帝国
「聞こえるか? シロー?」
イヤホンから日本語が聞こえてくる。おい、今までの苦労はなんだったんだよ!
翻訳機あるじゃん! なんでやねん!
ふつふつと怒りのようなものがこみあげてくるがまぁ待てシロー、落ち着くんだ、何か理由があるかもしれない。
まずは言葉が通じることを喜ぼうじゃないか。
俺は自分に言い聞かせると、落ち着き払って返事をする。
「あぁ、聞こえるよ、カイ」
カイは普通に話し始めた。
「まずは言葉が通じることを喜ぼうじゃないか? 結構大変だったんだぞ?
お前の話している言葉は帝国のデータベースに記録されていないから
言語を解析するところから始めたんだぞ?
お前の持っていた端末も解析したんだ。たぶん翻訳機はうまくできているはずだ。」
帝国! 今、帝国と言ったよな?
それに言語解析? それでいっぱい喋らせたのか!
そうじゃないかと思ってました!
仕事が早いな!
「では話を始めるぞ? お前はチキュウという惑星から来た。それがどこにあるのかはわからない。このファーグトーについても知らない。
ここまであってるか? わかるよな?」
わかる・・・わかるよカイ!
言葉が通じるって素晴らしい! カタカナ風まで再現ってなんて高性能!
「あぁ、わかるし、あってます」
その後、カイの説明が続いた。
それによると
1 この惑星はサーズラウ帝国ファーグトー領
2 ここはリゾートエリアの管理事務所
3 カイはここの管理官
4 俺は不法入国者
5 帝国臣民になりますか? イェス? オア ノー?
話が早い気がする。
1~4はまだ判るが、5はなぜだ? 審査とか無いの?
「審査はすでに終わっている。シローが望めばすぐに帝国臣民になれる」
仕事が早いな! でも申請した覚えも無いのに・・・理由は?
メリットとかデメリットとか義務とか・・・
「帝国臣民になると良い事があるぞ」
1 認識票と各種支援装置がもらえる
2 それにより衣食住の提供が受けられる(無料 期限無し)
3 デメリットとか義務とかは特に無い
4 いつでも臣民をやめることができる
マジか、ずいぶん良い話じゃないか! だが、話が旨すぎる気がする・・・
もう少し詳しく!!
「シローは帝国臣民としての登録情報がなく、この惑星へどうやって入ってきたのかもわからない。
つまりお前は帝国軍の哨戒・警戒網をかいくぐってここへ来た。これだけならお前は不審人物どころか、危険人物、ということになるな」
あれ? なんだか不穏なカンジ・・・?
危険人物! 危険人物って言ったよ! おいマズイんじゃないのか、俺!
あれ? でも帝国臣民になれるって言ったぞ?
「危険人物を臣民にしていいのか?」
「審査はすでに終わっているって言ったろう? お前自身には実際には危険・脅威は無い、と判定された。
理由を知りたいか?」
もちろんです! 教えて! カイさん!
「ぜひ! 知りたいです!」
1 シローは無改造かつ強力な身体組成を持たない、いわゆる「普通の人間」である
2 武器・兵器の類いを所持、または内蔵していない
3 言語及び所持している知識等から、人類統合に所属する人間ではない
4 帝国が知らない、未知の文明圏から未知の手段によってやってきた可能性が高い
うん・・・ツッコミどころがたくさんあるよな。
「無改造」とか「内蔵」とか「人類統合」とか。
「そもそも俺のカラダをいつ調べたんだ? 今?」
「いや? お前が発見されたあの砂浜で、お前が銀色の板と呼んでいた調査機によって、だ。」
あの銀色か!
あいつによって俺はとっくの昔に丸裸にされていたのだ! スキャンとか、かな?
「危険は無いと判定されたから、俺たちが迎えにいったのさ。そうでなければ
軍が出動していたよ」
マジかよありがとう銀色! キミのことは忘れないよ! カイも迎えにきてくれてありがとう!
「でも何で馬車で?」
「リゾートの雰囲気を壊さないために、ここのスタッフはできるかぎり馬車を使うことを推奨されているんだ。いわゆるファッション、あるいは演出だな。そんなに待たせなかったろう?」
演出! 紛らわしい! 中世かと一瞬思ったじゃん。
でもまぁ雰囲気は大事にしなきゃ、かもね・・・
他にも聞きたいことはあるが、まずは・・・
「なぜ帝国臣民になるか、と勧誘? されるのかわからない。どうしてだ?」
「いくつか理由はあるが、第一に、調査に協力してもらうためだ。
帝国は未知の手段ってやつについて知りたがっているのさ。
そのために帝国臣民になってもらいたい」
「ちなみに拒否するとどうなる?」
「無論拘束される」
帝国臣民になります!!
「帝国臣民になるよ。もちろん、調査にも協力する」
「そうか、それはよかった。ようこそ!サーズラウ帝国へ!俺たちはシローを歓迎するぜ」
歓迎されちゃったよ。
未知の文明圏からやってきた、普通の人間なのに・・・不法入国者なのに・・・
あれ? 不法入国については? 不法入国っていうからには犯罪じゃないのか?
