し掛けるのはやめておこう。
それよりウォッチングだ! 水着美女もいるし、冷たい飲み物でも飲みながら隅っこのほうで・・・飲み物ってもらえるのかな? 買うの? お金いるのかな?
デバイスちゃんが教えてくれた。すぐ近くのレストハウス(無料)でドリンクバー(無料)を利用する事ができた。
メロン風? ソーダを飲みながらレストハウスの中のイスに座り、考えをまとめてみる。
(みんな楽しそうだし、戦争の緊迫感とか、悲愴な雰囲気とかは感じられないな。やはりこの辺りは安全なのか。戦場が遠いってやつかな?
俺も少しは気持ちが落ち着いたけど)
(だが、管理事務所で見せられたあの動画・・宇宙戦争みたいなやつ、あれは本物だったのか? 凄まじい映像だったぞ・・・
俺には関係ないよな、義務は無いって言ってたし、当然徴兵の義務だって無いハズだ。
イヤしかし、戦死者の数・・・2000億人? 多過ぎないか?)
明るい雰囲気のビーチサイドで、戦争について考える俺。
実際の被害について詳しく聞くべきだろうか?
だが俺は怖いのとかグロ画像とか苦手だし・・・
あの動画は黒っぽい戦艦? みたいなやつが(たぶん)戦闘していたり、爆発したり消滅? したりしているやつだったが、それだけでも迫力がありすぎて、ちょっと怖かったのに、人が死ぬ映像とか見せられでもしたら・・・
これは保留だな、すぐには決められないぜ。
とりあえず、この辺りで生きていけばすぐにはどうにかなるとか、心配しなくてもいいかな?
俺がやらないといけない事といえば、「調査に協力する」ぐらいだし・・・
「?」
うん? 何だろう? 何かが引っ掛かったぞ? 何だ?
ステータスを表示してみる。
大庭 士朗
スキル シフト タイムコントロール フォーチュナテリィ
変化の無い表示。あいかわらず、まるで使える気がしない・・・
何が引っ掛かったんだ? スキルの事の様な気がする・・・
「使えない?」
いや、そうじゃない!!
スキルは使え、違う、使った覚えはないんだ。
つまり、スキルが勝手に「動いた」という事だ。
だってそうだろう? 今、俺はここにいる。
「サーズラウ帝国」という、戦争をしているこの、異世界に!!
このスキルは動くんだ。実際に動いたんだ!!
俺の意思とは無関係に!!!
何かヤバくないか? 何だかマズイ、マズイぞシロー!!!
楽しげな雰囲気のビーチサイドで、愕然とする俺。
帝国について、この辺りの様子について、戦争について知る事も重要だが、
それ以上に「自分自身のスキルについて」知らなければ!
考えるんだ! 生きるために!!
のんびりスローライフ、とかいってる場合じゃないぞ!
急に、自分がここにいることが場違いのような気がした。
俺はふらつく体をなんとか歩かせながら馬車に乗り、ホテルに戻った。
部屋の中でベッドの上に座り込んで考える。
「シフト」が動いた。それは間違いない。そうじゃなきゃここにはいない。
「シフト」はどうやって動いた?・・・そうじゃない。
「どんなエネルギーで動いたか」が重要だ。MP(の様なモノ)か? MP(の様なモノ)を消費して動いたのか?
だとしたら今はMP(の様なモノ)が切れて(あるいは足りなくて)動かない、という状態なんじゃないのか?
ステータスにはHP表示もMP表示も「状態」表示も無い。
クソッ、最初にゲームでHP表示やMP表示を考えたヤツは天才だな。
これがあるか無いかでまるで話が違う。
俺にはわからない。
今、自分がどういう状態なのか。
「MP」は勝手に回復しているのか?
もし「シフト」に必要なだけのMPが回復したら、また勝手に動くんじゃないのか?
今度は安全ではない所へ、例えば戦場の様な場所に!
俺の意思とは無関係に!!
これだ! これが「何か引っ掛かる」ことだ!
俺は少しも安全じゃない。
安心なんてしていられない!!
次に「移動」した時、俺はドコにいるのか。
ソコが安全ではない場所だった場合、次に「シフト」が動くまで俺はどうなる?
今回は良かった。
無人の砂浜で、銀色に誘導されて、カイたちに保護してもらえた。
だが次の「移動先」は安全なのか?
そんな保障は無い。
まるでわからない。
わかるわけがない!
どうしよう。考えても答えが出る気がしない。
当たり前だ、俺はまだ自分のスキルを掌握していない。説明すら得られていない。
どうする? 誰かに相談・・・そうだ!相談だ! デバイスに相談しよう!
担当からの連絡なんて待ってられない!
教えてくれ! デバイス!!
俺は自分の考察した内容や不安について、デバイスに切々と訴えてみる。
「シローの相談について、内容が検討され、結論がでました。担当から話があります」
本当に話が早いよ! さすが、超進んでいる科学文明の国だな!
ヘッドアップディスプレイに若い女の子の顔が映し出された。
若い女の子?
この子が担当なのか?
そこには生真面目な顔で、随分と若く見える女の子が映っていた。
「はじめまして。シロー。私はエルと言います」