1日目
息抜きです。パラノイア楽しいです。
アルファコンプレックスの朝は早い。昨日は管理していたグリーン様の機嫌がよく一時間の睡眠を許された。おかげで体調はばっちりだ。とても幸福です。
私はアルファコンプレックスのPLCで働いている。クリアランスはインフラレッドだ。数多くの仲間と共に日々働き充実した生活をしている。
今日も仕事場に着くと無駄口を叩くことなく動力となる歯車を回し始める。挨拶?無駄な会話は反逆です。昨日レッド様に呼ばれて、ウルトラヴァイオレットであるコンピュータ様の仕事を放棄した屑どもが3人ほど処刑されたが、すでに新しく人員が補充されているようで見覚えのない顔が青白い顔で健康そうに汗を滝のように流している。
インフラレッドという立場上、とても幸福なことに与えられる仕事はとても多い。こんなにもコンピュータ様に仕えることが出来るなんて本当に幸福だ。
まだまだ働けるという意思に反して体が限界を訴え始めた。完璧な私がこの程度で限界が来るなんてきっとコミーの屑が毒を盛ったに違いない。しかしコンピュータ様から課せられた仕事を放りだすなんて反逆行為は認められない。
意図的にアドレナリンを増やすことで疲れを忘れ、体に力が戻る。これでまだまだ働けるはずだ。
ヴー! ヴー! ヴー!
突如緊急アラートが鳴り偉大なるコンピュータ様から声が下される。
「緊急事態発生!緊急事態発生!PLCの動力室にてミュータント能力が感知されました。トラブルシューターは至急ミュータントの排除を行ってください。繰り返します…」
どうやらここにおぞましいミュータントが出現したようだ。しかし仕事を止めることはできない。活力が戻った体で働き続ける。アドレナリン操作?ミュータント能力?失礼、私のクリアランスにはその情報は開示されてないようです。
ものの数分でレッド様が5人PLCの動力室に駆け込んでくる。
「そこのインフラレッド、この辺りでミュータント能力を感知したと情報があったが知らないか?」
「あ、え、えっと…」
zapzapzap
レッド様の質問に戸惑って動きを止めた同僚だった物が天井から出てきたレーザーガンで処刑される。質問されたとはいえ仕事を無断で中断するなんて反逆的な。
「使えない屑だな。よしそこのお前、知らないか?」
おっと、私が指摘されてしまった。
「レッド様、質問に答える前にコンピュータ様に少しよろしいでしょうか?」
コンピュータ様への話ということで時間を稼ぐ。当然働く手は止めない。
「そこのインフラレッド、話とは何でしょうか。」
設置されている画面が起動し、コンピュータ様が返事をする。
「私はトラブルシューターであるレッド様の質問に答えるため一時仕事の手を止めようと思うのですがよろしいでしょうか?場合によっては身振り手振りなどをしなければより詳しい情報を提供することが難しくミュータントを取り逃すかもしれません。完璧なレッド様の事ですからそのようなことは無いとは思いますが念のためよろしいでしょうか。」
「許可します。報告が終わり次第仕事に戻るように。」
「ありがとうございます。コンピュータ様。」
歯車から離れレッド様達の方へ歩みを進める。待たされたことを苛立っているのか機嫌が少し悪そうだ。
「で、お前はなにか情報を持っているんだろうな。待たせておいて知らないなどと抜かすと…」
レーザーガンを取り出し、私の頭に狙いを定める。慌ててはだめだ、冷静に対処しなければ。
「当然知っております。しかし少し離れたところで内密に。」
働いている仲間たちから離れ部屋の隅へ移動する。
「まず先ほどのミュータント能力を感知した件ですが、解決したと思われます。」
「なに?どういうことか詳しく説明してもらおう。」
「先ほどコンピュータ様が処刑された屑ですが、あいつがミュータントではないかと予想します。なぜなら先ほどのアラートの時あの屑はとても過剰に反応していました。それにあの屑がコミーだという噂もあったり無かったりするような気がします。完璧な市民がそのような噂を立てられるでしょうか?いや無い!つまりあの屑はコミーなんです!薄汚いコミーならミュータントが混ざっていてもおかしくはないはず!つまり先ほどのミュータントはコミーの仕業なのです。きっと秘密組織にも所属していたことでしょう。おのれ屑め、PLCにまで侵入しているとは、汚らわしい。まぁそういう理由でミュータントは処理されました。」
相手を説得する際はこちらの言い分で相手を圧倒するのが効率いい。さらにあの屑が全ての責任を背負って死んでくれたおかげで私への銃口は降ろされたようだ。
「そうか、ご苦労。それでは休みたまえ。」
だめだ、降ろされた銃口が再び上がってきた。待たされたストレスを発散したいらしい。幸福剤でも投与してもらえばいいものを。
「まだです!レッド様!」
引き金に手をかけたレッド様を必死で止める。
「あのコミーがたった一人で侵入していたのでしょうか?もしかしたら仲間がいるかも。そうなるとまとめておびき出して始末したほうが効率がいいのでは?幸い私は同僚なので先ほどの噂のようなものも集めやすいかと思われます。その大役を私に任せてはもらえないでしょうか。おびき出したらトラブルシューターであるレッド様に始末をお願いします。きっとコンピュータ様からの評価も上がることでしょう。偉大なるレッド様の事です。すぐにオレンジクリアランスまで上がることでしょう。いやもしかしたらグリーンやブルーにまで!?ところで話話変わりますがそこに100クレジットが落ちていたのですがきっとレッド様のですね、どうぞ。あ、靴が汚れが。奇麗にさせていただきますね、ペロペロペロペロペロ…」
私の態度に気をよくしたのか100クレジットを受け取り、銃口を降ろす。ひとまずは生き延びたようだ。
「そこまで言うならその大役を任せよう。もし発見したら確実におびき出し何処かにいる私たちに必ず報告するように。」
レッド様が動力室から出ていくのを見送って仕事に戻る。レッド様のおかげで仕事から外れて休むことが出来たし、アドレナリン…、頑張って力を出さなくてもまだ働けるだろう。さて、私が外れていた間に力尽きた屑どもを清掃ボットに引き渡し新しい同僚と心地よい汗を流すとしよう。あぁ幸福だ。