「罪には問われないのか? まさかの無罪放免!?」
「それについては保留だ」
デスヨネー。保留なんだ。調査に協力するからか? と聞けばその通りだと言う。
「帝国臣民であれば各種支援装置を与える事ができるから、未知の手段についての調査が捗るし、認識票でどこにいるかも把握できる。実験・観察がしやすいということだな」
ストレート! ストレートですよカイさん! でも嫌いじゃないぜ。
拘束よりもマシだ。
帝国は未知の手段について知りたいから、対応がソフトなのかな?
俺が協力し易くなる様に・・・うん? 拘束と何か違うのかソレ?
「移動の自由はあるぞ。調査に協力していない時は好きにすればいい」
移動の自由ね、移動・・・移動!!
未知の手段って「シフト」のことじゃね? スキルについて話せばいいのか!
俺はカイにこれまでの経緯について改めて話そうとするが、すぐに止められる。
「俺は専門の担当者じゃないんだ。そのうち担当から連絡があるからそいつに話してくれ」
そうか、カイはリゾートエリアの管理官だったな。
どうりでフレンドリーな態度で接してくれたワケだぜ。
「何か聞きたいこと、わからないこと、相談したいことがあったら今後は支援装置に尋ねてくれ。使い方は簡単だ。コイツに直接聞けばいい」
そう言って耳のイヤホンを示すカイ。支援装置か、早速使ってみたいぜ。
「なら、今日シローが泊まる宿泊施設について聞いてみればいい。すぐに教えてくれる」
よし!
「教えてくれ、デバイス!」
「わかりました。該当施設への案内を表示します」
うおっ! ビックリした!
いきなり女性の声がしたと思ったら目の前に矢印とかミニMAPとかが映し出された!
今の、カイとの会話を聞いていたのか?
それに、声はともかくこのヘッドアップディスプレイみたいな映像は?
「支援装置と言っただろう?」
これ、ワイヤレスイヤホンじゃなかったんだな。支援装置か。超ハイテクだな!
「俺からの話は以上だ。担当からの連絡があるまでは好きにしてくれていい。
連絡もその支援装置に行くからな。いつでもココへ遊びに来てくれてもいいぞ」
「ありがとう、カイ。世話になったな」
初めて遭遇した異世界人。違った、異星人がキミで良かった。
イヤ、ここでは俺が異星人か・・・そういえばセレンは?
結局一度も話さなかったけど、挨拶くらいはしたいな。
「セレンは? 彼女はドコに? 彼女にも挨拶しておきたいんだけど」
「セレンならいないぞ。それに挨拶は無くてもいいぜ。彼女は自動人形だからな」
自動・・人形・・・だと?
「自動人形について詳しく!!」
カイに詰め寄るが、他の仕事があるからとあしらわれてしまい、仕方なく建物の外に出る。
そうだった。「今後は支援装置に尋ねてくれ」だったな。
まぁいい、ココへはいつでも会いに来られるから!
自動人形についてはデバイスちゃんに聞けばいいんだ。
教えて、デバイスちゃん!
「デバイスちゃん、自動人形って何?」
「自動人形とは、人間をサポートするために人の形に似せて作られた機械の事です」
そのまんまやんけ・・・もう少し詳しくお願い!
「詳細情報の開示にはおよそ175時間を要します。続けますか?」
これはじっくりと腰を据えて聞かねばなるまい。まずは宿を確認してからだな。
そういえば時間! ココって時間の長さとか一日の長さとかどうなってるの?
地球の1分とココの1分って同じかな?
「ここの1分と地球の1分って同じかな? あ、地球の1分ってわかる?」
「わかります。同じです」
スマホを解析したって言ってたもんな。当然わかっているよな。違うところは?
「1日は26時間
1月は全て30日
1年は420日(つまり1年は14ヶ月)です」
多少は違うが、まぁ問題ないだろう。
ラノベの異世界モノだと地球と同じ、っていう設定のが多いけど。
10分ほど歩くと、道路から少し奥まった所にホテルっぽい建物(また平屋だ)があるのが見えた。
案内はそこを示している。
開きっぱなしの入り口から中へ入ると、やはりホテルっぽいロビー。
(だが人はまったくいない)
俺の部屋は1号室らしい。
ホテルの中をうろついてみるが、受付らしき所がないので部屋のドアの前に立つと「カチャ」とカギが自動で開く音が聞こえた。
さすがハイテク! ドアが自動で開・・かない。なぜだ?(手動で開けるドアだった)
部屋の中へ入ると・・・
シングルベッド、イス、テーブル、シャワールームにトイレ。
うん、普通のビジネスホテルみたいだ。
未来感が足りてない!
ソコソコ広い部屋だからまぁいいけど。これが無料で提供されるとは悪くないぞ。
食事も用意されているし、(食堂があった)
服も定期的に支給されるとは至れり尽くせりだ。
魔物を狩って、ギルドに買い取ってもらってお金を稼ぐ必要なんてないんだ。
「調査に協力する」というのはあるが、カイの口ぶりでは四六時中、ってことでもないカンジだし。
これは、異世界チートならぬ異世界のんびりスローライフ、の始まりか?