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私が8歳を迎えた年、大きな転機が訪れた。
我が家に中古のアップライトピアノがやって来ることになったのだ。
「三丁目の田中さんがね、もうずっと家で埃を被ってるから貰ってくれないかって仰ってくれたのよ。成人した娘さんが小さい頃習っていたらしいんだけど、途中からすっかり飽きて止めてしまったんですって。そうは云っても高級品でしょう? 母さんも尻込みしちゃったんだけど、遠慮しないで是非どうぞ、って言って下さるものだから」
母が私の為にご近所さんと話をつけてくれたのだ、とすぐに分かった。
幼い娘がある日突然、勉強と音楽に、異常なほどの情熱を燃やし始める。
両親はどれほど驚いたことだろう。
最初は心配のあまり、お祓いに連れて行ったり、カウンセリングを受けさせていたりしたが、これといった成果がなかったせいで、最近ではすっかり諦めている。
ちなみに花香お姉ちゃんは全く動じず「ましろの眠っていた才能が覚醒したんだよ、絶対そう」などと姉馬鹿なこと言って、妹の変化を当然のように受け入れた。
「ありがとう、母さん! 本当に嬉しい!」
興奮しすぎて、その話を聞いた日はなかなか眠れなかった。
ピアノの運搬代、そして調律費用。実際弾けるようになるまでも、かなりの金額がかかってしまう。……無理させちゃったな。せめて練習は、独学で頑張らないと。
ところが母は、なんとピアノ教室まで探してきてくれた。
「ヴァイオリンは無理だけど、ピアノの月謝くらいなら何とか捻りだせそうだし。父さんと話して、あんなに真白は音楽が好きなんだから、やらせてあげようか、ってことになったの」
母のその言葉に、胸が強く痛んだ。
――ごめんね、母さん。私の動機は不純な、どす黒いピンク色なんです。
だけどここまで支援してもらったからには、もう後にひけない。
絶対に途中で投げ出したりしないぞ!
私は、非常に忙しい小学三年生になった。
あれから、紅様には一度も会えていない。
代わりにと言っては変だけど、蒼くんにはちょくちょく絡まれていた。
私の『ボクメロ』知識は、紅様で占められている。
蒼くんのイベントは一つも見てないもんだから、彼がどんな人なのか全く知らないのだ。
ファンブックに載っていた筈の蒼くんの個人情報だって、一つも覚えていない。
そういうわけで、どうして彼が私を気にかけるのか分からないままだ。
『ボクメロ』の主人公である玄田 紺という少女を知らないか、と一度聞いてみた時は、あっさり「知らない」と返された。
うーん。主人公のデフォルトネームは固定だと思ったんだけど、違うのかなぁ。
その日も私は、歩道橋の上で佇む蒼くんを発見してしまった。
下校ルートが彼のテリトリーと丸被りしてるのかもしれない。出来れば、紅様のテリトリーと被りたかった。
彼は浮かない顔で手すりにもたれ掛かっていた。
出会った日の泣き顔を嫌でも思い出してしまう。
水色の髪が風にふわりと揺れ、昏い瞳にかかる。
それ以上は見ていられなかった。
「蒼っち。どうしたの! しょぼくれた顔しちゃって!」
わざと明るい声で、呼びかけてみる。
花香お姉ちゃんの真似をしてみたのだが、蒼くんは非常に驚いた顔をした。すみません、テンション間違えました。
「マシロ……。もしかしたら会えるかな? ってちょっと期待してた」
蒼くんは少しだけ口角をあげて、疲れたような笑みを覗かせる。
年に似合わない老成した表情に胸が痛んだ。
蒼くんには悩み事があるようだ。
