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 パーティのメイン会場は、一階の東翼にあるダンスホールだった。

 ダンスホールって、一般のご家庭にあるものだったっけ? なんて考えても無駄だと、私もそろそろ学び始めている。


 部屋の一番奥に設置されたスタインウェイのグランドピアノで、亜由美先生が軽快なワルツを奏で始めた。

 トビー王子が女性陣をエスコートして踊ることになったみたい。

 広い部屋の両端には沢山の料理が並べられていた。

 白い帽子をかぶったシェフまで数名配置されている。どうやら、その場でオムレツを焼いてくれるらしい。


「真白ちゃん、気になるの? 作って貰おうよ」


 紺ちゃんに誘われ、及び腰でコーナーに行ってみた。

 若い男性シェフは見事な手際で、ふんわりと形のよいオムレツを焼いていく。仕上げにクリームソースをかけ、トリュフを散らすのをじっと見つめる。

 見た目はもちろん、味もとっても美味しかったです、はい。


 外のモミの木ほどではないけれど、窓際には大きなクリスマスツリーが飾られていた。

 色とりどりの砂糖菓子と沢山の蝋燭に目がいく。

 蝋燭だよ、蝋燭! 電飾じゃないところがすごい。

 

 私は紺ちゃんと一緒にテーブルを回りながら、とりあえず片っ端から美味しそうなものを食べてみることにした。

 蒼くんと紅様は長椅子でくつろぎ、楽しそうに話し込んでいる。

 私の前だと張りあうことが多い2人だけど、普段はやっぱり仲がいいんだな、とほっこりした。


 誰も私達のことを気にしていない。

 ――今がチャンスだ。


「紺ちゃんってさ、トビー王子のこと嫌いなの?」


 思い切って真向から聞いてみたんだけど、間が空いたのはほんの一瞬。

 紺ちゃんはゆったりと微笑んだ。


「正直、好きなタイプではないかな。でも、トビー王子は一周目をクリアしたプレイヤーの為のご褒美ルートだから、好感度とかないの。一定の条件を満たせば攻略できる楽勝キャラなんだよ」

「そうなんだ」


 上手く論点をずらされた。

 紺ちゃんは私が更に問う前に、早口で言い切った。


「心配してくれてありがとう。詳しいことは話せないけど、私はトビーを攻略するつもり。出会いイベントだけは真白ちゃんの協力が必要だったけど、これからのイベントは自動で発生していくから心配しないで」


 優しい口ぶりだけど、『関わるな』ってことだよね、これ……。


 私の疑問は深まるばかりだった。

 紺ちゃんが、どうして彼の攻略にそれほど拘るのか分からないままだ。

 ただ、何か特別な理由があるんだ、ということだけは紺ちゃんの強い眼差しから伝わってくる。

 ――これ以上は聞かないで。

 紺ちゃんの言外のメッセージを受け取った私は、引き下がるしかなくなった。


 

 ピアノの音が止み、ホールから音楽が消える。

 ダンスタイムは終わったみたい。

 紅様たちと話しているところに桜子さんがやって来た。


「良ければ、そろそろ皆の演奏を聴かせてもらえないかしら」


 ちょうど4人で「もうすぐかな。ましろちゃんいけそう?」「うん、多分。あー、食べ過ぎたかも」「やばいぞ、真白。お腹がぽっこり出てる」「うそっ!?」「紅、からかうな。大丈夫だよ、何ともなってない」「……禿げたらいいのに」という会話を交わしていたところだった。


