迷宮の街 その4
安全が確保されているのもあるだろうが、第一階層は商店などが軒を連ねている事もあり出入口同様にかなり整備されていた。
等間隔に設置されたランプの灯りが薄暗い空間を優しく照らし、本来なら凹凸のあるであろう地面も凹凸を少なくして歩きやすくなっている。
そして、第二階層へと続く階段も、迷宮内に在る階段とは思えぬ程に綺麗に整備されており。ご丁寧に木製の看板で第二階層へと続く階段と案内まで付いていた。
そんな階段を使って第二階層へと足を踏み入れたのだが、たった一階違うだけでここまで雰囲気が変わるものかと思えるほど、第二階層は第一階層とは異なっていた。
整備の手が加わっていない事はないが、第一階層の様に隅々までランプが設置されている事も無く。地面も均されておらず所々には歩き難い個所も見られる。
そして何より異なるのは、害獣の姿が見られる事だ。と言っても、下級で第二階層を歩き回って数体見かけた程度なので、脅威と呼べるかどうかは微妙な所ではあるが。
「何だか思ってたのと違うね」
とりあえず第二階層を歩き回り、その後案内の看板を確認して第三階層へと続く階段の位置を確かめた所で、カルルがそんな言葉を漏らした。
「確かにそうっすね。もっとこう、忍び寄る恐怖とか未知の古代文明とか、予期せぬ罠とか。そんなの想像してたんっすけどね……」
レオーネもカルルの意見に同調して、想像していた姿と現実との差に少しばかり落胆している。
「まぁ、まだ第二階層だし。第三階層以降にはカルルやレオーネが期待しているものがあるかも知れないぞ」
一体何階層まであるのかは知れないが、自分達はまだポトの迷宮のほんの一部しか目にしていない。にも関わらず評価を決めつけるのは時期尚早だろう。
もしかしたら、第三階層以降にはとんでもない何かが待ち受けているかも知れない。
落胆するカルルやレオーネを励ましながら、自分達は第三階層へと続く階段へと向かう。
程なくして到着すると、第三階層へと向け階段を降りはじめた。
第三階層へと降りた自分達だったが、第三階層は第二階層以上に期待していたものはありそうになかった。
と言うのも、同業者と思しき者達や、学者と思しき者達の姿がそこかしこに見られたからだ。
これでは迷宮を攻略しに来たのか、迷宮を観光に来たのか。どちらだったか分からなくなってくる。
「人が多いですね」
レナさんの感想に同意する。ま、知名度も認知度もある迷宮だから仕方がないと言えばそうなのだろうが。
にしても、この賑わい様。もはや一種の観光名所だな。
「これって、もっと降りて行ったらもっと人が多いんっすかね?」
「さぁ、それは分からないな」
今日は偶々第三階層に人が集中していただけかも知れないので、レオーネの考えに頷くことは出来ない。
とは言え、やはりある程度の人々は第三階層以降もいると思っていいだろう。第一階層に商店が軒を連ねる程の人気の迷宮なのだから。
「これじゃお宝、残ってなさそうだな」
「そうっすね」
第二階層に続いて第三階層でも、期待していた物がある可能性は低そうだと悟りカルルとレオーネは肩を落とす。
そんな二人を励ましつつ、第四階層へ足を進めようと持ちかける。
第三階層に何時までも居た所でお宝が姿を現すものでもない。ならば、今は前進あるのみだ。
さて、その後第四階層や第五階層と足を進めたのだが、結局どの階層も第三階層と似たり寄ったりな状況で。
結局、第九階層まで足を運んではみたものの、殆ど自分達よりも先にやって来ていた人々で溢れかえっており。もはや、お宝が残っていそうな雰囲気は微塵も感じられなかった。
無論、お宝だけが全てではないが、罠の類も害獣の類も、先にやって来た人々が各々手を付けており。もはや自分達が出る幕はまったく感じられない。
「どうする? まだ行ってみるか?」
「いや、もういいっす」
「オイラも」
特に一階層づつ時間をかけた訳ではなかったので無理をすればもう少しぐらいは行けただろうが、カルルとレオーネの気力はどうやらこれ以上は続かない様だ。