8歳の蒼くんの抱えている悩みがどれほどのものか分からないけど、まさかイジメじゃないよね? ……いや、案外ありえるのかな。
モテにモテてまくってそうな彼をやっかんで、男子が苛めてる可能性に思い当たり、私はハッとした。
加害者側は軽い気持ちでやったことでも、被害者には消えない傷が刻まれる。その結果、死を選ぶ子だって現実にはいるのだ。
悪い方に考え出すと、止まらなくなった。
紅様に過去のトラウマがあるように、蒼くんにだってあるのかもしれない。
知り合って間もない他人がどこまで踏み込んでいいのかも分からないけど、そのまま通り過ぎることは出来なかった。
「蒼くん。もし……もし、だけど。――イジメられてるんだったら、誰かに相談しなきゃ駄目だよ。そりゃ、恥ずかしいかもしれない。心配かけたくないって思うかもしれない。でも、黙ってたらエスカレートしていくかもなんだよ? 早めに信用出来そうな大人に相談した方がいいよ」
恐る恐る話す私を蒼くんはじっと見つめ、それからふはっと噴きだした。
「ふふっ……そっか。マシロは心配してくれるんだ。苛められてはない。そういうんじゃない」
屈託なく笑っているところを見ると、私の心配は見当違いだったみたい。
ホッとして思わず私も笑ってしまう。
「そっか、それなら良かった」
「……うん、だいじょぶ。でも、ありがと」
蒼くんははにかんだ笑顔でお礼を言った。
好感度パラメーターなんてものが現実にもあるのなら、確実に一メモリ分はあがった手応えを感じる。
蒼くんのまっすぐな好意に満ちた視線に、落ち着かなくなった。
「ま、まあね。ほら、友達だし。元気なかったら誰でも気になるよ」
友達、という部分を大げさなくらい強調すると、またもや蒼くんはクスクスと笑った。
彼の好きなタイプが『笑わせてくれる子』だったらどうしよう。
……まさかね。
蒼くんだって、ボクメロのメインキャラだ。ただのモブとのエンドはないはず。
「そういえば、新作折れた? 今は何に挑戦してるんだっけ」
蒼くんは表情に笑みを残したまま、話を変えた。
私は蒼くんにねだられて、時々創作折り紙を渡している。
「今はね~。ちょっと前から『アンコール・ワット』に挑戦してるんだ。でも、なかなか上手くいかなくて。立体の大きな建物系は細部の再現が難しい!」
「アンコール・ワットってなに?」
「カンボジアにある遺跡だよ」
「へえ~。ほんとマシロは物知りだなぁ」
蒼くんの瞳が感嘆の色を帯びる。
あれ? 小学生だと知らない子の方が多いのかな?
このまま話していると、転生者としてのボロが出そうで怖くなった。
「そ、そんなことないよ。――って、そうだ、今日ね。我が家にピアノがくるんだよ!」
蒼くんも音楽をやってるから、共通の話題になりそう。
それくらいの軽い気持ちで、私はビッグニュースを発表した。
嬉しくてたまらなくて、誰かに言いたかったというのもあった。
ところが蒼くんは、私の言葉を聞いた途端、苦しげに眉をひそめた。
それは本当に一瞬で、すぐ何事もなかったような顔に戻る。
「――へえ。マシロ、ピアノ弾くんだ。で、何買ったの? ベヒシュタイン? それともスタインウェイ?」
当たり前のように聞き返され、私は絶句した。
そんな高価なグランドピアノを買えるわけがない。
嫌味でも何でもないらしく、蒼くんの表情は無邪気なままだった。
そっか。彼の常識では、ピアノといえば有名ブランドのグランドピアノを指すんだ。
「国産のアップライトだよ。ご近所さんが使わなくなったから、譲って貰えることになったの」
声が少し震えてしまう。
母さんが奔走してようやく手に入れてくれたピアノを、貶められた気分になった。