「どっちが先に演奏する?」

「ゲストなんだから、真白が決めていいよ」


 私が尋ねると、紅様が柔らかく答える。

 いつも散々からかってくる癖に、時々紳士なの、本当にずるい。


「じゃあ、先にする。紺ちゃんの演奏聞いた後だと、自信なくして弾けなくなりそうだし」

「了解。蒼、チェロをステージ脇に運ばせといたから、準備してきたら?」

「ん、分かった」


 桜子さんはメイドさん達に指示を出し、あっという間にホールを片づけさせた。

 代わりに椅子が運び込まれ、ピアノの前に人数分並べられる。


「わくわくしてきちゃった。ましろちゃん、今日は楽しんで演奏してね」


 亜由美先生が声を掛けてくれたけど……先生、それ逆効果です……。

 ホント、こんな大事おおごとになるとは思ってなかった。

 よく知らない人達の前でピアノを弾くの、これが初めてだ。


 心臓をバクバクさせている私に、調弦をすませた蒼くんが近づいてくる。


「あれ? もしかして緊張してる?」

「もしかしなくても、してる! ミスしたらごめんね」


 ピアノの前に座ったまま蒼くんを見上げると、彼は嬉しそうに相好を崩した。


「真白が弱音吐くなんて、なんか新鮮。……大丈夫。俺の音だけ聞いて。他に気を取られたらだめだからね」


 彼は私の右手を取り、持ち上げた私の指先に軽く口づけた。


「ちょ、蒼くん!?」

「いつも通りに弾けるおまじない」


 にっこり笑って、邪気なく言ってのける。

 私は危うくピアノに突っ伏しそうになった。


「へえ、素敵なナイトっぷりだね」


 トビー王子が口笛を吹くと、亜里沙さんまで「いいわね。こういうの好きだわ」と両手を合わせる。


「紅! 頑張らないと、蒼くんにましろちゃんを取られちゃうわよ!」

「母さん、はしゃぎ過ぎ」


 興奮した桜子さんが隣に座っている紅様の肩をパシパシ叩いたので、彼は苦い顔をした。

 紅様の心底困った顔なんて、初めて見たよ。

 桜子さんには頭が上がらないんだな、と思うと胸がスカっとする。

 普段は忘れがちだけど、彼だってまだ小学生だもんね。


 蒼くんと紅様のお蔭で、ガチガチだった肩の力がいい感じに抜けてくれた。

 練習で合わせた時とは比べ物にならない程美しく、私と蒼くんの音は重なった。

 伸びやかなチェロの音だけが聞こえる。

 親密なおしゃべりをするみたいに、私たちは目を交わし、お互いの音を追いかけ合った。

 最後の一音がふわりと空に立ち上り、淡く溶ける。


 蒼くんが弓を下ろすと、みんなが一斉に拍手してくれた。

 ……ああ、終わっちゃった。

 もっと弾いていたかったな。

 名残惜しく思いながら、ピアノから離れる。

 チェロを片づけている蒼くんに歩み寄り、声をかけた。


「蒼くん、ありがとう。楽しかった~!」

「礼を言うのは、俺の方。誰かのピアノと今みたいに合わせる日がくるなんて、思ってもみなかった。真白とだから、弾けたんだと思う」


 万感の思いが込められた言葉を、有難く受け取る。

 亜由美先生の方を見ると、「ハナマル」と笑顔で唇を動かしてくれた。


 次は、紅様と紺ちゃんの番だ。

 蒼くんと並んで座って、演奏を待つ。


 彼らが選んだ曲は、モーツアルトのピアノとヴァイオリンのためのソナタ 第18番第一楽章。

 やっぱりモーツアルトなんだ。紅様お気に入りの作曲家だもんね。

 艶のある華やかなヴァイオリンに、紺ちゃんの繊細で優美なピアノの音が重なる。

 双子ならではの息がピッタリあった演奏に、私はうっとりと聞き入った。


 紅様のヴァイオリンからは、紺ちゃんのピアノと合わせられる喜びが素直に伝わってくる。

 ト長調の明るいメロディと弾むようなリズムが心地よい。

 私達の選んだ曲とは対照的な「動」の曲だった。


 演奏が終わると、紅様はヴァイオリンを下ろし、優雅に一礼した。

 私も蒼くんも、大きく手を叩いて彼らに拍手を送った。

 これでプチ演奏会は終わりだ。


「二組ともすごく良かったわ!」

「楽しい時間をありがとう」


 千沙子さんと桜子さんは、大げさなくらい喜んでくれた。

 ホッと胸を撫で下ろして席を立つ。

 紅様と紺ちゃんのところへ行き、「いや~、やっぱ上手いね! 聞き惚れました!」と白旗を上げる。

 紺ちゃんは「嬉しい! でも、ましろちゃん達も上手だったよ、すごく良かった」と嬉しそうに言って、私に飛びついてきた。


「ね、紅もそう思ったでしょ?」

「まあね。悪くなかった。……それより、蒼。どんな心境の変化だよ」

「別に。真白のピアノに合わせただけ」


 紅様の問いに、蒼くんはそっけなく肩をすくめた。


「よく言う。実習でも、あれくらい本気出して」

「嫌だよ、面倒くさい」


 紅様の呆れ声に、蒼くんは顔を顰めている。

 どうやら、普段は適当に手を抜いて演奏してるらしい。

 苦笑していると、桜子さんが「ねえ、紺」と声を掛けてきた。


「亜里沙さん達は、この後予定があるそうなの。お見送りしてくるわね。私と千沙子さんは席を外すけど、ましろちゃん達にはこのままゆっくり寛いでもらって」

「分かった」


 紺ちゃんは頷き、扉付近で帰り支度を始めているトビー王子に近づいて行った。


「今日は本当にありがとうございました。また、いつでもいらして下さいね」

「こちらこそありがとう。君たちの演奏、とても楽しめたよ」


 にこやかに挨拶するトビー王子に、紺ちゃんは目の眩むような微笑を見せた。


「いつか心からそう言って貰えるように、頑張ります」

「It's up to you.……じゃあね、コン」


 ――それは君次第だよ。


 トビー王子は意味深な台詞を残し、扉の向こうに消えていった。


 