結局、ポトの迷宮に足を踏み入れはしたものの、堪能するどころか観光だけして戻って来てしまった。
暁に染まった太陽が、自分達に漂う哀愁を増長させる。特にカルルとレオーネは期待していた分だけその反動も大きいようで、漂う哀愁は自分の比ではない。
一体、自分達は何しにポトの迷宮に来たのだろうか。そう考えずにはいられなかった。
「お、どうだった? 楽しめたか」
そんな事とはつゆ知らず、ポトの街の宿屋へと戻ってきた自分達を出迎えるかのようにして待っていたのは、誰であろうクルトさんであった。
「クルトさん、楽しめたかじゃないっすよ! 人、人、人。どの階層に行っても人だらけで楽しむもなにも出来なかったっすよ!」
どうしてクルトさんが宿屋の前で待っていたのかと尋ねるよりも前に、レオーネがポトの迷宮の愚痴を言い始める。
「あぁ、そう言えば今日はどういう訳だかいつにもまして人が多いとか聞いた覚えが……」
「何でそれを先に言ってくれなかったんっすか!」
「いや、俺だって今日の昼間に聞いたんだ。先に言える訳ないだろ」
喰いかかるかの如く勢いで詰め寄るレオーネに、クルトさんは苦笑いを浮かべながらも自分の立場を言い聞かせる。
「ま、偶にはそんな事もあるさ。……それより、明日の出発時刻を伝えに来たんだ」
そして適当にレオーネとの話を切り上げると、クルトさんは本来の目的であったのだろう、明日の出発時刻を伝え始めた。
集合場所は当然ヨアキムさんの店であり、遅刻厳禁である事も付け加えると、クルトさんは伝えたい事を全て伝え終えたからか帰って行ってしまった。
クルトさんを見送ると、自分達は精神的に疲れた体を引きづりながら宿屋の門を潜った。
今日は色々とあったが、明日にはポトの街とも、ポトの迷宮ともお別れだ。そして、王都への二日にも及ぶ帰路が待っている。
今夜は明日からの帰路に備えて英気を養おう。美味しいものを食べて、ベッドで眠り、確りと睡眠を取ろう。
翌朝、準備を終えると短い間であったがお世話になった宿屋に別れを告げると、ヨアキムさんの店へと足を進める。
既に帰りの準備を進めていたのか、店の前には行きに乗って来た荷馬車が停められていた。
「おぉ、遅れずに来たか」
自分達に気が付いたクルトさんが声を掛け、次いでヨアキムさんも声を掛けてくる。
そんな二人に朝の挨拶と共に返事を返すと、既に始めているであろう帰りの準備を手伝おうとする。
「あぁ、準備はもう済んでるから、後は乗り込んで出発するだけだ」
が、どうやら既に準備は整っていた様で。代わりに、クルトさんからはヨアキムさんに別れの挨拶をと言われた。
「短い間でしたけど、有難うございました」
「いえいえ。もしまたポトの街に来る事があれば、その時は是非とも立ち寄ってください。あ、出来れば何か商品をお買い上げしてくれるとなお良いのですが……」
「おいおいヨアキム、なにをしれっと吹き込んでるんだ」
こうしてクルトさんとヨアキムさんの掛け合いと共に笑いが起こり、涙とは程遠い別れを挨拶を終えると、いよいよ王都へと帰る為に出発の時がやって来た。
全員が乗り込んだのを確認すると、クルトさんが荷馬車を出発させる。
ゆっくりと進み始めた荷馬車は、ヨアキムさんに見送られながら一路通って来た門へと向かう。
程なくして来た時とは逆に門を潜ると、自分達を乗せた荷馬車はポトの街を後に、一路王都を目指してその歩みを早める。
特に害獣に遭遇する事も無く、賊に襲われる事も無いまま。ポトの街を出発してから約二日後、自分達を乗せた荷馬車は無事に王都へと到着した。
見慣れた街並み、見慣れた人々。そして今や聞き慣れたヘンラインさんの出迎えの声。と、その後に木霊するレオーネの情けない声。
途中色々な事があったが、なんとか今回の依頼も無事に達成する事が出来た。
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