「あ……そうなんだ」
蒼くんは気まずそうに口籠り、それから何か言おうと唇を開きかける。
「もう行くね! 家の手伝いしなきゃいけないし」
どんなフォローも聞きたくない。
遮るように一方的に別れを告げ、軽く手を振って歩道橋を駆け下りる。
蒼くんとは、きっと住んでる世界が違うんだ。
紅様もいいところのお坊ちゃまだったし、蒼くんもおそらくそうなんだろう。さらっとベヒシュタイン? なんて聞けるくらいの。
蒼くんは何も言わなかった。
振り返ってみると、黙ったままその場に立ち尽くしていた。
前世から通算しても、生まれて初めて自分のものになった楽器を、私は柔らかな磨き布で撫でまわした。
二階の自室に設置してもらい、調律もばっちり終わったピアノは、艶々と輝いている。
はぁ……。ほんと嬉しい。
さて、まずは名前をつけますか。
『ボクメロ』で紅様と仲良くなると起こるイベントの一つに【楽器の名前】というのがあった。
――楽器は恋人のように大事に扱えよ。そうすれば、ちゃんと愛を囁き返してくれるから。
イベントの中で紅様はそう言った。私も早速彼を見習うつもりだ。
1階に降り、夕食の準備をしている母に「ねえ、赤ちゃんの名づけ辞典って家にない?」と聞いてみた。
夜はトンカツみたい。お肉に衣をつけていた母は不思議そうに首を傾げた。
「まだあると思うけど、何に使うの?」
「ピアノに名前をつけたいの! とびきり可愛いヤツ」
「ピアノに? そっかぁ。もう、真白ってば、そんなに喜んでくれて母さん嬉しいな。押し入れのアルバム入ってる場所、分かるでしょ? その辺に確かしまってあると思う」
「分かった、ありがと。ちょっと借りるね」
押入れを探り、埃を被ったお目当ての本を見つける。表紙を軽く布拭きして、部屋へ戻った。
『大切な子供につけたい名前1000』というその古い本は、何度も開かれたらしく、小口が広がり切っている。
自然に『花香』そして『真白』というページが開いた。他にも候補があったらしく、几帳面なアンダーラインがあちこちに引いてある。
不意に目頭が熱くなる。
きっと、前世の両親もそうやって私たち姉妹の名前をつけた。
彼らを悲しませてしまったという負い目は、いつも私の頭のどこかにある。
涙を逃がそうと何度も瞬きを繰り返しながら、私はピアノにぴったりの名前を探してみた。
今更考えたってどうにもならない。
過去に戻ることは誰にも出来ないんだから。
私は今、自分に出来ることを精一杯頑張るしかないんだから。
ページを最初に戻り「あ」から見ていくことにした。
亜美、朱莉、愛結……きりがないほど、沢山の名前がある。
「愛音」という名前に目を留めた。
モーツアルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を連想させる、良い名前ではないですか。
紅様の一番好きな作曲家がモーツァルトであることも、決断を後押しする。
「よし、今日から君は、アイネちゃんですよ」
ピアノに話しかけて、うろ覚えの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の主旋律を右手で弾いてみた。途切れ途切れのメロディが部屋の中に立ち昇る。
うわあ! 本物のピアノの音だ! 鍵盤が重い。
耳を近づけ、鍵盤を叩いては響きに聞き入る。とっても素敵な音だ。
なかなか音が拾えず、悪戦苦闘しながら30分。なんとかそれらしく聞こえるようになった。
運指法は前世で学習済みだけど、本で読むのと実際に自分でやってみるのでは、難しさが段違いだ。
これは、気合を入れなければ!