 それから、帰るまでの時間はあっという間に過ぎていった。

 楽しい時間っていつも短い。

 暗くなってきたので、プレゼント交換をしてお暇することにした。


 私と紺ちゃんが歌う赤鼻のトナカイのリズムに乗せて、4人でプレゼントを回していく。

 歌が終わったところで、それぞれが持っている包みを開けた。


 蒼くんが貰ったプレゼントは、紺ちゃんが準備したものだ。

 中身はデンツの手袋。見た瞬間、倒れそうになった。

 ええ~、高価なプレゼントはなしじゃなかったの!? ……セレブの感覚、舐めてたわ。

 私が貰ったのは、蒼くんのプレゼント。


 「パッヘルベルのカノン」「ラ・カンパネラ」の2曲が入ったウォールナットのオルゴールだ。

 これもかなり高級そう。音がその辺のオルゴールと全然違うんだもん。


 紺ちゃんが貰ったのは紅さまのプレゼントで、可愛いスノードームだった。

 教会の周りで雪合戦をする子供たち。紺ちゃんがさかさまにするのを一緒に覗き込む。

 元に戻すとふわふわした雪が子供たちに降り注いで、とても綺麗だ。

 クリスマスにぴったりだし、何より値段をそれほど心配しなくて済む良いプレゼントに、感心する。


 この三人の中でいえば、紅様が一番常識ある気がしてきた。


 ということは、私の編んだマフラーは紅様のところか。


「へえ、洒落てるね。どこのブランド?」


 紅様は一目で気に入ったらしく、マフラーを手に取りじっくり眺めている。


「それ、私が編んだんだよ。だから、ましろブランド」

「……嘘だろ?」

「なんでそんな嘘つかなきゃいけないの」

「こんなハイレベルな手編み、子供に出来るわけない」

「褒め方が回りくどい!」


 ムキになって言い合う私達を見て、紺ちゃんはころころ笑った。


「俺も欲しかったな」


 心底羨ましそうに蒼くんが言うので、そうだ! と思いつく。


「あ、じゃあ替えっこしたら? 蒼くんには紺ちゃんのが当たったんでしょう? 紅くんも紺ちゃんのプレゼントの方が嬉しいだろうし」

「なに、蒼。……紺のチョイスが気に入らないわけ?」


 一気に紅様が不機嫌になる


「違うよ。これはこれですごく気に入ったけど、真白のマフラーは特別だから」


 蒼くんはめげずに主張する。

 紅様はてっきり折れると思っていた。

 私の手作りだと判明した今、たいして欲しくもなくなったはず。


「交換してあげたら? 紅くんなら、もっといいマフラー持ってるでしょ」

「嫌だね」


 紅さまは私のマフラーを握りしめ、ふいとそっぽを向いた。

 あらら。

 蒼くんが紺ちゃんのプレゼントをあっさり手放そうとしたの、よっぽど気に入らなかったみたい。


「ほらー。ましろちゃんが意地悪言うから、コウが拗ねちゃったじゃない」


 紺ちゃんは面白そうに瞳をきらめかせ、混ぜ返してくる。

 そういう理由じゃないよ!


「変なこと言わないで」

「おかしなこと言うな」


 私と紅様の声はぴったり揃った。



 

 年末年始。

 私は家でひたすら勉強とピアノの練習に没頭していた。

 亜由美先生は、ウィーンで演奏会を開く為、一月の終わりまで日本を留守にする。

 週に二回のレッスンがなくなっただけで、胸にぽっかり穴が開いた気がした。

 蒼くんはドイツだし、紺ちゃんと紅様は桜子さんと一緒にヨーロッパを回ってくると言っていた。彼らに会えなくなったのも、寂しさの原因の一つかもしれない。


 一日だけ、いつもの学校メンバーと映画を見に行ったんだけど、夕方になる頃にはピアノを弾きたくて堪らなくなってしまった。

 みんなと賑やかにお喋りしながら、曇天の空の下、自転車を漕いでショッピングセンターまで行くのは楽しかったし、木之瀬くんや平戸くんのことも嫌いじゃない。

 もちろん映画だって面白かったし、何より普段家に籠りっきりの私がこうしてたまに友達と遊ぶと、父さんも母さんもひどく喜んでくれる。

 

 私は多分、焦りに似た暗い感情に取りつかれているんだと思う。


 こんなことしてる場合? 

 もっと頑張らないと、無理じゃない?

 青鸞の特待生になりたいんでしょ?

 

 私は、……なんだから、努力しなきゃ何も達成できない――。 


 訳の分からない焦燥感は、ピアノを弾いたり勉強をしたり、ある意味自分を追い込むような作業に没頭している時だけ、忘れることが出来た。


 自由な時間が出来ると、このままでいいのか、不安で堪らなくなる。


 穴だらけの前世の記憶を持つ、島尾 真白。

 転生してきた割に、あまりにも思い出せることが少ない私。

 『ボクメロ』の主人公として、ただこの世界に生かされてるだけな気がする夜もあった。


 紺ちゃん達と一緒にいたいという想い、そしてピアニストになりたいというこの夢さえ、あらかじめプログラミングされたものだとしたら。


「べっちん。私、合ってるのかな。このまま生きてて大丈夫かな」


 テディベアのふかふかのお腹に頬をくっ付ける。

 べっちんの頼りない柔らかさに、余計に寂しさが募った。

 そしてそんな時はいつも、無性に紺ちゃんに会いたくなった。



 長く感じた冬休みが終わり、三学期が始まってすぐ。

 姉の決戦の日がやってきた。


「雪は降らないって言ってたけど、気をつけてね、お姉ちゃん」

「うん、分かった」

 「明日もあるんだし、帰りは、まっすぐ帰って来てね」

「うん。……っていうか、どうしたの? ましろ。顔色悪いよ」


 朝ご飯を食べている花香お姉ちゃんに纏わりつく。

 何故か不安が押し寄せてきて、彼女から離れるのが怖かった。


「会場までついて行きたい。外で待っていたい」


 ぼそり本音を呟くと、お姉ちゃんは「そこまで!?」と目を剥いた。


「花香はすっかり開き直ってるのに、ましろの方が緊張しちゃったんじゃないか?」


 父さんが新聞から目を上げ、優しく声を掛けてくれる。


「大丈夫だよ、ましろ。もし失敗したって、死ぬわけじゃないし――」

「やめてよ!!」


 悲鳴のような叫び声が喉を震わせる。

 みんな一斉に息を飲んだ。

 