ドレミファソラシド
12312345
真ん中指(3の指)の後ろをくぐらせ、親指(1の指)でファの音を叩く。
速度を上げるとスムーズにいかない。左手だと、もっとぎこちなかった。
私は何かに取りつかれたように、ハ長調の音階練習を繰り返した。
4オクターブをスタッカートで区切って。シンコペーションで。一つの滑らかな音の塊になるまで。
何回も何十回も上って、降りて、を繰り返す。
「もう、いやだああ~~!!」
突然、部屋の扉が大きく開け放たれた。
切羽詰まった表情の花香お姉ちゃんが、ぜえぜえ息を吐きながら入り口に立っている。
「マジでこれ以上は勘弁して下さい! 私が帰って来てからでも、1時間は同じことやってるじゃん。感心通り越して、怖くなってきたよ。もうやめようよ~!」
気がつくと、レースのカーテン越しに見える外はもう真っ暗だ。
「あ、ごめんね、うるさくしちゃって。次からはソフトペダル踏んで、音量を絞るね」
「うるさいとかじゃなくて、そういうことじゃなくて……。はあ、もういいや。ご飯いこ」
お姉ちゃんはがっくり肩を落とした。
夕食の席で、私を見るみんなの目がいつもと違う。
花香お姉ちゃんを始め、家族全員が口を揃えて『悩み事があるなら聞くからね』と念を押してきた。
そして迎えた初めてのピアノレッスン日。
今日は先生との簡単な顔合わせと自己紹介、購入しなくてはいけない楽譜の受け渡しがメインで、ピアノに触れることはない。
それでもガチガチに緊張した私は、母の手をしっかり握りしめていた。
大きな邸宅の二階のレッスン室に通され、完全防音のだだっぴろい空間に圧倒されていると、20代半ばにみえるスレンダーな美女が入ってくる。
「初めまして、松島 亜由美といいます。ましろちゃん、って先生も呼んでいいかな?」
磨きぬかれた美、という印象に圧倒され、口が半開きになる。
「は、初めまして! 島尾 真白です。8歳です。ピアノを弾くのは初めてですが、一生懸命頑張ります!」
緊張のし過ぎで、はからずも自然体な8歳児の挨拶になった。
「ふふっ。そんなに固くならないで。リラーックス。ね? 音楽って楽しいなあって思えるように、先生と沢山ピアノ弾こうね!」
美人なだけじゃなくて、ものすごく物腰が柔らかい。素敵過ぎる。
私は目の前の先生にすっかり魅了されてしまった。
その後、母と月謝などの事務的な話に移った先生の指を、こっそりと盗み見る。
白魚のような手というものを、私は現実で初めて目にした。
先生の華奢な指は非常に長く、オクターブの和音を軽々と鳴らせそうだ。
うっとりとその指に見惚れていると、母が気まずそうに咳払いした。
「――すみません。ましろ、そんなにじろじろ見ないの」
「あ、ごめんなさい」
慌てて視線を逸らす。
「大丈夫ですよ、お気になさらず。ましろちゃん、良かったら、先生たちのお話が終わるまで、お隣のサロンで待ってる? 本や漫画もおいてあるわよ」
私が退屈していると気遣ってくれたのだろう、先生が提案してくれた。
サロン? 聞き慣れない言葉に興奮し、私は鼻息も荒く頷いた。
先生に連れられて隣の応接間に足を踏み入れる。
重厚な両開きの扉を押せばそこは、まさしく『サロン』という雰囲気の部屋だった。
アンティーク調のサイドキャビネットに飾られた白磁の壺。
シックな配色のストライプの布張りソファーは、5人くらいゆったりと座れそう。
豪奢な作りのドローリーテーブルの上には、色とりどりのキャンディが盛られたガラスの器が載っている。
先生は美しい指で、天井まである造り付けの大きな本棚を指さした。
「好きな本を読んで、ここで待っていてね。レッスンが始まる前と終わった後は、お迎えが来るまでここでくつろいでいていいのよ。他の生徒さんも来るかもしれないけど、みんな良い子だから安心してね」
「はい! ありがとうございます」
丁寧に頭を下げる私を見て、先生はにっこり微笑むと、サロンを出て行った。
早速、本棚に近寄ってみる。
バレエ漫画や音楽を題材にしている漫画、少年向けのスポーツ漫画まで置いてあるのが意外。
本は予想通り、楽典や楽譜、音楽関係のエッセイ本が多かった。
何から読もうかなあ。
浮き浮きしながら書架を漁り始めた、ちょうどその時――。
「こんにちは。……あれ?」
一人の少女がサロンに入ってきた。
悪いことをしていたわけじゃないのに、慌てて手を引っ込める。
さっき先生が言ってた他のレッスンの子、かな?