 ああ、とようやく気がつく。

 どうしてこんなに姉が心配なのか、一つだけ、思い出せた。

 前世の私が死んだのは、センター試験の帰り道だ。


「ましろ、今日はゆっくり休んだら? 最近頑張り過ぎだし、きっと疲れてるのよ」


 母さんがシンクから離れ、私の前まで来る。

 さっきまで洗い物をしていたと分かる冷たい手が、おでこに当てられた。


「う~ん。熱はないわね」

「でも、すごく顔色悪いよね。私は大丈夫だからさ。どんと大船に乗ったつもりで、家で待っててよ。ね?」


 花香お姉ちゃんは私を安心させるように、ニカっと笑って胸を叩いてみせた。


 ――『大船に乗ったつもりで家で待っててよ』


 その台詞、私も誰かに言った気がする。

 誰に言ったんだっけ。

 とても大切で、大好きな相手だったことだけは分かる。


「分かった、今日は部屋で寝てる。お姉ちゃん、ずっと今まで頑張ってきたんだし、きっといい点取れるよ。気を付けていってらっしゃい」


 私は何とか笑みを浮かべ、姉を激励した。

 後ろ髪を引かれる思いで、彼女から離れる。


「オッケー! 明日全部終わったら、みんなでご飯食べに行こうね!」

「それ、いいわね~。外食なんて久しぶりだし」

「父さんも楽しみだ」


 みんなが口々に言って、にこにこ笑ってくれた。

 泣き出さないよう、えへへ、と口角を引き上げ、二階に戻る。


 ――私が試験に向かった朝は、どんな感じだったんだろう。


 思い出せない空白を必死に探る。

 だけど、あらかじめ空っぽの記憶の棚からは、埃一つ落ちて来なかった。


 パジャマのままベッドに潜り込んだ途端、ボロボロと涙がこぼれてきた。

 この涙の理由さえ、私には分からない。

 私は嗚咽を噛み殺し、枕に突っ伏して、涙が枯れるまで泣き続けた。


 

 そして、時は流れ――。

 お姉ちゃんは、死なずに大学生になった。


 第一志望はダメだったけど、第二志望の大学に合格出来たので、出来れば幼稚園教諭Ⅰ種まで取りたいんだよね、と張り切っている。

 よくそこまで成績を上げたものだ、と我が姉ながら感心してしまった。

 花香お姉ちゃんはすごく面倒見がいいし、基本的に肝が据わってるから、ゆくゆくは園長先生にだってなれそうな気がする。

 私は5年に進級し、転生してから3度目の春を迎えた。


 その頃には、私はすっかりシリアスヒロインではなくなっていた。

 お姉ちゃんは無事に19歳を迎えられる。それで十分だ。

 開き直りの早さには自信がある。

 さっさと気持ちを切り替え、今の人生を楽しむことにした。

 思い出せないものに拘ってたってしょうがない。

 それに先が見えなくて不安なのは、私だけじゃないはず。誰だってそうだよね。


 とりあえずの目標は、まずうっかり死なない。これすごく大事。

 勉強は、高校三年までの分をすでに復習済みだったから、現状維持を目標にする。

 そして、ピアノ。

 とにかくひたすら練習して、中学二年のコンクールを目指す。


 その前にクリアしなきゃならない課題として、来月の発表会があるんだけど、そっちはあまり心配していなかった。3か月もの準備期間を貰っていたせいか、かなり気持ちにゆとりがある。

 個人曲の悲愴第二楽章はもちろん、紺ちゃんとの連弾の方もかなりいい感じに仕上がってきてる。


 この世界に生きてることが、誰かの目論見だって、もう構うもんか。


 私は私でしぶとく生き抜いて、絶対に幸せになってやる!




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