おそるおそる振り向き、出来るだけ感じよく「こんにちは」と挨拶してみた。
茶色のロングヘアにぱっちりとした二重の瞳と白い肌が、真っ先に目に飛び込んでくる。
二次元からそのまま抜け出てきたような、紛れもない美少女がそこには立っていた。
あれ、なんか見覚えある。
誰だったっけ?
記憶を辿ろうとした私をまじまじと見つめ、その少女は何故か力強くガッツポーズを決めた。
「やったあああ~! 会えた! 会えちゃったっ!」
楚々とした容姿とアグレッシブな言動が、激しく一致していない。
私は彼女の反応に気圧され、大きく一歩後ろに下がった。
「あ、ごめん。引かないで! っていうか、引かないで」
なぜ2回言う。
そうか。気持ち的な意味と物理的な意味か。
少女は嬉しそうに瞳を輝かせ、固まったままの私に近づくと、まっすぐ瞳を見つめてきた。
彼女の大きな瞳にうすい膜がゆらめいている。
……え? なんでこの子、泣きそうなの?
「私は、玄田 紺。あなたは、島尾 真白ちゃんで、合ってる?」
ゲンダ コン。
――――玄田 紺!?
私の目が驚愕に見開かれるのを確認して、玄田さんは花開くような微笑を浮かべた。
瞳はうるんだままで、今にも涙が零れ落ちそうだ。
「初めまして。私が前作ヒロインです。あなたはリメイク版のヒロインだよね? 私の言ってる意味、分かる? それとも、何いってんのこの電波女! って感じ?」
ちょ、ちょっと待って……っ!
驚き過ぎて、上手く情報が整理出来ない!
「わ、わ、分かる……と思う。で、でも、リメイク版って、なに? えっと、もしかしてゲンダさんも――」
「名前でいいよ。この苗字あんまり好きじゃないの。……うん、私もこの世界に、転生してきたんだ」
「そ、そんなことって」
あるの!?
――――いや、ありえないことはないのか。
一世界につき一転生者って決まりはないだろうし。
よくよく見てみれば、名前だけでなく容姿も、間違いなく『ボクメロ』主人公の特徴を備えている。
本人が名乗った通り、この子が主人公なんだろう。
リメイク版というのは、私が前世で最後に見たあの告知ポスターのゲームかな?
実際にプレイしたわけじゃないから、彼女が何に興奮しているのかさっぱり分からない。
「本当にびっくりだよね。ちなみに前世は何歳で?」
最初の興奮がようやく落ち着いたのか、彼女は落ち着いたトーンで尋ねてきた。
「18、です」
「そっかあ。……私は24だったから、ましろちゃんよりお姉さんだね」
にっこりほほ笑むその顔は、まるでお人形さんのように整っている。
8歳の子供が『24歳』『お姉さん』とのたまう姿、すごく違和感ある。
私も人のことはいえないので、気を付けよう、と改めて心に刻んだ。
「ましろちゃん、今、お話する時間ある?」
「ううん、多分もうすぐ母さんが出てくると思う」
「じゃあ、レッスンの日時が決まったら教えて? 私もその近くを予約するから!」
「う、うん」
玄田さんは、一目で高級ブランドのものだと分かるレッスンバックからスマホを取り出した。
「ましろちゃんは持ってないよね。番号、メモするから待ってて」
どうして私が持ってないって分かったのかな。
私の周りは庶民だらけだけど、同級生でスマホを持ってる子は割といる。
もしかしてそれも、リメイク版の情報に入ってるのかな。
聞いてみたいことは山ほどあった。
「はい、コレ。いつでもいいから、ましろちゃんの都合のいい時に電話して。家の電話からかけてくれたら、それ登録しちゃうし」
「分かった。……あの、よろしくお願いします」
おずおず挨拶すると、玄田さんはきゅ、と唇を噛みしめ、力強く頷いた。
こうして私はもう一人の転生者と出会った。